IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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※お詫び
先週は第三週にもかかわらず投稿し忘れていました。申し訳ございません。


第5話 分岐点(下)

 「おはようございます。」

 あれから二ヶ月ちょっと過ぎ、季節は二月の中旬。

 「お、マーベリック。お前にしちゃ遅いな。」

 「えぇ、ちょっと渋滞に巻き込まれまして。」

 来栖は階級が一つ上がって三等空佐になっていた。

 「上がりですか?」

 「おう、アラート終わりだ。」

 「お疲れ様でした。」

 「おう、頑張って。」

 勤務明けの先輩パイロット(階級は同じ)を見送ると、自分のロッカーに向かい着替えを始める。さっさと着替えを済ませると、トレーニングルームへと向かう。

 トレーニングルームでは、他の飛行隊のパイロットがトレーニングを行っていた。来栖もそれに混ざり、トレーニングを開始する。

 戦闘機乗りは特に強いGに耐えなければならない。トレーニングの手を抜けば、それは自分に返ってくる。他のパイロットに負けてなるものかと、来栖は黙々とトレーニングに打ち込む。

 その後も、ランニングや体幹トレーニングなど肉体面の強化に徹した。

 

 午後一時過ぎ。昼食を済ませた彼が、フライトシミュレーターで飛行訓練を行うために移動しているときのことだった。

 「来栖三等空佐。司令がお呼びです。」

 「指令が?了解しました。」

 廊下で出会った隊員からそう告げられ、仕方なく来栖は司令室へと進路を変える。

 思い当たる節が何もなかったので、何の用事だろうと考えている内に司令室に着く。姿勢を正し、ドアをノック。

 「失礼します。来栖翔霧三等空佐です。」

 「どうぞ。」

 司令の許可を得て入室すると、仮面を被った人物と目が合った。

 「・・・お呼びでしょうか。」

 彼は少しそれに驚いてしまったが、視界からそれを消し司令に向き直る。

 「この方を乗せて飛んでくれ。機種はF-15。目的地は、・・・こちらの婦人が指定する。これ以上は何も言えん。」

 やや投げ遣りな言葉遣いの司令に、また上が何かを企んでいるのだと分かり目眩を覚える。しかし、信頼されているから回ってきた仕事だと割り切って、来栖は任務を受けた。

 「了解しました。」

 

 「――左足を掛けて、そのハンドルを握って――」

 寒空の下、F-15への乗り方をレクチャーするのは体に堪える。鍛えていたとしても、寒いものは寒いのだ。なぜ格納庫の中でやらせてくれないと、彼は整備員を恨む。

 仮面の人物にやっとの思いで装備一式を着させ、自身も急いでコックピットに収まる。直ぐにでもキャノピーを閉めたかったが、エンジンの始動と動翼のチェックがまだなのでそうは出来ない。

 それでも、外で作業する整備員に比べれば吹き曝しでないだけマシだと、作業に集中する。後ろの人物が寒そうにしているのが分かったが、事前の連絡もなしに来たのが悪いのだと無視することにした。

 寒さに震えながらも点検が完了した。来栖は、急いでキャノピーを閉める。

 〈はー快適。〉

 F-15はエアコンが付いているので、キャノピーさえ閉めてしまえば狭いコックピットはすぐに暖まる。

 管制からの指示に従い、滑走路に進入。乗客がどの程度まで加速に耐えられるのか分からなかったので、スロットルを絞って優しく加速を行い、手を離れた風船のようにフワリと離陸させる。少しずつスロットを開き、緩やかに速度を上昇させた。

 空に上がってしまえば、後は乗客からの指示に従うだけなので楽なものだった。普段の訓練とは違い、強烈なGの掛かるマニューバを行う必要もない。

 「高度を下げて。200メートル。」

 レーダーに旅客機らしき機影があった。このコースで降下するとニアミスの可能性があったので、それを避けるように降下を始める。

 〈お!IS学園だ。デカいな・・・。〉

 進行方向右前方に見えた巨大な施設。よくあんなものを造るなと感心する。そのまま横を通り過ぎようとしたそのとき、更に指示が入る。

 「右へ旋回。着陸態勢を取って。」

 「待ってくれ。一回通過する。」

 唐突に着陸態勢を取れと言われても、速度が速すぎて降着装置を出すことが出来ない。勿論、ブレイク旋回なりエアブレーキを使うなりすれば余裕で減速できるが、乗客がどの程度まで耐えられるか未知数なので止めておいた。

 減速しながら、ゆっくりと左に二七〇度旋回。乗客が指示したコースに乗せる。正面右にIS学園が見えた。

 「目の前に滑走路が見えますか?」

 「滑走路?アスファルトの路面なら見えます。」

 どこにも滑走路は見当たらない。場所を間違えているのではないかと言おうとした瞬間。

 「あそこへ下りて。」

 「おぉう!?正気ですか?!」

 堪らずそう叫ぶ。

 IS学園の真横だから驚いたのではない。乗客の言う滑走路の幅が主脚の間隔と同じぐらいしかなかったから正気を疑ったのだ。しかも、滑走路の左側はすぐに海。そして、右側には崖がある。

 「いいから下ろして。当たらない。」

 「待て、管制の許可が要る。呼び出――」

 「管制?ないです。IS学園の敷地は日本の領土じゃないので、何しても怒られません。」

 『滅茶苦茶だ!』と、彼は心の中で叫ぶ。けれど、拒否したら後で上から何をされるか分かったものではない。それでも、一発勝負はリスクが大きすぎるので提案をした。

 「一度、通過します。加減を掴んでおきたいので。」

 「・・・許可する。」

 「じゃあ、右に傾きます。」

 しっかりと様子を把握するため、機体を右に傾けた状態で低速ローパスを実施。滑走路の様子を確かめる。

 〈厳しいな・・・。〉

 そうは言っても、下ろす以外に道はない。クソ度胸あるのみと、来栖は腹を括った。

 三六〇度旋回し、再びIS学園を正面右に捉えるコースに乗せる。降着装置を出し、道路の白線の破線をしっかりと見て海風に煽られて生じた左右のズレに細かく修正を入れていく。

 高度がゼロに近付く。あと四~五秒で接地するというとき、風がピタリと止んだ。

 ラッキーだと思いながら接地した、その刹那。グニャッとした感触が主脚から伝わってきた。

 「やばっ!」

 直感に従い、来栖はスロットルを全開に押し込む。すぐに上昇をかけ、タッチアンドゴーの形を取った。

 乗客が加速Gに若干耐え切れていないのは分かったが、知ったことではない。

 「なぜ下りない!」

 何も知らない乗客は怒る。しかし、来栖は何が起きたか大体分かっていた。

 「ローパスするから見ていてください。」

 そう言って、IS学園を正面右に捉えるコースに再度乗せる。そして、機体を右に傾け低速を維持して通過。

 「そこ!」

 機体を水平に戻し、上昇に入る。

 「見えました?」

 「えぇ、・・・見えたわ。」

 彼等が見たのは、大きく歪んだ道路だった。

 「有事の際は、道路から飛ぶと聞きましたが?」

 「代替滑走路のことですか?あれは、最初から滑走路にも使えるように敷設されたもので、そこら辺の道路は対応してませんよ。戦闘機は意外と重いんです。今乗ってるこれは武装してませんが、一五トンぐらいはあります。ハッキリ言って、ここのアスファルトの厚さでは耐え切れません。もっと分厚く造らないと。それから滑走路の幅。最低でも今の倍は必要です。あ、それから航空灯火は付けた方が良いですよ。」

 反論がなかったのでキャノピーフレームに付けているミラーで後席を確認すると、乗客は必死にメモ帳にペンを走らせていた。

 「百里に戻ります。よろしいですか?」

 「えぇ、出直します。」

 また来るのか。そう思うと、自然と天を仰いだ。

 それから後は特に何もなく、無事百里基地に到着した。

 誘導員の指示に従ってエプロンに駐機、エンジンを停止する。寒いので、梯子が掛けられギリギリまでキャノピーを開けない。

 間もなく、整備士が梯子を持ってやって来た。来栖は、事前に装備一式を外していたのでキャノピーを開け即座にコックピットから出る。そして、乗客が装備を外すのを手伝う。

 彼が先に機体から降り乗客に降り方の手順を細かく教えていると、黒いセダンが来栖達のすぐ後ろに止まった。

 乗客は、もたつきながらも何とかF-15から降りるとそのまま黒いセダンに乗り込む。そして、挨拶の一つも無く走って行ってしまった。

 後ろで整備員と誘導員が「何て無教育なんだ。」と話をしていた。

 しかし、無礼がここまで極められていると、呆れるのを通り越して感心してしまう。当然、彼にそれを許す気は毛頭なかった。

 その後、来栖は司令に任務の報告に向かった。報告を聞いた司令は、申し訳なさそうな表情をして来栖にこう言った。

 「今夜、飲みに行こう。」

 その夜、二人は飲み屋で深夜まで愚痴を言い合い、最近の鬱憤を晴らした。

 

 

 

 3月中旬。来栖はこの日、アラート任務に就いていた。

 前日は、所属不明機が再三にわたり防空識別圏の近くではしゃぎ回っていたらしいが、それで疲れたのか今日はスクランブルがかからない。お陰でゆっくり出来るので、是非とも毎日大人しくしていて貰いたいと思っていた。

 彼が暇を持て余しソファーに転がっていると、自動車か何かが近付いてくる音がしたので起き上がる。

 不意に、来栖は嫌な感じを覚えた。

 しばらくして入口が開き、隊員が現れた。

 「来栖翔霧三等空佐「司令がお呼びです。」」

 デジャブを感じ口に出してみれば大正解であった。

 一度ソファーに転がって、勢いを付け立ち上がる。交代を頼んで、来栖は司令のもとへ向かう。

 「失礼します。来栖翔霧三等空佐です。」

 司令室に入ってみれば、案の定仮面の女性が座っていた。来栖は、自然と右目の下が引き攣る。

 司令もウンザリしているようで、飛行機を操縦するジェスチャーを無言で投げやりにした。来栖も、無言でやや怠そうに敬礼を返す。

 「こちらへどうぞ。」

 ただ、彼等が無礼を無礼で返す低俗な行いはしない。わざわざ、向こうと同じレベルに落ちてやる義理はないからだ。

 前と同じ順路を辿り、彼女を駐機場所までエスコートする。F-15には一度乗っただけあって、前回よりは短時間で乗り込みが完了した。

 今日は陽射しもあって暖かいので、毛づくろいをするようにのんびりと点検を行う。機体の調子は好調そのものだった。

 散歩するように誘導路を移動。滑走路の手前まで行き、そのまま進入しようとしたとき。

 『百里管制より、マーベリックへ。スクランブル機が出る。待機せよ。』

 急遽、停止の指示が出されやむなく停止する。

 格納庫を見ると、F-15Jが二機飛び出してきた。未だかつて、これほどまでにスクランブルに出たいと思ったことはない。あと三〇分早く来てくれていたらと、彼は心の中でため息を吐く。

 思いがけず時間ができ、手持ち無沙汰になったので外の景色を見ていたときだった。主翼に何か足らない気がして目を凝らすと、日の丸をモチーフにした国籍マークがグレーで塗りつぶされていた。

 〈年末の不審電話は品定めだったか・・・。と言うことは、これはF-15を輸送する公式に存在しない任務だな。〉

 しかし、分からないのは今になってIS学園が戦闘機を欲しがる理由。

 『マーベリック機、待たせた。離陸を許可する。』

 「了解。」

 考え事をしていて他の航空機の離着陸の邪魔になっては大事(おおごと)なので、一旦それを考えるのは止めて操縦に専念する。

 〈一丁やるか!〉

 来栖は、滑走路ギリギリにF-15を付ける。彼女がどの程度の加速Gまでは平気か前回把握したので、スロットル操作に迷いはない。

 滑走が始まる。スロットルレバーを細かく操作し、加速度を一定に保つ。VR*1に達した瞬間に、機首上げが先か降着装置引き込みが先かという離陸を行う。V2*2ではなかった気がしたが、強引に高度を取ると基地建屋が密集している前辺りでバイバイフライトを敢行。

 〈このぐらい大目に見てくれよ。〉

 もう帰っては来ないだろうイーグルに華を添えた。

 進路を調整して高度・速度とも安定したので、彼は先ほど気になったことを尋ねてみる。

 「機密事項でないのなら教えて頂きたいのですが、F-15は何に使われるのですか?」

 「・・・。」

 やはりというべきか、彼女は何も答えない。目的地を先に確認していたのは失敗だったかと彼が思っていると、何の前触れもなくぽつりと答えた。

 「ISの輸送。白騎士は別だけど、今はISより戦闘機の方が速い。」

 「なるほど。ありがとうございました。」〈あれ?ひょっとしなくても俺のせい?〉

 聞き覚えが、と言うより身に覚えがある。

 「きゃぁっ?!」

 「おぉっとと!」

 来栖の思考が一瞬停止したことによりF-15の飛行姿勢が乱れ、機体は急降下してしまう。

 「失礼しました。」

 勿論、彼がその程度で冷静さを欠くことはない。速やかに姿勢を立て直し、高度を回復させる。飛行距離が短いのでオートパイロットを使わなかったことが少しだけ裏目に出てしまったようだった。

 

 〈相変わらず狭いなぁ・・・。〉

 ほどなくしてIS学園の上空に到達した。前回と違い目的地が分かっていたので、一直線に飛んだことで所要時間は大幅に短縮されていた。

 来栖は、滑走路に様子を確認するために一度上空を通過する。

 滑走路は太くなり、重厚感もある。航空灯火も少しではあるが設置されており、しっかりと改修されているように見受けられる。

 〈さて、どうかな?〉

 スーッと海面が近付いて来る。着艦するパイロットは、こんな気分なのだろうかと思いながら更に高度を下げる。

 海上で機体を煽っていた風は、滑走路に進入し着陸まであと四~五秒というところで今回も止む。

 〈この地形のせいかな?狭い以外は、結構下ろしやすい。〉

 後輪が接地する。しっかりとした地面の感触が伝わってくる。彼は、これなら大丈夫と判断しブレーキを掛ける。滑走路の長さを生かし、ゆっくりと制動を掛ける。

 滑走路上をタキシングし、遠くに見える格納庫らしき建物を目指す。滑走路は新設されただけあって、路面は非常に滑らかでコックピットはほとんど振動しない。

 「正面に格納庫があるでしょ。あそこに入れて。」

 「あのー、お言葉ですが外でしばらくエンジンを冷ました方が良いかと。格納庫の中がサウナになりますよ。」

 「大丈夫、換気設備も強化した。」

 「失礼しました。」

 意外に気が利くものだなと、来栖は少しだけ感心した。

 格納庫が近付いて来た。それに従って、来栖は違和感を覚え始める。

 〈入口が狭いな。〉

 正面から見る限り、格納庫の横幅は三機分ぐらいある。しかし、入口は横幅の三分の一弱の物が真ん中にあるだけ。

 格納庫の前にF-15を止め、エンジンを停止させる。キャノピーを開けると辺りは静まりかえっており、打ち寄せる波の音が心地よい音楽を奏でていた。

 「すいません、梯子を用意して貰えますか?」

 「入れてと言った。」

 「承知しております。ただ、扉の寸法が足りないような気がするので、確認させて下さい。」

 来栖の申し入れに数回頷き、乗客はスマホを手に取り電話を掛ける。

 一〇分ほど待っていると、水色の軽バンが走って現れた。運転席から降りてきた痩せ型の女性は、トランクを開け車内から脚立を引っ張り出した。

 〈おい、マジか。〉

 その女性は伸ばした脚立を持ち上げフラフラとした足取りでF-15に近付いてきて、そのままガツンッとぶつけるように機体にそれを掛けた。

 〈うえ、塗装剥げた・・・。〉

 常識が何も通じないので一々指摘することに来栖は疲れており、その言葉は心の中に留めておいた。

 「申し訳ないのですが、少し脚立を押さえて貰ってもよろしいですか?」

 「はい。」

 一応、押さえてはくれているが、女性の腕力に多少の不安を感じたので滑るようにして脚立を降りる。

 「ありがとうございました。代わります。・・・どうぞ、降りて下さい。」

 脚立を押さえる役を女性と代わる。すぐに乗客は降り始めたが、不安定なのと脚立のステップの間隔が広いのとで随分と時間を要した。

 乗客が無事に降りると、来栖はすぐに扉へと向かいサイズの確認を行う。

 〈・・・一四歩。てことは、一二メートル・・・。〉

 彼は、歩幅と歩数からそう割り出した。だが、それではF-15の全幅を一メートルも下回ってしまう。何処かで間違えたのではないか。そう思って、更に二回数え直してみたが結果は変わらない。

 何と言うべきかと彼が首を傾げていると、痩せ型の女性が話し掛けてくる。

 「どうされました?」

 「扉の寸法をご存じですか?」

 「はい、ちょっと待って下さい。」

 そう言って車の方へ走って行き、助手席側のドアを開ける。しばらくごそごそした後、クリアファイルを手に持って戻ってきた。

 「これです。」

 「ありがとうございます。」

 差し出されたそれを受け取って、寸法を確認してみると・・・。

 〈どれどれ、横は一二メートル。あら、高さも足りてない。〉

 来栖の計測通り、全く足りていなかった。どうしてこう言った致命的なミスをするのだろうと、彼は首を捻る。

 「非常に申し上げにくいのですが、F-15はこの扉を通れません。」

 「「えぇ!?」」

 二人がほぼ同時に声を上げる。

 「そんなはずはありません!ちゃんと調べたんです!」

 そう言うと、また車の方へ走っていく。

 探し始めてすぐに少し離れている二人にも届くほど大きな声で「あった!」と言うと、またクリアファイルを持って戻ってきた。

 「これです!」

 自信満々に差し出されたそれを来栖は受け取る。その寸法表を読んで、彼は冷静にこう言った。

 「これはF-5ですね。」

 「エフ・・・ご?」

 何が違うのと言った表情で、女性二入は首を傾げる。

 「はい。今日持ってきたのはF-15という戦闘時です。航空自衛隊にF-5という戦闘機は配備されていません。」

 痩せ型の女性の目が、点になった。しばらくして、来栖の話の内容を理解し始めたのか、彼女の手足が震えた。

 「あの、この大きさに収まる戦闘機って自衛隊にありますか?」

 彼女は声も震えており、何とかして挽回を図ろうといているのは明白である。

 「狭いのは入口だけですから、ここだけ作り替えれば入りますよ?」

 彼女は早とちりしている。そう思った来栖は、なだめるような口調でそう言った。だが。

 「えっとですね。テロ対策として相当な爆破に耐えられるよう、特にこっち側は頑丈に作ったので改修は出来ないんです・・・。」

 彼女の声は尻すぼみになっていった。

 来栖は目を瞑り眉間に皺を寄せて空を見上げる。なぜ、それだけの気力を調査にも回せないのか、と。

 「F-5じゃ駄目なんですか?古いですけど、まだ沢山いますし。」

 「あの、それってエンジン二個以上ですか?」

 「えぇ。」

 「・・・検討してみます。」

 納得し切れていないような口調だったが、一刻も早く帰りたい来栖は、話は纏まったと言うことにしてF-15を指差した。

 「これはどうします?」

 青空駐機を海岸沿いでやられては機体が痛む。流石にそれは看過できない。

 「あなたが気にすることではない。・・・もうじきタクシーが来る。」

 どさくさに紛れて乗って帰ろうとしたのだが、上手くは行かなかった。

 来栖はイーグルを見上げ、心の中で呟く。

 〈いつか迎えに来るからな。〉

 間もなく、タクシーが到着した。彼がそれに乗り込みドアが閉まる間際、『戦争を知らない自衛隊に大したパイロットはいない。』と言っているのが聞こえた。

 『どこまで虚仮(こけ)にすれば気が済むのか!』ドアが閉まるのが後一秒遅かったら彼は間違いなくそう怒鳴っていた。

 やり場のない怒りが気力を奪い、終始彼は俯いたままだった。

*1
機首の引上げを開始する速度

*2
安全に離陸が続けられる速度




2024/7/18 誤字を修正しました
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