IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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お久しぶりです。お待たせいたしました。失踪しちゃうかもと、作者自身も思ってしまいました。
第51話は、4ヶ月もかけ10話近い文字数を消した渾身の一作です・・・が、産みの苦しみを味わうほど面白くならないとはこれ如何に・・・。

後書きまでお読みいただければ幸いです。


第51話 来栖の休日

 「よし、帰るか!」

 タグマッチの翌日。時刻は朝の九時。昨日は遅くなったこともあり、来栖は自宅には戻らず学園に泊まった。

 「帰るじゃなくて、行くんでしょ?」

 格納庫横の駐車場から愛車を発進させた、そのタイミングで助手席から話しかけてきたのは、彼の娘の優里香。

 「あー、そうだな。よし、行くか!」

 既に発車しているが、彼は言いなおしをする。今日は来栖の次女、沙絵香の通う聖マリアンヌ女学院の学園祭に向かう。

 「このタイミングで聞くのもアレなんだけど・・・今日は学校にいなくても大丈夫なの?」

 それは学園の敷地から出た辺り。恐る恐るという感じで、優里香は父親にそれを尋ねる。

 「何で?」

 「いや、昨日あんなことがあったしさ・・・。」

 ゴーレムの襲撃と言う一大事が起こった翌日。これまでの傾向、と言っても今の学年が始まってからの話ではあるが、何かあった後は哨戒飛行を行ってきた。

 「どちらかで言うなら、いた方がいいさ。」

 路上駐車していた車を避けるため、後方からの接近車両がいないかサイドミラーで確認をしながら、来栖はそう返す。

 「だったら戻ろうよ!沙絵香は、今日は部活の試合に行っていていないんだよ?!」

 「ん?んー。まあ、一回は行っておきたいからさ。」

 沙絵香が学園祭に出席できなかった原因は、雨のせいで順延となった大会の試合が、よりによって学園祭と被ったことによる。そして、そのことを誰よりも申し訳なさそうにしていたのは他ならぬ沙絵香だった。

 「感想が必要なら、私が行って写真撮って来るからさ!」

 どんな展示をしていたか知るだけなら、写真でも十分とはいえる。

 しかし、来栖の目的は、それだけではなかった。

 「確かに、優里香の言うことは正しい。俺の仕事は、IS学園の生徒の命を守ることだ。家庭を顧みずにな。」

 幾度となく口にしてきた言葉。優里香にとってそれは、父親が仕事を優先せざるを得ない理由だと思っていた。だが真実を知っている今、それを聞くと胸に突き刺さる。

 「だからと言って、お前たちのことが頭から離れたことはない。目の前の敵に集中している時でも、ふとした瞬間に顔が浮かぶこともある。戦闘機から降りて『あぁ、今日も家に帰れるな』って思うこともある。俺も生きている人間だ。そういう時は疲れてる。前は、そうなっても踏ん張りがきいた。自惚(うぬぼ)れるわけじゃないけど、俺がやらなきゃ他がいなかったから。でも織斑先生が赴任されたあたりからかな。やっと俺より上が来たって思ったら、少しだけだけど力が抜けたんだ。そして昨日だ。あれだけの敵を、先生たちはキッチリと退治した。その瞬間に、これだけ戦えるなら学園は大丈夫だって、そう思ったんだ。」

 そこで優里香は、今朝、父親に会った時から何となく引っ掛かっていた違和感の正体に気がつく。表情、特に目が変化していると。

 娘だからこそ気づけるレベルのことではあるが、前までは、『何かと戦っているの?』と聞きたくなるような鋭さがあった。それは家にいる時でもだ。

 だが、今は全く感じられない。

 「辞めちゃうの?」

 不安になり、か細い声で尋ねる。

 「いつかはね。でも明日、明後日の事じゃない。確かに、いつ辞めてもいいなんてことも言っちゃいるが、輸送だ哨戒だはまだまだ先生方にはできない。俺が言いたいのは、心置きなく休めるようになったって話だ。」

 その不安を払拭するように、笑いながら返す。

 それでも、娘の表情は曇ったまま。

 「組織的に運用していけるように、IS学園があるべき姿に向かってるのは分かってる。けど、なんかそれが嫌なのの。」

 「?」

 「お父さんが毎日元気に帰ってこれる確率が上がることなんだから、それについては私もうれしい。でも、本当は輸送だけだったのが、できる人がいなかったから防空もやって・・・。IS学園を一人で守る・・・って言うとちょっと違うけど、敵との最前線に立てたのは少なくともお父さんだけだったっていう、孤高の存在に対する憧れっていうか、特別感って言うか・・・。こどもっぽい理由だけど、そう言うのがなくなっていくのが何だか寂しくて・・・。上手く言葉にはできないんだけど、横取りされた気分って言うか・・・。」

 「確かに孤高のなんたらって言われれば、カッコよくは聞こえるな。」

 一応の理解を得られたことに、優里香の表情は明るくなる。だが、それ以上の同意を来栖はしなかった。

 「ただな、カッコだけで守れるなんて甘い話はない。前にも話したとおり、お前達を守るっていう目的が俺にはある。それを得るために続けた結果として現状があるわけで、正直、カッコいいとか見栄えとか気にしたこともないんだよ。」

 そう話す声のトーンに変化は無かったが、目には鋭さが宿り、やや張り詰めた表情になっていた。

 そんな顔に優里香はハッとする。

 〈お父さんは学校だけじゃなくて家でも一人なんだ!〉

 母はもとより、祖父母とも彼女がIS学園へ入学した直後に死別している。優里香と沙絵香、二人の唯一の保護者として、来栖翔霧は無事に帰らなければならないという使命を帯びている。

 「・・・ちょっと聞いてみるけど、姿を見せないだけで私達には護衛が付いているんだよね。それって継続されるの?」

 謝っても、黙り込んでも車内の空気が悪くなると思い、僅かに話の方向を変更する。

 「何も変わらないよ。IS学園で教員をやる条件での契約だからね。それより家に着くぞ。降りる準備しといて。」

 話している間に自宅へと到着した。因みにだが、直接、聖マリアンヌ女学院へと向かうこともできた。それをしなかったのは、招待状の『公共交通機関での来場にご協力お願いします』と言う文言に協力するためだ。

 それができるのは、自宅と聖マリアンヌ女学院までがそんなに遠くないと言うことがあってこそではあるが。

 「これも持って降りるのか?」

 「うん、それも。」

 玄関の鍵を開け、学校から持ち帰った荷物を家の中に入れる。手提げバック数個分なので、それらは玄関へ置きっぱなしにする。

 「チケット持った?」

 「ちゃんとあるよ、二枚。」

 学園祭に入場するための招待状もろとも家の中に入れていないか確認し、玄関を施錠する。

 「それじゃ、行こうか。」

 二人は最寄りのバス停へと歩き出した。

 

 「あれ?こんなもの?」

 聖マリアンヌ女学園に入るなり、そう口にしたのは優里香だった。

 「こんなものってはの?」

 「中高一貫校でしょ?だから、こう・・・中庭とかに模擬店がたくさんあるのをイメージしてたから。」

 「中高一貫校だからだろ?」

 「?」

 ピンときていない様子だったので、さらに続ける。

 「中学生の時、学園祭とか文化祭とかやったか?」

 「中学の時?やったよ。・・・え、あっ。いや。あれは合唱祭?・・・合唱祭だった。」

 「だろ?」

 それならば学校の規模の割に模擬店が少ないのも納得だったが、同時に別の疑問が浮かぶ。

 「待って。沙絵香の出展とか展示って・・・。」

 「やるとは聞いてないぞ。」

 そういった直後、横を歩いていた娘の姿がふっと消えたので振り返ると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして立ち止まっていた。

 「どうした?」

 「何で今日来たの?」

 沙絵香がいないのはまだしも、関わってもいないのならば来る意味はあるのか。優里香は不思議でたまらない。

 「何でって言われても・・・。車の中で言ったとおりだよ。来てみたかったからとしか。」

 「この間、IS学園でもやったじゃん。」

 「警備が忙しくて楽しんでなんかいられないよ。教員だから。」

 そう言われてみれば、自身もクラスの出店で、担当の時間などが気になり思いっきりは楽しめていないことに気づく。

 「そう言う意味だと・・・あれ?!」

 話しかけたつもりだったが、考えている間に来栖は歩き出しており、離れていた父親を優里香は駆け足で追いかける。

 「学生の時は勿論、自衛隊に入隊してからも、この手のイベントは主催者側だったからさ。お客さん側で参加してみたかったんだよ。」

 追いついてきたことを確認するなり、彼はそう言う。

 〈あっ。お父さんもそう思うことあるんだ。〉

 お祭りに連れて行ってくれることはあったので、興味が無い訳ではないと言うことは確かだったが、積極的に参加したがると言う一面を見たことがなかったので彼女は意外に思う。

 「正直に言うと、文化祭とか学園祭とか、どの程度が普通なのか知らない。けど、頑張っているのは分かる。優里香は『こんなもの』って言ってたけど、これだけは言える。IS学園の予算の割き方が異常なだけだ。公平ではない気もするけど、知っているところで俺が学生だった頃を基準にすると、そこらに並んでいるテント一つとっても違う。テントそのものの見た目に関しては、当時と差は無いと思う。でも飾り付けなんて、してた記憶が無い。強いて言えば、模擬店のメニューが張ってある程度だったかな。」

 当時を懐かしみつつも、今の学生達を羨むように彼は話す。しかし優里香は今ひとつイメージが湧かず、適当に「ふーん」っと返す。

 そうしている内に、二人は校舎へと入っていた。

 「へーっ。こんな造りなんだ。歴史のある学校って感じるね。」

 一見すると、太陽光をこれでもかと取り込みそうな大きな窓。だが、実際に取り込まれる太陽光は繊細そのもの。そして、それに照らされる床のベージュ色が丁寧に使い込まれてきたことを物語り、得も言われぬ風合いを醸し出す。

 「沙絵香は、こんな学校に通ってるのか・・・。」

 「えっ?入学式とか・・・あっ。」

 思ったことを口にした瞬間にそれを思い出し、「しまった!」という顔をする。

 「ほら、IS学園にいるといつでも会えるようになったから。」

 「そんなに気にしなくていいよ。ある程度、割り切れるようになった。」

 あまりに弁明が必死そうだったので、寧ろ来栖の心に余裕ができる。

 「学校って、関係者でないと入るのが難しいだろ。だから来てみたかったんだ。写真だと、雰囲気は分からないからさ。」

 そう言う来栖の表情は、どこにでもいる父親としてのそれだった。

 などと話している間に、模擬店を行っているエリアが見えてくる。

 「いい匂いだな。何か食べてみるか?手前のは・・・たこ焼きか。」

 「うーん、たこ焼きかー。塩っ気は気分じゃない・・・あ!クレープがある!」

 「ラッキーだな。丁度、誰も並んでない。」

 二人は模擬店の近くで立ち止まりメニューに目をやる。

 「おー、なかなかの種類があるな。」

 「そうだね。迷うけど・・・無難にイチゴにしよっと。」

 「じゃあ、バナナにしとくか。」

 「すいません。イチゴとバナナを一つずつください。」

 他にも近付いてきている人がいたため、優里香は先を越されないように注文をする。

 「イチゴとバナナ一つずつですね。トッピングは何か付けられますか?」

 「えっ?トッピング?・・・あ、見落としてた。えっとー・・・イチゴはチョコがオススメかー。じゃあ、チョコでお願いします。お父さんは?」

 「俺は、そのままで。」

 「かしこまりました。イチゴのチョコトッピングとバナナ入りました。」

 ふと後ろを見れば、待っている人がいたので急いで会計を済ませて横へ逃げる。

 「ねえ、見て。生地焼いてるよ。」

 「凄いな。なかなか、あの薄さに焼くのはできないぞ。」

 褒めているのだから聞こえても問題は無いのだが、なんとなくひそひそと話をする。

 直ぐに生地は焼き上がり、手早く調理が行われる。

 「イチゴのチョコトッピングとバナナです。お待たせしました。」

 「どうも、ありがとう。」

 それを受け取って、二人は飲食スペースへと向かう。

 「これは上手な子がいるんだろうな。」

 「だと思うよ。こんなの、普段から作ってないとできないもん。」

 差し当たって、見た目は悪くない。

 二人は椅子に座り、「いただきます」をしてクレープを齧る。

 「なるほど。味もしっかりしてるな。」

 「ん!!おいしい!値段の割にちゃんとした材料を・・・!」

 そこまで言ったところで、あることにはたと気がついて目を見開いた。

 「なるほど!チョコがオススメなのは、チョコソースでイチゴの酸味を感じづらくさせて、更にホイップクリームにカカオの香りが付くことで上質さが感じられるようになるからなんだ!」

 「お、おう。」

 急に分析を始めた娘に、来栖は少し引く。

 「お父さんのやつも、ちょっとちょうだい。」

 「いいけど。」

 二口食べたバナナクレープを手渡す。イチゴクレープをくれるのかなと彼は思ったが、優里香にそれをする気はない様子だ。

 「あ、完熟したバナナなんだ。」

 優里香の好みは、若干緑がかって歯ごたえのある物。そういうこともあり、テンションが下がる。

 「ちょっとあっさり過ぎ・・・!!違う!噛んでいくとバナナとホイップクリームが混ざり合って生クリームっぽくも感じる!なるほど!だから完熟気味のバナナを使ってるんだ!」

 ところが、作り手の意図を理解した途端に一転して急上昇。目が輝き出す。

 「食べたかったら、全部食べても――」

 「いいの?!やったぁ!」

 「おぉ・・・うん。」

 優里香は甘い物好きなので、普段でもお菓子を食べているときは上機嫌だ。けれど、ここまでテンションが上がっているのは見たことがなく困惑を隠せない。

 「あー、おいしかった。」

 彼女は、瞬く間にクレープを二つとも平らげた。

 「・・・何か、いいことでもあったのか?」

 優里香は口の周りに食べかすが付いていることを警戒して、ハンカチで拭う。それが済むのを待って、来栖は問いかけた。

 「いいこと?・・・どうして?」

 パッと思いつく物がなく、聞き返す。

 「テンションが高いなと思って。」

 一瞬、来栖の脳裏をよぎったのは、織斑一夏に告白して『OK』を貰ったと言うシナリオ。しかし、他の女子生徒達が黙っているはずがないので、その線は消える。

 「そう?・・・あー、まぁ・・・。思った以上のクオリティーだったから、ちょっと・・・ね。」

 優里香は先ほどを思い出し、そして少しはしゃぎすぎたと顔を赤くする。

 それを見て来栖は、ただクレープが予想外においしくテンションが上がっていただけだと確信した。

 「まあ、いいや。さて、食べ終わったし展示でも見に行くとするか。」

 二人は模擬店エリアを後にした。

 

 

-*・A・*-

 

 

 「寄り道したいって、ここか?」

 聖マリアンヌ女学園で行われている学園祭の出し物を一通り見終え帰宅した二人は、次の予定のために車で移動。しかし、少しばかり時間があったので、優里香の希望で寄り道をしていた。

 「そーだよ。」

 〈なんで公園・・・?〉

 わざわざ寄り道をしたいと言うから、ショッピングセンターに行って服やアクセサリーをねだられる思っていただけに拍子抜けする。

 とは言え、滅多に来ることもない場所なので、何も言わずに娘の後を付いていく。

 〈それにしても、優里香と公園に来たのはいつぶりだ?小学校・・・の低学年以来か?〉

 しばらく歩いたところで、不意に優里香が駆け出した。

 「あった!お父さん!こっち!」

 「はいよ。」

 二〇メートルほど離れたところから、優里香が手招きをする。それに右手を挙げながら返事をすると、優里香は小走りで進んでいく。あまり離されるのも良くないかと、来栖も歩く速度を少し速める。

 〈・・・女の子の割合が高いな。〉

 聞こえてくる話し声に張りがある。若者の女子のものが多い気がして彼が見回すと、部活帰りや学校帰りの女子高生が多数いることが見て取れた。

 〈一校だけじゃない。・・・って、あの制服は。〉

 職業柄、来栖は制服にもある程度詳しい。そこから分かるのは、決して近いとは言えない場所からも来ている子がいると言うこと。

 再び娘に視線を戻す。と、彼女は五〇メートルほど先で行列に並んでいた。

 〈移動販売だな。〉

 その行列は、バンに並んでいる。しかし、何を販売しているのかまでは、のぼりは立っていたが人垣に阻まれて読み取れない。

 近付くにつれ、来栖は自身の目を疑った。

 「ん?クレープ?!」

 思わず声が漏れる。周囲に聞こえるほどの大きさではない程度にだが。

 ようやく娘に追い付く。手招きされるまま、来栖は列に入る。

 「()()食うの?」

 「うん。学園祭で食べたのがおいしかったから、弾みが付いちゃった。」

 「また」ではなく「まだ」と言ったのは、お昼に模擬店のメニューを一通り食べたばかりだから。しかも食後のデザートには、再度クレープを食べている。

 「おぉ、そうか・・・。」

 長女の方ばかりいい思いをさせ、次女にはあまりできていないことに負い目を感じる。とは言え、折角のお出かけ。普段頑張っているご褒美も必要と、何も言い返さない。

 「お父さん何にする?」

 「俺はそんなにいらないから、食べたいの選んだらいいよ。」

 「いぇーい!」

 しばらくして、二人の順番が来る。

 「次の方。お待たせしました。ご注文どうぞ。」

 二十代後半と思われる店主。その風体は無精ひげにバンダナと、商品とはギャップを感じさせる。そんなことは気にもかけず優里香は注文を行う。

 「イチゴとキウイとブルーベリーお願いします!」

 「イチゴとキウイとブルーベリーですね。」

 〈パイロット辞められるようになったら、移動販売でのんびりやるのもいいな。〉

 その瞬間、来栖は別のことに気が向いており、優里香が注文したことは聞こえていたが、何を注文したかまでは聞いていなかった。

 「お父さん、お金。」

 「あぁ、はいはい。」

 財布を取り出しつつ、レジの金額を見る。

 〈・・・当たり前だけど、模擬店より高いな。〉

 高いという印象はありつつも、滅多にこの手のものは食べないこともあり、金額についてその程度の感想しか持たない。

 しかし、注文の品が出て来て驚いた。

 「み、三つ?!」

 思わず財布を取り出してレシートを見る。確かに三種類が記載されていた。

 「腹、壊すなよ?」

 「大丈夫!別腹だし、冷たくないから!そ、れ、よ、り。どこか座れるところ~。」

 流石に心配になり始めるが、親の気持ちは届かない。そればかりか、優里香は上機嫌にスタスタと歩いて行く。

 「ラッキー!空いた!」

 目の前でベンチの空き席ができると、優里香がすかさず座る。遅れて来栖が横に座る。

 「お父さんには、ブルーベリー!パイロットは目が命でしょ?」

 「あぁ、ありがとう。」

 別にブルーベリーで目が良くなるわけではないが、その心遣いが父親としての彼の心に刺さる。

 「これだけ貰うな。」

 中身がはみ出さないよう器用に、手にクリームさえも付けず、彼はクレープを千切る。

 「いっただきまーす!」

 来栖はゆっくりと、味わってそれを食べる。対して優里香は、どんどん食べていく。

 「ごちそうさま!」

 「早っ!」

 流石に来栖が先に食べ終えたが、ちょっと景色でも眺めているかと思っていたら優里香も食べ終えた。

 「おいしかったか?」

 「うん!」

 「よかった。」

 「・・・でも、物足りなさがあった。」

 しばし会話が途切れるてからのそれ。まだ食べ足りないのかと思った来栖が引く。

 「美味しいんだけど、学園祭のやつと比べて単調って言うか。絶対値としては美味しいのに感動がない。」

 だが続けて語られた、その言葉を聞いた瞬間。来栖の中で、堰を切ったように記憶が蘇る。

 「・・・何で泣いてるの?!」

 無口になったなと思って横を見た優里香は、父親の頬に涙が流れていることに驚き動揺する。

 「す、すまん。英子も高い物より気持ちのこもった物が好きだったから、ちゃんと英子の娘なんだって思うと急に・・・。」

 彼女の出生からして作り物の可能性も否定はできないが、亡くなった来栖の妻は、彼の知る限り物静かな性格だった。

 一方、優里香は明るく活発な性格。

 あまり似ていないような気がしていたが、確かな血の繋がりを感じた。そこに、いつの間に成長した娘の顔立ちが英子とオーバーラップして、彼の感情が溢れ出したのだった。

 「ねえ、お父さん。そろそろ時間だよ。車の中で、私の知らないお母さんの話を聞かせてよ。」

 「そうだな。」

 二人は立ち上がり、次の予定場所に向かうため車へと戻った。




今回の舞台の一つである聖マリアンヌ女学園の学園祭ですが、ストーリー構成の経緯を説明いたします。
 聖マリアンヌ女学園には来栖翔霧の次女、沙絵香が通っております。
 そこで、中等部が学園祭にどのような出展を行っているか考察していたのですが、どうにも中等部は出展等は行っていない、若しくは限定的という結論に達しました。その理由は、中等部の生徒会長である五反田蘭の心情描写に『午前中から(学園祭を)回りたかった』とあるからです。
 このような学校行事には、実行委員会がある場合が多いでしょう。しかし生徒会役員、特に生徒会長ともなれば無関係とはならないはずです。
 それでも彼女は、時間を自由に使えています。
 以上のことから『聖マリアンヌ女学園の学園祭は高等部の行事であり、中等部は参加しているだけ』という結論に達し、今回のストーリーはそれを基に執筆いたしました。

2024/04/29 誤字の修正、及び一部描写を変更しました。
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