オフェリア(偽)の聖杯戦争   作:砂岩改(やや復活)

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第10話

「…う」

 

 明晰夢、それは簡単に言えば夢を夢と自覚できる夢である。生前はそんなことは一度もなかったのだが現在、オフェリア(偽)はそれを体験していた。

 

「夢の中でもオフェリアかぁ…」

 

 前世の記憶はある、だが重要な部分は思い出せなかった。自分の名前や容姿などがだ。男であり、自分はオフェリアではないと言うことははっきり分かるがその根拠は少し曖昧であった。

 

「誰だ?」

 

《………》

 

 すると近くに気配がした。真っ暗な空間の中で真っ直ぐこちらに近づいて観察してくる。金色の目だけがこちらを向いて静かに見つめている。暗すぎて分からないが金属同士がぶつかる音が僅かに聞こえる。

 

「なるほど…お前か」

 

《気づきましたか…》

 

 影は静かに答える。まぁ、ヒントなんていくらでもあったしフラグという点では妥当なところだろう。

 

「お前、俺のこと大っ嫌いなんだな」

 

《えぇ、当然でしょう。それとも、好かれてあるとでも思ったの?気持ち悪いわね》

 

「ここにいる時点でお前もストーカーみたいなもんだぞ」

 

《あら、余程死にたいのね?》

 

「ごめんなさい」

 

 土下座。これほど見事な土下座を決められるのもある意味、こいつのお陰なのだが。

 

《まぁ、私もあくまで残りカス。貴方が絶望するさまを見届けるためにいるだけの事》

 

「よく居られたよな。どんな方法使ったの?

 

《貴方みたいな中身がスカスカの器なんて入るのは簡単でしたよ。まぁ、こんなことになるのは少々想定外でしたが》

 

 オフェリアという器に俺という中身は少なすぎる…それは分かる。彼女と俺は積み上げてきたものも、産まれた家も違う。俺みたいな一般ピープルが対等になれるなんて思ってもいない。

 

「なら俺はお前に乗っ取られる?」

 

《それはありませんね。私も元が中身がスカスカですからね。その上、残りカスなんて目も当てられません》

 

 笑って良いのか、悪いのかよく分からないから無反応を貫く。それを見て機嫌を悪そうにする目だったが周囲を気にし始める。

 

《時間切れのようですね。私はこれで失礼します》

 

「案外素直にいなくなるんだな」

 

《無駄な体力を使いたくないので…では…》

 

ーーーー

 

 彼女が立ち去る気配を察知した瞬間。オフェリアは意識を戻され眠っていたベットで目を覚ます。

 

「フォーウ!」

 

(あだっ!)

 

 寝起き早々、腹に大ジャンプを決めたフォウは俺の顔をゲシゲシと殴って起こしてくる。意識が少し覚醒していたからか余計に痛く感じ体をくの字に跳ね上げたのは言うまでもない。

 

「Bonjour、マスター。気分はどうかな?」

 

(あぁ、なんとか大丈夫そうだ)

 

「それは良かった。サークルを設置したらしいからカルデアから物資が届いたんだ」

 

 デオンが差し出したのはハーブティー。カモミールのハーブティーは二日酔いに効くとされているハーブティーの一つだ。デオンの気遣いがよく現れている。

 

(青リンゴみたいな良い香りだ)

 

「カモミールのハーブティーだよ。朝食を取った後に出撃だ。今はゆっくりしてくれ、マスター」

 

(ありがとう、デオン)

 

 美味しそうにハーブティーを飲むオフェリアを見つめるデオン。なぜ数あるハーブの中でカモミールだったのか、それはその花言葉にもデオンは意味を込めていた。

 

「頑張ろうね、マスター」

 

ーーーー

 

 前線であるガリアに向けて出発した一行だが歩兵も含めた部隊であったためにその進軍スピードはゆったりとしたものだった。

 

「……」(大丈夫か?)

 

「はい、大丈夫です。ありがとうございます!」

 

 ネロから馬を借りたオフェリアは慣れた手つきで馬を操作してマシュたちと目的地に向かっていた。ある程度の簡単な会話ならアイコンタクトで話せるようになってきたオフェリアと藤丸は一緒の馬に騎乗していた。

 

「むむ、流石の包容力。私も見習わなければなりませんね」

 

「マスター、疲れたらすぐに言ってくれ」

 

(ありがとう、ジークフリート)

 

 マスター二人を一ヶ所に集めるのは防衛する身としてはありがたい。二人の馬を囲うようにサーヴァントたちは配置について進んでいく。

 

「本当にすいません」

 

(気にするな)

 

『やっぱり、さっき落馬しそうになったのがよっぽど怖かったみたいだね』

 

「ドクター、あまり先輩をからかわないでください」

 

『ごめん、ごめん。情報支援だと娯楽がなくてねぇ』

 

 本当は藤丸も違う馬に乗っていたんだが危うく落馬しかけたせいで一人での騎乗は断念。藤丸は遠慮して、なかなか来なかったがジークフリートが無理矢理オフェリアの馬に乗せて現在に至る。

 今は彼女の腰をガッチリホールドして藤丸は馬に揺られていた。かなり怖かったらしい。

 

(なんか母性ならぬ父性に目覚めそうだ)

 

ーーーー

 

 ガリア遠征軍駐屯地。ネロ率いるローマ軍の前線駐屯地である。そこで向かい入れてくれたのはみんなのママンことブーディカとみんな大好きスパルタクス。

 二人の穏やかな出迎えに安心していると突然の腕試しが始まる。

 

「真名はブーティカ。クラスはライダー、私の戦車はすっっごく堅いんだから!」

 

「来る!」

 

(いくぞ、藤丸!)

 

 咄嗟のことで驚く藤丸の肩を叩いて鼓舞するとジークフリートたちは迎え撃つために動き出す。

 

(スパルタクスはジークフリートに一任する。正々堂々正面から殴りあえ!デオンはマシュと清姫とともにブーディカを!)

 

「了解した」

 

「分かったよ、マスター!」

 

 スパルタクスの宝具は敵に回すとかなり脅威だ。彼は圧政者を許さない、だからこそジークフリードと一対一の状況を作る。決闘という形にすればスパルタクスも喜んで戦ってくれる。それに今後の関係を考えればこちらが圧政者だと判定されないための保険でもある。

 痛みを力に変える化け物だがジークフリートも堅さで言えば誰にも負けない。だからこその《悪竜の血鎧》だ。

 

「これで頼むよ」

 

「分かりました」

 

「了解です♪」

 

 デオンはマシュと清姫に作戦を伝えてブーディカに襲いかかる。対してジークフリートは鎧を脱ぎ捨てて素手でファイティングポーズを取る。

 

(そこまでしろとは言ってないんだけど…)

 

「さぁ、来い!」

 

「おぉ!そなたは決闘者、我も万全の力を持って破壊すべし!」

 

 ジークフリートもスパルタクスも楽しそうなのでこちらはほっておこう。

 

「さぁ、最初から全開でいくよ!」

 

 ブーディカの前に白馬が2頭現れ、彼女の周りに戦車が形成される。

 

勝利を約束されざる守護の車輪!!(チャリオット・オブ・ブディカ)

 

 チャリオットが空を舞い、こちらに突進してくる。ブーディカのチャリオットは突進力が低いといっても戦車。その攻撃は脅威である。

 

「向こうが堅さで勝負するなら…マシュ!」

 

「はい、先輩!」

 

 藤丸の言葉にマシュは盾を構えて耐衝撃体勢に入る。

 

「清姫!」

 

「はぁい、ますたぁ!」

 

 清姫の吐息から溢れ出る炎の息吹。その息吹が竜となって戦車を迎え撃つ。

 

(デオン、援護を)

 

「そうだね。花道を作ってあげよう!百合の花咲く豪華絢爛!(フルール・ド・リス)

 

 デオンの言葉通り、一輪の大きな百合の大輪が咲き誇るのではなく目の前に百合の花畑が広がる。どうやら幻惑の百合の見せ方は自由に表現できるようだ。

 

「凄いよ…正直、予想以上だ。でも負けないわよ!」

 

 ブーディカの戦車は炎の竜と正面からぶつかる。少しだけ拮抗するが竜が押され押し退けられる。青い炎を突き破り、百合の花畑を突き進み。マシュと対峙する。

 

「さぁ、私の戦車と貴方の盾、どっちが堅いかしら!」

 

「負けません!」

 

 激しくぶつかる戦車と盾。マシュはその突進力に押され地面を砕きながら後退するが戦車もその動きを止め白馬が唸りを上げて前進しようと試みる。

 

「まだよ、私の車輪(チャリオット)は砕けない!ならまだ進める!」

 

「先輩やオフェリアさんのために…ここで負けるわけにはいきません!はぁぁぁぁぁ!」

 

 悲鳴を上げたのはチャリオット。馬が苦しそうに盾に圧されると進路を変えられ大きく転倒する。それにか巻き込まれた戦車も転倒しブーティカも地面に投げつけられた。

 

「きゃ!」

 

 完全に押し負けたブーディカは可愛い声を出しながら尻餅をついた。そんな彼女の顔は実に清々しいものだった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ははっ!まさか負けるなんて思わなかったわ凄いわねマシュ!まるで大地に根を張る大樹だよ!」

 

「はぅ!?」

 

 満面の笑顔で抱き締めるブーディカ。抱き締められたマシュは変な声を出しながらもその包容を受け止める。

 

「いい戦車だ。本当に頼もしい」

 

「私の炎を無傷で通り抜けるなんて…」

 

「二人も最高だったよ!頼りに出来るってもんだ!」

 

 ブーディカの笑顔に二人もつられて笑顔になる。少し強引だったが親睦を深められたようで良かった。

 

(あ、そう言えばジークフリートは?)

 

「ぬぅ!」

 

「ふん!」

 

 思い出して振り返ってみれば二人はその筋肉を見せつけながらお互いに激しく素手で殴り会う。それを見ていたローマ兵たちは二人を囲んでお祭り状態になっていた。どっちが勝つか賭けているような様子も見える。

 

「おう、決闘者。真の包容を受けとるがいい!」

 

「これほどタフな人間は初めてだ!全力でいくぞ!」

 

(おう、簡易的なコロシアムが出来てる…)

 

『実にストレートだけどスパルタクスには合っていたみたいだね。ジークフリートを選んだのもいい人選だったようだ』

 

 ロマニも二人の決闘を見て満足そうに頷く。なんだか彼の音声の背景が騒がしい気がするが…。

 

「ドクター、なんだかカルデアが騒がしいみたいですが」

 

『マシュ。僕たちにも娯楽が必要なんだよ…』

 

(察し…)

 

 どうやらこちらをモニターしているカルデアでもローマ兵たちと同様の現象が発生しているらしい。まぁ…広いカルデアとはいえ、ずっと室内にいる息抜きも必要だろう。

 

 その後も二人は満足するまで殴りあったのだった。

 

ーーーー

 

「全く、男どもはあいいうのが好きよねぇ」

 

「あれが現代で言うボクシングと言うものでしょうか?」

 

(どっちもノーガードだったからプロレスかな)

 

「なるほど」

 

 腕試しを終えた一同はブーディカに招かれるがままテルマエで一息つく。ちなみに女湯に入っているのはブーディカ、マシュ、清姫とオフェリア。デオンはどこかに姿を消してしまった。

 ちなみに現在はこの場の三人と簡易的なパスを繋いで念話で話している。短時間と限定的だが通訳が居ないために試しに繋いでみたのだ。

 

「でも殿方が正々堂々と戦う姿は好ましいと思いますよ」

 

(同感、俺もあんな青春があれば違ったかもなぁ)

 

「オフェリアちゃんって以外と男らしいわよね。言葉使いとか」

 

「そうですね。正直、印象が違って驚きです。普段は抑えていたんですか?」

 

(え!?)

 

 ブーディカとマシュの言葉に思わずビクッとしてしまう。しまった、完全に油断していた。特にマシュに気づかれるのはあまりよろしくない。と言っても目の前には清姫がいるので嘘はつけないし。

 

「どうしましたオフェリアさん?」

 

(まぁ、これが本性と言うか。これが素みたいな感じかな。心で話しているから)

 

「そうなんですか。意外ですねオフェリアさんは男気質なんですね」

 

(まぁ、そんな感じかな)

 

 横目で清姫を見ると彼女は笑顔で風呂に浸かっていた。

 

(ふぅ…)

 

 なんか無駄な気疲れを感じたオフェリアは湯に沈んでいくのだった。 

 

 

 


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