IS学園の猫ちゃん 作:只の・A・カカシです
IS学園、輸送課の詰所。いつものんびりとした雰囲気のこの部屋は、今日はダラーっとした雰囲気に包まれていた。しかも、あの松戸まで詰め所で休んでいるのだから、どれだけダラーっとしているかお分かりいただけるだろう。
「なあ、誰か出てくれよ。」
来栖を除いては。
「え?・・・いつ帰ってきた?」
学園祭から数日が過ぎた。片付けも終わっており、学園に気配は欠片も残っていない。
だが来栖は違った。
学園祭に招かれざる客が入ったことを受け、連日、哨戒飛行を行っていた。
発生状況からして単発の行動であることは確実であったが、念には念を入れてということでの実施。今のところ、痕跡や新たな脅威の発見には至っていない。
「無線入れても返事ないし、真上飛んでも出てこないし。」
「おぉ・・・悪かった。」
「(F-14は)いつもの場所に止めてるから。」
「了解。・・・ってか、連日やってんのに、何で平気なんだ?」
「別に機動飛行しないし、疲れる要素はない。」
「「いや、その理屈はおかしいだろ(ですよ。)」」
来栖の言葉を、同じパイロットの柳原と諏訪が声を揃えて否定する。
しかし声が揃っていたので、二人が申し合わせをしていた思った来栖は、ニコッと笑って「そうですか」とだけ返す。
「本当はバケモンか?あいつ。」
柳原が小さな声で諏訪に話しかける。
「年間三〇〇日、二四時間待機は伊達じゃないってことですかね・・・。」
「そこまで行くと狂気だろ。」
はぁーっと、二人が呆れてため息をつく。
その時、詰め所の電話が鳴った。それも通話の秘匿性が高い電話機が。
「はい、輸送課です。」
来栖がすぐに受話器を取る。
先ほどまでの空気は何処へやら。詰め所に緊張が走り、皆が飛び出す体制を整える。
「はい。はい。え?・・・あぁ、分かりました。」
電話対応をしていた来栖が、出撃の必要がないとハンドサインを出す。詰め所の空気はすぐに緩んだ。
「代わりました。珍しいところにかけてくるじゃない。・・・・・は?それくらい携帯に・・・駄目?」
この電話機は緊急時か重要な話がある時にしか使わないので、こんなに砕けた話し方にはならない。一体どこからの電話だろうと、皆が不思議がる。
「いや、別にいいけど。で、いつ?・・・できるだけ早く?何もなければ来週の火曜日かな。・・・おう、そうだな。じゃ、その時に。」
来栖が受話器を戻すと、ほとんど間を置かずに森田が「誰からだった?」と尋ねる。
「西本でした。」
「用事は?」
「大した話じゃないですけど」と前置きして来栖は話し始める。
「三沢の米空軍さんの司令官、『カリアン』さんって人なんだけど、「F-14が好き」ってことで、前に行った時、乗せたんですよ。また乗りたくなったらしいので、来週の火曜日に行ってきます。」
「確かに、普通の電話じゃ危なくてできないな。」
IS学園の所属機が、アメリカ空軍の司令官を、自衛隊の仲介を経て乗せるという、第三者に聞かれたら間違いなく国際問題に発展する異常な話題。
にもかかわらず、自衛隊出身でないため重要度が理解できていない松戸と、経歴の浅い諏訪を除いて、他のメンバーは笑っている。
それは今まで、組織の体をなしていない運用を続けてきた故に感覚が麻痺しているから・・・というのは表面上の話し。
よく見れば、笑っているのは顔だけで、目は一切笑っていなかった。
-*・A・*-
週が明けて火曜日の朝一〇時。
三沢空港の滑走路に白色を基調としたF-14が舞い降りた。
パイロットはもちろん来栖。
来栖は管制の指示に従い誘導路を進み、空自の格納庫前まで到達した。
そこからは空自整備員の誘導に従って格納庫前に停止した。
駐機ブレーキをかけエンジンをカットする。
誘導していた整備員がF-14に近寄ってくる。彼はエンジンの停止を確認して、そして梯子を展開した。
「またお世話になります。」
「お待ちしてました。」
コックピットから降りて、来栖は小河原と敬礼を交わす。
「今日はよろしく頼むよ。」
声をかけられそちらを見れば、アメリカ空軍の司令官カリアンが空自の建物より歩いてくる。
「お久しぶりです。」
来栖は軽く頭を下げて挨拶する。
「着いて早々に申し訳ないが、もうブリーフィングの準備ができてるんだ。中に入ってもらえるか?」
カリアンは、もう待ちきれないといた様子だ。
短く「了解です」と返して、来栖はポケットに手を突っ込む。
「これ、お願いします。」
そして『REMOVE BEFORE FLIGHT』と書かれたリボンのついたピンを取り出して小河原に渡すと、カリアンとともに空自の建物へと入っていった。
それから三〇分ほどで二人は建物から出てきた。
事前に持ち込んでいたのか。カリアンも飛行服を身につけていた。
間も無くF-14の機首付近に到達すると、来栖は梯子を展開する。
そしてカリアンを先に搭乗させようとして、はたと動きを止めた。
「もしよければ、前に乗りませんか?」
来栖は思い出したように、そう切り出した。
「え?私は操縦できないぞ?」
F-14のことをよく知るカリアンはそう返す。けれどもそれは、来栖が期待した通りの答えだった。
「大丈夫です。後席からも操縦できるように改修されています。」
「ほー!それはまた、随分と大掛かりなことを!」
来栖は先にコックピットへと上がり、後席に座る。
「あれ?来栖さんが後ろですか?」
そこへ、格納庫の中で別の作業をしていた小河原が遅れて到達する。この時、彼は、来栖が後ろに座っているのは飛行準備のためだと思っていた。
「おぉ!本当に後ろにも操縦系がついてる!」
「・・・え?」
そのため来栖の後を追って上がったカリアンが、後席を見て発した言葉にポカンっとする。
そのままカリアンが、何事もなかったかのように前席に座った時、小河原はカリアンと来栖を交互に見た。
「えっと・・・どういうことですか?」
期待通りの反応。来栖はそれを内心楽しみつつ、機体の説明をする。
「八月にIRANを受けまして。その時に改修して後ろからも操縦できるようにしたんです。」
「あ、なるほど。はー、大掛かりなことしましたね。」
「ですね。」〈・・・普通、こうだよな。〉
来栖は心の中で呟く。と言うのも、森田をはじめとする整備士からは、「こんな改造していいなら暇な時にやるのに」と不評だったからだ。
「それじゃ、エンジンかけます。」
乗り馴れたコックピット。あっという間にハーネスやヘルメットを着用すると、機体の起動を開始する。
「おぉ・・・グラスコックピットだ。」
電源が入り液晶画面が写ると、カリアンは驚いたように呟く。
「タッチパネルなんで、操作も簡単ですよ。」
「どれどれ・・・おぉ。便利だな、これは。」
カリアンはF-14の変身ぶりに感動する。
〈しかし、ここまですると原形が・・・。〉
どこを以って原形とするかはさておき、少なくともアナログ計器の一切が排除されたコックピットはF-14のものでない。F-14を愛するが故に、カリアンはショックを受ける。
と、そこで、カリアンはあることに気がついた。
〈いや、それは私も人のことは言えないか。〉
カリアンがF-14を愛するように、世の中にはカリアンの愛機、F-16を愛する人がいる。ならばその人たちの中には、マルチロール化されたF-16は違うという人もいる。
だが戦力として維持する上で、アップデートは避けては通れぬ道。
〈軍の所有物でないと、つい保存機と思ってしまうが・・・第一線で戦うための機体なのだから、これがあるべき姿、か。〉
理解はした。それでも、F-14のコックピットはアナログメーターあってこそで、口には出さないがそこは譲れないものがあった。
ただ身もふたもない話をすると、製造時からフライバイワイヤだったりエンジンが違ったりと、外見以外はF-14と呼べる代物ではなかった。
一方、カリアンの心境など知る由もない来栖は、テキパキと飛行準備を進める。
先ほど飛んできたばかりなので、チェク項目はをいくつか飛ばす。
まもなく、その全てが完了すると、来栖が小河原合図を送る。
小河原が機体下部に入っていく。
ほどなく出てきた小河原の手には、先程、来栖が渡した赤いリボン付きのピンが握られていた。
「じゃあ、出発します。」
それから三〇分後。F-14は太平洋上空にいた。
「やはりとトムキャットは洋上にいてこそだな。」
見渡す限り海の景色を見ながら、カリアンはそう口にする。
けれどもその口調は、感慨にふけているようにはなかった。
「何か、重大な事態が起きたのですか?」
来栖は単刀直入に切り込んだ。
「・・・やはり気がついていたか。」
カリアンは声を低くし、そして幾ばくか小さくして答えた。
「確証はないですが、あなたほどの地位に登った方が、遊覧飛行のためだけに私を呼び寄せるとは考えにくかったので。」
「・・・無線は?」
「すでに切ってあります。」
「準備がいいな。」
「お褒めに預かり光栄です。」
軽くやり取りをした後、カリアンは精神を落ち着かせるように大きく息を吐いた。
「君相手だから、結論から言おう。F-22が盗まれた。」
「・・・F-22が?」
確かに大事件ではあるが、わざわざ来栖に伝えるような話ではない。にもかかわらず呼び出されたということは、危惧すべき状況が発生しているということ。
「現在入っている情報では、消息は掴めていない。ステルス機の探知方法は教えられないが、とにかく太平洋へ飛んで行ったらしい。それも一機二機ではない。六機だ。」
「六機?!」
「あぁ。そして忽然と消えた。まるで墜落してしまったように、な。」
「今のところ墜落の痕跡を見つけたという情報は入っていない。」
話の内容は理解した来栖。だが、それほどの機密を知らされた理由が見当たらず、返す言葉に迷う。
「そこで君に尋ねたいのだが、ISで戦闘機を隠すことはできるか。レーダーでも視覚でも、なんでも構わない。」
そうしていると、カリアンがISについて情報を求めてきた。
「隠すことですか。IS単体だけならとか、部屋の中でとかならいくつかありますけど・・・・・飛んでいる戦闘機までカバーできるようなのは聞いたことがないですね。」
回答にカリアンが唸る。来栖はすかさず言葉を続ける。
「F-22が
このまま話を続けさせると、最高レベルの軍事機密に関わる話を聞かされそうな気がして、来栖は話題を切るように結論を告げる。
「やはり、それは無理な話か・・・。」
納得したような口調でカリアンが呟く。
「まあ難しい話はそれくらいにして。どうです?操縦されてみませんか?」
その好機を逃すまいと、来栖はカリアンの意識をトムキャットに逸らす。
「操縦か・・・。せっかくの気遣い、ありがたいがーー。」
その提案を断ろうとしたカリアンだったが、まんまと来栖の作戦に引っかかり心に迷いが生じた。
〈トムキャットは発着艦してなんぼだと思っていたが・・・私にはできっこないぞ?〉
こだわりではなく、操縦できないことへの強がりではないか。カリアンの意識の中からラプターのことが吹っ飛んでいく。
「せっかくのチャンスだ。楽しませてもらうよ。」
右手を操縦桿に、左手をスロットルレバーに、そして両足をラダーペダルに乗せ、カリアンは操縦態勢に入った。
「準備OKだ。」
「了解。ユーハブ、コントロール。」
〈これなんだ?〉
一時間ほど経ったとき。いつの間にかF-14のレーダー警報受信機が出所不明のレーダーをキャッチしていることに気がつく。
〈・・・って、あ。無線切ったままだった。〉
ふと思い出して無線の電源を入れた。
『――ムキャット。ペルシャ。返事をしてくれ。来栖翔霧だろ?おーい。』
するとすぐに、それを受信した。
来栖は急ぎ、無線を返す。
「はい。こちら来栖翔霧。どうぞ。」
『やっと出たか。君のほぼ真後ろの、目視できる距離まで近づいている。」
来栖が振り返ると、無線の通り、F/A-18が接近してきていた。
カリアンがスロットルを絞ったこともあり、数秒後にF/A-18は追いついてきた。
「珍しいな。F型だ。」
キャノピーの形状見てカリアンが呟く。
ほぼ同時にF/A-18の後席に乗っていた人物が手を挙げる。
『二人乗っているようだが、ISの関係者か?』
「いえ、違いますけど。」
『じゃあ、大丈夫だな。・・・っと、名乗りが遅れた。艦隊司令のライアン・ブラウンだ。緊急の話があるんだが、ちょっと空母まで来てくれないか?』
「はい?」
ブラウンと名乗った、無線の相手の言葉に理解が追いつかず素っ頓狂な返事をする。
『うん、当然の反応だ。後ろの人もいいだろ?コーヒーくらい出すさ。』
「いや、後ろが私です。」
『改造したか。失礼。それで?どうです同乗者さん?』
「私か?一向に構わないぞ。」
『じゃあ、決まりだな。』
〈・・・これ、はめられた?〉
こんなに階級の高い人が、この一箇所に偶然で集結するとは考えづらい。
なんとかして断ろうと頭をフル回転させるが、全くもって妙案が出てこない。
「ところで着艦の経験は?艦隊司令の話じゃ、あるようなことを言っていたが。」
「え?え、えぇ、まあ・・・あります。」
「そうかぁ。楽しみだ。」
〈やべっ。マジで逃げられそうにない。〉
-*・来栖・*-
F/A-18に追従して飛ぶこと三〇分。ついに空母の姿が見えてきてしまった。
「おぉ、空母だ。あれはロナルド・レーガンか?」
「配置転換がなければ、そうですね。」
道中も色々と質問されたのだが、逃げる方法ばかり考えていたので内容はほとんど頭に残っていない。
しかし、ここまで来てしまったからには腹をくくるしかない。
「お願いがあるんですが、一度、タッチアンドゴーをさせてくれませんか?」
『OK。そのように手配しよう。』
かつて訓練にお邪魔させてもらった時、着艦させてもらったことがあるので要領はわかっている。ただ随分と前の話になるので、一発勝負はしたくないし、するべきではない。
程なくしてF/A-18が降着装置を出した。
『誘導する。付いてきてくれ。』
降着装置を出し、着艦に備える。
『いくぞ。』
慎重かつ大胆に、F/A-18が降下していく。
〈これぐらいか?〉
問題なのは、後ろから操縦することは言うまでもなく、後席に乗るのも今日が初めてということ。思いの外視界は確保されているが、わずかにだが操縦感覚が違うので緊張も一層強い。
〈やっぱり着地点が動いていると難しいな。〉
空母は、その限られたスペースで離着艦する必要があるので、結構な速度で航行している。
空母が随分と大きく見えてきた時、F/A-18が緩やかに左旋回をして離脱した。F/A-18の後方乱気流にF-14が巻き込まれるのを避けるためだ。
ここまではF/A-18の後をつけて飛んでいれば良かったが、ここからは空母の航行速度を勘定して降下しなければならない。
着艦まで二〇秒といったところ。
その時間は随分と短く感じられた。
あっという間に空母に到達し、主脚がアングルド・デッキにタッチダウンする。同時にスロットルをミリタリーパワーまで進める。本来はフルスロットルとすべきだが、このエンジンの推力でそれは過剰すぎる。
三つの降着装置のタイヤ全てアングルド・デッキにタッチダウンしたところで、機体が加速を始める。
〈ミリタリーパワーで十分だな。〉
瞬く間にアングルド・デッキを駆け抜け、そして機体は空中へと戻る。
「なかなかの迫力だな。」
「久し振りなので緊張しましたよ。」
狙い通りに行けたので、次で行けそうだ。そう思って連絡をしようとすると、向こうからの連絡が一足先に入った。
『十分だが、欲を言わせて貰えば、後三メール舳先側に落とせれば完璧だ。本番、いくか?』
「そうします。」
感覚が残っているうちに着艦したい。
進入路へと移動しつつ、管制官と連絡を取る。着艦の許可は勿論、F-14の重量といった、空母側の着艦準備に必要な情報も伝える。
まもなく着艦の許可が出る。
〈アレスティングフック、準備OK。〉
先程はタッチアンドゴー前提だったので、速度が少々高くとも問題はなかった。
だが着艦は、甲板上で停止できてなんぼの世界。陸上の滑走路とは比較にならない、シビアな速度制御と機体コントロールが要求される。
そして乱気流発生を避けるために、F/A-18の誘導もない。
先ほどのコースを脳内で再生して、その軌跡をトレースする。
〈前から三本目・・・あ、レーガンは三本しかなかった、そういえば。〉
慎重かつ大胆に高度を下げていく。
空母のアングルド・デッキが見る間に迫ってくる。
〈引っ掛かってくれよ!〉
スロットルをミリタリーパワーに進める。直後、進行方向へ投げ出されるような力が体に働く。立て続けにドスンッと、先ほどよりも強い衝撃とともにアングルド・デッキにタッチダウンする。
数秒後、F-14は余裕を持って静止した。
だが息つく間はない。後続で、F/A-18が着艦を待っている。
スロットルを緩め、ブレーキをリリースする。
アレスティング・ワイヤーに引っ張られ、機体がわずかに後退する。誘導員が、ワイヤーが外れたことをジェスチャーで知らせてくれる。
誘導に従いアングルド・デッキを空ける。
回頭した先で、別の誘導員が合図を出していたのでそちらに向かう。その後、艦橋の近くへと誘導されそこで停止の合図が出た。
エンジンを停止させハーネスを外していると、F/A-18が着艦してきた。
他に降りてくる機体がないのか、そちらはアングルド・デッキでエンジンを止める。
「それじゃあ、降りましょうか。」
装備一式を外し、俺とカリアンさんはロナルド・レーガンの飛行甲板に降り立った。
2022/10/05 日付修正完了に伴い前書きを削除しました