IS学園の猫ちゃん   作:只の・A・カカシです

9 / 63
このところ忙しくて更新が遅くなってしまいました。失礼しました。
次話は予定通りに出せると思います。



・・・多分。


第9話 そして来栖は

 四月の二週目。花壇には草花が鮮やかに咲き誇り、その周りを蝶やミツバチがせわしなく飛び回っている。

 そして校舎の方からは、少女達の可憐な声が聞こえてくる。

 IS学園は無事開校を果たしていた。

 「うーむ、駄目だったか・・・。」

 そんな春の陽気を感じることなくIS学園の秘密の部屋で中年の男、田辺(仮名)はうな垂れていた。

 原因は昨夜まで遡る。

 

 

-*・A・*-

 

 

 夜九時、すっかり静まり返ったIS学園。秘密の部屋にいた男は、受話器を持っていた。

 『Hello, this is United States Navy.(はい、アメリカ海軍です)』

 男が電話をかけていた相手は、アメリカ海軍の上層部であった。

 「Hello, this is Ishida from IS high school.(はじめまして、IS学園の石田と申します。)」

 男は身元を特定されにくいよう、航空自衛隊に使ったものとは異なる仮名を名乗る。

 『ほー、珍しい電話だな。どういう風の吹き回しだ?』

 男が名乗った瞬間、相手の声のトーンが高いものに変わった。男は仕事柄、諸外国の人と会う機会が多く、国ごとの傾向を知っている。アメリカ人がこの様な高いトーンを使う場合は、機嫌が悪いことが大半だ。

 『やっぱりいい、要件は何だ?』

 今回もそれに違わないようで、男は顔を顰める。

 回りくどく話して相手を懐柔させようとしていただけに、これは非常にまずい展開だった。気付いていない振りをするべきかという考えがよぎったが、電話を途中で切られては元も子もないと腹を括る。

 「F/A-18、ホーネットっという戦闘機を売って頂けないでしょうか?」

 ほんの二秒、沈黙が続く。

 そして。

 『寝言か?そりゃ?』

 この瞬間、男はこの話が交渉にすら持ち込めず終わることが手に取るように分かった。

 『お宅等が全面に押し出す白騎士が何を撃墜したのか知らねえのか?知ってるわけないよなぁ。知ってたら、どの面下げてかけてきてるんだって話しだ。アメリカ海軍(俺達)のスーパーホーネットだ!お陰で数が足りねえ!先に言っとくけどな、穴埋めにレガシーホーネットを使っちまったから余剰機なんかないからな!』

 ガチャッと乱暴な音を立て、通話は一方的に切られてしまう。

 〈次に行くか。〉

 けれど、男はアメリカ海軍が一方的にISを恨んでいるために断ったのだと思い深刻に考えてはいなかった。

 『はい、カナダ空軍です。』

 「あぁ、もしもし。IS学園の三井戸と申します。」

 『IS学園?何の御用でしょう。』

 カナダ空軍の物腰に変化はない。やはりアメリカ海軍は恨んでいただけかと思った男は、相手を同情させるような巧みな話術でF/A-18が欲しい理由を伝えた。

 「――と言うことです。」

 『そうですか。』

 あと一押しだ。そう思って、口を開こうとした瞬間だった。

 『申し訳ないが、私達も機体数が足りてない。力になれなくて悪いが、他を当たってくれ。すまない。』

 プツリと電話が切れ、男は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

 もう戦闘機は時代遅れだ。今日では、誰もがそう信じて疑わないし、男もそれを信じていた。

 だから戦闘機はどこの国も余っていて、ただ同然で手に入ると思っていた。

 それは、日本の防衛大臣が二つ返事でF-15を融通してくれた過去があったから。

 急に焦りを覚えた男は、書籍やネットで調べたF/A-18を持つ軍に手当たり次第に電話を掛ける。

 しかし、どこも返事は『余剰はない』であり、ダメ元で掛けてみた製造元にも『今は作ってない』と断られてしまうオチまで付いた。

 「お忙しいところ失礼しました。」〈これで・・・全滅か。〉

 やっとの思いで見つけたと思っていた答えは、まだ始まりですらなかった。

 疲れがドッと出てきて、話す相手のいなくなった受話器を戻すと倒れるように椅子の背もたれに身を投げる。

 これは早く片づく問題と思い先回ししていたのに、この体たらく。計画は、また振り出しに戻った。

 

 

 -*・A・*-

 

 

 〈F/A-18以外で使用要求に合うのはF-4。じゃが、流石に半世紀前の機種は・・・。〉

 男はため息を一つついてから立ち上がり、部屋から出て行った。

 

 それから二日後の午後。男が、教員から出た学園の改善要望に目を通しているときのことだった。

 特殊回線を引いている固定電話が着信を告げる。男は『IS委員会からの電話だ』と思って受話器を取った。

 「はい、IS学園です。」

 『こんばんは・・・じゃないですね。こんにちは。アメリカのしがない軍需メーカーです。』

 「・・・はい?」

 ところが、電話をかけてきたのは思ってもみない相手だった。男は素っ頓狂な声が出てしまう。

 『軍需メーカーです。』

 「あぁ、はい。」

 なぜ社名を言わないのかと怪しみながらも、男は話を続けさせる。勿論、テロリストなどによる詐欺ではないかと身構えた上で。

 『F/A-18と機体サイズの近い戦闘機を探されていると聞きまして。ぜひとも弊社から提供させて頂きたくお電話いたしました。』

 「提供?いわく付きですかの?」

 タダでくれると言うことに、男は胡散臭さを感じる。

 『いいえ、まっさらな新品です。七〇〇機以上が製造された実績のある機種です。いかがです?』

 求めるスペックを有し格納庫に入るサイズの戦闘機は調べ尽くした。それだけの実績のある機種を調べ漏らしているとは考えがたい。

 「何を企んでおられる?」

 『滅相もございません。我々としても折角造った機体。倉庫で朽ちるよりも空を飛んでいて欲しい。それだけです。』

 〈新品か。〉

 相手の言っていることは本当だと分かった。もし本当にくれるというのなら、これほど美味しい話はない。

 男は暫し悩む。

 『整備士とミサイル、それから予備の部品も手配しましょう。』

 「・・・よかろう。」

 押しつけようとしているのは間違いなかったが、背に腹は代えられなかった。

 『ありがとうございます。』

 

 

 -*・A・*-

 

 

 五月の中旬。来栖は、世間より遅いゴールデンウィークを迎えていた。

 普段は忙しい来栖も、このときばかりは家でくつろいでいた。

 けれど、それは午前中のうちに終わりを迎えることとなる。

 それは食材の買い出しに出かけようと、車に乗り込みエンジンをかけたときだった。

 ポケットに入れていたスマートフォンが着信を知らせる。彼は急いで取り出し電話に出る。

 『富士桜病院の山下と申します。来栖さんのお電話でしょうか?』

 それは、いつも健康診断を受けている病院からだった。

 「はい、そうです。」

 何か引っかかったのだろうか。彼は身構えたが、それにしては電話をかけて来た女性の声に余裕がない。

 『非常に申し上げにくいのですが、当院に入院されている水本英子さんという方が危篤状態にありまして、ご家族様が――』

 「すぐに向かいます!」

 話は途中だったが、来栖は血相を変えて車を発進させた。

 

 「すみません、お電話いただいた来栖です!」

 おまわりさんに捕まらないギリギリの速度で車を走らせ、彼は十数分で病院に駆けつけた。

 「来栖様ですね、少々お待ちください。」

 そう言って、受付の看護婦は内線で連絡を取る。

 「この先へ行っていただいて、三つ目のドアを開けて入ってください。」

 「分かりました。」

 急く気持ちから、自然と早足になる。

 三つ目のドアには、すぐに辿り着いた。ノックをしたが返事はない。指示された部屋なのだからいいだろうと、来栖はドアを開け入る。

 ところが、中には何もなくガラリとしていた。

 間違えたのだろうか。そう思って部屋から出ようとしたが、ドアはビクともしない。

 〈嵌められた?〉

 色々な方法を試してみたが、どうにもドアは開かない。

 〈天井は石膏ボードか。〉

 最悪の場合、ぶち抜いて脱出できる。そう思った瞬間、来栖の入ったドアの対角線上にあるドアから迷彩服に身を包み小銃を携えた、少なくとも病院関係者ではなさそうな風貌の男が二人現れた。

 来栖は一瞬身構えたが、装備品から陸上自衛隊の特殊部隊であることを察する。

 「こちらへ。」

 片方がそう言って、入ってきたドアの向こうへと消える。来栖はそれを追いかける。

 ドアの向こうはバックヤードのような通路だった。ただし、明るさは表側の通路と同等かそれ以上が確保されていて手入れもされており、薄気味悪いと言うことはない。

 階段を降り、何枚もの分厚いドアをくぐる。病院の下に、よくもこんな巨大な空間を作ったなと来栖は感心させられる。

 〈しかし、どこに連れて行く気だ?〉

 まるで迷路のような廊下。来栖は少しばかり不安になる。

 「ここです。」

 やがて、見張りが三人付いた部屋の前へと辿り着いた。

 見張りがドアのセキュリティーを解除する。

 「お通り下さい。」

 軽く頭を下げ、部屋の中へと踏み入れる。

 部屋では、一〇台近い機械がそれぞれにランプを点滅させていた。その中に、ポツンとビニールで仕切られた空間があり、彼は吸い寄せられるようにその近くへと進む。

 「・・・英子。」

 見間違うはずがない。そのベッドに寝かされていたのは、来栖の別れた妻だった。

 彼女の顔はとても綺麗だった。しかし、首から下のほとんどの箇所は内出血により赤黒くなっており、無数の傷口が縫い合わされている。点滴の管や心電図などの機械のケーブルが付いていることが、痛々しさを一段と強調していた。

 「主治医の米川です。」

 その声に振り返ると、来栖とそう年齢差のない若い白衣を着た男性が立っていた

 「お世話になっております。」

 「水本さまのことですが、今朝から急に心機能が低下を始めました。今は少し立て直していますが、正直言って今晩を超えるのは難しいかと・・・。」

 医師の言葉は、非常に歯切れの悪いものであった。つまり、いつ最後の時が来てもおかしくない。そういうことだ。

 「水本は、・・・なぜこのようなことに。」

 ショックから来栖の声が震える。

 「機密事項には守秘義務が課せられますが、よろしいですか?」

 「構いません。」

 医師は、本当に機密事項だから尋ねた。しかし、来栖は言葉の意図を『復讐に走るな』という意味に捉えていた。

 「水本様はテロ組織、ファントムテールの一員である可能性があります。」

 「なに?」

 故に、その一言に脳の処理が追いつかない。

 「彼女は昨年一二月末、ファントムテールのIS奪取作戦に操縦者として参加。奪取には成功したものの、逃走中に確保。その際に傷を負ったため、この病院に収容されています。」

 体ごと向きを変え、来栖は彼女の体に目をやる。

 〈間違いない・・・。〉

 彼女の体に数本、直線状のアザがクッキリと付いていた。まるで、鋭利な物体と高速で衝突したように。

 「この傷が戦闘機との衝突で出来たとは言いません・・・よね?」

 ただの考えすぎであってくれと、来栖は心の中で願う。

 「そのまさかです。」

 だが、彼の淡い期待はいとも容易く裏切られた。

 来栖が膝から崩れ落ちる。彼の脳裏には二年前、離婚したときに彼女が最後に言った言葉が蘇る。

 『私がいると、あなたの夢を阻んでしまう。』

 その真意を知り、なぜ俺よりも組織を選んだのかと悔しさに右手を床に叩きつける。

 「・・・なんでだよ。」

 その直後だった。複数の機器が同時に警報を鳴らす。

 だが、来栖の耳にはすぐには届かない。

 「強心剤はあるか!?」

 「除細動器、用意完了した!」

 彼が我に返ったときには医師が三人増えていて、心臓マッサージを行なっている最中だった。

 「英子!」

 来栖は駆け寄り、彼女の手を握る。

 「まずい、脈が出ない!電気ショック!」

 「離れてください!」

 医師が来栖に退くように指示をし、彼はそれに従う。

 電気ショックが行われ、彼女の体が軽く跳ね上がる。

 「マッサージ!」

 その後も医師たちによる懸命な心肺蘇生が行われた。

 けれど、彼女が息を吹き返すときはついに訪れなかった。

 

 

 -*・A・*-

 

 

 「三〇人いて全滅・・・か。」

 「私も信じられません。」

 6月の頭。夜のとばりが下りたIS学園。秘密の部屋で、一組の男女が途方に暮れていた。

 それは、この二日間のこと。ISの輸送に使用する戦闘機のパイロットを選考するために、IS委員会のツテと権力にものを言わせ各国の軍から選りすぐりのパイロットを呼び集めて試験を行った。試験内容は、アメリカ空軍屈指のパイロットに「狭い」と言って飛行を拒否させた、あの滑走路へ降りること。

 結果は、この二人の短い会話で分かる通り散々たるものだった。

 「機体よりも先に人員を確保するべきじゃった。」

 譲渡すると言われた機体は、三日後に到着する予定になっている。

 今まさに陥っている、パイロットが見つからない場合には自衛隊に機体を保管してもらう手はずになっている。もっとも、アメリカ軍に頼むのが最善なのだが、とんでもない条件を吹っかけられたため断念した。

 「来栖さんに電話してみますか?」

 もしかすれば機体を入れるだけなら手伝って貰えるのではという、淡い期待を彼女は抱く。

 「じゃが、関わってくるなと言われたからなあ。」

 男はそれに難色を示した。とは言え、手段を選ぶ時間が大して残っていないのも確かな事実。

 その後は議論が行き詰ったこともあり解散。

 そして翌日の一〇時。

 男は、名刺を片手に電話番号を打ち込んでいた。因みに、女性のほうは受け持ちの授業があるのでいない。

 呼び出しが始まり、十秒後。

 『はい、もしもし?』

 その声には、どこか生気が感じられない。

 「お世話になっております、IS学園の田辺です。小畠さんのお電話でよろしいですか?」

 男が電話をかけた相手は、航空自衛隊であった。

 『あぁ、どうも。どうされました。』

 随分と弱った声に、男は何があったのかを聞きたくなったがそれは堪える。

 「来栖翔霧さんに伝言をお願いしたいのです。」

 『・・・。』

 そこから、電話でも切れたかのように無言が続く。

 ひょっとして、まだ恨まれていたのか。その考えがよぎり始めたときだった。

 『彼は・・・先月末付けで退役しました。』

 「えぇ!なぜ!?」

 とんでもない方向の答えに、男は驚く。

 『急に辞めてしまったので詳しいことは聞いてないのですが、家庭のことで何かあったようで・・・嫌気が差したのでしょう。』

 ショックのあまり、男は言葉を失う。

 「彼の居場所などはご存知ですか?」

 『残念ながら・・・。電話も繋がらず、家も引き払ってしまったのでどこに行ったのか我々が知りたいぐらいで・・・。お力になれず申し訳ない。』

 「とんでもない。こちらこそお忙しいところ失礼しました。」

 男は、受話器をそっと戻した。

 小畠の話を疑っているわけではないが、諦め切れない男は来栖に直接電話をかけてみる。

 『この電話は、現在使用されて――』

 だが、固定・携帯電話ともに機械ボイスが流れるだけであった。

 

 

 -*・A・*-

 

 

 「参ったのう・・・。」

 季節は進み、日差しも強くなった7月中旬。IS学園の秘密の部屋の中で、今日も男は頭を悩ませていた。

 今回は、学園が夏休み中に整備へ出すISを、安全に工場へ運ぶ方法がないということだった。

 あれこれと案を出してはみるものの、考えつくのはどれもリスクが高いものばかり。

 先日の会議で教員から案を聞いてみたものの、どれも不安の残るものばかり。

 ふと時計を見ると、前に見た時から一時間半も経っていた。

 頭がこんがらがっていると感じ、男は気分転換がてら散歩にでも行こうと立ち上がった。

 

 〈海はいい。〉

 気の向くままに歩くこと三〇分弱。海沿いに延びる、平坦で舗装された道を男は歩いていた。心地よい海風にも当たれ、散歩にはもってこいのコース。

 けれども、男の心は晴れない。

 〈数回しか使わなかったか・・・。〉

 それは今歩いている道が、本来なら滑走路として使用されるべきものだから。

 振り返ると、人気のないガラリとした格納庫。真新しいそれも、手入する人が不在では壁にツタが這い、周囲は雑草が繁茂して哀愁を漂わせている。

 しばらくそこに立っていたが、気分は沈んでいく一方だった。

 〈・・・戻るか。〉

 処理するべき書類は山ほどある。ため息を一つ吐き歩き出した時だった。

 どこからともなくジェットエンジンのゴーッという音が聞こえ男は足を止める。

 〈近い?〉

 しかし、IS学園の上空は官民を問わず飛行を禁止されている。国際的に非難されることを、わざわざする者もいないだろう。音の反射の関係で偶然大きく聞こえただけだと、そう思った瞬間。

 学園敷地の方向から航空機が現れ、低空で男の頭上を越え滑走路の終端方向へ飛んでて行った。

 あまりの大きさと迫力に呆気にとられ、男は立ち尽くす。

 しばらくすると、今度は終端側から接近してきて学園の方へと飛び去った。

 〈戦闘機か。まさかここに降りる気か!?〉

 そう感じた男はすぐに走り始め、格納庫の扉の前に退避する。

 そこで待っていると、再度、戦闘機は滑走路終端から学園の方に向け通過する。

 十数秒後、海のほうからエンジン音が聞こえそちらを向くと、先ほどの戦闘機は大きく旋回をしていた。旋回しながらそれは高度を下げ始め、滑走路の直線上に付くと機体下部に明かりをともした。

 男の見守る先で戦闘機は滑走路の端の方へ着陸。ゆっくりと男の方へと移動してくる。

 遠目に見ても、以前来たF-15より大きい。翼端と崖とには隙間がほぼなく、当たっていないのが不思議なほどだ。

 よくもこんな大きな機体を下ろすなと、男は感動すら覚えた。

 その間にも戦闘機は移動を続け、格納庫の前まで来た。戦闘機は格納庫の一〇メートル前で動きを止め、少ししてエンジンも停止した。

 キャノピーが開き、パイロットが縄をコックピットの一部に巻きつけ反対側を外へと投げる。

 縄は地面まで届く十分な長さがあり、パイロットはそれを使って戦闘機から降りてきた。

 パイロットはマスクを外していたので口元は見えたが、ヘルメットを被ったままなので顔は見えない。パイロットはゆっくりとした足取りで男に近づいて来て、正面で立ち止まった。そして、ヘルメットを取った下にあったのは・・・。

 「来栖くん!なぜここに!?」

 自ら航空機を操って現れるはずのない人物だった。

 彼の登場に男は驚きを隠せない。そんな男に、来栖が頭を下げた。

 「先日、私から出しました近寄らないという条件をなかったことにしていただけないでしょうか。お願いします!」

 彼は、頭を下げたまま動かない。

 〈義理堅いのう。〉

 男はそう思ったが、寧ろ好感度は上がっていた。

 「些細なことだ、気にすることはない。頭を上げてくれ。」

 それでようやく、来栖は頭を上げた。

 「退役したと聞いていたが?」

 男がそう話を振ると、来栖は申し訳なさそうに苦笑いを浮かる。

 「えぇ、無職なんです。出来るのなら、私を雇っていただけないでしょうか?」

 男は、来栖の言葉の真意を理解できず固まっていたが、徐々に分かってくると声を大にして笑った。

 「いや、一本取られたよ。是非来てくれ!」

 

 「ところで来栖君。どうしてここへ来てくれたのか、嫌でなければ教えてくれるか?」

 格納庫の中へと移動し契約書を交わしていたとき、男は疑問に思っていたことを来栖に聞いてみる。

 書類を書く来栖の手が止まる。しばらく考えた後、来栖はペンを置き書きかけの書類を男の前に移動させた。

 「私の話を聞いて、信用に足らないと思えば容赦なくこの紙を破って下さい。」

 そう前置きをして来栖は話を始める。

 妻と別れたことやその妻がテロ集団の一員であったこと、空幕と異動の話しで揉め、自衛隊を去ることになったことを。

 「・・・けど、最後は応援してくれる人達への恩返しですかね。」

 来栖の話を聞き終えたとき、男は僅かばかり目頭が熱かった。

 「君は、優しいな。」

 そう言って、男はまだ書き上がっていない書類に判をつきサインした。

 「君は大丈夫だ、信用できる。学生が夏休みに入ったら忙しくなるから、覚悟しておいてくれ。」

 「えぇ、分かりました。えーっと・・・。」

 「轡木十蔵(くつわぎじゅうぞう)だ。常識の範囲内で好きなように呼んでくれ。」

 来栖が軽く笑みを浮かべる。そして、彼は改まった敬礼をして。

 「了解しました、轡木さん。」

 こうして、来栖はIS学園の職員となったのであった。




次話からは、時系列がIS三巻終わり~四巻始めぐらいのところまで進む(戻る?)予定です。

2021/7/18 誤字を修正しました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。