IS学園の猫ちゃん 作:只の・A・カカシです
第58話において、原作に対する私の解釈を描写すべき箇所がごっそり抜け落ちていましたので、状況描写を追加致しました。なお、この編集により追加箇所前後の文章に若干の変更はありますが、ストーリーの変化はありません。
ミステリアス・レイディの色が、そのシルエットが変化する。
〈これが高出力モードか。話には聞いていたが。〉
攻撃が来ないか確認のためにゴールデン・ドーンを睨みつけていた来栖は、その変化を視界の隅で捉えていた。色の変化を知る術はなかったが、シルエットの変化でそれと理解できる変貌を遂げる。
『だったら私も見せてあげる!私の本気・・・ワンオフ・アビリティーを!』
普段の飄々として掴みどころのない楯無からは想像しにくい、気合の入った声で毅然とスコールに宣言する。
『セックヴァベック!』
スコールはその場から動かない――いや、動けない。先ほどのお返しとばかり、楯無により動きを封じられ、自分に向けて放たれる最大出力の攻撃を行うためのエネルギーチャージをじっくりと見せつけられる。
『遅いわぁ。』
意趣返しの言葉。それを合図に、楯無は『ミストルテインの槍』を構えゴールデン・ドーンに突撃する。
ほぼ同時、ゴールデン・ドーンが巨大な火球を生成する。
〈気を付けろ楯無。奴は、まだ何か持っている。〉
その火球は楯無への威嚇でないことを、来栖は気付いた。
離れた地点から戦いを俯瞰して見ていたからこその気付き。もし彼が楯無の立場にあったら、それは感じられなかっただろう。
ただ、それが何であるかまで見抜くことは出来ず、そして突撃する楯無の速度はすさまじく制止して間に合うはずがなかった。
衝突、そして爆発が起きる。
〈自爆?・・・いや!〉
コア・ネットワークに反応があると言うことは仕留め損ねたと言うこと。実際、F-14のレーダーにも映っている。
徐々に煙が晴れていき、隠れていたゴールデン・ドーンの姿があらわになる。
随分とみすぼらしい見た目になっており、左腕に至っては欠損している。
『私の体の秘密、ばれちゃったかしら。』
来栖の存在に気付いてか、スコールが解放回線を使用して話す。
ISの展開状態を維持できていると言うことは、エネルギーは空ではない。ならば、なぜ絶対防御が発動して操縦者の体を守らなかったのか。
『やはり、機械義肢ね。』
何かの確認を取るように、楯無が返す。
〈なるほど義肢か。〉
先ほどの爆発が何を狙ったものか。来栖は、楯無の言葉と合わせ、ようやくスコールのやったと思われることに見当が付いた。
〈攻撃を受ける寸前に体の表層付近で爆発を起こすことで相手の攻撃を逸らしつつ、自身は衝撃で拘束から逃れる。爆発反応装甲の応用と言ったところだろうな。生身がある箇所へ当てるとシールドエネルギーを余計に消費するから、絶対防御の働かない義肢で受けた・・・と言うところか?〉
『じゃあね、生徒会長さん。』
追跡を防ぐためか、スコールは火球を並べ一斉に放つ。その直前に、赤外線画像センサー越しに来栖はスコールと目があった。
『お姉ちゃん!』
戦闘による極度の疲労もあって、楯無は回避行動を取れない。それを予期していたように、簪が楯無の前に出て攻撃を防ぐ。
〈追撃するか?・・・いや。〉
これだけできるなら、更識簪にこの場を任せスコールを追撃しても大丈夫だろう。そんな考えがよぎるも、彼は自身にスコールを討つ大義名分がないことを思い出し断念する。
それでなくとも現区域の周辺は突然の待避指示を受けた航空機や船舶でごった返しており、そのような場所で再度の退避を呼びかけられようものなら事故を誘発しかねないため、どちらにしても追撃は不可能であった。
-*・来栖・*-
〈取り敢えず帰投・・・いや通報が先だ。〉
戦闘が終わった。成るべく早く更識たちには退去して貰わないと、何時までも通行止めを解除できない。
その前に彼女たちの様子を見ておこうと下を向き、無残にも沈んでいく空母の姿が目に入る。大部分が海面下にあり、完全に沈むのも時間の問題だろう。だが、本当に危惧しなければならないのは船体が損傷していることだ。油類の流出でも厄介なのに、軍用艦である空母には、それとは比較にならない危険物が恐らく積まれている。万が一それらが流出すれば、航行の安全を脅かし、復旧作業の妨げにもなる。
「航行管制官。こちらペルシャ。聞こえますでしょうか。」
急ぎ管制官を呼び出す。
『聞こえております。どうぞ。』
「戦闘の影響で、空母一隻沈没。船体に穴が開いております。要救助者の有無、並びに油等・危険物の流出は、夜間のため確認不能です。」
『え?空母が沈没?ですか?』
信じられないと言った口調で聞き返してくるが、そうだろう。立場が逆なら、私だってそうなる。
「はい、沈没です。」
『ひょっとして原子力?』
その声は震えていた。
極秘の資料を貰ったので知っているが、軍事機密に触れる話なので本当のことを答えていいものか。
「通常動力ですよ。」
そんな迷いはなかった。沈没しており、早晩その情報は広まるだろう。それに私が「分かりません」と答えれば、彼は原子力船の事故として動かなければならなくなる。そうなれば放射線漏れを警戒し、どれだけの人が意味のない避難させられることか。
無線の向こうで、「よかった」と言う声が幾つもする。
『えーっと、それで・・・ISの戦闘はどうなっていますでしょうか?』
「戦闘は鎮静しました。」
『了解。あと一点、座標は先ほどのままでしょうか?』
「そうです。」
『確認に向かわせます。』
「お願いします。」
協力したいところだが戦闘機で出来ることは限られる・・・と言うより邪魔だろう。エンジンが発する音は大きく、低空飛行でなくとも作業の邪魔をする可能性がある。
となればできるだけ速やかに離れた方が良く、そうなると最優先は楯無たちを退去させることだ。そこではたと思い出す。
〈何か忘れ・・・あっ!!織斑一夏は?!・・・あぁ、いた。〉
逃げ遅れたのではと肝を冷やすも、その姿を直ぐに見つけ胸をなで下ろす。いつの間にかファング・クエイクと白式は空母から脱出していた。ちゃんと二機とも浮遊しているので、恐らく無事と思われる。
全員、生きていた。それが確認できれば十分だった。
「こちらIS学園所属、コールサイン『ペルシャ』。白式、ファング・クエイク、ミステリアス・レイディ、打鉄弐式の操縦者に告ぐ。陸地まで誘導する。当機に続け。」
イーリスと織斑一夏に戦闘を再開されたら、たまったものではない。
そうなる前にと開放回線で呼びかけを行ったのだが、誰からも返事がない。
『あのっ。・・・二人は口論?してるみたいで。・・・・・私が呼びかけます。』
まさかジャミングを受けているのか。そう思い無線のテストを実施しようとしたら、更識簪から応答があった。
「あぁ、頼むよ。」
『それと!・・・お姉ちゃんが寝ちゃって。・・・抱えて運ぶから、ゆっくりでお願いします。』
「了解。あと一つ。イーリスがいるからIS学園の敷地外に着陸するように。」
「分かりました。」
〈言い争ってて無線を聞いてないって・・・大丈夫か、こいつら。〉
ISと言うものは、知れば知るほど分からなくなる。様々な操縦者補助機能があるはずなのだが、大事なものほどなおざりにされているような気がしてならない。
そう思っている内に準備が完了したようで、帰投のための随伴飛行を開始した。
-*・柳原・*-
「はーい、止まれ!」
二二時半。帰ってきたF-14を森田が誘導し、駐機場の所定の位置に停止させる。
直ぐに灯火器の灯りが全て消え、それからエンジンの回転数が下がっていく。
来栖から安全になったとハンドサインが出たので、転動防止の輪留めを設置しに機体の下へ入る。
それを設置して戻ると、丁度、来栖が降機しているところだった。
「お疲れ様です。後はやっておきますので詰め所で休んでて下さい。」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。」
近くにいた市川にそう声を掛けられた来栖は、しかし詰め所へと向かわずワシの所へと歩いて来た。
「柳原さん、少しいいですか?」
そう言う彼の顔は、どこか憔悴しているように見えた。
「え?あぁ、いいぞ。林、後頼む。」
心配だったので、仕事を任せ来栖と共に詰め所へと向かう。
部屋に入り、休憩スペースのソファーへ向かい合うように座る。
「・・・・・。」
来栖は座ると同時に組んだ手を額に付け前屈みになり、そのまま黙り込んでしまう。
〈呼吸が・・・少し荒いな。〉
話しにくいことがあるのではなく、何から話して良いか整理が付いていない。これは余程のことがあったのだろう。敢えてこちらからは声を掛けず、来栖が落ち着くのを待つ。
「僕はパイロット失格です。」
〈ん?これは・・・。〉
しばらく待って出てきた言葉に、あることを思い出す。
あれは半年ちょっと前くらいか。森田と雑談しているときに聞いたのだが、来栖は数年に一度、酷く落ち込むことがあるらしい。
ワシがIS学園に来て三年半。そんな姿は見たことがない代わりか、悩んでいるのは頻繁に見かけるので小分けに悩むタイプだと思っていた。故に誇張しているのだと思っていたが、今分かった。
「パイロット失格?ワシが判断してやるから、何があったか話してみろ。」
話を聞いてやるだけでも少しは落ち着くだろう。それに同じパイロットだ。何かアドバイスできることがあるかもしれない。
「空母が沈没したのは僕の責任です。」
「どうやって空母を沈めた?」
「それは――」
来栖の話を聞きながら、その雑談の最中に森田の言った別の言葉を思い出す。曰く、『酷く落ち込んだら放置以外に手がない』と。
来栖の普段の環境を思えば、数年に一度くらいなら少ない方だ。それで放置は薄情なだけじゃないのか?こんなに悩んでいるのを放置したら余計に悪化する。
と、初めはそう思っていた。
「おう。そうか・・・。」
あれから一時間ほど。話を聞いていく内に、来栖が森田の言う落ち込んでいる状態ではないことが分かってきた。
話し方や態度は落ち込んでいる様に見えるので、森田が誤認したのか、以前のは本当に落ち込んでいたのか不明だが、そんなことはどうでもいい。
相談内容を要約すると『自分が空母の情報を流したせいで空母は沈んでしまったから、どうやって責任を取ればいいのか』と言うことらしい。
ワシから言わせて貰えば、何も責任を取る必要はない。
米海軍から貰った情報と言えばそうだが、向こうが勝手に寄越したもの。そしてその情報は誰彼構わず見せていいものではないが、奪われた船のものなので大した価値はない。
そもそもの話、装備品を奪われるということが軍としてあるまじき失態なのに、空母の様な運用に人手を要するものともなれば、組織が崩壊しているのではと疑うレベルの事件だ。
だから伝えてみたのだが、来栖は「僕を信頼して託してくれたのに、それを踏みにじった」と言うのだ。
まあ、その主張も分かる。が、それを言う割には、考えからあることがごっそりと抜け落ちている。それは。
「お前、『貰った情報を流出させた』なんて言ったら、米海軍さんに迷惑をかけるぞ。」
「え?」
「空中給油装置を使うなんて回りくどい方法で渡してきたってことは、何かがあっても『情報提供はしていない』って言うためだろ?なのに、お前が言っちまったらどうなる。」
自分の考えの危うさには気づいたように「あぁ」と呻くように声を漏らすが、何か、まだ納得がいっていない様子だ。
「その・・・空母が沈没したじゃないですか。」
「そっちだとIS学園に迷惑を掛けるぞ?」
「だから辞表を――」
「それは勝手にすればいいが、お前はIS学園の教員で、そして学園の所有物であるF-14を使用していた。と言うことは、お前の行動は学園の意思と言える。個人の暴走と処理しても学園長たち管理者は責任を問われる。」
「そうか・・・。」
責任を発生させることで何かしらの利益を得られるのであれば、存在しない責任を発生させるのは分かる。が、そのメリットはない。何ならデメリットしかない。
それでも来栖は責任を取ろうとしている。だから、敢えて挑発をする。
「ま、楯無ちゃんは更識家の当主と言ったって、所詮は高校二年生の小娘だしな。自分の娘と同い年の子に責任を負わせるのは気が引けるよな。肩代わりしてやりたい気持ちはわかるよ。」
「小娘・・・彼女は別に――」
「そう言ってるのは、お前だぞ。」
狙い通り食いついた。これでもう、こっちのものだ。
「お前は楯無に空母の捜索を依頼した。でも楯無はそれを蹴って、己の目的のために獲物を譲れと言った。そこで拒否することもできたのに、お前はしなかった。なぜだ?」
「それは・・・手遅れだったので・・・。」
「ほう、楯無は制御不能の困ったちゃんと言う訳か。」
「あぁ、いえ。楯無なら大丈夫だろうと。」
「そうだ。お前は楯無を信じた。それを肩代わりしちまったら、楯無に『お前を一人前とは認めない』と言うのと同義だ。」
今回の件は、企画から実行まで全て楯無が行った。それも更識家の楯無として。
無論、一番悪いのは奪われた米軍だが、乗り込むと言う選択肢をとった以上、彼女の国籍も加味すれば尚更に、一定の責任は発生する。そして、そこに来栖が入り込む余地などない。
「今回は・・・いえ。今回も、いつも通りに飛行報告書を提出します。」
ようやく諦めが付いたのか、来栖は落ち着きを取り戻した。
「あぁ、それでいい。」
来栖はソファーから立ち上がり自分の机に戻ると、コンピューターに向かい報告書の作成に取り掛かった。
その姿を見て、ワシは詰め所を出る。そして格納庫に入ると、点検・整備が完了し次の出撃に向け庫内で待機するF-14がいた。
ところが、そこに森田たち整備士の姿が見当たらない。
〈エンジン整備室か。〉
耳を澄ますと微かに話し声が聞こえてきたので、そちらへ向かう。
「あ、お疲れ様です。駄目でしょ?」
部屋に入るなり、森田がそれを問いかけてきた。
「この薄情者が。来栖の顔を見て逃げやがって。」
来栖の話を聞いている時、森田は一度、詰め所へと入ってきた。しかし彼は、回れ右をして去っていったのだ。
「お前が言ってたのとは違ったぞ?」
それを聞いて、森田は「おっ」っと声を出す。
「立て直したんですか!」
「当たり前だ。ワシを誰だと思っとる。」
「凄いっすね。違ったとしても、あのレベルになると、僕じゃ聞いている内にノイローゼになりそうで。」
今日のも、真正面から受け止めて否定してやらなければ、返って来栖をドツボに嵌まらせただろう。だから森田の言うことも正しい。これも彼なりの優しさか。付き合いが長いからこそ、自分では力不足と分かっているのだろう。
「それにしても、なんであんな風になったかなぁ。自衛隊所属の頃は見たことないんだけど・・・。」
「今ほど悩むことがなかったからじゃないのか?」
「いや、悩んでましたよ。特に言ってたのは『他の人と同じように飛ばせない。』ですかね。ここなら単独ですから、それ考えなくていいじゃないですか。」
来栖の操縦感覚は特殊ではあるが、唯一ではないはずだ。だが、同等の才能を持つパイロットは現れない。なぜか、あの才能は現在の評価基準ではパイロットとして不適だからだ。
そこをクリアできたのは、とてつもない努力家であったため及第点程度には常人の操縦ができたからだと思う。来栖を育てた教官、まぁワシの同期のことだが、そいつの言った『酷い飛び方をするのに下手ではない』に集約されるだろう。
そこにあの性格が合わさり、自分は下手だという劣等感や仲間の足を引っ張っているのではと言う罪悪感を覚えたのだろう。
しかし。
「でも、孤立してたわけじゃないだろ?」
「まあ、そうですね。アドバイスとかは結構もらってたみたいですし。・・・あっ、自衛官を退役する頃は普通にこなしてたか。」
「じゃあ今の方がきついじゃないか。周りに合わせないでいいはその通りだが、一番危険な最前線へは、未だに来栖が一人で立ち向かってるわけだろ?」
「そうか。自衛隊のスクランブルと同じ感覚でいたけど、あっちは持ち回りだったな。ってことは相談もできない中、一瞬の判断がものをいう状況下で致命的な判断ミスをすることなく任務を続けてるのか。凄いことしてるな、あいつ。」
「あー、来栖さんは空に上がると一人か。我々は少数精鋭ではありますけどチームだから、来栖さんにも仲間がいるように錯覚してましたね。」
そう考えてみると、正気を疑うような鍛錬も『これだけ頑張れば敵に後れを取るはずがない』と自己暗示をかけ精神状態を保つための自己防衛術なのかもしれない。
「あれ?来栖さん一番負担が掛かること、全部一人でやってません?」
そんな風に話をしていると、不意に松戸がそんなことを言う。
「そう言う話をしてるんだよ。アイツしかF-14乗れないんだから。」
「仕事もそうですけど、家庭もワンオペですよね。」
「「「・・・。」」」
ハッとなった。来栖と
悩みを一人で抱え込むタイプではないとは言え、家庭も仕事も、本当に相談相手が必要な時に、それをできる相手がいない。
そう思えば、今日のあの状態も説明が付く。普通に考えれば分かることでも、ふとした拍子に分からなることがある。日常で例えるなら、平仮名の書き方が分からなくなるようなものか。
そうなった時、誰かが教えてくれれば「あぁ、そうだ」で済むが、それがなければ正しいものを誤りと思ったり、その逆に誤りを正しいと思ったりしてドツボに嵌ってしまうだろう。今日の来栖は、まさにその状態だったのではないだろうか。
「マーベリックの頑丈さに甘えてたなぁ。」
「甘えてるならまだマシだ。IS学園はアイツがいなきゃ色々詰んでるぞ。」
来栖は思っていたよりもずっと凄い。だた、それは孤独を紛らさせるための努力の果てに辿り着いた境地ではないだろうかと、そう感じた夜だった。