IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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あらすじに追記を行いました。


第53話 どうして?

 キャノンボール・ファスト以降、継続して実施されている哨戒飛行。

 学園が二度目のゴーレム襲撃を受けて最初の授業日となる月曜日も、当然それは行われていた。

 「・・・何してんの?」

 時間は放課後。

 F-14の給油と自身の休憩のために着陸していた来栖は、格納庫の中で不自然な挙動をする長女を目撃する。

 「範囲の調査。あ、滑走路出てもいい?」

 「???」

 挙動も言動も不審極まりないことに、頭がおかしくなったのではないだろうかと疑う。

 「滑走路はダメ。まだ飛ぶから。何の範囲の調査?」

 「ほら、前に言ってたじゃん。織斑君、精神干渉でもしてるんじゃないかって。」

 「・・・え?言ったか?・・・あぁ、あれか。」

 「昨日の夜だけどさ、どうも本当な気がしてきて。今もこう、言葉にできない違和感があるって言うか。で、それが距離によって変わるのか調べたいの。」

 「そんなオカルト、存在するのか?」

 「最初に言ったの、お父さんでしょ!」

 一喝されて、「そうだけど」と小さく口ごもる。

 「今から飛ぶんだよね?乗せてよ。」

 「ダメだ。状況が不安定すぎる。」

 「えーっ!」

 以前が緩すぎたことは否定しようのない事実だが、本来、いつ撃たれるとも分からぬ仕事。厄介なことに、最近の敵は警戒網を容易く突破してくる。自分だけでも守り切れるとも分からないのに娘まで気遣いながらというのは、何としてでも避けたい状況だった。

 「調査したいなら、街でも行ってきなさい。机に幾らか入ってるから、それ持っていていいから。」

 「まだお小遣い残ってるからいい。・・・ちぇー。」

 「なら、ワシが乗せてやろうか?」

 突然、格納庫の扉の方から声が聞こえる。声に振り向けば、そこには柳原の姿があった。

 「ただいま。」

 「お帰りなさい。・・・ご用は?」

 「明日から出勤するからな。」

 「・・・早かったですね。」

 来栖は一拍遅れて振り返り、格納庫の壁に掛けられていた月間予定を書き込むホワイトボードを見る。そこに柳原の復帰予定日は書かれていない。つまり来月であることを確認してから感想を言った。

 「諏訪のイップスは深刻だと思っていたんだがな。一回、決まったらすんなり出来るようになって。他にも指導したんだが、教えることがなくなったんで早めに切り上げてきた。」

 「それはそれは。流石は空自歴代No1頭脳と言われるだけはありますね。」

 「同感だ。ま、理論的に飛ばそうと頭使いすぎる嫌いがあるけどな。」

 「ははっ。理論だけでも、感性だけでも、うまく飛ばせませんもんね。」

 「んで、飛んでもいいのか?」

 真新しい航空免許*1を取り出し、法的な問題はないことをアピールする。

 「森田に聞いてください。(T-4は)飛ぶ準備してないんで。」

 「給油終わったか?」

 ドア付近にいた柳原は上半身だけ外に出て、駐機場でF-14に給油を行っている森田へ大きな声で呼びかけた。

 『まだです。なんか用ですか?』

 外にいた森田への挨拶は、格納庫へ来る前に済ませていた。

 「T-4準備できるか?」

 『できますよ。』

 「頼む!・・・と言うわけで、だ。着替えてくる。」

 「私も着替えてこよーっと。」

 更衣室へ向かうため、柳原は通路へと消えていく。優里香もそれに続く。入れ違いで、格納庫には森田が入ってきた。

 「あと五分くらいで終わるからな。向こう、谷原さん付いてっから。」

 「了解。」

 業務連絡を告げて、森田はT-4に向かって歩いていく。来栖は森田の来た軌跡をなぞるように外へ向けて歩き出した。

 

 あれから四十分ほど。柳原は優里香を後席に乗せ、IS学園の指定する飛行制限区域内を飛んでいた。ちなみに飛行高度はT-4の上昇限界に近い。

 「ここが制限区域内では一番遠い場所だけど、どうだ?変化あるか?」

 後席の優里香へ話しかける。

 「んー・・・。気のせいなのかな・・・。変わんない。」

 制限区域外に出ることに関して法的な制約を受けることはないが、柳原が制限区域周囲に設定されている航路の把握を充分にできていないこともあり、出るつもりはなかった。優里香もそれを知っており、希望しない。

 「心に距離は関係ないと言うからな。・・・そういえば、操縦したことはあるのか?」

 「ISはありますけど、飛行機はないです。」

 「そうか。なら、操縦してみるか?他のことに集中して排除できるか、実験だ。」

 「え!?いいんですか!?」

 戦闘機のパイロットになることが目標の優里香にとって、それは願ってもない提案。テンションが急上昇する。

 「あぁ、構わん。だが、あくまでも実験だからな。二つ約束しろ。T-4ってのは、応答性の高いな機体だ。操縦桿はゆっくり操作すること。それと俺が『アイ、ハブ』って言ったら、操縦桿から手を離せ。いいな?」

 テンションが高すぎる。柳原は意図的に間延びした話し方でリズムを狂わせ、気持ちを落ち着かせる。

 「分かりました!」

 会話している間に、操舵がある程度効く高度にまで機体を降下させる。

 「落ち着いてやれ。ユーハブ、コントロール」

 「アイハブ、コントロール。」

 優里香は、ある程度の専門用語は父親に聞いて知っている。詰まることなく応答し操縦桿に手をかける。

 「!!」

 優里香が操縦を始める。その瞬間、柳原の体に経験したことのない衝撃(インパルス)が走った。

 〈こ、これは!!いや、しかし・・・。〉

 一人前のパイロットに要求される水準にはほど遠いとは言え、一発目の操縦とは思えない。

 〈偶然か?!いや、それでできるものじゃない!〉

 今までに経験したことのない感情が高ぶり。軽い気持ちで提案した分、その反動は大きい。

 〈いかん、いかん。ワシとしたことが。目的を思い出せ。〉

 しかし、伊達に長いことパイロットをやっているわけではない。短く息を吐いて気持ちを切り替え、いつでも操縦を交代できるように態勢を整える。

 「柳原さん!操縦、返してもいいですか?!」

 「アイハブ・コントロール。」

 数分後、優里香が交代を求めて来たので応じる。機体は姿勢を維持しており、急ぎの操縦は必要なかった。

 「どうだ?違和感はあったか?」

 「暇がなかったです!機体を安定させるので精一杯で・・・。お陰で、少し対処法が分かった気がします。」

 「そうか。協力した甲斐があった。・・・時間はまだあるが、どうする?」

 「もう少しやりたいですけど、手が震えちゃって。それに遅くなると、食堂が混んでしまうので。」

 「なるほど。じゃ、帰るか。」

 進路をIS学園に修正する。

 〈こんなに細かく操縦してたんだ・・・。〉

 単なる旋回であっても、操縦桿とスロットルは常に細かく動く。以前なら気付きもしなかったことが、操縦を経験したことによって分かるようになっていた。

 「柳原さんも、お父さんも凄いことしてるんですね。分かっているつもりでした。」

 「これで感心してちゃダメだ。いかなる場合でも維持できるようになって初めて一人前だからな。」

 基本を褒められてもうれしくない・・・と思いきや、若い娘に褒められて、その表情は僅かにだがニヤついていた。

 〈それにしても、初見でああも操縦できるとは・・・蛙の子は蛙と言うことか?まあ、ISの操縦経験が生きている可能性もあるが。いずれにしても、化けるぞ、この娘は。〉

 柳原にとって、他人の操縦に衝撃を受けるというのは初めてのこと。来栖優里香という存在を、柳原は期待せずにはいられなかった。

 

 

-*・A・*-

 

 

 「・・・今回はまた、随分と派手にやられたな。」

 火曜日の昼過ぎ。来栖から貰った報告書に目を通した柳原はそうぼやいた。

 「無人機ねぇ。誰だ、こんなもの作るのは。」

 「篠ノ之束しかいませんよ。」

 そう返したのは、休憩中の来栖だった。

 「何で言い切れるんだ」

 彼女だろうとは皆が言っているが、確固たる証拠がないため誰も言い切らない。だが来栖は違った。

 「五機と聞けば大きな戦力に思えますが、数だけで言えば、こちらは約六倍のISがいるんです。貴重なISを失うリスクの高い場所に送り込むなんて、どの国もやりたがりませんよ。」

 「代表候補生から機体を奪うとか・・・だと駄目か。戦闘してから奪取した機体抱えて離脱・・・。うん、無理だな。」

 IS学園の敷地は独立した土地だが、その土地は日本の領土の中にある。IS学園を出た時点で日本のIS部隊が黙っちゃいないことを思い出し、その可能性がゼロに等しいとに気付く。

 「だとすると、この襲撃の目的は何だ?」

 「専用機持ち十人に対して五機。戦力比で言えば二対一。生徒に稽古をしてやろうという心遣い・・・にしては、装備の殺傷能力が高すぎるんですよね。そういう手の人間でもないですし、篠ノ之束は。」

 「いつまでも宇宙に進出しないことへの抗議として、見せしめに専用機持ちを殺害しようとした、とかか?」

 「それやっちゃうと逆効果ですよ。まだ兵器として使いこなせてないってメッセージになっちゃいますから。」

 「そうだな・・・。」

 物量で押してくるわけでも、戦略でこちらを欺くわけでもない。どの方面から考えても、襲撃の意図に見当がつない。防衛策を考えようにも、それが分からなくては手の打ちようがない。

 その後も、あれやこれやと頭を捻り、彼らがやっとの思いでひねり出した結論。それは『篠ノ之束が自身の技術力をアピールするためのデモンストレーションだったのでは』と言うもの。

 残念ながらそれは、篠ノ之束の思惑『篠ノ之箒のパーソナルデータを入手し、彼女の専用機【紅椿】を強化する』と言うことからはかけ離れたものであった。

 

 

-*・A・*-

 

 

 「――んだよ!分かってるのか?!」

 〈ん?喧嘩か?〉

 水曜日の放課後。時間つぶしに格納庫を訪れたラウラは、来栖の不機嫌そうな声を耳にする。

 「どうした!何を揉めている!」

 一肌脱いで仲裁してやろう。格納庫と通路を仕切るドアを開け放つと同時に彼女は言い放った。

 「お、いらっしゃい。・・・あれ?嫁君ほっといていいのかい?」

 「あぁ。職員室に呼ばれて帰ってこないのでな。暇つぶしに来た。」

 最近、織斑一夏争奪戦の戦列に日本の代表候補生、更識簪が加わったという話は優里香からもたらされており、輸送課の面々は知っていた。

 夏休みが終わってからと言うもの、彼の争奪戦は激化する一方。だからこそ、彼女の来訪は意外だった。

 「それはそうと、何を揉めている。」

 「来栖がごねるんだよ。『俺は遊びに行くんじゃない』って。」

 「・・・どこへ行くのだ?」

  眉がぴくっと反応する。一瞬で少女モードに入ってしまい、行き先が気になった彼女は詮索を始める。

 「北海道だよ。ゴーレムがアリーナの遮断シールドの発生装置を破壊しやがって。在庫じゃ全部修理しきれないからメーカーに取りに行くんだ。」

 敏感にそれを察知した来栖は、どうせ聞いてくるだろうと先回りして話す。

 「な?せっかく、北海道に行くんだ。お土産くらい買ってきてくれてたっていいだろ?」

 「なるほど。で、何を頼んだのだ?」

 その返しに「あれ?」っと首を傾げる来栖。

 「私、いくら。」

 「ロ〇ズのチョコレート。」

 「僕、生キャラメル。」

 「いいぞ、全員言わなくて。・・・こういうことだ。」

 「なるほど。来栖先生が怒るのもわかる。」

 先ほどの違和感は気のせいだったかと、ようやく現れた味方に安堵した来栖。

 「お前らは何もわかっていない!生ものを頼んでも、持って帰ってくるまでに腐ってしまうぞ!」

 だったが、違和感が気のせいでないことをしっかりと証明されてよろめく。

 「心配ご無用!増槽を改造して、冷蔵コンテナを作ってある!」

 そんな来栖をよそに、得意満面な笑みにグッドサインを添える森田。

 「何と!抜かりがないな!」

 全員、敵だ。ラウラにまで期待を裏切られた来栖は、ついに白旗を上げた。

 「分かったよ。はぁ・・・。ラウラ、好きなもん言いな。買ってくるから。」

 「やったな!お許しが出たぞ!」

 待ってましたと言わんばかりに森田が動く。普段、整備に使うチェックシートを挟んでいる二つ折りのバインダーから一枚の紙を取り出した。

 「お土産リストか。抜かりがないな。」

 口調こそいつも通りだが、ラウラは嬉しそうにしている。

 「こういうことは手が早いな」と森田に対して思った来栖は、直後に仕事の手も早かったことを思い出して目をつむる。口に出なくてよかった、と。

 「だろぅ?で、何を頼む?」

 「木彫りの熊だ。」

 意気揚々としていた森田含め、居合わせた者は笑顔のまま固まり、頭の上に『?』マークを浮かべる。

 「お、おぉう?」

 「ず、随分と渋いというか、マニアックと言うか・・・。」

 「難しいのか?なら、マリモだ。」

 とてつもなく微妙な反応に、希望を変えるラウラ。

 「いやいや、買ってこられるよ。こられるんーだけど・・・何で木彫りの熊?」

 「クラリッサの希望だ。」

 輸送課に、その人物と会ったことのある者はいない。だが、その存在は何度か聞かされており、日本に対して妙にズレた認識を持っている変わり者であるということは誰もが知っていた。

 故に、その名前が出たとたんに全員が興味を失う。

 「それで?自分の分は?」

 「だから木彫りの熊を――」

 「それは副隊長の頼まれでしょ?ラウラが欲しいものだよ。」

 「わ、私か?そうだな・・・。」

 自分の欲しいものを答えようとしたラウラだったが、北海道について知識がないため出てこない。

 「北海道には何があるのだ?」

 「おっと。日本語ペラペラしゃべるから忘れてたが、そいやぁドイツの代表候補生だったな。来栖、適当に見繕ってきてやれや。」

 「そうだな、それがいい。」

 柳原の発案に、ラウラは乗っかる。

 「俺に選ばせたらお菓子ばっかりになるよ?いいのか?」

 「あぁ、構わん。」

 森田がそれを紙に書く。

 ふと何が書いてあるか気になった来栖は、それをのぞき込んだ。

 「・・・金出せよ?ウニだカニだ書きやがって。」

 そこに書いてあったものは、値の張る品物の数々。ものには限度というものがあるだろうと、不満をあらわにする。

 「いや、だからここに書いてるだろ?ここまでお土産リストで、こっから御使いリスト。」

 「あぁ、そういう。んー・・・。だったら、いいか。」

 よく見れば、お土産にリクエストされているものは、最も値の張るものでも優里香希望のいくらだったこともあり留飲を下げる。反面、御使いの品は店まで指定されており、買い間違いできないプレッシャーに晒される。

 「御使いの分は回れるか微妙だから、買えなくても勘弁しろよ。」

 「勿論。仕事が優先だからな。・・・よし。載せとくからな。」

 書き漏らしのないことを確認すると、それを大事そうにクリアファイルへと挟む。そしてF-14のコックピットに上がり、収納スペースへ大事そうに入れた。

 「さて、三番目に大事なことは済んだから、明日の準備をしますか。」

 「三番?一番、二番は何だ?」

 「一番は、来栖とF-14が無事に帰ってくることだ。このセットがなくなったら、俺たちの仕事がなくなっちまう。二番は荷物の無事だな。」

 どれだけふざけていようとも、仕事に対しては遊びがない。それは自分の仕事に妥協を許さない者が揃っているからこそだった。

 「・・・な、何だ?」

 その会話の最中。来栖に見つめられていることに気がついたラウラが少したじろいだ。

 「いや、気になったことがあって。」

 目から優しさが消える。なぜだか息苦しさを感じて、ラウラは何も言えなくなる。

 「専用機持ちについては・・・二人以上での行動を通達したと思ったんだが・・・。記憶違いかな?」

 この場の誰もが聞いたことのない、来栖のドスのきいた声。

 ドイツ語でウサギを意味するハーゼ。その名を関する部隊の隊長を、伊達にやっているわけではないと証明するかの如き速さで、彼女は格納庫から逃げていった。

 「お父さん、そんな声出るんだ・・・。」

 優里香は、初めて聞く声色に目を丸くした。

 「最初の一~二年、創立間もなくて生徒も先生も素人の集まりだった頃だ。どうしても、そういうのを求められる場面もあってさ・・・。喉痛くなるから、やりたくはないんだけどな。」

 その顔は手の掛かった過去を懐かしみつつも、慣れ故に慢心が広がっている現在の様子に危機感を抱いている。

 「油断が過ぎるから厳しく言ったけど・・・学園が真逆の指示を出すんだから示しが付かないよなぁ。」

 一貫性のないことを口にしなければならない無力さを嘆くように、深く重いため息を一つついた。

 「逆の指示って何だ?」

 「倉持技研で白式のメンテナンスをするのに、織斑君一人で向かわせるんです。」

 「・・・正気か?」

 理解の浅い柳原でさえドン引きするレベルの話を正規の教員達がしているのだから、その平和ボケっぷりが際立つ。

 「お前が送ってやりゃいいじゃないか。」

 「明日なんですよ。被ってるんです。まあ、それ以前に別の問題がありまして。あっちの滑走路、維持工事中で使えないんです。」

 「痛むほど使ってないだろぅ?」

 「痛んでますよ。軽量な航空機向けの滑走路に無理矢理降りてるだけなんで。」

 費用を抑えるため、かなり無理な運用を強いられていたことを思い出した柳原は、何も言わず、ただ頷いた。

 「そろそろ、明日の準備しましょうかね。残業にならないように。」

 森田の号令で、一同は作業に取りかかった。

*1
正確には事業用操縦士技能証明書

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