IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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第54話 はるばる北国へ

 木曜日の午前九時前。着陸地点を視認した来栖はぼやく。「過去最小だな」と。

 そのことは知っていた。それでも自分の目で見るとでは違う。様々な場所に着陸してきた来栖をしてそう言わしめるそこは、農道離着陸場と呼ばれる施設だった。

 〈予定を抑えに来たときに目的地を言わなかったなと思ったら・・・。こんな場所だよ。〉

 目的地の通達を受けたのは今朝になってから。もっとも、聞けば教えてもらえるにも関わらず、「重要物を扱うのだから千歳基地に違いない」と思い込んでいた来栖にも過失がある。

 〈確かに、仕様上の離陸距離の長さはあるけど・・・それはタイヤが離れるまでの距離であってさ。安全な高度に達する距離じゃないんだよ。ISを基準に計画しないでくれ。〉

 無理難題をこなし続けてきたがために要求水準がインフレしたのか、はたまた理論上可能ならできるという安易な考え故の無茶振りか。

 可能性が高いのは前者だ。現に、無茶を承知の上で出発している。勿論、その準備をして。

 離着陸距離を短くするために、燃料はギリギリしか積んできていない。そして抗力を増やすためだけに空の増槽を装着している。もっとも増槽に限っては、例の冷蔵コンテナ改造された増槽を搭載するために反対側にも装備する必要があったので、結果オーライなだけだが。

 〈人ごとだと思ってないか?精密部品だし、機密が要求されるしで運び手が少ないのは分かるけど、探せよ。その方が安いぞ、燃料代より・・・。そもそも、そんなに急いで直す必要あるのか?〉

 それだけ準備をしても、命がけであることに変わりは無い。ひたすら心の中で垂れている文句の、その矛先は、場所を選定した職員に向かっている。それと同時に、気を紛らわせるためでもあった。

 「フルフラップ。ランディングギア、ダウン。」

 着陸の時が近付いてくる。ここまで来れば覚悟が固まる。それに雑念は命取りになるので、無駄な思考はせず操縦に集中する。

 「左エンジン、燃料カット。」

 着陸復行の難易度が上がるが、抗力を増やして制動距離を短くするために左エンジンを停止。微妙に崩れた左右の空力バランスを、トリムの微調整で補う。

 〈ちょい機首上げ。スロットル微増。〉

 着陸と言うよりは着艦と言った方が近い。だが、着艦のように降りることはできない。何しろ2トン程度の航空機の離発着しか考慮されていない場所へ、20トンを超える機体で降りようとしているのだから。しかも着陸滑走距離を短くするために、機体のコントロールが難しい低速を維持しつつ、タッチダウンの衝撃も最小限にしなければ路面を抉ってしまう。そうなれば、最悪の場合、機体が転覆してしまう危険がある。

 「二時の方向から微風。問題なし。」

 畑でゴミでも焼いているのだろうか。ほぼ垂直に上がる煙が、予報通りに風の弱いことを示している。

 滑走路の反対側からのアプローチは、地形の都合で、F-14で行うには難易度が高い。

 来栖とて、物理法則に逆らって飛んでいるわけではない。追い風でないことは、着陸の条件として外せない物だった。

 「ちょい右に・・・。接地・・・今!よし!」 

 彼としては珍しく声が出た。それほどにイメージ通りのタッチダウンが決まる。

 間髪を入れずスピードブレーキとスポイラーを立ち上げ、ブレーキを踏み込んで減速を行う。

 ただでさえ短い滑走路。端いっぱいに着地しても、終端点は瞬く間に迫ってくる。止まれるという確信があるのに、恐怖がこみ上げてくる。

 「ふう・・・。二度としたくない。」

 飛び上がれば楽になる。その誘惑に打ち勝ってブレーキを続け、機体は停止した。

 機体に異常が無いか軽く確認した後、ブレーキを解放。機体を滑走路の左端に寄せ、ノーズギアを右に目一杯切る。

 大型の戦闘機ではあるが、元来艦載機であるF-14は小回りが効く。

 180度回頭し、滑走路の中程にある駐機場に向かう。

 途中でキャノピーを開けようとしたが、路面が荒れており上下動が大きいため、部品へのダメージを考えて駐機場へ到着してから開けることにする。

 駐機場へ到着、エンジンを止める。ここでは地上要員が確保できないことは分かりきっていたので、縄梯子をコックピットから垂らして地上に降りる。

 少し遅れて、駐機場脇の駐車場に止まっていたトラックから男性が降りてくる。それは出発前に見せられた写真に写っていた、相手方の担当者だった。

 「お世話になります。IS学園の来栖翔霧と申します。今日は、急な用件に応えていただきありがとうございます。」

 「お、お待ちしておりました。遠路、どうも・・・ご苦労様です。」

 担当者の男性は、落ち着かない様子で来栖に挨拶を返す。

 「・・・よく、着陸されましたね。小型機でお見えになると伺っていたのですが・・・。いやはや、戦闘機でお見えになるとは・・・。」

 〈小型機って・・・。そこらへんのビジネス機より遥かに大型だぞ、F-14(こいつ)は・・・。〉

 成田や羽田空港を行きかう旅客機と比べれば小さいが、それでも小型とは言えない。もっともIS学園の職員で、その違いを分かるものは少数派だろうが。

 「早速、作業にかかってももよろしいですか?」

 「あ、はい!始めましょう!」

 今更、そこを考えても仕方が無い。気持ちを切り替えて、作業の準備に取りかかる。

 今回の荷物は、ISではない。エンジンダクト間に装着されているのは、見た目こそISを輸送するときに使用するカバーに似ているが、吊り下げ式のコンテナだ。

 機体後部に回り、コンテナ扉のロックを外す。前から積み込みむ構造にすると前脚が障害物になるため、後部に積み込み用の扉が付いている。ちなみに、コンテナを付けると使えないという理由と、積み込みの邪魔になるという理由で、アレスティング・フックは台座ごと取り外してある、

 下開きの扉を開け、スロープを引き出せば準備完了。積み込み作業が始まった。 

 

 「どうも、お世話になりました。」

 途中、戦闘機が不時着したと言う通報を受けた警察官がパトロールに来たり、近所の農家が様子を見に来たりはあったが、積み込み作業は想定よりも早く完了した。

 「すいません。記念に撮ってもらえませんか?」

 帰りの準備が整い、後は安全の確認だけ。そのタイミングで、担当者からデジタルカメラを差し出される。その瞳に少年のような輝きを宿しながら。

 「ええ、勿論。」

 飛行場には両手で数える程度の人数しかおらず、撮影希望者が殺到する心配はない。急いではいるが写真の一枚程度は問題ない。来栖は引き受ける。

 F-14の機首付近に、担当者が立つ。彼に手招きされて、仕事仲間が集結する。

 「お願いします」

 「はい、撮りまーす。」

 シャッターの切れる音を、カメラがスピーカーから流す。

 「・・・写真、これでいいですか?」

 来栖は担当者にカメラを渡し、写りを確認してもらう。

 「えぇ、ばっちりです。ありがとうございました。」

 「では、これにて失礼いたします。危ないので、退避願います。」

 駐機場からの待避が済むと、機体を一周して安全を確認。縄梯子を登ってコックピットに座り、縄梯子を回収する。

 JFSを起動、右エンジンの始動に掛かる。

 僅かでも燃料消費を抑えるため、並行してシステムの確認を行う。それらが完了すると、左エンジンの始動と並行して動翼の動作確認を実施する。

 「右側、フラップ、スポイラー、尾翼、ラダーよし。左は・・・」

 地上で見てくれる者はいないため、来栖は身を乗り出して動作確認をする。普段よりも時間は掛かるが、安全のためには疎かにできない。

 大半の点検が完了する。その頃には、エンジンは始動を完了していた。

 「ジェネレーター、タービン・排気温度、ハイドロ・・・異常なし。」

 エンジンは快調に回っている。最後に主翼の可動確認をして準備が整った。

 来栖が地上を見ると、顔を向けられたのに気がついて見送りの人たちが手を振る。それに手を振り返し、移動を開始する。

 「飛来機なし。」

 念を入れて目視で確認し、滑走路に進入。

 滑走路の端ギリギリで回頭、その場で停止する。

 装着物のせいで空気抵抗の大きい機体下面へ空気が流れないよう、前脚を縮め前傾姿勢を取る。視線が低くなったことで、気持ちだけではあるが滑走路が長くなる。

 「スロットル、ミリタリー・・・・・アフターバーナー点火」

 タイヤの静止摩擦力を振り切って機体が動き始める。その瞬間に合わせてブレーキを緩め、離陸滑走を開始。

 「五〇メートル、一〇〇メートル、二〇〇メートル・・・」

 滑走した累計の走距離を口ずさむ。 

 この滑走路への離着陸は、スペック上可能なだけ。普通の神経を持つパイロットなら挑戦すらしない。来栖も着陸こそ神経を使ったが、離陸に対して不思議と冷静でいた。

 離陸が成功するという確信。動き出した瞬間に、それを理解した。

 焦りはない。動翼をピクリとも動かさず、加速の完了を待つ。

 「前縁スラット、フラップ作動。VR。ギア・アップ。」

 速度に乗った。操縦桿を引くと同時に降着装置を格納する。

 周囲には耕作地が多く、鳥類も多数生息していて、衝突を避けるために高度を早く上げる必要がある。

 北の大地にアフターバーナーの轟音を轟かせ、F-14は大空へ駆け上がっていった。

 

 「やっぱり、千歳広いわ。」

 中継地点の千歳基地先への着陸は、離陸から一〇分ほど後のこと。そこの滑走路は、先ほど非常に過酷な着陸を強いられたこともあって、無限の長さがあるように感じられる。

 だが、わざわざ走るほどのものでもないし、何より他の離着陸機に迷惑をかける。管制の指示で滑走路から誘導路へ離脱する。

 程なくして駐機場に到着し、地上員の誘導で停止位置に機体を止めた。

 「ジェット燃料、満タンで。」

 キャノピーを開けてエンジンを切った後、コックピットから地上の整備員に告げる。

 「カードですか?現金ですか?」

 「そんなに金あるか!請求書頼む。」

 そんな冗談が言い合えるのは、その整備員と来栖は、同じ基地で勤務していた時期がある間柄だからだった。

 その整備員に梯子を展開して貰って、地上に降りる。

 「頼まれたもの、一通り調達しといたぞ。」

 「おっ、ありがとう。」

 頼んだのは電話・・・ではない。会って、買い物リストと購入資金を手渡ししている。

 実は集荷に向かう時も、ここ千歳基地を中継していた。その目的は武装の取り外しだ。

 荷物の重要度として、自衛装備が必要となる。しかし、それは短距離離着陸の邪魔になる。

 そこで作業ができる基地で一旦取り外し、帰りに再装着するという面倒な手順を取ることで、丸腰でいる時間を短くする作戦だった。

 「三〇分くらいで終わらせるように頑張ってみる。あ、荷物はさっきの部屋に置いてあるから。台車、置いてるから必要だったら使ってくれ。」

 「了解。」

 話をしている間にも、整備員が集まってきて作業に取りかかっている。来栖は機体のことを任せて、荷物を取りに建物へ入った。

 「おぉっと。思ったより量があるな。」

 少なく見積もっても、冷蔵コンテナに収納しきれる量ではない。

 〈えーっと、冷蔵品は・・・あ、保冷バックに入れてくれてる。じゃあ後にして・・・って、木彫りの熊デカッ!〉

 買い漏らしがないかチェックをしつつ荷物を仕分けていると、ラウラ(の率いる部隊の副隊長)から頼まれたお土産が想像以上のサイズで驚く。

 〈収納ボックスで行けると思ってたけど・・・。どこに積むかな。後席に載せてベルト掛ける・・・しかないか?〉

 ひとまず、腐る心配のないものを台車へ乗せ機体へと向かう。

 整備員の邪魔にならない梯子付近に台車を止め、木彫りの熊を抱えて梯子を登る。

 〈載るかな・・・あー、載るけど、ベルトが掛からないか。床は・・・あ、床だとすっぽりだ。ここだな。〉

 木彫りの熊は、後席の床部分へ積むために設計したようにサイズがピッタリだった。一緒に持ってきた荷物も後席へ積んでいく。

 その作業が終わり、続けて要冷蔵の物を積み込もうかと考えた。だが、作業の邪魔になってしまうので、帰る直前に行うことにする。

 部屋に戻る。休憩のために一旦座った来栖だったが、後のことを考えて、残りの荷物を台車に積む。

 再び腰掛けて、体力を温存するために目を閉じる。

 「終わったぜ。」

 声を掛けたれて目を開く。体感としてはそれほど経過していなかったが、時計を確認すると思いのほか経過していた。

 「んじゃ、帰るか。」

 台車を押して、機体のもとへと向かう。

 左舷に取り付けられた冷蔵コンテナは、側面に横長の出し入れ口が設けられている。出し入れ口の面積はそれなりにあって、普通にハッチを付けただけでは気密を保てない。そのため、森田は凝った構造を採用して改造していた。

 結果、専用の道具を使って開ける必要があった。

 その道具を、来栖は飛行服のポケットから取り出し、ロックを解除して出し入れ口を開く。

 適当に詰められるほど荷物の量が少なくないので、スペースを効率よく使わなければならない。

 だが、来栖には家事で培った経験がある。あっという間に、要冷蔵品を積み込んだ。

 「台車もらうよ。俺が返しとくから。」

 「ありがとう。頼むわ。」

 出し入れ口を閉じ、それから機体を一回りして安全を確認。コックピットに上がり、梯子を格納して貰う。

 地上と連携を取りながら飛行の準備を整える。

 「気をつけて帰れよ。」

 準備が完了し、インターホンが取り外される。

 管制と交信し、指示を貰う。手を振って駐機場を出発、誘導路を走行しながらキャノピーを閉じる。

 離着陸機がいなかったので、止まることなく滑走路へ。離陸滑走を開始する。

 今度は十分な長さのある滑走路だが、離発着の頻度は非常に高い。邪魔にならないよう、速やかに千歳基地を後にした。

 

 〈なんとか午前中に帰ってこれたな。〉

 攻撃を受けるリスクを減らすため、旅客機に混じって航路を飛んで帰ってきたこともあり、離陸から一時間弱が経過していた。

 来栖は着陸に向け降下を始める。普段から乗り心地重視の飛行をしているが、今日は後席に固定されていない荷物が沢山あるため、特に気を遣いながら高度を落としていく。

 〈そろそろ、連絡を入れて準備を・・・ん?〉

 せわしなくも正確に飛び交っていた無線に、急に混乱が発生する。

 IS学園への通信を中止し、民間機の無線を聞く。

 『緊急連絡。現在、羽田~成田空港付近を飛行中で、高度三,〇〇〇メートル以下を飛行中の機に連絡いたします。直ちに上昇して下さい。所属不明機が低空を低速で飛行しており、非常に危険です。個別の飛行高度については随時連絡いたします。』

 〈近いな。何だ?〉

 IS学園への招かれざる客か。

 すぐさまレーダーを起動し、低空モードで走査を実施する。それとは別の操作のためにディスプレイに目を落とし、そこに表示されている文字に気がついた。

 〈信号なし?〉

 ISコア・ネットワークとのリンクが行われていない。IS学園で問題が発生していると確信した来栖は無線を飛ばす。

 「森田!非常事態だ!」

 『お帰り。何だ?買い忘れか?』

 輸送課は平常運転だ。IS学園の外縁部にある輸送課は攻撃対象から、意図的に外されていることを理解する。

 「そっちはバッチリだ。学園の状況を確認してくれ。」

 『よく分からんが、分かった!待ってろ!』

 「ついでに柳原さんに上がって貰えるか聞い――」

 『よしっ!任しとけ!すぐ行く!』

 後方から気合いの入った声がした後、駆け足で遠ざかっていく足音が聞こえる。

 『聞こえた通りだ。分かったら連絡する。』

 森田との無線が切れる。

 「こちらペルシャ。管制官、応答願います。」

 続けて、情報を収集するために管制を呼ぶ。

 『管制よりペルシャへ。不明機、IS学園に向けて飛行しております。誘導いたします。』

 ご近所さんと言うこともあり、何も伝えずとも無線の意図を理解してくれる。

 「頼みます。」

 『進路そのまま、高度・・・四,五〇〇メートル付近が空いていますので、そこを飛行して下さい。』

 「進路そのまま、高度四,五〇〇メートルを飛行。了解。」

 復唱して、現場に急行した。




 今回、アリーナシールドの部品が北海道にあるとした理由は、小説3巻・第三話にて篠ノ之束が「はーるばるきたぜ、アゴだけ~♪」と『函館の女』の替え歌を口ずさんでいたので、どこかで北海道へ行かせたいなと思ったから、それだけです(笑)。
 なので、最初は函館空港で書いていたのですが・・・函館というとベレ○コ中尉のあれがあった空港なので、流石に戦闘機で降りるというのは気が引けまして・・・。(空自、F-35Aの緊急着陸は知っています)
 だったらいっそ、変な場所に降りて見せ場を作った方が面白そうだったので変更したという経緯があります。場外離着陸場と書いていたのですが、とんでもなく短いところがあったので農道離着陸場にしています。離着陸場の場所は、架空でも実在でも、皆さんのお好みの場所で想像していただければ幸いです。

2024/05/21 誤字を修正しました。
2024/05/27 誤字を修正しました。
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