IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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一月の月末ですが、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。


第58話 夜の海上戦

 日はどっぷりと暮れ、二一時を過ぎたころ。湾内に浮かぶイレイズド所属の秘匿艦だった空母、その近くに、一艘の小舟が闇に紛れて浮いていた。

 「どうだ。何か掛かったか?」

 「せっかちね。」

 その船上には、一組の男女の姿があった。

 「まだよ。当たりはないわ。」

 右舷前寄りの手すりにもたれ掛かる女性は、夜風に薄い金色の髪をなびかせながら、落ち着き払った声で返す。

 「餌が悪いんじゃないのか。」

 それに対し、操舵室の窓から顔を出したスキンヘッドの男は煽るような口調だ。

 「だぼ(はぜ)でも喰わねえよ。こんな目立つ餌。」

 会話から推察すると夜釣りをしているように取れる。そしてそれは、ある意味で合っていた。

 「必ず来るわよ。だって更識楯無なのよ?」

 彼女が釣ろうとしているのが魚ではないという点に目をつむれば。

 「何が『だって』なんだよ。そいつが得意なのは隠密行動だろ。こんな目立つ場所に出てくるのか?」

 何の根拠があっての作戦なのか。男は、どうにも納得がいかなかった。

 「並の人間ならね。でも彼女は、自分の腕に自信があるから必ず来るわ。」

 「・・・。」

 だが返ってきたのは、おおよそ根拠と言えるものではなかった。

 最早、話すだけ無駄と、呆れて男は腕時計を見る。時刻は二一時半になろうかとしていた。

 既に五時間以上、ここにいる。自然の波は、湾内と言うこともあって知れている。だが、ここは世界でも有数の海上交通過密海域。様々な船がひっきりなしに行き交い、その度に二人の乗る船は大きく揺すられる。

 男は船上での生活に慣れている。でも、それは大型の船での話。波の影響を受けやすい小型船の上でとなると話が違う。これほど揺さぶられ続けては集中力を維持できない。

 「なぁ、気付かれてないってことはないか?」

 持久戦に異論はない。それはそれとして、疲労が溜まってきた男は作戦の取り止めを願って話しかける。

 「その可能性は否定しないわ。彼女の捜査力に頼っているわけですもの。」

 意外なことに、男の望む方向に話を持っていきやすい返事。彼は畳みかけようとしたが、それを知ってか知らでか、こう続けた。

 「でも、まだ時間はある。気長に待ちましょう。」

 疲れの色を一切見せず、作戦継続を宣言。望み通りにならないと悟った男は、ため息を一つついて、そして体力の消耗を抑えるために目を閉じた。

 話題がなくなり訪れた静寂。

 「「?」」

 そこで二人は、どこからともなく金属を叩くような音がしていることに気が付く。

 「まさか?!」

 操舵席から立ちあがりつつ、コンソールに置いていた双眼鏡を手に操舵室から飛び出して空母を見る。

 「・・・中か?」

 「そのようね。・・・あの量の睡眠薬が切れちゃうなんて。イーリス・コング、さすがはアメリカの国家代表なだけはあるわね。」

 女は専用機の潜伏モードを解除し、近くにいるISを探る。

 「更識楯無か?」

 「いいえ、織斑一夏の白式よ。でも、彼だけなんて馬鹿なことはないわ。」

 作戦を継続して正解だ。女はほくそ笑むが、それは結果論に過ぎなかった。

 更識楯無なら、この空母の姿を知っている。なまじ巨大な船だけに、女は無意識のうちに知っていて当然と思ってしまっていた。

 それでも潜入しないのは、日本の治安維持のために働く更識家の当主である彼女が、日本の同盟国である米国の軍用艦へ諜報のために潜入するというのは、一発で国家間の信頼を破壊しかねない行為だから自重しているのだと。

 つまるところ、彼女は自身の思い込みを根拠に動いていた。

 幸いにも来栖が彼女に情報を渡していたおかげで成功したが、その来栖が持っていた情報にしてもブラウンが独自に提供したもの。この作戦が成功したのは奇跡に近いものであった。

 「で、どうするんだ?」

 「行ってくるわ。後は予定通りに頼むわね。」

 「おい、待て!」

 言うが早いか、女は全身金色のIS『ゴールデン・ドーン』を展開して飛び立った。

 「・・・位置がバレるから、ISは緊急時にしか使わないんじゃなかったのか?スコールさんよ。」

 男の指摘はもっともだ。ISの潜伏モードを解除するというのは、全世界に向け自身の居場所を知らせる行為である。それで何が起こるかと言えば、認められていない指定区域外でのISの使用を宣言しているので、その土地が帰属する国か、あるいは同盟を結ぶ国のどちらかのIS部隊が出動してくる。

 しかしISの絶対数が少ないため、至極真っ当な事実が一つある。一国あたりの保有数程度では、基地を分けるほどの数が確保できないことだ。ISがどれほど即応性に優れていようとも、発進場所からの距離が遠ければ展開に時間がかかる。

 そしてこの作戦、隠密行動に長ける亡国機業がこれほど大胆な作戦を取れる裏側には、別の構成員『オータム』によるIS部隊への陽動作戦がある。

 つまりかなり時間、スコールは楯無だけに集中できる。仮に戦闘が長引きIS部隊が引き返してきたとしても、長距離移動によりISはエネルギーを消費し、操縦者は肉体的にも精神的にも疲労しており、まともな戦闘にはならない。

 それで言えばIS学園が至近距離にあるが、中立国に近い性質を持つIS学園は、敷地外で行われていることに対し動くことができない。少し前に交戦規定が緩和されているものの、それでも学園に害を与えようという明確な行動が無ければならない。そもそも事の発端は、停泊してた空母に楯無が乗り込んだために起きている。例え来栖と言えど、手出しは出来ない。

 「確実に殺れよ。これで仕損じたら、組織のメンツ丸潰れだぞ。」

 これだけの状況でも十分すぎるが、空母へ乗り込ませると言うのが作戦の成功率を上げる鍵だった。深淵を覗く時深淵もまたこちらを覗いているではないが、更識楯無の居場所が割れないのは、彼女は専用機を潜伏モードにしているからで、その代償に他者の現在地を把握することができない。つまり更識楯無は、自身の五感でしかISの接近を知る術がない。

 更に、状況も彼らに味方している。イーリス・コングと織斑一夏が派手な戦闘をしていてくれるお陰で、単純にオータムの接近を気付かれにくい。

 男は操舵席に着き、作戦の余波に巻き込まれない場所へと船を走らせた。

 彼らの作戦は、順調に進捗していた。

 けれども、作戦には大きな見落としが一つだけあった。更識楯無は、かつての一匹狼ではないのだ。

 

 

-*・A・*-

 

 

 その頃。IS学園の輸送課の詰め所では、来栖が電話機の前に陣取っていた。

 一秒でも早く出撃命令に対応する。そのために右手は内線の電話機に、左手は携帯電話に添えている。

 「そろそろ休憩するか?」

 「まだ大丈夫です。それに、今が勝負の時間帯なので。」

 そう柳原と会話を交わした直後、携帯電話に着信があった。

 「こちら来栖。」

 それ来たと、受話器を持ち上げ耳に当てる。

 『間もなく突入します。』

 その声を聞くと同時、来栖はハンドサインで機体の始動を指示。輸送課のメンバーは一斉に詰め所を飛び出していく。

 具体的な指示が続くかと来栖は携帯を耳に当てたまま待っていたが、通話の終了を知らせる電子音が鳴る。

 臨機応変な対応を求められそうだ。通話を切りにしてポケットに仕舞うと、詰め所を飛び出して格納庫に向かう。そしてコックピットに駆け上がり、装具を装着する。

 「FBW制御ユニットの二群がエラーを吐いたからカットしてある。右エンジンが始動中だ。」

 後席からエンジンの始動を行っていた森田が、来栖に機体状態を伝える。

 「了解。」

 「気を付けてな。」

 「ありがとう。行ってくる。」

 森田が機体から降りたのを確認し、来栖はキャノピーを閉める。

 「右エンジン始動完了。」

 『右、了解。左クリアー。』

 インターホンで安全を確認しながら左のエンジンも始動。機体システムは外部電源を用いて先に起動、機能チェックを完了させてあったので、そのまま出庫。離陸位置に着く。

 『ジェット・ブラスト・ディフレクター展開。』

 「了解。」

 離陸準備が整った。急ぎ離陸する必要があるため、来栖はスロットルをアフターバーナーまで開き離陸滑走を開始する。

 「対気速度・・・よし。」

 IS学園の目と鼻の先と言って差し支えない距離で、更識楯無は作戦を行っている。となれば、何かがあれば直ぐにIS学園へと飛び火する可能性が考えられる。

 状況を観察できる場所へ早く向かわなくては。離陸すると、来栖はハイレートクライムで索敵を行いやすい高度まで駆け上がる。

 『力比べなら、負けない!』

 〈・・・ん?〉

 間もなく目標の高度。そう思った直後、開放回線から織斑一夏と思われる声が聞こえたため視線を画面に向けると、そこには二機のISが表示されていた。

 「ファング・クエイクと・・・白式?」

 その間に目標高度へ到達。レベルオフと同時に索敵モードを低空でセット、走査を開始する。

 「空母はこれか。」

 一際大きな反応を来栖はそれと断定する。

 その一方でISはレーダーで探知できないこと、情報を重ね合わせると、ISと空母との位置関係はほぼ同じ位置と言える範囲内にあったことから、空母の内部に二機がいるものとして行動を開始する。

 〈織斑一夏を連れて行くって何を考え・・・いやいや。今更、考えてもしかたないな。・・・ファング・クエイク?〉

 ふと相手方のコア情報に違和感を覚えて、急ぎ自動識別装置に検索させる。

 〈この登録・・・アメリカ代表、イーリス・コングか!〉

 機種はともかく、操縦者の氏名まで不明なのは重要人物だったからか。来栖は合点がいく。

 〈織斑君の声からして、戦闘中なんだろうな。イーリスは侵入者を見つけて、織斑君は襲い掛かられてISを展開したってとこか?派手な戦いになりそうだな。どっちも短気だか・・・?何でイーリスがいる?〉

 そう分かっていた。にもかかわらず彼女が何の前触れもなく現れたため、来栖は一瞬、この空母がアメリカ軍の手中にあるように錯覚してしまう。

 〈え?実はスパイで空母奪取の実行者?いや・・・。〉

 虎の子のIS。その操縦者、特に専用機を与える操縦者へ、出自に怪しい点がある者を選ぶ国はない。

 まして彼女は国家代表だ。国家代表の失態は国の失態であるため、一層厳しい審査を合格した者しかなれない。

 それほど、裏切りという選択肢は考えにくいもの。

 〈実は奪還作戦中?何か変だ。〉

 彼女は船内の敵を排除しようとしている。それは間違いはない。だが祖国を裏切ったのであれば、自身の居場所を晒すのは悪手であるし、奪還作戦中なら味方ではないが敵でもない織斑一夏を攻撃する意味がない。

 〈そうなると空母は米国の制御下に戻ってて、イーリスは侵入者の織斑一夏を排除しようとしてるとしか考えられないんだよな。〉

 来栖は考えを纏められない。それに拍車を掛けていたのが空母の停泊地点だ。

 横須賀基地を狙うにしてもIS学園を狙うにしても、船で乗り付けるには遠く、船から何かを出すと言うには近すぎる。

 〈やめ。時間の無駄だ。〉

 考えが堂々巡りし始めると、来栖は思い切って、最も対処に困るシナリオを考え行動に移る。

 〈敵は、楯無がこの空母に詰まれている情報を求めていることを知って奪取した。楯無一人のためには大げさな気もするが、随伴のいない秘匿艦だからハードルは低かったんだろう。つまり、この船は楯無を誘い込むための罠。イーリスは、偶然手に入ったんだろうが、戦わせるためじゃなくて船がアメリカの手中にあると思わせるためのカモフラージュだ。閉鎖空間での戦闘は楯無の十八番なのは向こうも知っているだろうから、外から・・・いや!〉

 堂々と人目に付く場所に置いていると言うことは、敵は、この船を残すつもりがないということ。

 〈俺が敵の立場なら、自爆させる!〉

 楯無が追っている情報が彼らに関してのものなら、その情報も消せて、なおかつ楯無がいた痕跡も物理的に消し飛ばせる。

 〈どうする。楯無は隠密行動中だから連絡が付かないぞ。それに・・・。〉

 来栖はHMDに表示される情報が気掛りだった。

 〈この方々を巻き込むわけにはいかない。〉

 レーダーに多数の航空機と船舶が映る。

 ここは海上、航空と共に交通の過密空域。空母が爆発すれば、あるいは短気な二人が勢い余って船外に飛び出せば、民間人を巻き込んでしまい兼ねない。

 民間人に避難を呼びかけつつ、運次第だが楯無が気づく方法。それは一つだけあった。

 来栖はスロットルから手を離し、タッチパネルを操作。誤操作防止のため、普段は隠されているある機能を起動する。

 〈発報。〉

 『IS学園輸送課、コールサイン『ペルシャ』よりお伝えします。これを受報した場合、危険が迫っています。受信が途絶える場所まで直ちに待避するか、管制の指示に従ってください。発報座標、東経――』

 その機能とは、周囲の航空機や船舶に向け、受信できる範囲にいる場合は危険が迫っていることを音声により知らせる装置だった。勿論、多言語に対応している。

 搭載のきっかけには、銀の福音が暴走事故を引き起こしたときに教員の監視網をすり抜けた船の存在がある。あの船の乗員は一般人ではなかったし、監視網に来栖は係わっていないが、あるに越したことはないと言うことで搭載されたものだ。

 『こちら東京コントロール。ペルシャ、状況報告をお願いします。』

 間髪を入れず航空管制官から問い合わせが来る。少し遅れて、航行管制官からも同様の問い合わせが入ったので、幸いと一纏めで返す。

 「航空管制官、並びに航行管制官にお伝えします。IS同士の戦闘が発生しています。可能な限り航空機・船舶を接近させないよう、お願いします。船舶内で戦闘をしていると思われるため、詳細不明です。」

 『『IS同士の戦闘?!了解。』』

 ISの戦闘が事前の通知なしに、それも第三者の上空で行われることは、条約通りに運用されていれば起きえないこと。

 船舶にとってもISの戦闘は脅威だが、航空機にとってはそれ以前にISそのものが脅威だ。小さいため視認性が悪くレーダーにも映りにくい。

 だが両管制官は、手配を急がなければとは思っているようではあるが、状況の割に落ち着いていた。

 それも当然で、今年度は過去に類を見ない頻繁で繰り返されてきたのだから、慣れるなと言う方が無理な話だ。

 『航行管制より質問します。ひょっとして空母・・・ですか?』

 「そうです。」

 盗まれたとはいえ、秘匿艦。それを答えると問題にならないだろうか。その考えがよぎるも、人命には変えられないと答える。

 『わかりました。何かあれば報告願います。』

 「了解です。」

 そう言って無線を切った直後、ISが三機に増える。

 機体名を確認した来栖の口調が、僅かに低くなる。ゴールデン・ドーン。かつて彼の妻だった者が所属していた組織の親組織が保有するIS。

 その操縦者、スコール・ミューゼルの素性について、来栖は楯無から聞いていた。

 〈今なら殺れる。〉

 空中にいるため、レーダーにバッチリと映っている。赤外線画像センサーでその姿を確認すると、F-14の存在には全く気付いていない。背中ががら空きだった。

 F-14の火器管制システムの安全装置は解除済み。狙っていることを悟られぬよう、赤外線追尾式のサイドワインダーでロックオンする。

 テロリストであり、過去には学園を襲撃したこともある人物。直接の関係があるか不明だが、来栖の幸せな生活を壊した組織の人間。

 しかし、引き金は引けなかった。

 例えそのような者であろうと、IS学園に危害を加えようという兆候がない今、先制攻撃はできない。

 『来栖!聞こえるか!』

 その時、不意に柳原から無線が入る。

 「聞こえてますよ。」

 『更識の妹が出ると連絡が来た!先導してやってくれ!』

 「了解。」

 それは願ってもいない援軍だった。彼女は楯無と同じく、更識家の人間として動くことができる。

 この状況を打開する希望の光が見えた。

 「沈める気か?!」

 しかし状況は刻一刻を争うのだと、改めて思い知らされる。来栖が無線のスイッチを『切』にすると、まるでそれと連動しているかのようなタイミングで空母が爆ぜた。

 爆発は船の側面で起きた。そこに穴を開けられるとダメージコントロールを行う乗組員のいない船はあっという間に沈んでしまう。

 しかし、これもIS学園には関係ない上に、この爆発をスコールが仕掛けたものという証拠もないため見ていることしかできない。

 「・・・楯無もISを展開したか。」

 ミステリアス・レイディが画面上に現れる。

 少しして、爆破の衝撃でできた側面の穴からISが一機飛び出してくる。

 今、彼女は更識家として動いている。現時点での戦力では、更識楯無が唯一、スコールに攻撃を行える。もどかしいが、来栖は戦いを見守ることしかできない。

 「管制官各位。現在、四機のISを確認し、うち二機が屋外を飛行中。どうぞ。」

 『状況了解しました。航空機の待避、並びに羽田の離発着は停止しました。空港などへ被害が出そうでしょうか?』

 「現状は大丈夫です。被害が及ぶ可能性があれば連絡します。」

 接近する航空機がないか確認しながら、めまぐるしく変化する状況を随時整理して報告するというのは負担が大きい。飛行に集中できるようになったことで、随分と余裕が生まれる。

 ゴールデン・ドーンとミステリアス・レイディが戦闘に入る。赤外線画像センサーでその様子を窺うと、接近戦を展開していた。

 〈今なら援護射撃できる・・・けど。〉

 攻勢をかける楯無だったが、それは敵機との相性が悪すぎる故の速攻。瞬く間に劣勢に立たされる。

 早く来てくれ。来栖はそう願うが、出撃準備の報告を受けてから経過した時間は、最速で準備できればという程度。彼の体感では、それだけの時間はとっくに過ぎていたが、それだけ危機的な状況ということだ。

 〈もう少し踏ん張れ!〉

 楯無でも簪でも、どちらかだけで勝てる相手ではない。

 打鉄弐式の準備が整ったのは、それからすぐのことだった。瀬戸際まで追い込まれている楯無を救うべく、急ぎ随伴に向かう。

 「ペルシャより打鉄弐式へ。ISの指定エリア外飛行を許可する。周囲に飛行への支障なし。離陸を許可する。」

 『はい!』

 緊張こそしているが、覚悟を持った力強い返事が返って来て、そして打鉄弐式がIS学園から飛び立つ。

 IS同士は、相互に許可登録をしていればお互いの正確な位置を把握できる。現場に向け一直線に飛んでいく打鉄弐式を、来栖は上空から見守る。

 〈っ!あれは!!〉

 戦闘が行われている付近に火球が現れた。ミステリアス・レイディにも白式にも、そしてファング・クエイクにもそのような武器はない。ゴールデン・ドーンによるものだと、来栖は瞬時に判断する。

 「FOX――何ッ?!」

 これで辞表を出す羽目になるのは御免だが、楯無がやられるのを黙って見ていることはそれ以上にできない。サイドワインダーを撃とうとトリガーに指をかけたが、楯無がゴールデン・ドーンに捕縛されているのを赤外線画像センサーで確認して違和感を覚える。この状態で楯無に攻撃を加えることは自爆に等しい行為だ。

 その時、空母が目に入り、そして思い出す。あの船には織斑一夏が乗っている、と。

 楯無が一夏に好意を寄せていることをスコールは見抜き、楯無び身体的だけではなく精神的な傷を負わせるつもりだ。

 〈間に合え!!〉

 間に割り込み機体を盾にして防げば助けられるはずだ。

 しかし瞬く間に火球の輝きは強くなり、そして放たれた。

 〈ッツ!間に合わない!〉

 距離がありすぎた。

 これでは着弾した直後に到達する。それでは無駄に機体を消耗するだけ。それは悪手と機体を反転させる――その寸前で、何かが火球の射線上に飛び込んで行くのを来栖は見た。

 爆発の瞬間は見られなかったが、機体が衝撃に揺られる。それが相当な威力の爆発であることを物語っていた。

 機体の姿勢を整え、火球の着弾点を観測する。爆発の煙が半球状に広がっていた。

 助けられなかったか。

 『大丈夫!お姉ちゃん!』

 そう思ったがISは五機表示されていた。よく見れば空母が被弾した様子はなく、爆煙も海面より少し高い位置にあった。

 〈打鉄弐式・・・あれはシールドパッケージか。〉

 赤外線画像センサーを使用して爆心地を確認すると打鉄弐式がいた。

 異様に大きいシルエット、それに爆煙の広がり方。来栖は何が起こったか理解した。

 〈コア・ネットワークである程度状況を収集できるとはいえ、あの一瞬でスコールの攻撃目標を判別して防御のために割り込む。凄い判断力だ。それに良い度胸をしている。〉

 機体が完成したのは最近のことで、彼女の情報は映像からしか得られていない。しかし、それすらもごく少数であり情報は無いに等しい。実質、初めて見た彼女の戦闘。

 〈高い空間認識能力に広い視野。彼女は化けるな。〉

 来栖は更識簪を高く評価する。

 『簪ちゃん?なんでここに・・・。』

 『私、聞いたの!お姉ちゃんの覚悟、お姉ちゃんの名前の意味・・・。私だって、守られてるだけじゃない!私だって、守ってみせる!お姉ちゃんを!みんなを!』

 言葉からも、その装備からも火力支援に来たようには見えない。

 〈盤面をひっくり返す切り札を持ってきたと見るべきか?〉

 それは分からない。だが、それに掛けるしかなかった。

 〈ISの武装は、強力な攻撃ほど準備に時間を要する傾向にある。なら!〉

 わずかばかりではあるが時間稼ぎを請け負おう。来栖はF-14を急降下させ、そしてゴールデン・ドーンの視界に入る高度で大量のフレアを焚いた。

 その光に、スコールはまんまと釣られて上を向く。それが致命的な隙となった。




時間について
楯無が空母発見の報を受けたのは夕方。11月4日の日没時間から逆算して、空母の元へ向かった時刻(=海に飛び込んだ時間)は17時頃。その時点で空母は数十キロ離れた場所に停泊しています。人間の遊泳速度(巡航速度)から計算すると、遠泳に慣れた人でも8時間は要します。そうすると日付が変わってしまいます。ですが二人は、戦闘をして、ラーメンを食べに行って、その上で皆が起きている(=消灯時間前※作中で設定されていないが恐らく存在する)時間までにIS学園に帰着しています。なので引き潮に乗って倍の速度で泳げたとし、21時頃に辿り着いたことにしました。

IS部隊について
一夏がISを展開しようとすると、更識楯無は『即座に日米のIS部隊に包囲される』と言いました。ですがスコールがゴールデン・ドーンを使用しても、一機たりとも現場に現れません。そればかりか戦闘後も現れていません。なので、裏でIS部隊を引き離す作戦が行われていると考えました。

来栖の時間稼ぎ
この手のお話には必ずと言って良いほど見られる、主人公サイドが大出力攻撃を行う前の溜めに対して、敵方が攻撃をしてこないという状況に理由付けをしてみました。


2025/01/28 誤字を修正しました
2025/01/30 誤植を修正しました
2025/03/04 状況描写を追加しました
2025/10/06 誤字を修正しました
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