IS学園の猫ちゃん 作:只の・A・カカシです
「ん?・・・着艦したか?」
空母『ロナルド・レーガン』の艦長であるルーカス・スチュワートは、航空機が着艦したような音を聞いた。
間もなく内線電話が鳴る。
「艦長。F-14が着艦しました。」
「了解だ。今から行く。」
電話を切ると立ち上がり、艦長室を出る。
彼が飛行甲板に出ると、丁度、来栖がF-14から降りてくるところだった。
ルーカスは来栖の方へと歩み出す。
来栖はルーカスに気がつき、そちらへ体を向ける。
「直接会うのは初めてだな。去年からこの船の艦長に着任したルーカス・スチュワートだ。」
「どうも。来栖翔霧です。」
「ま。こんなところで立ち話をするのもなんだ。艦内に案内するよ。」
そう言って艦長は、来栖を艦内に招き入れる。
艦内の通路は狭くはないが、横並びで歩くには少々幅が足りない。一列に並び、進んで行く。
「ここが艦長室だ。少し狭いが、入ってくれ。」
「失礼します。」
軽く頭を下げ、来栖は入室する。カリアンも、それに続く。
「遠慮せずに腰掛けてくれ。呼んだのはこっちなんだから。」
促されるままに、来栖はソファーに座る。
「もうちょっとしたら、艦隊司令も来るはずだから待ってくれ。そうだ、飲み物を出そう。水かコーヒーか、あとは――」
スチュワートは、艦長室に自身を入れて三人いることに気が付く。
「・・・このオヤジは誰だ?」
「?ご存知ないのですか?」
「知らないよ。」
それを言い終わる間際にドアが開く。
「あぁ、ここにいた。艦長の知り合いか?」
「私もそれが気になって、今から聞くところだ。」
艦長と艦隊司令は、揃って来栖を見る。
「「この人誰だよ。」」
〈あ、これ冗談なしに知らないみたい。〉
二人の反応からして、罠にはめられた様子はない。警戒を少し解いて、来栖はカリアンを紹介した。
「空軍の第35戦闘航空団の司令官、カリアン・ブラウンさんです。」
「はっはっはっ!冗談を!」
「そうだとも。何でそんな人がF-14なんかに乗ってるんだ?」
本当のことなのだが、信じてもらえない。来栖は困って、カリアンをみる。
カリアンは、やれやれと言いたげに飛行服の上着を脱いだ。
彼の左胸につけられているバッジ。それを見た時、艦長と艦隊司令は揃って目を見開き、そして口をあんぐりと開けていた。
「「
十数秒ほどそのままでいた後、艦長と艦隊司令は小さな声で打ち合わせをする。
「何で空軍の司令官なんか積んでるんだ。」
「知らねえよ。それよりどうする。出て行ってもらうか?」
「怪しまれるぞ。と言うか、中に入れちまった時点で詰みだ。」
「・・・仕方ないか。」
結論は出た。艦長と艦隊司令は来栖の方へと向き直る。そしてスチュワートが話し始めた。
「正直、空軍の司令官がいる前じゃしたくない話なんだが・・・軽空母が一隻、行方を眩ませた。あんなデカイもの、そう簡単に見失うはずもないんだが・・・。」
かなり深刻な話なのだが、たった今、似た話を聞いた来栖は「あれ?何だこのデジャヴ?」と首を傾げる。
「あーっはっはっはっ!そりゃ、聞かれたかねぇな!」
その隣で、カリアンが映画の悪役さなからの大笑いをした。
面白くなさそうにする海軍の幹部二人は、小さな声で「これだから聞かれたくなかったんだ」と呟く。
「・・・それで来栖。聞きたいことがあるんだが――」
「ISで空母を隠すことができるか、ですか?無理です。」
「?!何で分かったんだ?」
思ったままに言ってみれば、来栖の読み通りのことだった。
しかし事の
「それについては、私が説明しよう。」
カリアンが言葉を発すると、海軍の二人が胡散臭そうに目を向ける。
「いやー、海軍さんに聞かれると話しにくいことなんだが・・・実はF-22が盗まれたんだ。」
「「?!」」
突然のカミングアウト。海軍の二人は目を丸くする。
「あれが盗まれたって、どう言うことだ?!」
「秘密基地が襲撃されて、そこの護衛用に置かれていた六機が盗まれたと言う話だ。」
「秘密基地?!」
そのワードに、来栖がすかさず反応した。
「おい!来栖は信頼しているが、話していいこととそうでないこともあるだろ!」
艦長も来栖に同調する。しかし。
「テロリストに知られているんだ。今更だろう。」
言われてみればその通りだ。三人は納得させられ、椅子に座りなおす。
「昔、その基地にいたから知っているんだが、配置されるのは口が固くて忠誠心が高い奴らばかりだ。警備だってかなり固い。だから六機も奪われるなんて、普通じゃない。」
「確かにその通りだ。軽空母と言ったって、一隻動かすには相当な人数を揃える必要がある。」
「その通り。買収やハニートラップをしたって、乗組員全員を手中に収めるのは至難の業だ。」
「手綱を操れるレベルの中枢に潜り込んでいるやつがいる・・・か。」
「それなら警戒しろと言う情報が来てないのも頷ける。」
来栖の目の前で、部外者に聞かせてはならない内容の話が平然と交わされる。
蚊帳の外となり手持ち無沙汰な来栖は、退室することもできないため三人の話を聞いていた。
-*・A・*-
艦長室でアメリカ空軍と海軍、来栖の四者会談が行われていた頃、甲板上は大賑わいとなっていた。
「おい、見たやつ下がれ。俺だって見てえんだよ!」
「慌てんなよ、俺だって今からなんだ。」
皆の目当てはF-14だった。
艦上から姿を消して久しい戦闘機ではあるが、整備士やパイロットを筆頭に、普段は厨房にいる乗組員までもが見物に出てきているあたり、その人気の高さを物語っている。
当然、甲板に人が集まっている分だけ、艦内からは人気が減っていた。
その艦内をコソコソと・・・ではなく堂々と、一人の乗組員が闊歩していた。
その乗組員は、時折立ち止まって壁や天井に手を伸ばし、特殊な器具を差し込んでは操作を行う。
〈あとは奴が発艦すれば、こっちのもんよ。〉
やがて下卑た薄笑いをすると、その乗組員は何食わぬ顔で自分の持ち場へと戻っていった。
-*・A・*-
「流石に国外部隊の中にはいないと思うが・・・。」
「どうだろうな。ペンタゴンも安全じゃなさそうだし、当面は俺たちだけで探りを入れていくしか無い。」
「そうだな。情報は当面は我々だけで行った方が無難だろう。」
「そうと決まれば、少しでも早く始めた方がいいだろう。」
結論が出ると、カリアンとスチュワート、そしてブラウンが立ち上がる。
しかし来栖は、気を抜いていたため座ったままになる。
「・・・すまない、君のことをすっかり忘れていた。」
「お気になさらず。」
そう言いつつ、来栖は遅れて立ち上がる。
「意見があれば言ってくれ。」
「アメリカの情勢は、私にはわからないので何も。」
口ではそう言っている来栖だが、空・海軍が互いに持っている情報を言い合っていたので、嫌でも状況は分かっていた。
下手に首を突っ込んで巻き込まれたら面倒だ。そう分かっていても、空・海軍の事件に繋がりがある気がしてならず、来栖は一つだけ質問をする。
「ただ、どうしても気になることがありまして。F-22で発着艦って、できるのですか?」
今の一年生が入学してきてからというもの、過去に例を見ない数の刺客が学園に送り込まれてきた。今回の事件もまた、その一つなのではないだろうかという不安がよぎる。
「無理だな。」
そんな来栖の不安を吹っ飛ばすように、カリアンが即答する。
「今日、初めて着艦というものを経験させてもらったが、アレスティング・フックがちぎれる。とてもじゃないが、着艦の減速に耐えられない。」
実機のことを知るカリアンが言うのなら間違いはない。
「と思うだろ?」
そう思ったところに、スチュワートが横槍を入れる。
「脚さえ耐えられれば、ネットを張ってキャッチする方法がある。」
更にブラウンが、間髪を入れずに続ける。
「(発艦も)ぶん投げる方法はある。」
これは予想が悪い方に外れるか。来栖の表情が険しくなる。
「まぁそれも、機体がどうなっても構わないという前提ではあるがな。」
「そ。現実的ではないね。」
戦闘機は繰り返し使えることに価値がある。たとえそれが奪取したものであったとしても、使い捨てにするならミサイルやドローン等で飽和攻撃を仕掛けた方がお手軽な上に効果が上がる。
〈F-22と空母の奪取は同じ日だって言ってたけど、関連性はないと考えるのが妥当か。〉
直ちに実害が出るような話ではない。ぶり返した不安が落ち着いた時、カリアンが何かを思い出して「あ!」っと、声を出した。
「嫌ーなこと、思い出した。」
ピクリと、他の三人の耳が動く。
「先月の話だが、ハリケーンが基地を直撃してな。幸いにして被害はなかったみたいだが、ひょっとすると、どさくさに紛れて盗難が発生している可能性は否定できない。」
「それは仕方がないな、うん。」
海軍の二人は、一瞬だけ険しい顔をした。ただ今回に関係はないが、内容に思い当たる節のあるために、さりげなくではあるがカリアンの言葉に同意を示す。
「けど、ハリケーンのどさくさ程度で、持ち出せるほどF-22の部品管理はザルじゃないだろ?」
深く考えすぎだと言うブラウンに、カリアンは「F-14の前例を忘れたわけじゃ無いよな」と牽制を入れる。
「あれは・・・うん、まあ。そうだな。」
まだ海軍がF-14を飛ばしていた頃、様々なルートから国外へと部品が流出した事件があった。この手のことは発生の予測ができないだけでなく、発生していても気が付かないこともあり得る。管理基準がより厳格だからと言って、今回がそれに当てはまらないと言う根拠はどこにもなく、返す言葉が見当たらずにブラウンは黙り込んでしまう。
「さぁて。あまり長居をして部下たちに心配をかけちゃ悪いから、そろそろ帰るとするか。来栖は大丈夫か?」
「私はいつでも構いません。」
時計を見れば、随分と時間が経っていた。
「おぉ、こんな時間か。何かあれば、いつでも来てくれ。」
「了解です。」
そう言って、四人は艦長室を出る。
「おぉ、凄い人だかり。」
少し歩いて、四人は飛行甲板に出る。そこにはF-14を一目見ようと、多数の乗組員の姿があった。
「すごい景色だな。たった一隻にこれだけの人が乗っているんだ。」
いかに空母が人手を要する兵器であるか。それを一目で理解させてくれる光景が展開されていた。
たが圧倒されていては、いつまで経っても帰れない。
「すいません!通ります!」
来栖が声を張り上げる。
「それじゃ、ダメだ。下がれ!下がれ!」
「お客さんのお帰りだ!道を空けろ!」
来栖では開かなかった道だが、幹部であるスチュワートやブラウンにかかれば、皆、それなりに慌てて通る場所を開けてくれた。それでも数が多すぎるせいで、すぐには開かない。
四人がやっとの思いでF-14の元へとたどり着くと、意外にも機体の周囲二メートルほどは誰も人がいなかった。
例え艦上であっても、そしてかつての搭載機と同型の機体とは言え、他人の機体である以上はどんな機密を載せているか分からない。超えてはならない一線はしっかりと守られていた。
「さあ、散った、散った!トムキャットを発艦させるぞ!各員、持ち場につけ!」
スチュワートの号令で、F-14の周りにいたものたちが一斉に散っていく。もっとも来栖達がF-14に向かって行った時点で、集まっていた乗組員達は察しがついており、掻き分けて進んだことが嘘のように、すんなりと飛行甲板上から人の姿が減った。
「帰りは後ろに乗らせてもらうよ。君もその方が楽だろ?」
前席で発艦を体験してもらおうと来栖は考えていたが、気を使ってもらった後に提案したのでは失礼に当たると、「その方がいいですね」と返した。
カリアンがF-14のコックピットに上がる。
しかし来栖は、すぐには上がらない。機体の周りを一周して安全を確認して、それからコックピットに上がった。
梯子が格納されると、スチュワートがGOサインを出した。来栖はそれに手を挙げて返事をして、エンジンの始動操作を行う。
平時の手順で機体の立ち上げを行なっているので、先に来栖の準備が整った。来栖は、右コンソールの小物入れから、チェックリストを取り出す。それは以前、訓練で訪れた時に譲り受けた、発艦時の手順が書かれているものだった。
「私の準備はOKだ。」
「了解です。」
カリアンの準備も整った。来栖はキャノピーを閉める。
『こちらコントロールタワー。トムキャット、準備はいいか?』
キャノピーが閉まったことを目視したコントロールタワーが無線で訪ねてきたので、すかさず「準備完了しています」と返す。
『了解。誘導員に従って、発艦位置についてくれ。』
来栖は視線を外に向ける。飛行甲板誘導員がブレーキをかけろと合図を出していた。それに従いブレーキを踏む。
誘導員は続けて、F-14の下方に向けジェスチャーをする。少しして、機体の下から一人の整備兵が出てくる。彼は両肩でチェーンを担いでいた。そのチェーンは船体にF-14を固定していたもので、とても重たいものだ。
彼が離れるのと入れ替わりに、別の水兵が駆け寄ってくる。水兵は大きなボードを手に持っており、そこには機体重量が書かれていた。
〈あれ?着艦した時より重い・・・あ、給油してくれたのか。〉
重量増加は問題のないものだった。来栖の出したグッドサインを見て、その水兵は別の場所へと駆け足で移動していった。
間もなく、誘導員から来栖に移動開始の合図が出される。
〈他に動き回る機体がいないと、空母の上って別の意味で狭いな。〉
来栖が以前、訓練に参加するために訪れた時はF/A-18が甲板にひしめいており、他の機と接触しないために甲板の移動には様々な制約があった。それが今日は、F-14以外に動く機体がなく、一直線に発艦位置へと向かうことができた。
誘導員の指示に従い、カタパルトの手前で一旦止まる。来栖はスイッチを操作して主翼を前進させる。
主翼の前身が完了すると、カタパルトに据え付けため慎重に少しだけ移動する。
停止合図に従い停止。間もなく機体とカタパルトを接続した音が聞こえてくる。
薄くではあるが、カタパルトからは蒸気が上がっており、空母側の発艦準備は整っていることが見て取れた。
射出を待つ来栖に、水兵がエンジンテストを合図してきた。指示に従いスロットルをミリタリーに開ける。エンジンは快調に推力を上げた。
続けて動翼の動作確認を行う。こちらも好調そのものだった。
それが終わると、来栖は素早く液晶画面の計器に目を走らせる。もっとも、異常を検知すると画面に異常検知が表示されるので、針が動いているかを確認する。
「カリアンさん、発艦しますけどよろしいですか?」
「いつでも。」
準備は整った。
来栖が甲板のカタパルト操作兵に敬礼すると、操作兵は飛行機の進路に障害がないかを確認して、アキレス腱伸ばしをするように屈んで甲板に手をつけた。
数秒後、カタパルトに蒸気が送り込まれ、機体が加速を始めた。
しかしその加速は、来栖が以前に体験したものと異なるものだった。
「あれ?これじゃ速度が足らねえぞ?」
-*・A・*-
「・・・どういうことだ?」
IS学園・輸送科の詰所で、森田と松戸が話をしていた。
「ドライ推力を上げたんだろ?」
「ドライだけじゃないです。バーナーも上げてます。」
森田は理解が追いつかず、「待て」を連呼する。
「エンジンテストの時は、ミリタリーパワーでタイヤを引き摺ったぞ?」
「あれはエンジンに過給して、擬似的に五〇〇km/h以上を再現したからです。推力が上がってるのは四五〇km/h以上の領域で、そこから二五〇km/hまでが同等で、それ以下の速度域では下がってます。」
「まさかお前、それをT-4にもしたんじゃないだろうな?」
「あ、T-4はノーマルのままです。」
聞き流すには重大すぎる話しだと話に割り込んだ柳原だったが、返事を聞いて納得しすると「じゃあ、いいや」とだけ言って、新聞に視線を戻した。
他人事と興味を失った柳原を話しに引き戻すため、「柳原さぁん」と森田は声を出したが、引き戻すことが不可能なのは経験で分かっていたので諦める。
「来栖は納得してるのか?」
「そりゃそうですよ。ちゃんとパワーを補う方法は用意してます。知りたいですか?」
もったいぶらないで教えろと思いながらも、「勿論」と返す。すると松戸は机の引き出しから手書きのスケッチを取り出した。
「まずですね、ここの取り付け角度を――」
松戸が説明を始めようとした時、詰所の電話が鳴った。
鳴った電話は松戸の正面のものだったので、松戸が電話に出る。
「はい、もしもし。えーっと、あ・・・IS学園です。じゃない、輸送科です!」
森田は時計を見た。時刻は一四時を過ぎている。そろそろ三沢基地を出るという連絡が来る頃なので、それだろうと思っていた。
「はい。・・・えぇ?!帰投時間になっても帰ってこない?!」
松戸が叫んだ瞬間、詰所の空気が凍り付いた。
2022/2/7 誤字を修正しました