【完結】謡精は輪廻を越えた蒼き雷霆の夢に干渉する   作:琉土

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第十六話

「優、落ち着いて聞いてほしい、今日、桜さんが亡くなった」

 

 時間は流れていく。

 

「聞こえているか、優 …今日、侶露奈が息を引き取った

とても安らかに、俺や息子、孫達に囲まれてな…

…俺も近い内に彼女の御許(みもと)へと逝く事になるだろう」

 

 時間は流れていく。

 

「聞いた? 今日、神園さんの所の美晴さんがお亡くなりになったって」

 

 時間は残酷なまでに流れていく。

 GVの両親も、侶露奈も、明も、桜さんも、美晴も、皆GVを残して逝ってしまった。

 GVが体を鍛え始めてもう五十年の月日が経った。

 もうGVは百歳となっており、もう立派なお爺さんだ。

 それでも見た目はまだ五十代で通用する程には若々しい。

 スポーツジムに通うのも未だに続いているし、新たにランニングの習慣も身に付けている。

 それを毎日、特別な用事が無い限り一日たりとも怠った事は無い。

 最初の内は微笑ましく見る事が出来たのだ。

 もっとカッコいいGVが見れると。

 でも、それから暫く…二十年程経過して私達は明確に感じたのだ。

 GVの体の衰えを。

 私達の色鮮やかな世界の崩壊の始まりを。

 

『『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♪』』 

 

 GVは今も尚抗っていた。

 歯を食いしばり弱音を吐かず必死に、ただただ必死に。

 私達もそれに抗う為に必死にGVを応援し、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力を行使し続けた。 

 愛しい人との時間を少しでも長く居られるようにする為に。

 その効果は間違いなく出ていた。

 GVの肉体年齢の時間の歩みを遅らせる事が出来ていた。

 だけど私達が出来るのは遅らせる事だけ…

 時間は私達の必死の努力を嘲笑うかのように刻まれていった。

 …私達の世界が崩れていく。

 あんなにも色鮮やかだった世界から色が消えていく。

 深く静かに闇が広がっていく。

 愛しい(GV)に刻一刻と、抗えぬ死が迫っていく。

 そして更に月日は流れ…

 

『『…………………………………………』』

 

 私達はGVの体に意識を集中させる。

 体の節々が痛んでいる。

 内臓も一部機能していない物まである。

 血管もズタボロで、所々見えない箇所で内出血している所もある。

 心臓の鼓動も弱弱しく、もう何時止まっても可笑しくは無い。

 GVの今の状態が鮮明に、ハッキリと伝わってくる。 

 …何時からだろうか。

 私達のこの体を心から憎いと思うようになった日は。

 かつてはGVの一日一日の変化に喜んでいたけど今では苦痛でしかない。

 でも、それでも尚GVは辛そうな、苦しそうな顔を私達の前では決して出さなかった。

 もう立って歩くことだって物凄く辛いはずなのに…

 謡精の歌(ソングオブディーヴァ)だってもうGVの体には届かないはずなのに…

 GVは笑顔で何でも無い様に私達にこう尋ねた。

 

「シアン、モルフォ、今日は何所に散歩に行こうか?」

『……今日は川辺の辺りに、行きたいな』

『……アタシは、花畑がある通りが、いいな』

「なら、今日はその二カ所を通る様に散歩しようか」

 

 GVが走れなくなってからこの散歩の習慣は続いている。

 足取りもしっかりしており、背筋もピンとしているし、杖だって使っていない。

 もう寿命を迎えようとしている状態なのにも関わらずにだ。

 私達は歩く。

 普段見慣れた道を。

 私達は歩く。

 当たり前の日常が送られているこの場所を。 

 私達は歩く。

 この平和な世界を。

 ……終わらせたくない。

 ずっと続けていたい。

 簡単なお喋りだけでもいい。

 こうして散歩をしているだけでもいい。

 私は、私達はこの世界でずっと、ずっとGVと一緒に居たい。

 私達の世界に帰りたくない。

 私達の居た世界は残酷だ。

 第七波動(セブンス)があるだけでここまで違うのだ。

 この第七波動(セブンス)の無い幸福な世界とは、まるで違うのだ。

 そして何よりも嫌なのは…

 そんな私達の世界(地獄)に愛しい(GV)を転生させる事が嫌なのだ。

 GVはもうこの世界でいっぱい、いっぱい頑張ってここまで来たのだ。

 それなのに如何してそんな残酷な事が出来るというのだろうか?

 私達の為にと地獄に叩き落して、さらに傷つけと言えるのだろうか?

 …あの時あの場所で、私の全てを賭けて助けたGVに対する誓いが頭を過る。

 でも私は、私は……

 

「ふぅ…今日も変わらない一日だったね、シアン、モルフォ」

『『………………………………………………』』

 

 GVは散歩から帰った後、二階の大きな椅子に座って遠い目をしてこのような事を言った。

 私達は黙ったままだった。

 GVの独白は続く。

 

「……こうして儂…俺が生を受けて、今日でもう百二十七年になる

シアン、モルフォ…君達二人のお陰で、俺の人生は最高に充実した毎日だった

そのお陰で、俺には悔いがもう殆ど無い状態だ…やりたい事は、大体やれた

……本当にありがとう」

 

 GVは私達に遺言を残している。

 私達はただ黙って涙を出さない様に必死にGVの言葉を刻み込んでいた。

 …ふと、私達は周りを見回した。

 何時も見ていた街並みが、あの綺麗な夕焼けが消えていく。

 世界が文字通り、GVを中心に消えていく。

 GVの(記憶)の世界が、消えていく。

 そんな中、GVは言葉を続ける。

 

「俺は、この人生に悔いは……一つだけ、あったな

この人生の間、結局シアンとモルフォに会う事が出来なかった」

 

 私達と出会う事が出来なかった? GVは何を…?

 

「君達が、俺から見て未来から来ていたのは、知っていた」

『…………っ!!』

 

 私達は驚愕した。

 GVは、私達が未来から来ていた事を知っていたのだ。

 

「だからこそ、この人生の間に出会えなかった事が、何よりの悔いと言えるんだ」

『『GV…』』

「……もしも、もしもの事だが、異世界と言うのがあって、そこに転生出来て、

そこにシアンとモルフォが居るのなら…俺は、会いに行きたい――」

 

 そう言い残しこの世界のGVは息を引き取った。

 それと同時にGVの(記憶)の世界も消え去った。

 私達二人を残して、跡形も無く……




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
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