オルレアンメンバーだとデオンが一番好き。
「予想通り、ワイバーンだらけだな。とはいえ、手間取ることは許されない」
「分かってます。マスター、敵がくる前に指示を!」
反邪竜同盟はついにオルレアンに進撃。正面突破の見本のような突撃にワイバーンたちも応戦するがサーヴァントたちには太刀打ち出来ずに次々と撃破されていく。
「オルレアンからファブニールが飛び立ったらしい決戦だ!」
立ち塞がるアーチャーアタランテを撃破した後。藤丸たちはロマンの報告でファブニールが迫ってきているのを確認した。
ーー
「さぁ、着いたよ。マスター」
「……」
ワイバーンの背中に乗り現場に急行したデオンは全身をマントで包んだマスターをやさしく抱き抱えると地面に着地させ地に降ろす。
「……」
「狂っていても騎士だからね。それ相応の扱いは知ってるさ、特に女性は優しくしないとね」
シュヴァリエ・デオン。彼、彼女がいかに狂っていようとも英霊の本質そのものは変わらない。忠節の騎士であるその英霊は人の扱い方を心得ている。
「やぁ、君たち。健勝なようで何よりだ。シュヴァリエ・デオン、此度は悪に荷担するが我が剣に曇りはない。さぁ、戦力で立ち向かってみせよ。この悪夢を滅ぼすために!」
マシュたちの前に立ち塞がったのはデオンとヴラド卿。その後方にフードを被った人物が備える。
「……」
「さぁ、マスター。魔力を回せ!」
「気をつけて、セイバーだけ魔力の質が違う。おそらく後ろのフード魔術師がマスターだ!」
ロマンの言葉に藤丸とマシュは警戒を強める。今まで敵の陣営にはワイバーンとサーヴァントしか居なかったが。その中に突然、人間らしき人物が現れたのだ。黒幕の可能性もある。
「行くぞ、マシュ!」
「はい、戦闘。開始します!」
ーーーー
「……」(あぁ、すごく眠いな…)
フードの魔術師は戦闘の真っ只中だというのにどこに立っているのか。何をしているのか思考が追い付かない。目の前にはこちらを襲ってくる敵がいる。
それを《味方》であるデオンとヴラドが押し止めている。ならこちらも全力で援護をしなければならないだろう。
麗しの風貌、心眼(真)発動
「くっ、セイバーから目が離せない!?」
先にマスターの着いていないバーサーカーを撃破しようと動き始めたマシュたちだったが動き始めた全員がデオンから目が離せなくなる。
「ふっ!」
「このぉ!」
エリザベートの槍とデオンの剣が激しくぶつかり合い何度も切り結ぶ。清姫が援護のために炎を撒くがデオンはそれを気にもせずに攻撃を続ける。実際、デオンにはなんのダメージはなかった。
「余所見をしている場合か?」
「くっ!」
ヴラド卿の無数の槍がマシュに殺到。彼女はそれを受けきるが大きく後方に後退する。
瞬間強化
「感謝する。マスター!」
「急に力が!?」
槍を弾かれ無手になるエリザベート。元々、デオンは本来の筋力がAという規格外なパワーの持ち主だ。それが強化されさらに凶悪な剣激がエリザベートを襲う。
急いで後退するがデオンの追撃を逃れられない。素早い刺突に無数の傷を負ったエリザベートは強制的に宝具を発動。
「飛ばしていくわ! ミューミュー無様に鳴きなさい!
エリザベートから発せられる超音波攻撃。デオンは見事に回避したがヴラドには攻撃が刺さる。
「くっ!」
ヴラドは苦悶の表情を浮かべる。その余波は魔術師にも届く、魔術師も同様に膝をついてその攻撃に耐える。
「無事かいマスター?」
(あぁ…)
運の悪いことに丁度、麗しの風貌の効果が消滅した。
「隙は与えないよ。フォルテッシモ!」
アマデウスの追撃に対応しきれなかったデオンはその身を呈してマスターを守る。
(あぁ…うるさいし、痛いな。誰だよ!)
エリザベートの爆音とアマデウスの攻撃の余波で頭を揺らされた人物は頭を振ると真っ直ぐ《敵》を見つめる。ジャンヌはやや劣勢のようだが構っている暇はない。今は敵の排除が先だ。
イラついていた魔術師は邪魔なローブを脱ぎ捨てるのだった。
ーーーー
「なっ!?」
「え……」
バーサーカーを排除しついにセイバーのみとなった藤丸たちは勢いに任せて攻勢に出ようとしたとき。それは起きた、敵の魔術師がマントを脱ぎ捨てたのだ。
美しい茶髪の長い髪、凛々しい顔立ち、右眼を覆うようにつけられた眼帯、腰には剣を吊るしている。服装はボロボロであるが彼女。オフェリア・ファルムソローネであることは間違いなかった。
「オフェリアさん!」
「なんで…」
予想外の人物に戦意を失う藤丸とマシュ。
「落ち着くんだ藤丸くん、マシュ。今、最新の彼女のバイタルデータを獲得できた。彼女のバイタルのほとんどは異常数値を示している」
「どういうことですかドクター?」
「まぁ、数値だけの話だけど。彼女は正気じゃない、先程のアタランテのように外的要因によって改変、洗脳されている可能性が高いということさ」
ダヴィンチちゃんによる補足説明で状況を理解した二人は迫るデオンを迎え撃つために構えるがその横合いからデオンを襲う影。
「何者!?」
「マスターを返してもらおう!」
「ジークフリートさん!?」
それはファブニールを相手にしていたはずのジークフリート。
(マスターの気配を察知できない。やはり何かしら隠蔽魔術が働いているのか)
オフェリアの姿を確認できても気配は察知できない。やはり魔術的な阻害が入っているようだ。
「残念だけど、今は僕のマスターでもある。簡単には譲れないな」
ジークフリートの大剣を受け止める。互いに剣に両手を添えて切り結ぶがジークフリートが押され互いに距離を取る。
「互いに同じマスターを持つ者同士名乗るべきだな。俺はセイバー、ジークフリート」
「バーサーク・セイバー。シュヴァリエ・デオン」
「シュヴァリエ・デオンだって!?」
「そうだよ、彼女はマリーの騎士だ。狂っているのは本当のようだね。僕が居てもお構いなしだ」
ロマンが驚く中、アマデウスは冷静にデオンを見つめる。その瞳に込められた感情は悲しみか、それとも憐れみかそれとも怒りかは分からない。
「なるほど。流石、狂化が入ってるね。パラメーターも高い」
シュヴァリエ・デオン
筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具
A+ B+ A B+ A+ C
「オフェリアちゃんがマスターってもあるだろうけど。ちょっと不利かな」
戦闘をモニターしているダヴィンチは激しく戦闘を繰り返す二人を見て呟く。
同じマスターと繋がっているがその恩恵を受けているのはデオンの方だ。デオンはその俊敏性を駆使してジークフリートに接近。刃を腹に突き立てる筈だった。
「!?」
「……」
だがデオンの刃は通らない。その強靭な肉体に阻まれてしまったのだ。これでは刃が折れると判断したデオンは素早く距離を取る。
悪竜の血鎧。ジークフリートの強さの由縁であり最強のセイバーの一角と言わしめる特性。
「なるほど、流石はドラゴンスレイヤー!愉しくなってきたな!」
凶気に満ちた笑顔で嗤うデオンと睨み付けるジークフリート。二人の戦いの間には誰にも入れない。そんな中、藤丸だけが動きオフェリアに突撃する。
「先輩!?」
「子犬?」
「オフェリアさんを助ける!」
一見すれば無茶な行為に見えるが事実。オフェリアが敵側に居なければ全てが解決する。可能性としてもデオンを味方につけることが出来るかもしれない。だが無謀、デオンが健在である限り彼女には近づけない。
ギャァァァァ!
「お黙りなさい。堕竜」
藤丸を食おうとするワイバーンが清姫によって焼き付くされドラゴンステーキと化す。
「行かせない!」
「行かせません!」
藤丸を殺そうとするデオンだがマシュの盾に阻まれる。その瞬間、ジークフリートとエリザベートが仕掛け足止めをする。
「オフェリアさん!」
目の前に迫る藤丸。だがオフェリアはすぐさま、腰に差してあった剣を抜き放ち彼に向けて突く。咄嗟の判断でなんとか避けられた藤丸だが頬に掠り、血が垂れる。
次を振るわせまいと慌ててオフェリアの腕を掴む藤丸だったが勢い余って押し倒してしまいそのまま地面を転がる。
ーー
(いてぇ!)
藤丸に押し倒されたオフェリアは運悪く頭から地面に落下。その衝撃で奇跡的に意識を取り戻す。
(なにごと!?)
ーー
「くっ、しまった!」
その時、ファブニールを押さえていたゲオルギウスが退避する。ファブニールの業火が最大出力を放とうとしたからだ。その射線に転がり込んでしまった藤丸とオフェリア。
「「マスター!?」」
そこで素早く動いたのはデオンとジークフリート。デオンは周りにいたマシュたちを吹き飛ばすとその俊敏さで射線に割って入る。
「宝具展開!」
ファブニールの周囲に白百合が咲き乱れ、美しき花畑を作り出す。その白百合はファブニールの体からも生まれ攻撃力を奪う。
攻撃力を奪ったとしてもその業火強力だ。並みのサーヴァントですら耐えられないかもしれない。だがジークフリートは倒れた二人の前に立ち剣を構える。
「下がれ、白百合の騎士!」
「……」
「無駄だよ、彼女は退かない」
叫ぶジークフリート。だがそれを見ていたアマデウスは一人呟く。いくら狂っていようと、いくら悪に堕ちようと彼女は
「はぁ!」
迫るファブニールの業火を叩き斬るデオン。だが全てを燃やし尽くす業火に耐えかね霊核が悲鳴を上げる。
「
「防ぎきったのか…」
(デオン…)
オフェリアを必死に抱き締めていた藤丸はジークフリートの前に立っているデオンの後ろ姿を見つめる。
「マスターは…無事か、それは良かった…」
オフェリアは優しい眼差しを向けてくれるデオンと目が合う。
服も体もボロボロになっていたデオンは限界を越え、体の魔力が漏れ出していた。金色の粒子を散らしながら騎士は微笑む。
(ありがとうデオン。優しくしてくれて…)
(礼には及ばないよ…僕がやりたかった事だから)
記憶の混乱が収まり今までのことを思い出す。デオンは本当に丁寧に自分を扱ってくれた。
「シュヴァリエ・デオン。俺はお前を尊敬する、君の忠節は誰よりも気高い」
「竜殺しに言って貰えるのは光栄だな。あぁ、王妃よ申し訳ありません…」
体を維持できずに消えていったデオンの顔は実に納得気な表情だった。
それを見届けた三人。するとオフェリアは藤丸と目が合うとしばらく呆然と見つめ合う。
「もしかして、正気に戻ったんですか!?」
返事が出来ないので頭を撫でてやると彼は感極まった様子で抱きついてくる。さぞ心細かったのだろう強く抱き締めてくる彼を受け入れているとジークフリートも近づいてくる。
「マスター」
(ただいま、ジークフリート)
「あぁ、おかえり…」
微笑み合う二人。そんな中、オフェリア(偽)は苦しみジャンヌオルタの姿が頭に浮かぶ。彼女は苦しんでいる、そしてまだこのオルレアンは終わってない。
「逃がしませんよぉ」
(げ、この声は…)
その声を聞いたと同時にオフェリアは藤丸の襟首を掴んでジークフリートに投げ飛ばす。すると巨大な海魔の触手が襲いかかる。それに拘束されたオフェリアは引きずり込まれる。
「マスター!」
「オフェリアさん!」
(気にするな、ジークフリートはファブニールの対処を!)
「承知した」
流石にゲオルギウスだけでは分が悪い。ジークフリートは心配そうにしながらもファブニールに向かわねばならない。
「藤丸くん、マスターを頼む」
「分かりました」
ボロボロながらも必死に頷く彼をみたジークフリートはファブニールの元に向かうのだった。