IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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ちょっと気になったことがあって、ISを読み直していると、「前述と違う」「そんな描写あったか?」ということが結構あって、この際と思い立って出来事とか用語とかエクセルに集計して原作の世界観を検証しているとこんなに間隔が開いてしまいました。(大汗

併せて、読者の皆様に一つお詫びがあります。
 前回投稿分の第51話の聖マリアンヌ女学園の学園祭を、私は何を勘違いしたか土曜日と思い込んで書いていいました(※原作ではタッグマッチが土曜日、聖マリアンヌ女学園の学園祭が日曜日(15時まで)、一夏と箒のディナーが日曜日の夜)。
 今回の第52話で日曜日をやろうと思っていたことが出来なくなってしまうので、第51話を誠に勝手ながら修正いたしました。なお、修正箇所は時間と会話のいくつかで、出来事や話の流れに大きな変更はございません。その都合、第51・52話が日曜の出来事になるので『一日に詰めすぎじゃないか?』と感じられるかもしれませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。



第52話 父と次女と

-*・優里香・*-

 

 

 「あー・・・、七時台でも明るさあったのになぁ・・・。」

 日曜日の、その時間。お父さんの運転する車に乗って、流れていく景色を見ながら、随分と短くなった日中を思い憂鬱になる。

 「分かる。放課後の部活も、電気付けても見えにくいもん。先輩たちの打つ球って、私よりずっと速いし。」

 助手席後方の座席に座る私の、その右隣。妹の沙絵香もそんなことを言った。

 「・・・ところでさ。あのおっきい建物が、そう?」

 「ん?あー、そうだよ。あれは第六アリーナだね。」

 私が答えた直後、「ふぁ」っと言う声が聞こえる。それは沙絵香の欠伸(あくび)

 でも、それは当然のこと。昨日はチームメイトの応援に行って、今日は、彼女自身の出場する試合があったのだから。本人は言わないが、随分と疲れがたまっているはずだ。

 「もう着く?」

 「うーん、もうちょっとかな。建物が大きすぎるから、見えてからが結構遠いんだよね。」

 「ご飯食べたら、眠くなってきた・・・。」

 クレープを食べた後、私とお父さんは沙絵香の試合の応援に行った。

 試合後は現地解散だったので、とても久しぶりに三人で外食をしてきた。

 行ったのは回転寿司。折角なんだからいいお店にと思ったけど、沙絵香たっての希望だ。本人曰く、『家族連れが多いから、憧れだった』と。

 その言葉は、お父さんの心を深々とえぐっていたが。

 「寝たら?」

 「そうだぞ。無理に起きとかなくて大丈夫だから。」

 私とお父さんがそう言うと、沙絵香は電池切れ寸前だったようで、「うんっ」っと小さく言ったかと思うと直ぐに寝息を立てる。今まで話していたのが噓のような速さだ。

 「・・・まあ、疲れるよな。」

 「だね。あんな試合をしたんだから。」

 試合結果だけど、残念ながら負けてしまった。

 でも、まあ。対戦相手について沙絵香のチームメイトの保護者さんに聞いたところ『優勝候補』で、しかも『今回の大会では一ゲームも取られていない』最強と言われていた二年生ペアだったらしい。そんな相手から一年生ペア(沙絵香とその同級生)が五ゲームマッチで二ゲームも取ったものだから、会場はちょっとしたどよめきが起きた。

 「あれは、アスリートの人がよく言うゾーンってやつに入っていたな。」

 「あれで入ってなかったら、入ったら優勝できるよ。」

 一ゲーム目と二ゲーム目は、相手に取られた。その試合展開は、ほぼ全ての観客に『三ゲームで終わり』と思わせる盤石のものだった。

 だったのだが、そこから沙絵香の見せた動きは、それはもう凄かった。相手が体勢に入っただけで観客から歓声の上がった必殺スマッシュ(又聞き)を普通のラリーのように返し、極めつけはペアの子が空振りした球を、空振りすることを分かっていたように後ろでカバーして打ち返したことだろうか。私はテニス経験がないからあまりわからないのだけど、それでもあれは引いた。

 「一年の差か。」

 「二年近いかもよ。沙絵香、早生まれだし。」

 「なるほど。」

 三ゲーム目と四ゲーム目は取ったものの、最後までは沙絵香の体力が持たず、残念ながら五ゲーム目はあっさりと負けてしまった。

 「よーし、到着。」

 話をしていると体感以上に時間が経つのは早いもので、IS学園の正面ゲートに到着した。

 正直なところ、明日の朝、お父さんと一緒に出て登校してもよかった。だけど六時に家を出るように起きると午後の授業で眠たくなるから、学園に戻ることにした。まあ外泊申請をしていなかったから、戻らないといけないっていうのもあるんだけど・・・。

 「あぁ、誰かと思って来たら来栖先生。珍しいですね、こちら側にお見えになるなんて。」

 「お疲れ様です。今日は娘を送ってきので。」

 正面ゲート付近に車が止まったことを不審に思ったのか、守衛さんが様子を見に来た。

 「中に入られますか?」

 「いや、今日は娘を送ってきただけなので。それに下の娘も乗せてるんで。」

 「先生なら誰も文句言いませんよ・・・と言いたいところですが。先日、あんなことが起きたばかりですしね・・・・・。」

 お父さんと守衛さんが話をしている間に、ラゲッジルームに積んだ紙袋を取る。

 その中身は、学業に関連するもの・・・ではない。日帰りなので、学業関連のものは持って帰らなかった。

 話が逸れたけど、沙絵香が試合をした会場付近に有名なお菓子屋さんがあったので、そこで買ったお菓子の紙袋だ。

 「ありがとう。また明日ね。」

 お父さんにお礼を言って車を降りる。

 「はいよ。おやすみ。」

 沙絵香が寝ているからか、声は小さめだった。

 「引き続き、お気を付けて。」

 「お疲れ様です。お気をつけてお帰りください。」

 お父さんと守衛さんは挨拶を済ませると、車は走りだした。

 〈あーっ、何か疲れが出てきた。明日が月曜だからかなぁ。〉

 「学生証だけ見せてもらえる?」

 「あ、わかりました。」

 「はい、どうぞ。」

 そんなことを考えつつ正面ゲートで守衛さんに生徒証を見せ、学園に入る。

 〈・・・何でだろう。正面ゲートから入るのって別に珍しいことじゃないのに、この違和感。・・・あぁ、お父さんと一緒にいたからか。〉

 普段、車で来るときは裏口から入る。・・・裏口は通称だけど、ちょっと聞こえが悪いな。

 それはさておき、車で来たときは正面ゲートから入ることはない。入学式の日でさえそうだった。だから違和感があるんだ。

 納得してすっきりしたので、その後は黙々と寮に向かって校内を歩く。

 そして、間もなく寮に着くと言うとき。ランニング中の生徒が正面から来る。それ自体は一定数いるんだけど、そのシルエットに見覚えがあった。

 「ラウラちゃん?」

 「ん・・・?ああ、なんだ。珍しいな、こんな場所で会うとは。」

 「そうだね。」

 話す機会があるのは格納庫ぐらい。まあ、それも月に一回あるかないか程度だけど。

 見かけるだけなら食堂とかでよくある。織斑君を見つけると、大体、隣かすぐ近くにいる。いいなー、クラスメイトで・・・。

 「随分と大荷物だな。」

 紙袋を幾つも持つ私を見て、そう言う。

 「え?・・・あ、まあ。軽いから。そうだ、出会ったついでに・・・はい、どうぞ。」

 一旦、左手の紙袋を地面に置く。右手に持つ紙袋から左手で目的のお菓子を探し出して、ラウラちゃんに渡す。

 「こ、これは!?」

 「どう?シュヴァルツェ・ハーゼにちなんで。」

 竹炭が入ったウサギを(かたど)ったクッキー。別にラウラちゃんへのお土産に買ったわけじゃないけど、ここで会ったのも何かの運だろう。

 「く、くれるのか!」

 「勿論。渡しといて回収したんじゃ、嫌がらせになるじゃん。」

 てっきり「受け取っておく」で終了すると思っていただけに、その喜びようは意外だった。

 「こ、これはクラリッサに教えてやらねば!」

 「いや、そこまでの物じゃ・・・。」

 喜ばれること自体は嬉しいのだけど、お手頃価格のクッキーだったので、そこまで喜ばれると気が引ける。

 「・・・あ、そうだ。前に教えてもらったクレープ屋さん行ってみたよ。」

 悪いことをしたわけではないが、これ以上は私にダメージが入りそうだったので、話題を切り替えるために、それを切り出した。

 「城址公園のだな。どうだった?」

 「おいしかったよ。流石、プロのクレープ屋さんだと思ったよ。」

 添加物の少ない、シンプルな料理の味の善し悪しを左右するのは素材選びだと思う。私の好みを言うなら味に一捻り欲しかっただけで、人気も納得のクレープ屋さんであることに間違いはない。

 「ふっふっふ。だろう。」

 満足げに笑うラウラちゃん。その表情は、どこか得意げだ。

 そう言えば、教えてくれたときは『シャルロットの受け売りだがな』って言っていたけど・・・今は言わなかったな。

 「ところで、だ。ミックスベリーは食べたのか?」

 「ミックス・・・ベリー?」

 「ああ。食べると幸せになれる『おまじない』があるそうだ。」

 そんなものメニューにあっただろうか。記憶を探ってみるが思い出せない。秋季限定ミックスジュースならあったけど。

 「なかったよ?」

 「よく思い出してみろ。」

 「・・・・・?」

 もしかしてベリー二種類を頼むことかと思ったが、ベリーはブルーベリーしか思いだせない。

 「ブルーベリーでしょ?キウイ、マンゴ-、イチゴ・・・。」

 「今、言った。」

 そう言われても、さっぱり分からない。

 「イチゴは?」

 「福岡産、スイートキングだった。」

 「品種ではない!英語で言うと何だ!」

 痺れを切らしたラウラちゃんが大きな声でそう言った。

 「あぁ!ストロベリー!」

 そのお陰で理解できて、ポンッと手を打つ。反動で、袋からお菓子が飛び出しそうになり、慌てて抑える。

 「で、食べたのか?ブルーベリーとストロベリー。」

 「うん、食べたよ。」

 一緒にキウイも食べたと、一応付け加えておく。

 「なら、いいことがあるだろう。・・・ん?今、嫁の声が聞こえたような?・・・そうだ、嫁を見なかったか?昼過ぎから、全く姿が見当たらんのだ。」

 「嫁?・・・あ~織斑君!正面ゲートから歩いてきたけど見なかったよ。」

 「そうか。だが、声が聞こえたと言うことは近くにいるな。では失礼する。」

 ラウラちゃんは走って去って行った。どうやらランニングは、トレーニングとしてしていたわけではなさそうだ。

 〈さて、私も戻りますか。〉

 地面に置いていた紙袋を手に取り、寮に向け歩き出す。

 〈・・・お、織斑君、近くにいるのかな。あ、会えたりするかな?会えたら、お菓子あげたら喜ぶ・・・かな?〉

 去り際にラウラちゃんの言った言葉を思い出す。そう言えば、織斑君ってどんなお菓子が好きなんだろう。手持ちのお菓子を思い出してみる。クッキーにマカロン、マドレーヌ、他諸々と種類は豊富だ。どれも日持ちするようにと選んだ結果、焼き菓子ばかりだ。

 〈でも、お菓子あげて、さっきのラウラちゃんみたいにウケが良かったら!『僕の好みを分かってくれるなんて初めてです』なんて言われて!『付き合ってください!』とか!〉

 妄想をしている間に、寮の昇降口に到着。出会えないかなとはやる気持ちを抑えつつ上履きに履き替える。

 〈それでそれで!結婚を申し込まれたりして!〉

 その後の甘い展開へ妄想を膨らませようとして――

 〈・・・あれ?なんで私、織斑君が好きなんだっけ?〉

 その後、つまり結婚してからが思い描けなかった。

 〈かっこよくて、誰にも優しくて・・・〉

 頭の中が急速に冴えていく。思いを繋ぎとめようとするも、好きになったきっかけを思い出せない。

 〈仲間のために命をかけて戦うとこ・・・・・何、この感覚・・・。〉

 何かが私の体に入ってくる。物理的ではない、味わったことのない感覚。とてつもなく不快なそれに、全身に鳥肌が立つ。

 〈そう言えば!〉

 四月ごろだったか。織斑君の話をしたときに、お父さんの言った言葉を思い出す。

 『かっこいいだけで人気になれるのか?精神干渉でもしてるんじゃないか?』

 そうだ、これは感情の操作をされているのかもしれない。

 ドラマとかで見る父親のヤキモチだと、その時は思った。けど、今、感じているそれは、確かにお父さんの言う通りに思える。

 思い返せば、(織斑)千冬様も似たような性質がある気がする。容姿、実力を兼ね備えている人とは言え、あそこまで万人から評価されると言うのは、よく考えると気味が悪い。

 〈これは・・・でも。〉

 人には話せない。話しても理解してもらえない。ほんの数分前の私にそれを言っても、絶対に信じない。それほどに機微な異変だ。

 振り払えない違和感から逃げるように、私は寮の自室を目指した。

 

 

-*・A・*-

 

 

 「おーい、着いたぞ。」

 家に着いた来栖は、後席で眠る沙絵香を起こすため、肩に手をかけて体を揺さぶる。

 「起きて。」

 「ん~・・・。」

 よほど疲れているのだろう。反応こそあれど、眠りから覚める気配はない。

 「・・・仕方ない。」

 車から五~六歩ほど離れた玄関。その開き戸を開け、車に戻る。

 「よっと!」

 シートベルトを外し、来栖はお姫様抱っこで沙絵香を抱き上げる。

 〈前に抱えたときは・・・・・前っていつだ?〉

 腕で感じた娘の体重に、それを思い出そうとする。

 〈幼稚園・・・の頃には知らない男の人って怖がって近寄らせてくれなかったし・・・え、待てよ?父ちゃん、母ちゃんに預けた時か?〉

 そうなると一歳にも満たない頃のことになるが、それ以降に思い出がない。

 〈・・・随分と大きくなったな。〉

 いつの間に成長した次女に、彼は感慨深くなる。

 そんなことを考えている間に、沙絵香の部屋に到着。ゆっくりとベッドに下ろそうとして、途中で止まる。

 〈待てよ。シャワー浴びてないまま寝かすのも、どうかな・・・。〉

 起こすのはかわいそうだが、流石に衛生上よくない。それに年頃の娘ともなれば、衛生云々の話しだけでは片付かない。

 「おーい、風呂入らないのか?起きてー。」

 「・・・いい。」

 「いいって・・・。起きて。」

 「・・・いい。朝入る・・・・・。」

 寝ぼけているのか、そういうとぎゅっと抱き着いてきた。娘に甘い来栖は、こうなってしまうと、もう何も言えなくなる。

 〈歯磨き・・・は、いいのか。歯磨きしてくるってお手洗いに行ってたな。だからといって、このまま寝かせるのもなぁ。ベッド汚れるのも嫌だろうし・・・。〉

 少し考えた後、来栖は自分の部屋に向かい、沙絵香を自分のベッドに下ろす。

 そして押し入れから予備の布団を出すと再び沙絵香の部屋に向かい、布団を敷き替える。そして沙絵香を運び、その上に寝かしつけた。

 『お宅のお嬢さん、ご立派ですね。お父様の教育がよろしいんでしょ?』

 布団を掛けながら見た愛娘のあどけない寝顔。近所のマダムに言われた言葉を不意に思い出す。

 〈何もしてやれちゃいない。俺は、本人たちの努力に甘えてるだけだ。『うちの娘なんて』か・・・。普通はそうなんだよな。そう言えるくらい、子どものことを見ているのが親の務めなのにな。〉

 その後に続けて言われた言葉。それも纏めて思い出し、来栖は胸が痛む。

 彼は、できる精いっぱいのことはしている。それでも『普通の親子なら、もっと気の利いたことをしてやれるだろうに』と言う劣等感がいつも付きまとう。

 「ごめんな、こんなことしかしてやれなくて・・・。おやすみ。」

 電気を消し、ゆっくりとドアを閉めて部屋を後にした。

 

 

-*・沙絵香・*-

 

 

 「ん?朝?」

 物音に目を覚ます。枕元に置いているデジタル仕様の目覚まし時計を見ると、時刻五時半を表示していた。

 お父さんが出勤するのに、玄関の鍵を掛けた音だ。

 偶に、お父さんの立てる物音で目が覚める時がある。前は『せっかく寝ていたのに!』と憤慨していたが、今思うと自分勝手なことを思っていたなぁと反省している。

 〈時間あるし、もう少し寝よーっと。〉

 掛け布団の位置を直そうと体を動かして――

 「・・・え?!」

 その感触がいつもの物とは違うことに、目がパチッと覚めた。

 〈何?!この格好?!〉

 飛び起きて確認すると、いつもはパジャマなのに体育用のジャージを着ている。

 「どうして?!」と、慌てて昨夜のことを思い出す。

 〈お姉ちゃんとお父さんと一緒に晩御飯を食べに行って、IS学園にお姉ちゃんを降ろすから遠回りするって言って、それから・・・あれ??〉

 晩御飯を食べた後、車の中で眠くて眠くて仕方なかったところまでは記憶があるのだけど、それ以降が何も思い出せない。

 ふと部屋を見回すと、部屋の隅に奇麗に畳まれた布団があった。

 〈え?あれ?布団も違う・・・。〉

 よく見れば、ベッドの上の布団は私の布団ではなかった。

 まだ、お父さんはいるだろうか。急ぎ窓を開けると、テールライトの光が遠ざかっていくのが見えた。

 〈・・・どう考えても、お風呂入ってないよね。〉

 べたつき感はないけど、服装から言って間違いない。とりあえずお風呂に入らなきゃと思い、着替えを持って一階のお風呂場に向かう。

 〈起こしてくれたっていいじゃんか!〉

 そう思いながら脱衣所のドアを開けようとして、張り紙が目に留まる。

 〈何?これ?〉

 マスキングテープでドアに張り付けられていた紙を手に取る。そこには『お風呂沸かしてあります』とだけ書かれていた。

 それを証明するかのように、ドアの内側からメロディーが聞こえ『お風呂が沸きました』と言う機械音声も聞こえてくる。

 〈だから何?!JCだよ!私!〉

 自分が悪いことは分かっているけど、でもそれを指摘するのが親の役目じゃないだろうか。むしゃくしゃして、その紙を投げ捨てる。

 〈普通、お風呂に入らせるでしょ!寝る前に!・・・寝る前?・・・あれ?車に乗ってたんだからどうやって降り・・・!!〉

 その瞬間、私は見ていた夢を思い出す。

 記憶にあるはずのない、お母さんに抱っこされている夢だった。

 そこでお母さんは、『お風呂に入りましょ』と誘ってくれた。けれど、何かが嫌でお母さんにしがみ付きつつ「嫌だ」と言った。

 『あらあら。じゃあ、お昼寝しましょう。』

 今思えば支離滅裂な流れだが、とても心地の良いものだった。

 〈多分、お母さんに変換しちゃってたのかな・・・。〉

 お父さんは、私が嫌と言ったらそれで折れてしまう。夢の中でのお母さんとの会話は、きっとお父さんとした会話だ。

 急に自分の行いが恥ずかしくなって、投げ捨てた紙を拾い上げる。

 張り紙をよく見ると、何度も書いては消した跡があった。その跡をよく見ると、『起きなかったから』という一言が読み取れる。

 「・・・消さなくてもいいのに。」

 私が悪いようには書かないでいてくれる優しさに、胸が温かくなるのを感じた。




優里香が精神干渉されていると感じている描写について解説

 作中で触れている通り、一夏がモテるのは、彼がそうなるのように精神へ干渉を行っているのではないかと考えたためです。
 そう考えた根拠は二つあり、一つは一夏を好きになった大多数が一目惚れだったこと、二つ目は惚れてない人たちの共通点です。
 一つ目については説明するまでもないため省略し、二つ目について説明します。
 彼に惹かれなかった人たち。それは、男性に恋愛感情を持っていない人間であることです。
 大きく分けると、メンタルに問題がある、男性に対して恋愛感情を抱かない、仕事中の人(他のことに集中)の三点でした。以下に、その根拠を記載します。
 一つ目、メンタルに該当するのは、鈴、シャルロット、簪です。三人はいずれもメンタルが改善されると一夏に惚れています。
 二つ目、男性に恋愛感情を抱かない人に該当するのは、登場する男性ほぼ全員、ラウラ(初期)、マドカ、オータム、フォルテ・サファイア、ダリル・ケイシー、クロエ・クロニクル、ジブリル・エミュレール(※スコール・ミューゼルについては人間か不明なので除外)です。ラウラ(初期)は嫉妬、マドカは憎悪によるものですが、他の人物は恋愛対象が女性でした。
 三つ目、仕事中に該当するのは、お店の店員さん、@クルーズの店長、更識楯無、フローレンスなどです。楯無はオフモードの時は一夏にメロメロ、フローレンスも大切なアイリス王女の護衛を託す(従者の教育を受けていないのに)ほどに信頼しています。
 ※他に3巻に登場した水着売り場にいた人がいますが、彼女については女性ものを触らせるだけの価値がある男と認めているととれるため除外しています。
 つまり、男性に恋愛感情を持っていればコロッと一夏に惚れ(例:10巻・第5話に登場したLGBTの男性(?)スタイリスト)ますが、気持ち一つで全く効力を失っています。
 因みに、これを書くに当たって原作の7巻・第四話の終盤付近を選んだのは、一夏が千冬に妹の存在を尋ねている場面、一夏だけが極度の緊張状態にあったからです。一夏が緊張状態になったのは、ゴーレムの襲撃や亡国機業の襲撃など他にもありますが、そこでは全員がパニック状態で、彼だけではありません。彼だけ余裕がない状況というのは、7巻と12巻の2回だけです。
 話を戻し、『精神干渉が弱っている可能性があり、かつ対象者は通常の状態である状況において一夏に対する気持ちに揺らぎが生じていたらこうなるだろう』というのを表現したものが優里香の反応というわけです。
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