IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

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第7話 譲歩

 「お断りします。」

 ISと名の付くものとかかわるとろくな事が無い。とにかくその一点に尽きる。

 「そこを何とか頼めないでしょうか?」

 「少し失礼します。」

 ヒートアップしそうになったところで、小畠が立ち上がりる。そして、外に行こうとハンドサインを来栖に送り部屋から出た。

 「どうする。」

 このままでは無駄に時間を消費するだけになる。それは見えていた。

 「話をきいてみて条件を付ければ、引き下がるかも知れません。」

 少し時間はかかるが、このまま平行線をたどるよりはマシと、二人は部屋に戻り着席する。

 「いくつか伺ってもよろしいですか?」

 「えぇ、構いません。」

 溺れる者は藁をもつかむとはこんな感じかも知れないと思いながら、来栖は質問を始める。

 「何をするのか、具体的に教えて下さい。」

 「ISの輸送です。トラックで運搬中にISが奪取されたのはご存じでしょう。地上は警備に手がかかります。ですから、空輸して欲しいのです。」

 「「!?」」

 来栖が聞きたかったのは防空をどの程度で行うのか、例えば相手に攻撃の気があるならアウトレンジで攻撃しても良いのかと言うことだった。戦闘機を欲しがるということはそう言う目的だと思っていただけに、来栖と小畠は揃って目を丸くする。

 ほとんどの戦闘機は、荷物を持ち運ぶという行為は設計に考慮されていない。着替えやちょっとした小物を運ぶのにも、古い増槽を改造したトラベルポッドというものに詰めたりコックピットの狭い隙間にねじ込んだりして持ち運ぶ。ISのように大きなものを運ぶことは、まず不可能といえる。

 「失礼ですが、どこへISを載せるつもりですか?」

 「載せると言うべきでしょうか、ミサイルなどを取り付ける場所に吊るすつもりです。」

 来栖はISのサイズを思い出してみる。幅があるためミサイルの携行数は減るだろうが、厚みは増槽タンクと大差ない。確かに吊り下げることは可能だ。

 けれど、問題はそれ以外にもある。

 「確認ですが、ISにパイロットは乗りますよね?」

 「何のためにでしょうか?」

 来栖の懸念通り、田辺は首を傾げる。

 「F-15は、失速速度でも二〇〇km/hを超えます。安定して飛ぶには最低でもその二倍程度の速度が必要です。そうなれば、空力を考えていないISが受ける空気抵抗がどうなるかお分かりでしょう。」

 指摘を受けた田辺は、その当たりは全く考慮していなかったといった感じで目を瞑り、頭を捻った。

 「やるのであれば、シールドバリアーで空気抵抗を小さくすることをお勧めします。」

 来栖がそう補足した途端、田辺は驚いたように顔を上げ来栖を見詰めた。

 「そんなところまでご存じなのですか?」

 「えぇ。まだ発生していませんが、いずれISによる領空侵犯も起きるでしょう。そのとき、相手の特性を知らなければ的にされるだけです。白騎士事件はその最たる例です。」

 いたって真面目な表情で答えた来栖を小畠が横で胡散臭そうに見詰めていたが、来栖も田辺もそれに気付くことはなかった。

 「それから――」

 更に続けようとして来栖は我に返り、自分が本気でISの空輸の方法を考えていることに気付く。嫌な気にはならないが、何となく癪なので言おうとしたことを取りやめた。

 「他にも突っ込みどころはありますが、空気抵抗がクリアできるなら輸送は可能と考えます。私の方からは以上です。」

 予想外の使用方法だったため、聞こうと思っていたことは全部吹っ飛んでしまった。それに、無理に質問を考えて相手に付け入る隙を与えるのも嫌だった。

 「それで、受けてもらえるでしょうか?」

 来栖は目を瞑り、深く息をした。正直に言って、受けても何もメリットがない。それどころか、余計なストレスを作るかも知れない。

 「期間は?」

 「長くても一週間かと。」

 再び、来栖が黙り込む。彼は、様々なことを心の中で整理していた。

 「司令官、どこかで一週間ほど休みを頂けますか?」

 まさか来栖がそんなことを聞いて来るとは予想していなかったのか、小畠は目を見開き眉間に皺をよせて驚く。彼は、しばらく来栖の目を見つめ続ける。

 「構わないが・・・やるのか?」

 「やるか否かは、田辺さん。私の出す三つの条件を聞いて頂けるかです。」

 それまでの優しい口調が一転、来栖の声のトーンが落ちる。

 〈やはり駄目かの・・・。〉

 このとき、男は既に半分諦めていた。悪意がなかったとはいえ、彼には相当不愉快な思いをさせている。もし逆の立場なら、確実に門前払いしている程に。

 「聞きましょう。」

 話を聞いてくれただけでも十分だ。男は覚悟を決め、来栖の言葉に身構えた。

 「一つ、報酬等は受け取らない。二つ、今回の依頼終了後、一切私に関わらないこと。三つ、F-15を航空自衛隊に返還すること。」

 

 

 

 三月の最終週。来栖はIS学園に向かっていた。

 「おはようございます。来栖翔霧です。」

 「来栖さんですね。入っていただいて、すぐ右に曲がったところでお待ちください。」

 「はい、分かりました。」

 守衛の指示に従い、学園内に入り車を止める。指定の時間まで二〇分ほどあり、近くに人の姿も見当たらなかったので時間を潰すためにリュックから本を取り出して読み始めた。

 しばらくして、コンコンと窓を叩く音がしたので左を見ると、田辺が立っていた。

 目が合うと、男はドアを開け助手席に乗り込む。

 「お待たせしました。」

 チラリと車の時計を見ると、まだ待ち合わせまで一〇分の余裕があった。

 「いや、今来たところです。行きましょう。」

 右足でブレーキを踏み、左足でサイドブレーキを解除。セレクトレバーをパーキングからドライブに入れる。

 「どっちへ行けばいいですか?」

 「取り敢えず、このまま道なりに進んでください。」

 田辺の道案内のもと、来栖は車を出した。

 

 「この先にあるんですか?!」

 三〇分ほど走り山道に右折して入った。綺麗な道ではあるが鬱蒼としており少し気味が悪く、本当にあの滑走路がこの先にあるのかと不安になる。

 因みに、ジョーイより随分と時間がかかっているのは、校舎の間ではなく敷地境界線沿いを走ったからだ。

 「ご安心を。もう五〜六ヶ月したら、外側の道路が完成する予定ですので。」

 そんな情報はいらないと心の中でボヤきつつ、安全運転で進んで行く。

 「この先で海へ出ましたら、左に曲がって海岸線を道なりに。そしたら倉庫が見えて来ます。それが格納庫です。」

 半信半疑のまま進んでいくと、男の言う通り海に出た。

 前に来たときはいろいろあったので道路からの景色は覚えていないが、空から見た景色は僅かに残っており、格納庫の前までは心に余裕を持って運転できた。

 「車は格納庫内に停めておいてください。」

 指示にされた通り中に入ると、数台の車が止まっていた。それに倣って来栖も車を停める。

 エンジンを止め車から降り、トランクを開けて耐Gスーツやヘルメットなどの装備を入れたバッグを取り出す。

 「随分と大荷物ですな。」

 「これでも少ない方ですよ。」

 そこそこ重量のあるカバンなのだが、来栖はいとも軽そうに持ち上げる。

 「向かって右奥のドアを抜けて、三つ目の部屋が更衣室です。」

 了解しましたと言い、来栖は更衣室に向かった。

 

 装備を整えた来栖は、F-15のところへ向かう。どこで調達したのか正規の梯子が機体には掛けられており、来栖は安心してそれを登る。

 機体にこれといって変わった様子はい。強いて言うなら、以前塗装が剥げたところが塗り直されていたことぐらいだ。

 マスクとヘルメットを座席の上に置き、機体の確認に入る。左エアインテークの上に乗り、胴体の上を移動。水平尾翼に乗り移り、方向舵(ラダー)や垂直尾翼に異常がないかを目視する。

 「すいません!今日のパイロットさんですか?」

 その作業をしていると、下方から声を掛けられたのでそちらに向き直る。

 声の主は整備士だった。彼らはとある日本の企業からの出向とのことだったが、エンジンと一部部品は除くF-15を整備できる企業は一社しかないのでバレバレである。

 「はい、そうです。」

 「何か気になるところはありますか?」

 「いえ、しっかり整備されています。ありがとうございます。」

 彼らの整備は確かなものだったが、これから自身の命を預けるもの。自分の目でしっかりと確認しておきたかった。

 しっかりと時間を掛け、機体の点検を行う。心配していた塩害は、流石に短時間すぎて発生していない。

 点検を終えて一息ついていると、耐Gスーツに身を包んだおっとりとした顔の女性が格納庫から歩いて向かってきていることに気が付く。

 「本日、航路案内を担当するものです。」

 その声に、来栖はピーンと来た。あの仮面の女性だと。

 「はい、よろしくお願いします。」

 しかし彼は、嫌な顔一つせず爽やかに挨拶を返した。

 「早速行きましょう。」

 来栖は颯爽とコックピットへ上がり、ヘルメットとマスクを着ける。女性も、そこそこスムーズな動作で後席に収まる。

 梯子が外され、来栖はエンジンをスタートさせる。

 第二エンジンのタービンに圧縮空気が送り込まれ、エンジンの回転数が上昇する。四〇秒ほどでアイドル回転に達し、エアインテークが下を向く。続けて第一エンジンも回転を始める。

 第一エンジンも起動が完了。動翼のチェックに入ろうとしたときだった。

 動作を指示してくれる整備員の姿がどこにも見当たらない。

 「すいません、指示を出す方はどちらにいますか?」

 無線で問いかけたが、返事がない。

 『すいません。私らは整備だけなんで指示はやったことないです。』

 申し訳なさそうな声が返ってきたが、こればかりは誰にも責任はない。仕方がないので、動作チェックは来栖が無線を使いどの動翼が動くかを直接指示。普段の倍以上の時間を掛けて確認作業を完了させた。

 

 〈近いなぁ、ここ。〉

 あれから二〇分後。来栖は着陸態勢に入っていた。

 公共交通機関を使うと二時間かかる距離と聞いて、気合いを入れて旅客機が来ない一六〇〇〇メートルまで駆け上がったが何のことはない。すぐに降下する羽目になった。

 出発場所が出発場所なら、目的地も目的地。狭くない代わりに短い。

 〈一五〇〇かぁ・・・。〉

 事前に聞いて覚悟していたが、いざ見ると本当に短い。

 しかし、やらなければわざわざ来た意味がない。

 着陸許可は既に出ている。降着装置を出し、機首を上げフラップとエアブレーキを目一杯展開。水平飛行を維持できるギリギリまで速度を落とす。

 滑走路の端に下ろさなければ、制動が間に合わなくなるかもしれない。

 IS学園の滑走路へのアプローチよりも更に神経を尖らせる。

 普段は乗り心地のことを気にして静かに下りる来栖も、今日ばかりはドスンと着陸する。

 祈る気持ちで制動を行う。彼の操縦に間違いはなく、滑走路に少しの余裕を残して減速を終了。着陸は無事成功した。

 一息ついても許される場面だが、余韻に浸ることなくエプロンに移動。停止後、ISを吊り下げる作業を安全に行うために第一エンジンをカットする。

 「エアインテーク及び、排気に注意して開始して下さい。」

 来栖の合図と共に、遠巻きに見つめていた作業員達が一斉に駆け寄ってくる。

 すぐに済むだろうと待っていた来栖だが、待っても待っても合図が来ない。心配になって外を覗いてみるが、主翼下の様子は何も見えない。

 まさかまた問題が発生したのか。そう思い始めたとき、『一機目終了』と無線が入る。正常に作業が進んでいたことに安堵すると共に、エアインテーク付近に人が居ないかの確認を取り第一エンジンを再始動。アイドルに達したので、第二エンジンをカットする。

 安全に作業が出来る状態になったと伝えると作業が再開される。

 「終わりました!」

 一回目で作業に慣れたのか、先ほどと同じ作業内容とは思えない短時間で取り付けが完了した。

 全員が退避し終わると、すかさず第一エンジンのみでタキシングを開始する。平行して、第二エンジンの再始動を急ぐ。

 昨年末のこともあり、あまり悠長にする暇はない。離陸滑走をテロリストなどに狙われるのを避けるため、離陸許可はなしだ。

 定期航路のない空港だから成せることではあるが、スクランブル発進でも管制の指示に従うことを考えて来栖は複雑な気持ちになる。

 しかし、すぐにその考えは頭の片隅に追いやる。ローリングテイクオフを行うため、エンジンの立ち上がりラグを計算し誘導路でスロットルを全開の位置に入れる。彼の計算に狂いはなく、滑走路進入ドンピシャのタイミングでアフターバーナーが発生。体がシートに押さえつけられるほどの加速が始まり、瞬く間にF-15は離陸していった。

 「・・・。」

 行きは航路の指示があったが、道の分かる帰りは全く話す事がない。普段から単座機に乗っている来栖には普通のことだった。けれど、そんなことを知る由もない後ろの女性からしてみたら、彼の振る舞いは機嫌が悪いようにしか写らなかった。

 それは、着陸降下を始めようかと言うときだった。

 「あの、すいませんでした。」

 ここで謝っておかなければ一生後悔すると思った彼女は、思い切って謝罪する。

 「え?」

 ただ、当の本人はほとんど忘れかけていたことだったため困惑する。

 「・・・あぁ、いいよ。命令だったんでしょう?」

 すぐに何のことかを思い出し、もう気にしていないと伝えた。それは、この仕事を引き受けたあと田辺からそういった説明を受けたからだった。

 「ですけど、私の言ったこ――」

 「口閉じてろ!舌噛むぞ!」

 刹那、来栖が怒鳴る。しかし、そこに怒りは含まれていない。

 聞き慣れないアラームがコックピットに響く。これは、何かよからぬ危険が差し迫っている。彼女が慌てて口を閉じた次の瞬間、機体は右に鋭く曲がる。

 〈何てGなの?!〉

 凄まじいGに、彼女の視界がグレーになる。先ほどまでは旅客機と同等かそれ以上の安定と安心感があったのに、今はそれが欠片も感じられない。

 マイナスG、左ロール、右旋回。刻一刻と変化するGに姿勢を安定させるのもままならない。

 「おい!教えた呼吸方はできてるか!?」

 彼女が軽いパニックを起こしていると感じた来栖は、すぐに声を掛ける。普通の口調で話しているが、この時点で四.五Gが掛かっていた。

 「っつ・・・はい!」 

 すんでのところで彼女は失神を免れた。

 高Gでの機動は続いており、気は抜けない。彼女自身、ISでこれ以上の高Gで旋回したことがあるが、これ程にきついことはなかった。身を以てISのありがたさを理解する。

 「あの、何があったんですか?」

 少しGが緩んだタイミングで、彼女は来栖に尋ねる。

 「レーダーロックされて・・・まずい!ミサイルを発射された!回避!」

 アラームの音が一段と危険を感じさせる音へ変わる。同時に、来栖は通常ではありえないアフターバーナー全開での垂直降下を始めた。

 そして、すぐにスロットルを絞りマッハを超えないギリギリを維持する。

 『あの、これって墜落しませんよね!?』

 「させない!」

 操縦しているのは、来栖だ。この先の運命は、彼の腕に掛かっている。その責任があることを自分に言い聞かせるため、「しない」とは言わない。

 瞬く間に近付いて来る地面に、機体下部に吊られているISの搭乗員は恐怖を覚える。

 〈ミサイルと俺と、チキンレースの開幕だ。〉

 通信機の向こう側から「ギャーッ」という悲鳴が二つ聞こえてくるが、来栖はまだ引き起こしを始めない。

 〈・・・今だ!〉

 来栖が操縦桿を引く。

 ほぼ音速からの急激な引き起こし。旋回半径はとても大きい。それでも、九Gが発生する。流石に来栖も、乗員に気を配る余裕はない。

 〈ここだ!〉

 操縦桿をセンターに戻すとGが抜ける。ミサイル追尾の警報は消えていた。体の緊張を解き、間髪を入れず周囲の様子を見る。

 手が届きそうなところに、民家の屋根があった。

 目測で高度二〇メートル。急激な引き起こしである程度速度は落ちていたが、まだ地上に悪影響が出かねない速度がある。エアブレーキを展開し、更に速度を落とした。

 逃げ切れたことに彼は安堵する。

 「大丈夫ですか?」

 降下中は悲鳴を上げていたのに、今は静まり返っていたので来栖は心配になる。

 『・・・あ、はい、何とか。』

 少し放心しているようだが、流石はISといったところか。あれ程のGでは何事もなかったかのような声が出ていた。

 因みにだが、後席の女性は伸びてしまった。軍人でも耐えきられないことがあるGが掛かったのだから仕方ないが。

 『あの、来栖さん。今、良いですか?』

 「少しなら。」

 『あれは、ISの奪取に来た組織の攻撃ですか?』

 ISに乗っている教員は、不安から声が上ずっていた。

 「いや、違うでしょう。ISが狙いなら、ミサイルで攻撃はしてこないはずです。」

 その不安を吹き飛ばすように、来栖は即行に否定した。

 「考えてみて下さい。今から盗もうとするものに向けて爆発物を撃ちますか?」

 言われてみれば、目的のものを壊してしまう可能性のある行動など普通はしない。突然撃ってくることなど滅多にあり得ないと彼女は考えを改める。

 『じゃあ、目的は・・・?』

 「さあ・・・。」

 余裕そうに話しているが電線や鳥といった障害物が多く、難しい質問を考える余裕はない。

 間もなく海が見えてきた。

 洋上へ飛び出すと、スロットルをミリタリーパワーまで上げ左旋回して高度を下げる。

 「おったぁ!」

 突然、来栖はそう叫び背面飛行に移った。

 「直線上にいるはずです!」

 来栖の意図を読み取り、ISの操縦者はハイパーセンサーを使用してIS学園上空を望遠する。

 『います!』

 すぐに答えが返ってきた。

 「機種は分かりますか?」

 『いえ、それはちょっと・・・。』

 「それなら、垂直尾翼の枚数とエンジンの数、機体色は見えますか?」

 『はい。えぇっと、垂直尾翼は一つ、エンジンは・・・それも一つです。カラーはグレーです。』

 〈F-16か。〉

 すぐに通常飛行へと戻り、万が一撃たれたときに備えチャフとフレアをいつでも出せる状態にする。

 かすんで見えていたIS学園が、その輪郭をハッキリと捉えられる理にまで近付いた。そこでようやく、上空を旋回する戦闘機を肉眼により確認する。

 相手もこちらに気が付いたようで、旋回を中止して一直線に向かってくる。

 本当に敵だった場合、下手に上昇すればミサイルで狙われる。相手の機動に乗らず、来栖は直進する。

 僅か一〇メートルほど頭上をF-16が通過する。その瞬間、来栖に途轍もないプレッシャが襲いかかってきた。

 〈あのピタッと決まった姿勢。それに、相手の死角へ切り込む機動・・・まさか!〉

 『来栖君、応答してくれ。』

 そこへ無線が飛んでくる。後方に注意しつつ、それに出る。

 「はい、何でしょう。」

 『――という男が、あの戦闘機乗っておる。君に手合わせをして欲しいそうだ。』

 田辺の声は、深刻なものではなく余裕があった。

 だが、来栖は息を呑んだ。そして、こう呟いた。

 「デス・・・エンジェル。」




2024/7/18 誤字を修正しました
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