IS学園の猫ちゃん 作:只の・A・カカシです
特に二月~五月までが忙しすぎて、全く書いている暇が無く、そうしている内に何をどこまで書いたのかを忘れてしまい・・・。
ちょっと離れていたのですが、何とか盆に気合いを入れて読み直し、仕上げることができました。
「どうした?!」
『分からない!くそ!操縦が!』
衝撃と共に機体が操縦不能に陥る。仲間から状況の説明を求められるが、異常を知らせる警告灯の数が多すぎて纏めることが出来ない。
『脱出だ!脱出しろ!やられてる!』
慌てて駆けつけた仲間が機体を確認すると、機体後部がごっそりなくなっていた。
『わ、分かった!』
射出レバーを引く。キャノピーが破砕され、パイロットが射出される。まるで、それまで耐えていたかのように、機体は錐揉みを始め、海に堕ちていった。
『来栖か?!』
「いや、あの位置からでは――避けろ!!」
『おぉ?!こいつ!!』
一瞬、気が逸れた。その隙にT-4は反転。煽るように、一機のF-22の鼻先を掠めながらすれ違う。
『そっちがその気なら!』
日の丸が描かれていない以外はブルーインパルス仕様のT-4ではあるが、その塗色の機体がIS学園に配備された話は彼らも聞いていた。
だが、所詮は丸腰の練習機。相手にする価値もないと思っていた彼らは、しかし任務失敗にフラストレーションを溜めており、その行動で頭に血が上る。
本能のままに、機体性能の差に物を言わせて瞬く間にT-4の背後を取る。
〈これで、チェックメイ・・・チェック・・・クソッ!!〉
片手間に片付けられる相手。そう舐めてかかったが、トリガーを引けない。想像以上の機体捌きを披露され、照準に捉えられないのだ。
『どうした!撃て!』
『分かってる!こいつ、ちょこまかと!』
『俺の位置からなら撃てるぞ!』
『俺がやる!』
煽られた手前、他人に任せると言う選択肢は彼にはなかった。つまり意地を張ったわけだ。
『何?!』
その前のめりの姿勢が仇となる。T-4が出したスモークに虚を突かれ、体が硬直する。
スモークに視界を遮られていた時間はコンマ数秒のことだが、それから抜け出したときには、正面に捉えていたはずのT-4の姿はない。
『練習機相手に、何やってんだお前は!』
馬鹿にするような、仲間からの通信。
それで硬直が解けた彼は後方を確認し、そこにT-4を視認する。
『後ろを取り返せば良いんだろ!』
『俺が始末してやるから、そのまま引っ張れ!どうせT-4に武装は無いんだ!・・・FOX-2!』
ロックオンしサイドワインダーを発射――の寸前。T-4は再びスモークを出した。
『俺にその手は通用しないぜ!』
それもあるだろうと準備していた。
惑わされることなく発射スイッチを押す。これを逃れる術などないと確信していた、が――
『撃たれた!何が武装は無いだ?!脱出する!』
直後に聞こえてきたのは仲間の悲鳴だった。
〈撃たれた?・・・まさか?!〉
『仲間に当たるように仕向けられたようだな。』
数分と経たず二機もやられたとあって動揺が走る。
「これが・・・。アンタが執拗に警戒する意味が分かったぜ。」
彼我の機体には、勝負にすらならない性能差があるのに、それが打ち消されてしまう。来栖の強さは彼の思い出補正によるものだと侮っていたが、それが掛け値なしの物であったと身を以て知る。
『弱気になるな!T-4だと思うから油断するんだ!』
が、同士討ちをしてしまったパイロットはそのことも思い出せないほど躍起になっていた。
「待て!気合いでどうにかなる相手じゃない!」
『じゃ、お前は見てろ!戦いの場に武器もねェ機体で乗り込んでくる甘さを俺が教えてやる!』
『早まるな!おい!アンタは見てるだけか!』
相手の思惑に乗せられ、拙攻を繰り返す仲間もさることながら、スキンヘッドの男が一切戦闘へ参加しようとしないことに業を煮やす。
『相手をよく見ろ。あいつ、俺をずっと警戒してやがる。全く隙が無い。今攻撃したとて躱されるのがオチだ。誰だ、奴は?来栖じゃないのは確かだが・・・。』
話をしている間にも、また一機、撃墜され――いや、撃墜させられる。その光景も相まって、彼の口から告げられた新たな絶望は、途轍もなく大きな物だった。
-*・柳原・*-
『柳原さん。』
「来たか?」
任務の妨害か、或いは依頼そのものが偽りの物か。何れにしても不測の事態が起きることを前提として、その保険に柳原がT-4に乗り空中待機をしていた。
『北北東から
「了解。」
受けた攻撃の情報を来栖から伝えられた柳原は、直ぐ行動へ移る。
事前にいくつかの状況を予測し、それに応じた行動計画を作成。また通信の時間を極力短くすることで、敵にT-4の存在を察知させないようにしていた。
〈この方向に飛んでくるはず・・・・・これか。〉
しばらく飛行して、遠方に飛行する機体を発見する。
F-22のステルス性能が高くとも、その姿が本当に消えてしまうわけではない。画像センサーであるISのハイパーセンサーを転用した索敵装置を積むT-4は、難なくF-22を捉えた。
〈なるほど。F-22のようだな。・・・五機か。相手にとって不足はない。〉
映像を拡大して、目標が懸念通りの敵であることを確認すると、機体を小刻みにロールさせて、太陽光を反射。
〈・・・掛かったな。〉
間もなく、それは柳原の方へと転進する。
〈距離8,000、戦闘開始!〉
針路を変え、山で射線を切る。直後、素早く反転。
その旋回は、T-4のエンジン推力では速度を維持できないほど急なもので、柳原は高度を下げることで速度を維持。それは低空へ移行する目的も含まれており、敵機の視界から消える。
〈こっちだー。気付よー。〉
離れた場所で機体を揺らし、敵機の注意を引く。
〈慌てすぎだ。そして性能に頼りすぎだ。〉
敵機の放ったミサイルを操縦一つで容易くいなし、なおも悠然と飛んで相手を挑発する。
思惑に乗った一機が、急接近。
〈第一段階完了。〉
柳原はいとも容易く、敵機に背後を取らせた。圧倒的な性能差のあるF-22相手にそれは無謀と思えるが、操縦技術で十分補えるという自信があった。
〈はい残念賞。〉
それは驚いたように挙動を乱す。
〈じゃ、見せてやろう。本物のドッグファイトって奴を!〉
この動揺を更に増幅させる。そう思い、機動を開始しようとした時。
〈あの火炎の色は来栖?!・・・何時、撃った?〉
突如として敵機が爆ぜた。
一部のミサイルには、相手への牽制や意識を引く目的で火薬に混ぜ物をしている。他に存在しないため来栖が撃ったもので間違いないのだが、飛来の角度も方角も合わない。
〈IS相手に置きミサイルをするのは知っているが・・・この距離でとなると人間離れしているぞ・・・。〉
とは言え好機に変わりは無い。煙に機体を隠し、急旋回。仲間がやられたことに注意が向き、周囲の警戒が疎かになっていた敵機の鼻先を、挨拶代わりに掠め飛ぶ。
そこからは柳原の独擅場だった。
頭に血の上った敵機を、スモークで攪乱。同士討ちをさせる。
その失態を取り返そうと言う焦りから、不用意に近付いてきた一機にスモークを浴びせ、視界を制限。その状態で自機を追わせながら急降下。先ほど同士討ちで撃墜し、落下中だった機体に誘導、衝突させ瞬く間に二機目の撃墜に成功する。
〈連中、正規に選ばれたパイロットじゃないな。レベルが低すぎる。操縦に限れば上手いのがいるが、そいつにしてもステルス機を乗りこなせてない。とは言え、T-4でどうにか出来る相手じゃないが。・・・にしても仕掛けてこないな。〉
残りの二機は、やはり残るだけあって行動が慎重で、誘いに乗ってこない。武装のないT-4では、相手が食いついてきてくれないことには何も出来ない。
『柳原さん!こちら終わりました!』
膠着状態の打開策を見いだせずにいると、来栖から作戦完遂の連絡が入る。
「いいとこに来た!残り二機まで追い込んだんだが、手練れがいてな。迂闊に仕掛けられんから頼めるか?」
『了解。・・・って、おおぉ?!』
来栖に状況の打破を頼んだのとどちらが早いか。敵機はF-14の姿を捉えるや、それまでが嘘のように活性化する。
『確かに上手い・・・?』
敵機の攻撃を躱し、来栖が相手の動きを観察する。
『こいつ、デスエンジェル・・・か?』
そして無線機越しに聞こえた呟き。
「知ってるのか?」
『遺体が上がらなかったからもしかしたらって思ってたけど。・・・すいません、しばらく集中します。』
「あ、あぁ。」
最早柳原の声は聞こえていないようで、言うが早いか、アフターバーナーを点火し瞬く間に遠ざかる。
〈・・・流石に、手出しできんなぁ。〉
こうなってしまっては、武装もなければアフターバーナーも無いT-4に出来ることはないく、ただ見守るしかなかった。
-*・A・*-
〈そうだ、この感じ!追いかけても追いかけても届かない距離感!〉
久方ぶりに相まみえた来栖に彼は高揚していた。
〈だが体が・・・くそっ!〉
けれど気持ちとは裏腹に、高Gの旋回に身体能力が追い付かない。もう少しでF-14を捉えられそうなのに、折角詰めた距離を瞬く間に離されてしまい、仕舞いには後ろに付かれてしまう。
〈っく!完璧な位置に付かれた!〉
撃たれる。だが、それは同時に好機の訪れを意味する。攻撃態勢に入れば、どんなパイロットも少なからず隙が生まれる。今なら撃墜できるかも知れないと、僚機へ攻撃の指示を出そうとして――
『ジョーイ!後ろに付かれた!』
残り一機となった仲間から、SOSが発される。
「何?!・・・アビス!何もたもたしてた!」
気が付けばF-14が後ろにいない。そのことに気が付けなかったことを誤魔化すように、声を荒らげる。
『速すぎる!そもそもアンタが振り切られるってどうなってんだ、コイツは!!』
ジョーイへの仲間意識など一切ないが腕は認めている。それに機体性能で言えばF-22が後れを取るはずのない相手。そんな相手に良いようにされている現状を受け入れられない。
『何でもいいから追い払ってくれ!早く!』
アビスは必死に旋回して振り切ろうとするが、来栖はまるで動きを読んでいるかのように余裕を持って追従してくる。その上、牽制を入れようにも絶妙な位置を押さえられロックオンすらままならない。
「無理だ。お前が邪魔で撃てん。」
しかも来栖は、アビスの機体でジョーイのF-22からの射線を遮るように飛んでいるために援護射撃さえもできない。
〈アビスめ気付いていないが、撃つ気ならもう撃たれてる。・・・撃ってこないのは市街地の上空だからか?それにしても、全く付いてこれてないアビスへ、それも半端なタイミングで狙いを変えたのは何故だ?俺たちを均等に疲れさせるつもりでもあるのか?〉
来栖の怖さを知るジョーイをして、つい侮ってしまいそうになる来栖の戦術。それを、今日まで生き残っていると言うのが全ての答えだと自分に言い聞かせるが、返って迷いを生じさせる。
〈・・・来栖相手には考えるだけ無駄だ!そもそも抜かずの構えなんだから、追うのが間違いだ!〉「アビス!上昇だ!如何に来栖でも、蛇の利かない高高度に逃げ込めば追いかけてこれない。」
「だが、そこに到達するまでに――」
「安心しろ、撃ってこない!行くぞ!3、2、1、上昇!」
有無を言わせず、垂直上昇を開始する。アビスもやけくそでそれに合わせる。
「こ、こいつ!付いてこれるだと?!」
「このご時世に生き残ってるF-14だ。まともなF-14じゃないだろうよ。」
彼らの後をピッタリと付けてくるF-14は、ジョーイの考え通り何もしてこない。そして、しばらく追いかけてきていた後、F-14は舵が効きにくくなる前に、これまたジョーイの読み通り離脱していく。
「今ならロックオンできる。撃つか?」
「いや、やめとけ。当たる前に低空へ逃げ込まれる。」
F-14は凄い勢いで降下していき、そしてレーダー上から消えた。
「・・・アンタの言う通りになるな。それで、こっからどうするんだ?」
「まずは低空に降りて来栖を探す。見つけたら後ろに付いて飛べ。どれだけチャンスに感じても、攻撃は一切考えるな。その瞬間にひっくり返されるからな。とにかく、来栖の注意を引きつけるんだ。」
「おいしいところだけ持って行こうってか?」
「嫌なら逆にするが?」
「いや、いい。アンタが外すようなら、俺じゃ無理だ。」
妨害装置のないT-4に躱されたばかり。パイロットは違うと言えばそうだが、それ以上に厄介と評されるパイロット相手に当てられる未来は見えない。
「じゃ、作戦開始!」
まるで、それが合図だったかのように眩い光が差した。
-*・来栖・*-
〈間違いない。ジョーイ・マッケンジーだ。〉
しばらく交戦し、会敵時の直感が正しかったと来栖は確信する。
〈あれで五体満足だと。信じられんな。〉
戦闘機に乗れると言うことは、そういうこと。生きていたこともさることながら、そちらの方が驚きだった。
〈しかし、どうするかな。〉
とは言え、動きにかつてのキレは無く余裕を持って追いかけていた。だが、来栖は撃たなかった。いや、撃てなかった。
突貫工事の影響か、人工衛星攻撃用のミサイルを発射した直後に火器管制システムがダウン。現在も再起動を試みるが改善せず、辛うじて機関砲だけが撃てるという状態。
〈マズい。もう一機が離れてる。〉
もう一機の位置を確認して、来栖は慌てる。これはアウトレンジからの攻撃を狙っているのではないかと感じたからだ。
実際には来栖とジョーイのドッグファイトに追いつけていないだけだったのだが、それはそれとしてF-22のステルス性能を考えると目視圏内に留めておくに超したことはない。
ジョーイの死角に入り、悟られないように離脱。加速してもう一機の針路へ回り込む。不意を突かれて驚いた敵機は、来栖の巧みな誘導に乗せられジョーイのいる方向へと転進する。
ほどよく追い込んだところで、来栖は攻撃態勢へと移り敵機に旋回を余儀なくさせる。
〈衰えちゃいるが、さすがだな。機銃で撃ちに行ったら撃たれる。〉
未だ火器管制システムは復旧しない。バルカンで撃とうにも、ジョーイのF-22が待ち構えているため撃ちに行けない。このまま敵機を盾に、疲れるのを待つしか無いと持久戦を覚悟する。
〈これはどっちだ?!〉
それは思いも寄らないタイミングだった。敵機が二機とも、垂直上昇を始める。
罠を作動させるために逃げたのか、罠にかけるための逃げている振りなのか。迷った来栖だが、片方の動きに戸惑いがあったため、そのいずれでもないと判断。追尾を継続する。
〈遅れた!!〉
それでも、迷った分だけ距離を離されてしまった。エンジンの推力では勝っているが、空気抵抗の大きさ故に高速域での伸びが悪く、バルカンの射程に再度捉えるまでは行かない。
そうしている内に高度が上がりすぎてしまい、F-14ではどうにもならない領域が近付いてきた。
〈一旦逃げるか。〉
高所から打ち下ろされたのでは、手も足も出ない。不利になる前に低空へと急降下する。
〈さて、どっから来るかな。〉
レーダーを攪乱するべく山並みを低空飛行。上方を目視で警戒する。
『来栖、大丈夫か?』
「辛うじて。それより、敵機が二機、上から来ると思いますので、上方の警戒をお願いします。」
『任せとけ。』
そこへ柳原が合流。二機態勢で上空を警戒する、と。
『ん?・・・おぉ?!』
「なんだ、あれは・・・。」
一瞬の出来事、空から太い光の柱が落ちてきた。
『おい、光の着弾点が燃えてないか?!』
ISのハイパーセンサーを転用した索敵装置で、柳原がそれを見つける。
「確認しました。向かいましょう。」
F-14のTCSで来栖もそれを確認。現場に急行する。
『ここ、ひょっとしてDeランド・・・か?』
「見た限りは・・・これは酷い。」
遊園地のあらゆる所から、赤々と火の手が上がっていた。
「取り敢えず通報します。」
『おう。上空の監視は任しとけ。』
人の心があれば、この惨状の上空で攻撃を仕掛けてくることはない。だがタイミング的に、この出来事すらもおびき出すための餌の可能性を否定できない。
十数分後。消防のヘリコプターが到着する。
その間、特に敵機の姿も見当たらず、攻撃の前兆もなかった。
「では、帰投します。お気を付けて。」
ここにいても消火活動の邪魔になるだけ。それにF-14、T-4ともに燃料の残量が心許なくなっていたこともあり、消防のヘリコプターに挨拶をして、二人はIS学園へと針路を取った。