あれから十六年が経ちもうGVは五十歳となった。
年を重ね相応に貫禄が増しているにも関わらず見た目の年齢が若々しい。
知らない人が一目見ればまだ三十代前半だと断言する程だ。
最近ではスポーツジムにも通うようになり今まで以上に引き締まった肉体を持つようになった。
お陰で私もモルフォもご満悦で、そんな私達を見てGVも嬉しそうだった。
仕事の方も順調で、私達もこの変わらない日常の幸福を噛み締めていた。
そんなある日の事。
私達は二人で
『そこだよ、モルフォ!』
『ふふ、甘いわよ、シアン!』
以前小さな体になる事が出来るようになって疑似的に空間が広がった事で、
出来る事が更に増えていた。
模擬戦もその一つだ。
この模擬戦を始めるようになってもう十六年。
これだけの時間があればもうお互いの手の内は知り尽くしている。
『……今! ライトニングスフィア!!』
『……っと、危ない危ない…そこよ! スパークカリバー!!』
モルフォが私の雷球を紙一重で避け、
その際に出来た私の隙を突き、雷の聖剣の一撃を叩き込もうとする。
『……掛かった! シュート!!』
『……っ! こっちだって! シュート!!』
雷球と雷の聖剣が衝突し、ほんの少しだけ拮抗して雷の聖剣が雷球を散らして私に迫る。
でも回避する時間は十分に稼げているので雷の聖剣を回避をしつつ散らされた雷球を再利用する。
『まだ終わってないよ! マンダラー!!!』
『まずっ……! シールドヴォルト!!』
私の攻撃をモルフォは雷の盾とバリアを併用してダメージを最小限に留める。
モルフォの動きが一瞬だけ止まった。
このタイミングなら……!
『絡み取って! ヴォルティックチェーン!』
『あ゛ぅ! …まだ終わってない! リヴァイヴ……』
『ううん、これで終わり! サンダー!!!』
モルフォにトドメの
これで三連勝。
ようやくイーブンに戻すことが出来た。
『やったぁ! やっと五分五分に戻せたよ』
『ちぇ…折角引き離せると思ったのに…』
こうして今日の模擬戦は終わった。
お互いのダメージについては衝撃は来るけど実は皆無だったりする。
何しろお互い同じGVから共有した
お互いに無力化出来るのは当然でありそれ故に、安全に模擬戦が出来るのだ。
『やっぱり相手が居ると練習が捗って助かるよ、モルフォ』
『アタシも同じ意見よ、シアン
それにこうして
だってGVがアタシの中で、アタシの事を守ってくれてるみたいで…』
そう言ってモルフォは嬉しそうに手から雷を放出する。
その気持ちは私にも分かる。
まだ一人で
モルフォと同じような感覚を感じる事があったのだ。
私はそのお陰もあって一人でも練習を続ける気力を保つことが出来たのだ。
『モルフォ…』
『なぁに? シアン』
『私がGVの
『…そうね、アタシもそこは同意見よ、シアン』
向こうの世界でGVに助け出されて、
外に出た事で私達の居た世界の取り巻く情勢を知ることが出来た。
あの時の私はGVに色々教えてもらっていても、
まだ漠然と良くない感じがすると言った程度の心境だった。
でも今は違う。
私はGVの
今まで足りなかった学力は補われているのだ。
それを踏まえると私達の居た世界は辛うじて崩壊の一歩手前を踏み止まっている状態という、
極めて危うい状態である事が分かるようになったのだ。
…いや、それすらも楽観的な考えなのかもしれないのだ。
私の世界の日本ではまだ表面上は平和を保てているように思える。
でもその外では私の想像も出来無い悲惨な事が起こっている。
曰く、能力者一人の暴走で国一つ消滅したとか、
無能力者と能力者との争いが激しく続いている国もあるとか。
中でも多国籍能力者連合「エデン」の破壊活動が特にマズイとGVは言っていた。
明確に能力者のみの共同体を謳っている組織が無能力者達に牙を向いているのだ。
このままでは能力者と無能力者との対立がより決定的となり、
能力者と無能力者による全面戦争…それ以上に酷い生存競争が起こる恐れがある。
そうGVは私達に話してくれた。
これらの情報は皇神や他の組織からハッキングして回って得た情報だとGVは言っていた。
ミッションの帰りや空いた時間を利用して独自に動いてこういった情報を収集していたようだ。
『……GVは…今、ここで私達と平和を満喫しているGVは、
将来私達の世界に転生する形で来るんだよね?』
『そうね…GV本人が言ってたんだもの、それは間違いないはずよ』
そう、それは確定された事実だ。
そうでなきゃ私達はここには居ない。
『じゃあモルフォ…? その転生を、GVの転生を一体誰が行うの?』
『シアン…』
『私達が世界や時間の壁を突破して歌を届けたりするだけでも、
こんなにも大変だったのに、自然発生したりするなんて考えられない』
『シアン、それはその時になって見ないと分からないわ
案外、ネット小説みたいに本当に神様が居て……』
『誤魔化さないでよ! 私だって薄々気が付いているのに、
モルフォが気が付かないはず無いじゃない!!』
この世界に来てからずっと今まで考えていた事があった。
私が、私達がこのGVの
最初はそれこそ神様がGVを助ける事が出来たご褒美を与えてくれたと楽観的に考えていた。
でも年月を重ねるごとに感じるのだ。
私達の
そしてそれは、今も続いているのだ。
十六年前から始めた模擬戦も日に日に高まっていく私達の
『……シアン、アタシはあなたの本心…あなたの心はその事を認めたくないと思っている
だからアタシは分かってても口には出せないわ』
『モルフォ…』
『でもアタシだって…アタシだって! そんな事認めたくないわ!!』
そう、この事を私は、私達は認めたくないのだ。
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俺はスポーツジムで今体を鍛え汗を流していた。
切欠は単純だ。
もう俺は五十を過ぎている。
体の衰えを明確に感じているのだ。
見た目は確かにまあ若く見える方かな? と俺の中では思う。
でもこの衰えを誤魔化す事何て出来ない。
シアンとモルフォは俺の鍛えた体を見て喜んでくれているが、
俺の目的は二人には悪いけどそこでは無い。
シアンは三十六年前から、モルフォは二十八年前から姿形が何一つ変わっていない。
だが、俺は肉体年齢のピークを越え体が衰えだした。
このままではマズイと思った。
今まで健康には気を使って生きてきたつもりだったが甘かった。
時間は待ってはくれない。
刻一刻と時間は俺と彼女達を引きはがしにかかっている。
まだ彼女達はその事に気が付ている様子は無いが、時間の問題だろう。
気が付いてしまったら、なんと声を掛けたらいいのだろうか?
…ずっと疑問に思っていた事があった。
どうして彼女達はここまで俺を慕ってくれるのだろうかと。
でも俺はそれを聞くつもりは無い。
昔から…まだ俺が十四歳の時の初めてシアンの姿を見た時から薄々感づいてはいたのだ。
そうでなきゃ四十三年前に初めて感じたあの温かな感情を初対面の俺に出せるはずも無いのだ。
最初その事実を察した時、最初の頃は未来の俺に内心激しく嫉妬したものだった。
シアン達に良く悪戯をしていたのもそういった所が確かにあったのだ。
でも大人になって彼女達と過ごす幸福な日々を歩んで暫く経った頃にはその嫉妬も消えていた。
もうこの感情は俺の中では清算されている。
まあ今にして考えてみればこれは俺の中での立派な黒歴史と言えるだろう。
寧ろ最近では未来の俺に感謝すらしている。
こうして素敵な彼女達に会わせてくれたのだから。
でも俺が生を得てから五十年も経っているにも関わらず彼女達に出会える気配は未だに無い。
内心あり得ないと思いつつこんな事を考えてしまう。
もしかしたら彼女達はこことは違う別の世界から来て、
未来の俺と言うのはその世界に転生した俺の事なのではないのかと。
そんな馬鹿げた子供の妄想にもならないような事を。
そんな事を考えていたら彼女達の話し合いも終わって俺の所に姿を現してくれた。
二人は相変わらず綺麗だ。
愛おしい、シアンとモルフォのままだ。
あの時、彼女達の体が小さくなった時は心の底から恐怖した。
もしかして彼女達はこのまま消えてしまうのではないのかと。
まあでもその心配が杞憂だったと分かった時は心底ホッとしたものだった。
……俺が彼女達の事を何も聞かないのにはもう一つ理由がある。
それは俺が未来の自分の事を知ったことで未来が変わり彼女達が消えてしまうのではないか?
つまりはタイムパラドックスの発生を俺は懸念している。
故に俺自身、彼女達の事を聞くことは無いだろう。
……どうか俺の体よ、少しでも長く堪えて欲しい。
彼女達と一分でも、一秒でも長く居られるその為に。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。