IS学園の猫ちゃん 作:只の・A・カカシです
その頃、IS学園は大慌てになっていた。
被弾こそないもののF-15が攻撃を受けた。輸送中のISに乗っている教員からその連絡が入ったのは二分前。
また、その手の組織が仕掛けてきたのか。教員達に緊張が走る。
田辺は、学園のIS二機がいつでも出られるよう準備の指示を出していた。そのとき、男の携帯電話が鳴る。
通知は非通知。この忙しいときに誰だと思いながら電話に出る。
「はい、どちら様でしょう。」
『よぉ、元気か?』
「!!」
電話から聞こえた声は、アメリカから呼んだパイロット「ジョーイ・マッケンジー」のものだった。
「何か用事ですかの?」
『あぁ、近くにいる。』
男は辺りを見回すが、どこにも彼らしき姿は見当たらない。
〈それにしても、この雑音は何じゃ?〉
様々な音が入り混じり電話越しに聞こえてくる。
彼は何がしたいのか。そう思って首を傾げた・・・次の瞬間。一機の戦闘機が滑走路を直交方向に掠め飛んでいった。
『見えたか?』
「ジョーイ君!?何を!」
あまりにタイミングがよすぎる。これはもう、彼がミサイルを発射した犯人としか思えない。
『彼に伝えてくれ。お前と勝負したいってな。』
〈勝負?何を言っているんだ?〉
『おぉ、噂をすれば彼が戻ってきた。よく見とけ、お前らが侮っている来栖翔霧の実力をよ。』
そう言い残し、ブツッと電話が切れる。
いったい何を企んでいるのか。だが、取り敢えずは伝言を来栖に言わなければと男は無線を取った。
『デス・エンジェルって何ですか?』
なぜ、ジョーイ・マッケンジーがこのようなところにいるのか。驚きのあまり固まっていた来栖に、ISに乗っている教員から通信が入った。
「何の捻りもない死の天使って意味で、あの戦闘機のパイロットの二つ名です。狙いを付けた敵機は必ず撃墜する。搭乗機の垂直尾翼に天使の絵を描くから、敵味方双方からそう呼ばれています。」
後方で、F-16がバーティカルターンしているのが見えた。
「F-16に告ぐ。本機はIS学園所属機である。本機は非武装だ、攻撃を中止せよ。」
周波数を合わせ、来栖が無線で呼びかける。返ってくる雑音から、繋がっているのは間違いない。
突然、F-16がバルカン砲の弾をばらまいた。それは明らかに当てる気のない軌道だったが、見逃す気はないという意思を示していた。
〈ッチ、これは想定外だな・・・。〉
相手の狙いは来栖との戦闘。彼を撃墜することが唯一の目的であるため、攻撃に手加減は望めない。
よもやミサイルが必要になるなど夢にも思わなかったため、必要装備から外したのは失敗だったと彼は歯噛みする。
加えて、レーダーの下に潜ろうと低空飛行したことで退路がほとんど閉ざされている。
彼がいつ撃ってくるか。キャノピーフレームにつけたミラーを確認したとき、F-16が先ほどより遠くにいることに気がつく。
〈マジか!〉
瞬時に計器へ目を走らせ、速度が463km/h以下であるのを確認すると降着装置を出す。そして、なんの迷いもなく主脚を着水させた。
水の抵抗により機体は激しく振動する。僅かでも手元が狂えば、即刻機体は水に飲み込まれてしまう。
三秒後、来栖は機首を上げて離水すると、機体を海面から引き剥がすように上昇をかける。上昇開始速度が低くミサイル等を携行していれば失速しかねない機動だが、装備が軽いお陰でF-15は僅かに加速しながら上昇していく。
それを、慌てたようにF-16が追従する。
『何してるんですか!?下手したら墜落しますよ!』
「文句は後で聞く!」
着水したことについて、ISに乗っている教員から苦情が入るがばっさりと切り捨てる。
来栖は、相手がギリギリミサイルを撃てない絶妙なコースを維持しつつ上昇していく。
上昇後、来栖が左旋回へ入る。F-16がそれを追う。
そして、F-16が後ろを取った・・・かに見えた次の瞬間、F-16はF-15の旋回半径に入ることが出来ず外側へと飛び出して行く。
ミラーでそれを見ていた来栖はすぐにF-16の後ろへと入る・・・ことなく機体を切り返し一息にそれの下を潜り逆方向へ旋回していく。
撃つミサイルがないとは言え、なぜ絶好の位置に付くチャンスを手放すのか。それは、F-16のオーバーシュートが意図して行われたものだと感じたから。ただのオーバーシュートなら、もっと高速であるはずだと。
二機は互いに相手の後ろを取ろうと、円を描くように旋回を行う。
装備は軽いが地が重いF-15と地は軽いが装備の重いF-16。
少しの間は互角に見えていたが、エンジン一個分の差は大きい。じりじりと、F-15がその差を詰めてゆく。
たまらず、F-16はブレイクする。だが、少しばかり判断が遅かった。
その後方に、ピッタリと来栖はつけた。
何とか振り切ろうとF-16は機動を行う。来栖もまた、この位置を維持しようと必死に食らいつく。
〈何だ、この機影は?〉
そのとき、レーダーに何かが映りこんだ。
『離れて!やあああぁぁぁ!』
それが何であるか。無線から聞こえてきた声から一発で分かった。
学園所有のISだ。それは、雄叫びを上げながらF-16に向け突っ込んで行く。
「馬鹿!正面から入るな!」
ヘッドオンは空中衝突の危険が高い。このままF-16を追えば衝突に巻き込まれかねないと、来栖は即座に上昇へと移る。
来栖の視界から一時的にF-16が消える。その瞬間に、F-16は右主翼端レールからサイドワインダーを放ち左へブレイクする。
放たれたミサイルは一直線にISへと向かい。
『キャァァァ!』
見事に命中した。
「おい、どうした!?」
その悲鳴に来栖が下を見ると、空中に煙が発生しておりそこから錐もみ状態に陥ったISが海面に向けて落下していった。
『嘘!すいません!先生を助けに向かって――』
「無理です。」
要求を最後まで聞くことなく来栖は断った。
『見捨てるんですか!?』
彼女のその気持ちは分かる。だが。
「近寄ったら私が墜ちます。ジェットエンジンは民間用だろうが軍用だろうが異物に弱いんです。鳥が飛び込んでもエンジンが止まることだって珍しくありません。見えますか?ISの周囲にミサイルの破片が舞っているのが。あれは金属片を含んでいますから、吸い込んだら一発でやられます。」
無論、来栖も行けるなら助けに行きたい。けれど、ミイラ取りがミイラになっては元も子もないのだ。
〈あそこか!〉
F-16は衝突を回避する行動を取っていたために、来栖からすると好位置を飛行していた。
来栖は左に最大Gで旋回。自機より低空にいるF-16目掛けて降下。加速しつつ接近すると、何の躊躇いもなくF-16の真正面に入った。狙いは一つ。相手をジェットウォッシュに入れること。
来栖の狙いは成功しF-16の速度が一気に落ちる。
だが、これで終わりではなかった。
来栖は、エンジンの回復に苦しむF-16の右手側でF-15を背面飛行させる。そして僅かに右主翼を上げスーッとF-16へと接近すると、主翼をF-16のラダーに接触させた。
その瞬間、軽い衝撃が機体を揺さぶる。
来栖は左のラダーペダルを踏み機首の向きを変え、九〇度右ロールを打ってマイナスGで離脱を行う。
その接触は操縦ミスではない。コントロールされた接触だ。
来栖はF-15の主翼のフレーム、要は翼の中で一番硬い場所を当てることでF-16のラダーを曲げたのだ。
F-16は一時的に姿勢が乱れたが、フライ・バイ・ワイヤによりほどなく安定を取り戻す。ところがF-16はエンジン出力を上げることもなく、まるで糸が切れたように降下していった。
-*・ジョーイ・*-
俺は今、視界外射程*1からレーダーF-15Jをロックオンしている。理由は簡単、国籍マークが描かれていない所属不明機だから。
と言うのは建前で、本当の目的は来栖翔霧の実力をIS学園の連中に見せつけること。だって、視認してないからマークがあるかないかなんて分からない。まあ、十中八九描いていないだろうけど。
因みに、現在の飛行場所はIS学園のすぐ近くで、乗っているF-16は三沢の同胞に借りてきたものだ。
〈どうした?それがお前の本気か?〉
どこかやる気のない回避行動に見えて、俺は手が滑ってついうっかりトリガーを引いて
〈おぉ、なぜか飛んでいった!〉
するとどうだろう。五秒と経たぬ内にF-15はレーダーから消えてしまった。恐らく奴は垂直降下をすることで、レーダーの盲点を突いたのだろう。
このままミサイルを放置するとただのテロになってしまうので、誘導場所を変えて海に落下させる。
こうなればどんなパイロットでも、こちらを見つけるためにレーダーを照射してくるだろうと俺は待っていた。が、予想は外れてレーダーは照射されない。逆探知するつもりで待っていたが、期待できそうになかったので俺はすぐに捜索を行う。ところが、全く反応が得られず俺は少しばかり焦る。
〈まさか、引き起こしに失敗したなんてないよな?〉
そこで俺は、IS学園のボスの電話番号を知っていることを思い出し掛けてみた。
『はい、どちら様でしょう。』
その声色で、俺は来栖が無事なことを確信した。そして伝言を託したのと同時にF-15が戻ってきたのでさっさと電話を切った。
俺は挨拶代わりに奴の直上を掠め飛んだ。そして、バーティカルターンを行いF-15の真後ろに付いく。
当然と言うべきか、奴から無線が入る。内容は、丸腰だから見逃せであった。
その言葉は、逆に俺の心へ火をつけた。
もっと足搔けと、銃弾をばら撒く。並みのやつなら、これで戦闘態勢に入ろうとして上昇し的になるところだが、流石と言うべきか奴は全く動じることなく低空飛行を維持する。
〈さて、こいつはどう料理する?〉
エアブレーキを使い減速。F-15との距離を取ると手元のスイッチをガンからミサイルに切り替える。
〈ターゲットロック・・・ファイア!〉
トリガーを引いた、まさにその瞬間。F-15は高度を下げすぎて着水してしまった。
〈あ〜あ、やっちまった。〉
どうやら俺は、来栖翔霧のことを買い被りすぎたらしい。
無駄足だったと呆れつつ帰投しようとした俺は、信じられない光景を目の当たりにした。
何と、水しぶきの中からF-15が飛び上がったのだ。
慌てて上昇に転じたが、完全に出遅れていた。
〈まさか、水しぶきでサイドワインダーの赤外線追尾を振り切ったってのか!?〉
飛行艇でも着水時には危険が伴う。それをジェット機の飛行速度でやってのけるのだから途轍もない操縦テクニックだ。あれは俺には真似できないし、する度胸もない。
〈けどよ、この速度はF-16の得意ゾーンだ!〉
図らずも、F-15より優位に立てる状況が出来上がった。
そして、有難いことにF-15は旋回を始めた。これなら、確実にやれる。この好機を逃がすわけにはいかないと、必殺の機動を選択した。
それは、わざとオーバーシュートして相手が油断したところで速度を一気に絞り、攻撃に移ろうとした相手の背面にミサイルを撃ち込むといったものだ。
俺はこれを幾度となく実戦で使い、掛からなかった奴は誰一人としていなかった。そして、来栖もまたそれに掛かった兆候があった。
〈貰った!〉
F-15の背面に機首を向けようと縦桿を引いた、まさにその瞬間。まるで狙い澄ましたかのように、F-15は反転。俺の下を通り抜けて逆方向の旋回に入った。
〈嘘・・・だろ。〉
百発百中だった技が、初見で見切られた。俺にはそれが信じられなかった。
味方にもこの機動を教えたことがなく、敵は機体諸共パイロットを屠ってきたので知っている者が存在しているはずはない。
戦場でも感じたことのない戦慄というものを、俺は今、初めて体感していた。
何処かに甘い心があるのではないか。何が何でも墜とすと自分に言い聞かせ、俺はギアを一つあげる。
だが、速度に乗ったことでF-16には不利な展開になってきた。オマケに増槽とミサイルをフル装備(二発撃ったけど)なので、速度を維持しよとすると旋回半径が大きくなってしまう。
結果から言うと、ここでF-15の後ろを取ろうと粘ったのが間違いだった。
相手は丸腰なのだから、俺は一撃離脱の戦闘を行うのが最適解だ。なのに俺は、来栖にまんまと乗せられ自分から不利な状況を作ってしまった。
何とか射線を確保しようと足掻いてみるものの、F-15はピッタリとくっついて来る。
せめてシザースにでも持ち込めれば打つ手があるのだが、そこまで持って行けそうにない。
このままいくと、燃料切れでドローに終わるかもしれない。
そう焦りを覚え始めたとき、レーダーが前方からの飛翔物を捉えた。
航空機ではない。接近速度の遅さから、俺はそれがISだと確信する。
〈ヘッドオンか。いい度胸だ。けどな!〉
真っ向勝負に付き合う義理はない。俺はミサイルを発射すると左にブレイクした。
けれどその一瞬だけ、ISに気を取られ来栖のことを失念してしまった。しまったと思ったときにはもう、彼の姿は後ろになかった。
ハッとして上を見ると、ハイスピードヨーヨーに近い機動で彼が迫ってきていた。やられてたまるかとスピードブレーキをかけたのも、もしかすると奴の思う壺だったのだろう。
確かにF-15が頭上に来た瞬間は「やった!」と思った。
だが奴は、あろうことかF-16の進路へ、それも鼻先数メートルと言う距離に入って来て俺をF-15のジェットウォッシュに入れたのだ。
F-16のエアインテークが一つでなかったなら、あるいは回避できたかもしれないがエンジンは急速に推力を失う。
速度を維持するために、やむを得ず降下を行う。そこへF-15が、背面の状態で機体を被せてくる。
「おい、近い!?」
俺は思わずコックピットで叫ぶ。
直後、機体に小さい衝撃が走る。あろうことか奴は、体当たりを仕掛けてきた。
機体が言うことを聞かなくなる。後ろを見ると、ラダーが曲がっているのが分かった。
〈・・・負けた。〉
どんなに格下の相手にも手を抜いたことは今まで一度もなかったし、相手が同格以上の相手でも勝ち以外を意識したことはなかった。それは必ず生還する自信があったからだ。
けれど今の戦闘で、俺は攻撃されることはないと高をくくっただけでなく、ドローを意識した。
俺は、もうファイターとして終わりが来ていること自覚する。
「来栖翔霧、聞こえるか?」
『何だ?』
無線を飛ばすと奴はすぐに応答した。
「いきなり撃って悪かった。けど、所属マークぐらい描いとけ。・・・最後にお前と勝負出来て楽しかったよ。」
『おい何の――』
彼の返事を待たず無線を切る。
〈奴を一番甘く見てたのは俺だったか。〉
体から力が抜け、操縦桿とスロットルレバーから手が離れる。
機体が重力に引かれ急降下していく。海面が近付いてくる。普通なら、アラームが喧しく地表接近を警告するはずだがそれが黙り込んでいた。ふと、この機体が軍縮で退役を控えていたことを思い出す。
「バイパー・・・そうか、お前もファイターとして――」
-*・A・*-
「来栖君!大丈夫でしたか!?」
F-16との戦闘に辛勝した来栖を一番に迎えたのは田辺であった。
「えぇ、何とか。」
戦闘機から降りてきた来栖の口調は冴えないものだった。
「すいませんが、二往復目は中止にさせて下さい。」
「あぁ、構わない。休んでくれ。」
今までが嘘のように、男は何も聞かずあっさりと受け入れた。
来栖が、海に目をやる。海上に大きな火柱が立ち、黒い煙がもうもうと上がっていた。それはF-16が墜落、大破して漏れ出した航空燃料に引火して出来たものだった。
来栖はゆっくりとした足取りで海岸線に向かい、先に野次馬していた数名に混ざって呆然と炎を見つめポツリと呟いた。
「こっちの気持ちも考えてみろってんだよ・・・。」
戦闘機に乗る以上、有事の際には相手の命を奪う覚悟を来栖は持っていた。だが、無駄な殺生にならぬよう手加減した相手が自ら海へと突っ込んだのだ。気分がいいわけがない。
しばらくそれを見つめていた来栖だったが、踵を返すとF-15のもとに戻る。既にISの取り外しは完了していて、機体の周囲にはそれ程人がいない。
「すいません、主超音波検査機ってありますか?」
偶然格納庫から出てきた整備士を来栖は捕まえる。
「超音波検査ですか?・・・ちょっと待って下さい。」
そう言うと、整備士は格納庫に走って戻っていった。そしてすぐに、彼は半笑いしながら戻ってきた。
「いやーエグいですね。弊社にも欲しいぐらいの良い装置があります。」
無駄なところで良い装備を揃えたがるIS学園だが、今回ばかりは来栖にはそれがありがたかった。
「主脚と右主翼を検査してもらえますか?」
彼は主脚を着水させたこと、敵機を怯ませるために体当たりのことを整備士に伝える。
「えぇ・・・そんな使い方したんですか?」
「はい。やらないとやられていたので・・・。」
ドン引きしている整備士に、来栖は申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。
「分かりました。」
彼らもそういったことをするために呼ばれているので嫌とは言えない。
「亀裂が入ったまま飛ぶのは危険ですからね。」
飛行中に翼が折れたら墜落の危険がある。F-15は片翼で飛んだ実績もあるが、その際の飛行速度は高く安全に着陸できる保証はない。
来栖が二往復目を中止にして欲しいと頼んだのも、この整備にしっかりと時間を掛けたかったと言う側面もある。
整備士はすぐに格納庫へと戻ると、数名を引き連れ機械をフォークリフトに乗せて持ち出してきた。
整備士達は機械をセットすると、手始めに主脚のチェックに取りかかった。
「来栖さん、検査してみましたが亀裂は見当たりませんでした。」
日が傾き始めた頃、整備士が事務作業を行っていた来栖にそれを伝えに来た。
「それから、翼端の塗装が少し剥げていたので少し塗り直しました。」
「ありがとうございます。」
万が一の場合は空自にお願いして機体交換を行わなければと思っていただけに、無事と分かり来栖は胸をなでおろす。
「いいのですか?」
「何が?」
ホッとしたところに唐突に話題を振られ来栖は首を傾げる。
「赤丸です。あれだと日本のマークに見えますけど。」
応急的に描いた所属標記のことかと彼は納得する。
「仕方ないよ。また国籍不明機だって言う理由で撃たれるの嫌だもん。」
厳密には楕円に描いてあるし縁の白線を省略してあるので、どこの国のマークでもない。IS学園にマークがあれば問題なのだが、航空機の導入も急に決まったことなのでないのは仕方ない部分もあった。
「ところでそれは?」
ふと整備士が、来栖が机一面に広げていた書類に興味を示す。
「これ?ミサイルの注文・・・注文じゃないな。ミサイルを所属部隊から借りようと思って、その手続き。流石に丸腰じゃ怖いからね。」
来栖は苦笑いをしながら最後の一枚にサインをし、一枚ずつ順番に重ねてクリアファイルへ入れカバンに仕舞った。
因みにF-16の撃墜については来栖の正当防衛ということで、彼に実害が及ぶことはなかった。
翌朝。来栖は一度百里へと飛び、ミサイルを受領してからISの輸送に向かった。
結果から言うと、彼がミサイルを撃つ機会はなかった。それは、来栖が勝利したジョーイ・マッケンジーは世界でも屈指のエースパイロットであり、完全武装した彼に丸腰で勝利した来栖に手を出そうという猛者が皆無だったからである。
「これで契約満了です。ありがとうございました。」
最後の一機を運び終えた来栖に、田辺は格納庫の扉の前で労いの言葉を掛けた。
「どういたしまして。では、これにて失礼します。」
来栖は軽く敬礼をすると、荷物を入れたカバンを持ち上げ颯爽とF-15へ歩き出す。
「来栖君。」
それを、田辺が呼び止めた。
「一つだけ教えてくんか。なぜ輸送に協力してくれたのじゃ?」
来栖は、少し躊躇いを見せたが男の方へ向き直る。
「ISの数はまだ少ないです。ですが、そう遠くない未来にはIS学園の最初の生徒達が戦闘機や戦車などと取って代わり前線に立つと私は思っています。そのときに、訓練が不足していたがために操縦者が命を落とす。そんな未来を私は見たくありません。それだけのことです。」
彼は、再びF-15に向け歩き出す。
最終日の今日はF-15で帰投するので、自家用車ではなくタクシーでIS学園に来た。
梯子を登り、カバンを後席に乗せベルトで固定する。その作業を終えて、来栖はコックピットに収まると第一エンジンを始動させる。
飛行前点検を省略するために第二エンジンをカットせずにいたので、すぐに第一エンジンは立ち上がった。
ジェトブラストが及ぶ範囲内に人がいないことを確認すると、来栖はF-15を滑走路に進入させる。そしてジェットブラストディフレクターが立ち上がったのを確認すると、パワーを上げ百里に向け離陸滑走を開始した。
2021/7/18 誤字を訂正しました