IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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第61話 白騎士事件の日(その1)

 「そこに山田先生が現れたと。」

 京都での出来事の調査書を作成するために、来栖は修学旅行の下見から帰ってきたラウラを輸送課の詰め所に呼び寄せていた。

 「あぁ。あの後の出来事は中々に酷いものだった・・・。民間人への被害を押さえるには他にないとは言え、嫁が痛めつけられる光景は見るに堪えなかった。」

 「こんなグダグダな作戦の最中の出来事だ。無理もない。」

 ふと漏らした本音。私情が混じったそれを、しかし来栖は指摘も否定もしない。それはラウラを一人の軍人と見なしているからこそ、馬鹿げたことに巻き込まれた同情をしているからだ。

 「その後のことはどうだ?」

 「後は足すことはない。書いてある通りだ。・・・それにしても、ニュースの映像とネットに上がっている情報を頼りに、よくぞこの精度で状況を把握できるな。」

 ラウラの言う通り、来栖は自力で収集した情報を元に調査書を粗方完成させており、不足の加筆と認識が誤った箇所の修正を行っていた。

 「あれだけ派手に暴れりゃ、嫌でも衆目を集める。」

 それはラウラをして驚嘆するレベルのものだったが、纏めた本人は当然を通り越して簡単だったとでも言いたげなテンションで返事をする。

 「僕からは以上です。柳原さん、聞きたいことありますか?」

 「ワシはない。」

 「そういうことで、長時間ありがとう。本来なら言い出しっぺに聞きたい所だったんだけどね。色々隠されそうだったから助かったよ。じゃ、これは約束の報酬だ。」

 そう言って来栖が差し出したのは、学食の食券だった。当初、ラウラは報酬は不要と言っていたのだが、来栖もまた『タダで帰すのは忍びない』と言った結果、そこに落ち着いた経緯がある。

 「だが、いいのか?聞いていた時間より短かった上に、私はそれほど話していない。少々貰いすぎな気がするが・・・。」

 京都での出来事を一から聞いて調書を作成するのであれば、聴取だけでも相当な時間を要しただろう。それを覚悟していたラウラは数時間で終わったそれに拍子抜けしていた。

 「こういうのは時間じゃない。どれだけ事実を集められるかが重要だ。だからラウラ、現場にいた者の話は非常に価値のある話だ。君はそう思わないかもしれないが、その食券じゃ普通は釣り合わない。」

 そう言われれば、それ以上何か返すのは野暮と言うもの。「ありがたく」と大事そうにポケットへしまう。

 「よし。じゃ、今日はこれにて修了。ありがとね。」

 「一つ聞きたいことがある。差し支えなければ教えて貰えないか?」

 書類を纏めて立ち上がった来栖へ、ラウラが言う。

 「いいぞ。答えられることなら何でも。」

 こちらから呼び出したのだから、そのくらいはお安いご用と来栖は再び座る。

 「昨日の戦闘の最中、嫁のISが白騎士になったのだが・・・どう見えた。」

 「どう・・・とは?」

 「先生はかつて、白騎士事件の時に出撃していたと聞いている。あの日の白騎士と比べて、昨日の白騎士はどう見えたか聞きたいのだ。」

 「それは『俺が気付いた限りの違いを聞きたい』と言う意味でいいかな?」

 「あぁ。」

 その答えを、来栖は豊富に持ち合わせていた。だからこそ、こう言った。

 「白騎士は、どの姿が本物だと思う?」

 

 

-*・A・*-

 

 

 白騎士事件が起きた日。日本の上空を飛んでいる四機のF-15がいた。

 その中の一機、F-15DJの前席に来栖は搭乗していて、その後席には副司令の佐藤一佐を乗せていた。

 なぜ幹部が同乗しているのか。それは今日が合同演習の初日で、外交や現場指揮といったことを行う必要があったから。そう言う訳で、来栖機だけでなく隊長機には司令が乗っている。

 「しかし・・・不気味なくらいに、いい天気ですね。」

 「ああ、まったく。文字通り雲一つ無いってのが気持ち悪いな。」

 合同演習が行われる場所は太平洋。百里基地より離陸した彼らは、そこを目指して洋上を飛行・・・してなかった。彼らは現在、日本海を目指して本土上空を飛んでいる。

 何故か。それは日本に向けて発射されたミサイルの迎撃のためだった。

 演習に向かっていた機材で何が出来ると思われるだろうが、実弾を用いた課目を行う予定だったので四機全てが実弾を搭載している。それに搭乗員の構成も日本にとっては好都合だった。なぜなら前線で指揮を執れる人物を乗せていているのだから。

 「本当にミサイルが飛んできているんでしょうか・・・。」

 「信じられんが、嘘を伝えてくる訳がない。指示装置もそうなっている。」

 近隣国から発射された巡航ミサイルが、日本へ飛来している。その情報は管制から伝達されているが、突拍子もない事態を一行は今ひとつ現実として受け止められない。

 しかし上からの命令に、根拠もなく「いいえ」と返事はできない。任務を遂行すべく機上に示される地点へと急行する。

 陸地を抜け日本海へ。さらに進んで作戦空域へと到達する。

 『こちらシーサー!レーダーで捉えた!数1!』

 到着から程なくして、二番機が最初にミサイルを捉えた。

 『こちらダイソン。確認した。』

 タッチの差で隊長機もそれを確認し、それにより一行は実戦である実感を得る。

 『発射を許可する!』

 『シーサー、FOX-3!』

 司令が発射許可を出す。

 即座に二番機のハードポイントからAIM-120が離れ、固体燃料に点火。凄まじい速度で飛んでいく・・・はずだった。

 『何だ?!』

 加速を開始したミサイルは、突如、爆発した。

 『不良品か!』

 シーサーが毒づくが来栖は見えていた。

 「二時の方向!誰かいる!」

 白い、人型の何かがミサイルを切る。それが白騎士との最初の遭遇だった。

 『何だありゃ?!幽霊か?!』

 『どこだ!見つけられない!』

 『どこだって?!』

 『もう行った!』

 機体の陰より現れたそれは、減速することなく二時の方向に向け去って行くが、機体の位置取りの都合で来栖と隊長にだけ見えて、他の機からは見えていなかった。

 『マーベリック、今のは何だ?!』

 「人の様でしたが、詳しくは分かりません!それよりも迎撃を!」

 『っと!シーサー次弾を・・・?!』

 それを追求している暇はない。ただ、指示を出そうとした隊長が目にしたのは信じられないものだった。

 『何だ?!この数は?!』

 レーダー表示機上に、無数の点が浮かび上がる。

 『撃ちますか?!』

 『無闇に撃つな!』

 三番機のメダルが焦りから攻撃を提案するが、間髪を入れず司令が抑え込む。

 『こんな数のミサイルを、近隣国は発射可能な状態で配備しているというのか?』

 これらのミサイルは、制御を奪われて発射されたものだという情報は入っている。だからこそ一同は、その数の多さに疑問を覚える。

 ミサイルを初めとする兵器を即時使用が可能な状態を維持するというのは、非常に手間の掛かること。だから平時は迎撃用だけか、よく準備していても報復用が限度。

 この数は、明らかに侵攻を前提にしていなければ揃わない。しかし侵攻を目的としているのなら、迎撃の余裕を与える通報をしてくるはずがない。

 『湧いてきたみたいだな・・・。』

 「・・・湧いてきた?」

 誰かのつぶやき。副指令はそれが気になり復唱する。

 「マーベリック。この表示はFCレーダーか?」

 「いえ、まだ捜索モードです。」

 「・・・FCに切り替えてくれ。」

 「了解。」

 来栖は指示された通り、レーダーを切り替える・・・と。

 「やはりそうか。」

 減るはずの目標の数は変わらなかった。

 「副司令、これって・・・。」

 「ジャミングだろうな。」

 ミサイルの大半はフェイクだ。二人はそう確信する。

 「司令。ジャミングされている。もっと引きつけて赤外線捜索追尾システム(IRST)で探知しよう。」

 このままレーダーに拘っていては時間切れになる。副司令は新たな作戦を提案する。

 『ジャミングだと?!・・・あっ、これ捕捉数がありえんな。』

 指摘され気付く。指令と言えど人の子。緊張状態にあっては、当たり前のことを見逃すこともある。

 『聞こえたな。各機レーダーは参考にとどめ、IRSTで捕捉するように。』

 それで落ち着きを取り戻す。

 探知方法を切り替え、目標を探す一行だったが、しばらく飛び続けても、一向に目標を捕捉できない。

 『反転するぞ。』

 戦闘機というのは、一部の例外を除けばホバリングできない。ミサイルの射程が、他国の防空識別圏までの距離よりも長くなってしまったために方向転換を余儀なくされる。

 『ついでに編成を変えよう。マーベリック、二番機だ。シーサーは三番機、メダルは四番機に変更だ。』

 一番機と二番機はJ-MSIP、三番機と四番機はPre-MSIPで分かれており、二機一編隊が二編隊と言う構成だった。それは訓練のためのものなので、実戦においては性能の良いJ-MSIPを各編隊の隊長に据えた方が都合が良かった。また、ベテランの隊長と若手の来栖、中堅のシーサーとメダルを組ませることで、編隊の能力を揃える目的もあった。

 そして方向転換と編隊を組み替えた直後、事件は発生した。

 「「?!」」

 突如、来栖の操縦するF-15はスピンを始める。

 『こいつか!人間みたいなやつってのは!』

 ほぼ同時、その目撃情報が無線から伝えられる。

 『マーベリック?!』

 『翼だ!左翼を切られている!』

 三番機と四番機のパイロットは来栖の機の右主翼が機体から分離したのを見た。そして、それを空飛ぶ人間がやったのも目撃していた。

 「くそっ!コントロール不能!脱出します!」

 『待て!速度を上げてみろ!』

 このままでは墜落する。副司令を乗せていることもあって、早めに脱出を試みようとしたのだが、それをメダルが制止した。

 『速度を上げれば安定するはずだ!』

 「それだ!やってみよう!」

 一人だけでなく副司令も言うのだから、あり得るのだろう。来栖は騙されたつもりでスロットルを開き加速する。

 「おぉっ・・・。」

 「戻ったな。」

 すると、今までの暴れっぷりが嘘のように機体は安定を取り戻した。

 「昔、事故で片翼を喪失した状態で基地に帰還した例がある。その時にパイロットが取った対処がこれらしい。」

 副司令の話を聞き〈そんな事があったのか〉と、来栖はまだまだ勉強が足りないと思う。

 『マーベリック、帰還しろ。メダルはその随伴だ。シーサーは俺とここに残れ!』

 「『『了解』』」

 

 「よし、着陸許可が出た。」

 「着陸許可、了解。」

 管制から着陸の許可を得ると、来栖は速やかに着陸態勢に入った。

 「速度いいぞ。ちょい右にロール・・・OK。」

 ここに来るまでの間にコントロールチェックは済ませてあり、姿勢を保てるギリギリの速度は把握できていた。ただ、バランスの崩れた機体は、何時、また暴れ出すとも判らない。

 それに、通常より遙かに高い速度での着陸となる。つまり、降着装置に負担をかけると言うことであり、いつも以上に繊細な接地を要求される。万が一にタイヤがバーストすれば、滑走路からの逸脱は免れない。

 そういうこともあり来栖は操縦に専念、副司令が通信やその他のことを分担していた。

 副司令と二人三脚、緊張の着陸。

 「主脚接地・・・今!機首下げ!ブレーキ!」

 通常であればフレアーを行い減速するが、主翼が片側だけ無い状態でそれを行えば転覆の危険を伴う。素早く前脚も接地させ、スピードブレーキとフットブレーキで減速する。が、それだけでは減速が間に合わない。

 勿論、その程度のことは着陸前から分かっていた。だから滑走路端に設置されているアレスティングワイヤ、それの力も借りて減速、停止した。

 『こちら管制。消防隊より移動しても問題ないと連絡があった。滑走路より離脱し、駐機場へ向かえ。』

 「了解。滑走路離脱し、駐機場へ向かう。」

 停止した地点で消防隊の機体チェックを受けた後、指示に従い駐機場へと移動して機体を止めた。

 「うわぁ・・・こんな状態だったのか・・・。」

 「見事に切られてるな。」

 機体から降りた二人は、初めて機体の損傷具合を知る。それは鋭利な刃物で切られたと一目でわかる切断面をしていた。

 「無事に到着され安心しました。」

 F-15の生存性の高さに感心していると声を掛けられる。振り返れば一人の隊員が立っていた。

 「鈴木二等空佐です。本日、幹部非常対応中のため代理として参りました。」

 鈴木二等空佐が敬礼する。副指令と来栖は、それに敬礼で返す。

 「第7航空団副指令、“佐藤秀典”一等空佐、及び来栖翔霧二等空尉、機体トラブルのため緊急着陸いたしました。」

 指令が所属と階級、事由を告げる。

 彼らが挨拶を交わす理由。それは、ここが小松基地だから。小松へ降りたのは最寄りの基地であったからだが、それは損傷が原因ではなく、左主翼分の燃料を失ったために百里基地までの航続距離が足らなくなったからだ。でなければ、滑走路が一本の小松ではなく二本ある百里まで戻った。

 ちなみに、随伴してきたメダルは百里へと単独帰投した。

 「話には聞いたことがありましたが・・・この状態でも帰還できるとは、やはりF-15は凄いですね。・・・っと、感心している場合ではありませんでした。こちらへどうぞ。」

 そうして二人が案内されたのは作戦指揮室だった。

 「鈴木一等空佐です。第7航空団佐藤副司令、及び来栖二等空尉をお連れしました。」

 「ご苦労。ご無事に到着され安心しております。第6航空団司令、山田です。お疲れとは思いますが国家存亡の危機。これについて、何かご存じであれば伺いたい。」

 そう言って山田司令が指さしたのはテレビの画面。そこに大きく映し出されていたのは――。

 「分かる限り、お話ししましょう。我々の翼を切った犯人ですので。」

 彼らが空で見た飛ぶ人間、後に白騎士と呼称されるISだった。

 

 

 

 夕方になろうかという頃。来栖は再び日本海上空にいた。

 他の基地にいるのに再出撃した理由。それは異常な数の軍用機が日本の領空を侵犯しており、スクランブル組どころか基地にいるパイロットを動員しても人手が足らなくなったため、搭乗できる者は出撃せよとの指令が出たからだった。

 〈酷いな、これは・・・。〉

 高空では白騎士と外国の軍用機がやり合っており、飛行には危険を伴う。そういうこともあり自衛隊機は低空を飛んでいるのだが、そこで来栖は、戦闘機を初めとした軍用品の残骸と漏れだした油により汚染された海を目にする。

 〈それにしても、これ・・・集まりすぎだろ。〉

 それだけの浮遊物があると言うことは、それだけの数がここに集ったという証拠。事実、来栖も既に何機かが落ちていく姿を見た。

 現在はその数を随分と減らしているが、彼が到着した時には、それは数え切れないほど飛んでいた。

 だからこそ来栖は違和感を抱いた。なぜ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 〈まるで誰かが・・・例えばあのパイロットが意図的におびき寄せているんじゃないのか?〉

 他国の戦闘機は、各々『目標の分析。可能であれば捕獲。無理ならば撃滅』と言う命令の元に飛来していることは判明している。故に連携や融通をしないのは当たり前だが、それにも限度がある。

 一機一機にパイロットが搭乗しており、彼らは全て命ある人間。国家に忠誠を誓っているとは言え命を粗末にしたがるものはそういない。つまり、空中衝突が起きかねない状態は本能的に避けるものなのに、それがまるでない。

 〈どうやら世界に対して、実力の差というのを印象付けたいみたいだが・・・あれだけ密集していれば回避行動が取れないから、そりゃ楽だろうな。酷いことしやがる。〉

 遠くに落下傘が見える。彼の乗っていたと思わしき戦闘機が、来栖の直ぐ近くを墜ちて行く。すれ違いざま、来栖は損傷状態を確認する。()()()コックピット周囲は綺麗な状態だった。

 〈パイロットを殺さないように撃墜してるみたいだが、ここじゃそんなことは無意味だ。洋上でのベイルアウトがどれだけ危険なことか、知ってたらこんな真似はしない。いや、知っていて遊んでいる可能性もあるか。〉

 これは殺戮と何も変わらない。撃ち落とされているのは侵犯機ばかりとは言え、そのパイロットに対して来栖は同情を禁じ得ない。

 〈あれが最後か。〉

 パイロットが疲弊していたのか、空を広く使えるようになっていたが、それは大した機動を見せることもなく白騎士に撃墜された。

 『波が途切れた。今の内に行くぞ。』

 〈さて、あとはヤツがこちらの呼びかけに応じるかだけど・・・。〉

 偵察&鹵獲部隊のお代わりが飛来中ではあるものの、それの到達までにはまだ猶予がある。今の内と、空自は動く。

 『こちら航空自衛隊。飛行中の未確認機、応答せよ。』

 この時はまだ、白騎士は日本人の篠ノ之束により製造されたものとは認識されていなかったが、航空自衛隊はF-15DJが被害を受けていたことから敵対勢力として扱うことを決めていた。

 意図を問うため、日本語だけでなく複数の言語で呼びかけを行ったのだが、白騎士は一切反応を示さなかった。それは無線機を搭載していないからなのだが、自衛隊にそれを知る術はない。

 やむを得ず、一機のF-4が近づいて主翼を振り注意を引く。

 「あぁっ?!」

 突如、白騎士はそのF-4に向け荷電粒子砲を放った。

 『見えない!どこだ!』

 F-4のパイロットは攻撃を受けても逃げられる態勢を整えて接近していたのだが、白騎士の動きは想像以上に速く、そして小さい機体を見失ってパイロットは半ばパニックに陥る。

 『この野郎!おい、百里の!やってくれ!』

 それを目撃した時点で、来栖と臨時の編隊を組んでいたパイロットたちは攻撃を決定した。

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