IS学園の猫ちゃん 作:只の・A・カカシです
飛行展示から帰投した来栖は、次の出番(帰りのエスコート)に備えて詰め所で休んでいた。
来栖が休んでいるということは、機体の整備も完了しているので、詰め所には全員が揃っている。
今日は、短時間とはいえ学園を離れる時間がある来栖。スクランブルの割り当てがないこともあって、雰囲気はいつも通りのまったりしたもの。それぞれにしたいことをして時間を潰していた。
「今日は除外だろ?」
スクランブル発進を知らせるアラームが鳴ったのは、そんな時だった。
「誤報か?」
ISが学園内にいないから、危機が迫ることが無い・・・などと言う慢心をする彼らではない。
口ではそう言いながらも、皆、走り出す体制を整える。その時には、来栖は一足先に詰所を飛び出し、更衣室へ耐Gスーツを取りに向かった。
数秒後、緊急時に使用する電話が鳴った。森田が電話を取ったときには、一人目が詰所から飛び出だしていた。
「はい、輸送課・・・スクランブル!」
「スクランブル!」
「スクランブル!」
先行した者にも確実に伝わるよう、順次それを復唱する。
「了解。」
電話を切り、森田もダッシュで格納庫に向かう。
「装備はそのまま!エンジンスタート!」
機体整備を完了させていたので、スクランブル待機時と同じ手順でエンジンの始動が行われる。
右エンジンに圧縮空気が供給される。そのタイミングで来栖が準備を終えて格納庫へと来た。
「太平洋上に航空機が出現して、こっちに向かってきているってさ。」
すぐに森田が電話で伝えられた内容の重要部分を伝える。
「海軍じゃないの・・・いや、今日は演習に出てるからいないんだ。キャノンボール狙いか?」
一瞬、安堵しかけた来栖だったが、すぐにそのことを思い出して気を引き締める。
「小松から
「小松から?
話しながらもコックピットに上がり、ハーネスで体をシートに固定する。
「知らん。が、わざわざ伝えてきたってことは、何かあるんじゃ無いのか。」
「どういう采配だ、それ。」
IS学園に近く、そして太平洋上なら百里基地からの発進が近い。だというのに、わざわざ小松からF-15が迎撃に出る。
急ぐ必要があるスクランブルで、わざわざ遠い基地から上げるという、聞いたことが無い事例。来栖を得も言われぬ不気味さが襲う。
「右、立ち上がったからな。」
「了解。」
F-14の後席で、エンジンの立ち上げをしていた柳原が降りた。
『梯子格納OK!』
『了解。梯子格納完了。左回してください。』
インターホン越しに,会話が聞こえてくる。
「左スタート。」
来栖は圧縮空気を左エンジンに送り込む。
「諏訪、時間が惜しい。立ち上がってないが出る。」
『えっ?!ですけど――』
「早く!」
『わ、分かりました!安全ピン撤去!手歯止め撤去!インターホン、ディスコネクト!』
来栖は左側を見る。市川が安全ピンを掲げながら、松戸が手歯止めを引きずりながら退避していた。
森田から発進合図を受け、来栖は機体を前進させる。
『っしゃ、行ってこい。』
「了解。」
JBDが立ち上がったことが、柳原から無線で伝えられる。その頃には左エンジンも立ち上がっていた。
来栖は一度、後方を確認して、それからブレーキを緩解。同時にスロットルをミリタリーパワーにして離陸滑走を開始する。
離陸すると、すぐに内地方向へと旋回する。本来であれば、海側経由で向かった方が何かと都合はいい。だが現在、IS学園から最寄りの空港は、旅客機が海側からの着陸する風向きになっている。それは同時に、離陸する旅客機は内地方向へと離陸していることを意味するのだが、離陸に向け出力を絞っている旅客機よりも、パワーを出して上昇している旅客機の方が、あってはならないが接近してしまったときに回避がしやすいという理由があった。
旋回を終えると、アフターバーナーを軽めに焚いてハイレートクライムを行う。目標高度は、レーダーに機影の写らない七,〇〇〇メートル。
旅客機の飛び交う空域に差し掛かる。レーダー画面を見ながら、来栖は他の航空機の航行を妨害しないよう、細かく針路を修正していく。
一分ほどで最も神経を使う空域を抜ける。来栖はレーダーの走査モードを短距離から長距離へと切り替える。すると、編隊を組んで飛ぶF-15の機影が写った。
「この距離で捕捉できないってことは、ステルス機?・・・しかないよな。」
自衛隊のレーダーサイトから対象機の情報が送られて来ると言うことは、対象機はそれなりの高度を飛んでいる。そして画面上に表示される対象機の位置は、F-14から見てF-15とほとんど同じ距離。だと言うのに捉えられないということはと、画面を見ながら独りごちる。
とりあえずF-15に連絡を入れようと無線機に手を伸ばした、その時。
「何だこれ?!」
突然、ISの反応が現れた。しかもそのISは、所属が不明なばかりか機体名も表示されない。
対象機とISは別々の場所から送られてきた情報だが、F-14はそれらを統合して画面に表示する。
〈待てよ?これ、F-15はISに気が付いていないよな?〉
F-15のレーダーも、強力な部類に入る。だがレーダーサイトでも捉えられていないものを見落としてしまう可能性は大いにある。念のため、来栖は無線連絡を行う。
「こちらIS学園所属、F-14。コールサイン『ペルシャ』。小松のF-15、聞こえたら応答してくれ。」
ところが待っていても応答が無い。再度呼びかけを行うも応答は来ない。
〈おかしい、この距離なら無線は十分届くぞ?〉
無線の不調を疑い、電源のリセットを行う。
「小松のF-15、聞こえたら応答してくれ。」
三度呼びかけを行うが、やはり返事はない。
「あー、間違いなくステルス戦闘機だな。」
針路変更の速さが戦闘機でなければ不可能なものであったため、来栖はそれを確信した。
それと同時に、直進しかしていなかった対象機が急に針路を変えた理由を考える。
〈・・・ISが攻撃を仕掛けたんだったら、まずいぞ。っち、F-15が先に到達してしまう!〉
敵対さえしていなければ、F-15が先に到達しても問題ない。ただ来栖が危惧することが起きていた場合、どうしても対象機に接近しなければならないF-15は余計なリスクを負う。しかもISがいると気がつかなかった場合、それは死地に赴くも同然。
どうやって伝えればいい。来栖は迷う。
〈ん?見つけたか。〉「・・・ら、
レーダーがやっと対象機の機影を捉えたが、自動識別装置の表示した機種に来栖は驚きを隠せない。
〈あの話、本当だっ・・・いや、だとすれば、あと五機いる!〉
来栖のような例外を除き、戦闘機が単独で作戦を行うことは希だ。
そんな来栖の心配は余計なものだったが、間もなく、それ以上に大きな危機が迫っていることが判明する。
〈自衛隊に手を出すとは思えな・・・何だ?〉
レーダーの反射が強くなり、識別が『F-22』から『UNKNOWN』に変わる。対象機はどんどんと高度を下げ、そしてレーダーに映らなくなった。
ふと来栖の脳裏を、ある出来事がよぎった。それは五月に行われたクラス対抗戦のある試合での出来事。『ゴーレム』と仮称されている正体不明の無人ISに、試合中の生徒が襲撃されたのだ。
その時、来栖はスクランブル待機をしていた。だが、何者かによりIS学園全体のシステムがダウンさせられていたために接近を知ることが出来ず、ゴーレムを迎撃することが出来なかった。
もっとも来栖が迎撃できていたとしても、侵入を阻止できた可能性は極めて低かった。それでも死者が出なかったのが偶然だったと言われる状況をだけは避けられたのも、また事実である。
〈あんなことは二度と!〉
来栖がIS学園に赴任して以来、最大の屈辱。それ思い出した時、彼の中で何かのスイッチが入った。
-*・小松、F-15・*-
「っかしいな。これだけ近づいてレーダーに映らない?どうなってんだ?」
同じころ、F-15のパイロット二人は、自機のレーダーに映らない対象機に頭を悩ませていた。
「これ訓練か?」
「スクランブル待機中には無いと思うけど・・・でも、ここ百里の方が近いしな・・・。」
国土の真上で、しかもほかの基地からの方が距離も近い。そして指示は来ても、まるで何もないようにレーダーは探知しない。
「ひょっとして視察か何かで、発進の指示を出したってことは・・・。」
「ノータムまで出して?」
「それもそうか。」
例え狭い範囲であったとしても、旅客機の航路がある空域にそれがかかること自体が異常発生を意味する。
疑問を覚えている風ではあるが、二人は集中力を切らしていない。
「これ・・・何だ?」
不意に、F-15のレーダーに何かが映る。
「ちょっと見たことが無いですね。戦闘機にしちゃ(反射が)大きいし、旅客機じゃなさそうだし・・・。」
間もなくそれは、低空へと消えていく。
「ヘリか?」
「だとしたら、これ墜落してますよ?」
まるで制御不能に陥ったかのような軌道を描いていた。二人の間に緊張が走る。
「っつ?!散開!」
その直後、
「二時の方向から・・・あれ?」
照射された方角を即座に特定したが、すでに警報は鳴り止んでいた。
「・・・?何だったんだ?」
「誤照射か?」
あまりに短時間過ぎる。不審に思っていると、再び警報が鳴る。
「っ!回避・・・?」
警報は連続して鳴るのではなく、鳴ったり鳴り止んだりを不規則に繰り返す。しかもその時間もまばらで、おおよそロックオンするための照射とは思えず、二機のパイロットは困惑する。
『--・-- ・- -・--- ---・- ・- -・--・ ・- ・・・- ・-・』
「何だこれ。」
「何だろな。」
ミサイル発射の兆候もない。ひとまずFCレーダーが照射されている方向に、長機のパイロットは自機のレーダーを向ける。
「F-14みたいだな。」
「F-14?あの、IS学園の?」
「しかないだろ。他は、俺は知らんぞ。」
そうやって話している間も、FCレーダーは照射されている。
今のところ武力を行使してくる気配はないものの、聞いていて気分のいい音ではないため「しつこいな」と感じ始める。
「F-14、聞こえるか。なぜロックオンする。」
長機のパイロットが無線を入れる。しかし、待っていても返事がない。
無視されているのだろうか。長機のパイロットがそう思い始めたとき、僚機のパイロットが「あっ!」っと声を出す。
「どうした!」
何かあったのかと、長機のパイロットは身構える。
「これモールス符号だ!くな?・・・あ い え す い る い く な。あいえすいるいくな?何だ?」
「ISがいるから近寄るなだ!」
「!!」
不自然なFCレーダーが、何を意図したものなのか。それを理解した瞬間、二人は背筋が寒くなる。
しかしスクランブル任務で上がっている以上、引き返すことはできない。かと言って、突っ込めば的にされるだけ。やむを得ず接近をやめ、旋回して待機する。
「ISが出現した。撤退の許可を乞う。」
長機のパイロットは、指示を貰うために指令室へ連絡を行う。
「・・・『はなれろ』って言ってます。」
「何で無線を使わな・・・俺の声、明瞭に聞こえてる?」
「いや、ちょっとザラザラ音が・・・!!」
指令室から無線に応答がないばかりか、至近距離での通信にもノイズが入る。そこではたと、F-14がFCレーダーでモールス信号を送ってきた理由に気が付く。
「「ジャミングだ!」」
だが指示を仰がずに戻れば敵前逃亡と判断される可能性があり、さりとて進めば地獄が待っている。だが迷っている暇はない。僚機のパイロットが決断を下す。
「F-14のそばに行こう。(三沢基地にいる)同期から聞いたんだが、ヤツはISの対処が上手いらしい。」
この距離なら、誤認したと言い訳が通る。二機は南方向へ旋回して、F-14を目指す。
「また符号が変わった!えっと?・・・しろ?けん?・・・後ろ危険?!」
読み取った文の後、モールス信号が止まる。
「うおぉ?!」
直後、前方から一発のミサイルが飛来し、二機から見て左側の一kmと離れていないところを通過していった。
ちなみに、パイロットはミサイル本体を視認したわけではない。ミサイルが通った後の雲を見て、ミサイルの通過に気が付いたのだ。
パイロットは体を捻って後方を見る。一発のミサイルが炸裂しただけではない規模の煙が空中に漂っていた。
『・・・るか。・・ら・・・園・・F・・・聞・えたら返事・・てくれ。こちらIS学園所属、F-14。F-15、聞こえたら返事をしてくれ。』
「!!こちら小松所属F-15。貴機の無線を受信した。」
『やはりECMか・・・。失礼。可能なら、ここは私に任せてもらえませんか?』
「了解。」
レーダーに映らない敵機に、警戒装置にも反応しない攻撃。そんなものを相手にしていては命がいくらあっても足りないと、彼らは来栖の申し出を二つ返事で承諾した。
-*・A・*-
「悪いが、ここは通行止めだ・・・。」
来栖は操縦桿を握り直す。
現場を見たわけではないものの、戦闘機を撃墜したのが確実な相手。F-15に向けてミサイルを放っていることからも、近づく物体に無条件で攻撃するようプログラムされている無人ISの可能性が高いと踏んでいた。
対IS戦闘の経験が豊富な来栖だが、無人機とはやり合ったことがない。一応、IS学園に襲来したゴーレムの戦闘映像は見たため、ある程度、立ち回りについて対策は立てている。ただ、それがどこまで通用するかは未知数。
それに任せてくれと行った手前、簡単にやられるわけにはいかない。
「さあ、付いてこい!」
F-15とすれ違う。その瞬間に、来栖はフレアを炊きながら急上昇を行う。
以前のゴーレムがそうであったように、目立つ動きをすればターゲットを自機に切り替えるだろうと踏んでの行動。
付いてきていれば後方にいるはずだが、さすがに後方まで見えるレーダーという物はない。だからと言って、レーダーをそちらに向けることも、また自殺行為。
直後、一筋のビームが機体左舷から10メートル以上離れたところを通過する。
「よし、食いついたな!」
来栖は、ビームの飛んできた方向に頭を向ける。飛行中に数キロ先のISを見つけられる来栖だが、それはレーダーで当たりが付けられている状態での話。流石に後方の物体となると難しい。
〈そこか。〉
ただし、それは裸眼での話。先日の検査に併せて改修も行ったF-14は、赤外線画像センサーが取り付けられたため、来栖は鮮明にISの姿を視認できていた。
ISが二射目のビームを放つ。来栖が滑らせ方を変えていたので、先ほどよりも大きく外れた。
〈・・・機械だな。〉
照準器のズレを修正しただけのような射撃。人間が乗っていないと確信する。
〈さて、追尾のプログラムはどうだ?〉
真後ろを追いかけてくるIS。来栖は雲のある高度まで上昇し、小さな雲に突っ込む。
〈雲は避けない、と。・・・じゃ、やるか。〉
ISは航跡をトレースしてきている。それを確認すると、雲の遙か上まで上昇する。
そこから一転して、急降下する。当然、戦闘機より旋回半径の小さいISが距離を詰めてくる。
来栖は、降下を初めてもアフターバーナーをカットしない。
あと数秒で雲に突入するというタイミングで右エンジンのみ出力を絞り、スピードブレーキを掛けた。
ISが急接近してくる。ただし、高速飛行したまま攻撃できるISは存在しない。速度をとれば攻撃が、攻撃をとれば速度が犠牲になる。
このISも御多分に漏れず、接近したため格闘姿勢に切り替えるために減速して姿勢を起こす。
来栖の狙いは、それだった。
突如、F-14の右エンジンから白煙が上がる。
真横から見たならばエンジントラブルに見えるそれは、来栖によって意図的に発生させられたもの。
煙の正体は、スモークだった。
スモーク発生装置は、今朝の時点で取り付けられていた。元々は演技のためにと、森田が突貫工事で取り付けたのだが、生憎、柳原がスモークを必要としない演技構成にしていたために出番がなかった。
話が逸れたが、その煙は後方から見ると雲と見間違う。雲は水でできているが、航空機の引くスモークは油で出来ている。その中に突っ込めばどうなるか。
空力制御のシールドバリアーを展開していれば、スモークがダメージを与える物であれば絶対防御が発動して、被害は軽微で済んでいた。
残念ながら、そのいずれもないばかりか、接近したために姿勢を変えたことで投影面積が大きくなり、大量の油が付着する。しかもこの高空で機体表面の温度が下がっているために、粘度が増して簡単には取れない。
加えて言えば、来栖はチャフも散布していた。
こちらも機体にダメージは与えないため、絶対防御は機能しない。そして油が付着したISの機体には、薄く、軽く、小さいチャフはよく貼り付く。
画像により周囲の状況を把握しているISにとって、視界を奪われるのは痛手。
ISは数秒前の情報を元に近接武装を振り回すが、当然、来栖はそこにいない。
ここまでの彼の行動は、彼の提唱する対IS戦においてやってはいけないことの連発。
ただし、彼が提唱しているのは生き延びる確率を上げるための方法であって、ISを足止めしなければならない今、それでは目的が達成できない。
来栖はスモークを出したまま、右エンジンのアフターバーナーを点火する。スモークが燃え、遠くからでもはっきりと視認できる火炎が発生する。
その明かりは、視界を奪われたISからでも十分に視認できる。
「ここらでお帰りいただければ、ありがたいんだけどね。」
手の内を晒せば、対処されてしまう可能性が上がる。それを避けるためには早急に撤退させる必要がある。
ただし、それを求めて焦ればミスが出る。撃墜だけはされぬよう細心の注意を払いつつ、来栖は大胆な行動に打って出た。
2022/06/20 一部改良を行いました
2022/12/02 括弧を修正しました