第十七話
俺の意識が…
深く、ずっと深く沈んでいく…
そんな僕の完全に沈みかけた意識が目を覚ました。
僕は確か涙を堪え切れなかった二人の悲しげな表情を残して息を引き取ったはずだ。
なのに気が付いたら意識が戻っていた。
今の僕の体を見た。
これは…十四歳の頃の体だ。
だから一人称が「俺」から「僕」に戻っていたのか。
しかしそれはいいとして、この状況は何なのだろうか?
今、僕は深淵の闇の中を降下していた。
ゆっくりと、それでいて確実に降下していった。
僕は辺りを見回し耳を澄ませてみた。
…………声が聞こえる。
か細い、それでいて深い悲しみの鳴き声が。
僕の一番嫌な感情が、声が、真下から伝わってくる。
「もしかして…シアン! モルフォ!
僕の声が聞こえるのならば、返事をしてくれ!!」
僕はありったけの大声でこう伝えた。
……鳴き声が止まった。
真下から歓喜の感情をいっぱいにその気配が近づいてくる。
『『GV------------------!!』』
彼女達は
………声?
今、僕は彼女達の声を聴いたのか?
今まで聞けなかったはずの、ずっと焦がれていた声を?
それに二人の感触を感じる。
柔らかく、女の子特有の甘い匂いがする。
僕は彼女達に尋ねた。
このくらいならば大丈夫だろうと。
「その名前が未来の僕の名前なんだね? シアン、モルフォ」
『GV? 私達の声が聞こえるの!? それに触ることが出来る…!
…そうだよ、GV…通称「ガンヴォルト」それが、私達の居た世界での、貴方の名前』
『アタシ達に色々な大切な物をくれた愛しい人』
…こうやってはっきりと言われるとやっぱり未来の僕に嫉妬してしまう。
思わず彼女達に意地悪をしたくなってしまう。
もうこの感情は清算したはずなのに…
『でも貴方は、「優」はそれ以上に私達に大切な物をくれた』
『アタシ達に平和な世界と、当たり前の、尊い日常を教えてくれた』
『『そんな貴方が、大好きなの』』
この言葉を聞いた瞬間、僕の嫉妬の感情は四散してしまった。
我ながらなんと分かりやすい…でも、こうして分かった。
シアンとモルフォは未来の僕だけを見ていただけでは無いという事が。
ちゃんと今の僕の事を見てくれていた事が。
こういう事はちゃんと言葉にしないと、なかなか伝わらないものだ。
だからこそ僕はとても嬉しい。
僕は二人の頭を撫でた。
…ちゃんと感触がある。
サラサラで撫でていてとても心地がいい。
彼女達も嬉しそうに目を細めて僕に甘えている。
ふと、彼女達の表情を見た。
これは…久しぶりに「アレ」をしたいのだろう。
しかも疑似的では無く、ちゃんとした「アレ」を。
僕達は今まで直接出来なかった分も含めて激しく燃え上がる様に愛し合った。
……時間の流れが分からなくなるくらい僕達は愛し合った。
そうして一息ついた時ふと思った。
僕はここからどうやって彼女達の居た世界に転生するのかを。
そこで彼女達に尋ねてみた。
「シアン、モルフォ 僕はこれからどうやって転生するんだろうね?
少なくとも、二人共居る時点で、それは確定しているはずなんだけど」
こう聞いた瞬間、あの甘ったるかった空気が四散した。
その代わりにシアンから何やら
僕はこの感情を知っている。
百二十年もシアンとモルフォの様々な感情を受け止めて来たのだ。
このくらいは分かる。
『GV…優はそんな事、気にしなくても大丈夫だよ』
『シアン…?』
「シアン…僕の事はGVで構わないよ…将来そう呼ばれる以上、今の内に慣れておきたいし」
…シアンの様子が変だ。
モルフォも、そんなシアンに疑問を感じているようだ。
『分かったよ…ありがとうGV…じゃあ改めて…GV、さっきも言ったけど、
だってここには私達だけしか居ないんだもん』
『シアン…貴方…何を言ってるの?』
シアンの別の感情…
『
「どういう事だ? シアン…!」
『シアン…! 貴女、まさか!!』
『モルフォだって嫌じゃないでしょ? だってモルフォは私なんだもん
分かるよね? モルフォ?』
『…確かにアタシはシアンそのもの…シアンの言いたい事は分かる
でも貴女、それがどういう事か分かって言ってるの!?』
シアンとモルフォが言い争っている。
こんな光景、僕は初めて見た。
いや、それよりも…シアンの狂気が濃度を上げていく。
『モルフォ…
あの世界に、私達の
『分かるわよ!! でも、貴方の本音は…!』
『モルフォ…残念だよ、モルフォ…貴方は私の心に忠実すぎる…だから…』
シアンの狂気がモルフォに向かっていく。
シアンはモルフォに何をするつもりなんだ!?
『
『……! あ゛ぅ!! 何、これぇ……』
「モルフォ! …シアン! モルフォに何をしたんだ!」
『簡単な事だよ? GV、モルフォは元々
『シ…アン…!!』
モルフォの力が周囲に渦巻き、暴走しようとしている。
このままではモルフォが…! ……確かシアン達の力はイメージが重要だと言っていた。
ならば一か八かやってみるしかない!!
「モルフォ!
『G…V…!
この瞬間モルフォの力が僕に流れ込み、安定していく。
どうやらうまくいったようだ。
「協力強制」が。
モルフォが僕の背後に立ち翼を広げてシアンを睨みつけている。
『驚いちゃった… 転生前でも流石GVだね…
モルフォの力を安定させるだけじゃなく、取り込んじゃうなんて』
「シアン…!」
『GV! 貴方が未来で持つ力である
アタシ達の力である
お願い、その力でシアンを止めて! あの子はGVを想っているからこそこういう行動をしているの!
貴方に私達の
だからシアンは僕を転生させたく無い訳なのか。
…シアンは僕を想って行動している。
あのモルフォすら切り捨ててでも転生して欲しくないのだろう。
でも…僕にはそんな風には見えない。
僕には
あの時モルフォが言いかけた言葉…恐らくそういう事なのだろう。
『GV…もしかして私と戦うつもりなの?……ふふ、私一度GVと戦ってみたかったんだぁ
ねぇGV? 私が勝ったらGVは私の言う事を何でも聞いてもらうからね?
あ~んな事や、こ~んな事もお願いしちゃうんだから』
「……僕はそれで構わない
でも僕が
『……いいよ、GVのお願いだもん…約束は守るよ
でも…簡単に勝てるなんて思わないでね?』
そう言った途端、シアンの力が渦を巻き彼女の姿を変えていく。
その姿は今のシアンを大人にしたような外見だ。
その服装は露出が激しく、僕を誘惑してこの世界に留めようとしている風に思える。
スタイルもモルフォと同じような魅惑的な体付きをしている。
こんな状況じゃなれば見惚れてしまいたくなる。
でも背中の翼は、あんなに綺麗だったシアン色では無くなって、
悲しみに満ちた赤黒い色に変色しており、形も酷く歪になっている。
まるで彼女自身の本音を言えない心そのもののようだ。
『お待たせ、GV…じゃあ始めましょうか』
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
今回の話にともない、相州戦神館學園八命陣をタグに追加します。