【完結】謡精は輪廻を越えた蒼き雷霆の夢に干渉する   作:琉土

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第二十三話

 誰かが近づいてくるのを感じる。

 その人は最初、私達の姿を見て怒りの感情を発露していた。

 でも本来ならば怖い筈のその怒りの感情の中に私達を気遣う優しい想いを感じた。

 この人は少なくとも悪い人ではないのだろう。

 そしてその人は近づく。

 怒りの感情を無理矢理押し込めながら。

 まるで私達の事を気遣っているかのように。

 

『…あなた…は…? …あなたは…研究所の人じゃ…ないの?』

「…………うん、僕は研究所の人ではないよ……君が、モルフォ……なのかな?」

 

 私はテレパシーでこの人と会話を試みた。

 その返事をした人の声は私を気遣うとても優しい男の人の声だった。

 私は目を開いた。

 そこに映っていたのはおさげを垂らした綺麗な金色の髪を持つ、

少なくとも私から見てカッコイイと思えるような男の人だった。

 でも何かを必死に堪えているような、そんな気配がする。

 そんな時、既に表に出ていたモルフォが彼に話しかけた。

 

『アタシはこの子の想いが具現化した電子の謡精(モルフォ)という名の第七波動(マボロシ)

あなた、研究所(プロダクション)の人間じゃないんでしょう?

お願い…この子を――アタシをここから連れ出してくれないかしら?』

 

 さっきまで無表情だったモルフォが僅かな期待を表情に出し、彼に話しかける。

 彼はモルフォに対して何かを応えようとしたが、彼の持つ通信機らしき物から声が聞こえる。

 

『こちらシープスリーダー GV、コアは見つかったか?』

「……っ! こちらGV ターゲットと接触しました…再度、情報の修正を

電子の謡精(サイバーディーヴァ)はプログラムデータなんかじゃない…

シァ……小さな女の子の、第七波動(セブンス)です!」

『なんですって…!』

「少女に敵対の意思は無し…皇神(スメラギ)に拘束されているものと思われます」

皇神(スメラギ)のヤツら…えげつねぇコトしやがるぜ』

「…こちらGV、これよりミッション内容を彼女の救出に変更する事を要請します」

 

 通信機からの会話からどうやら彼は「GV」と呼ばれている様だ。

 その内容から考えてGV達の目的は私とモルフォらしい。

 どうやらGVは私達を助けようとしているようだ。

 私達に希望の光が灯ったと感じた。

 しかし…

 

『いや、変更はしない…その子を抹殺しろ、GV』

「……っ! アシ……シープスリーダー!?」

『すぐに皇神の増援が来るだろう

君は罠かもしれない少女をかかえたまま戦うつもりか?

仮に無事に済んだとして、その後はどうする?

フェザーに――武装組織に彼女の居場所があるのか?』

「…それは! でも、元々フェザーは能力者達の人権を守る事を目的とした組織のはずだ!!

それなのに、目の前のこの子を見捨てろと、殺せと言うんですか!?」

『そうだぜ! シープスリーダー! この子は利用されてるだけだぜ?

流石に見捨てるのは後味悪いし、フェザーの理念にも反する! そう思うだろ? シープス3、GV』

『シープスリーダー、私もGV達と同じように、今回の件は納得が出来ません』

『GV、シープス2、シープス3、何と言われようと命令に変更は無い

……もうミッションの終了予定時刻は大幅に過ぎている

これ以上は君達を危険に晒すだけだ

私はリーダーである以上、チームの皆を無事帰還させる責任がある

チームの皆と、フェザーに居場所の無い見知らぬ少女…

チームの皆を優先するのはリーダーとして当然の事だ』

 

 その言葉に通信をしていたであろう三人は沈黙してしまった。

 …シープスリーダーと呼ばれている人の言っている事は正論だ。

 見知らぬ私とチームの仲間…どちらを優先するかなんて決まっているのだ。

 だったら、私は…

 

『…………それなら、私を…殺してください

もう、あの人たちのための歌は…皆を苦しめる歌は唄いたくない…だから…

いっそ、私を殺してください』

 

 こう、GV達に答えたのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 そう、今の私はこう答えた。

 この優しい人達になら殺されても構わないと思ったからだ。

 出会って間もない今の私達の事をここまで気遣ってくれたのだ。

 この時の私達はもう殺される覚悟は出来ていた。

 でも…

 

「そんな簡単に命を投げ出すな! 君が自由を望むのなら僕が(チカラ)を貸す!!

僕は君を助けたい…教えて欲しい、君の本当の願いは、何?」

 

 GVは今の私に対してこう答えたのだ。

 今にして思えば、この時からGVは覚悟してたのだろう。

 GVにとっての、この世界の日溜まりともいえるフェザーの脱退を。

 ……今までずっとGVの(記憶)を見ていた私達ならば分かる。

 この時GVがどれだけ大きな覚悟をしていたのかを。

 GVはこの時この瞬間から今の私達の為に動くようになったのだ。

 今の私はそんな事も露知らずこう答えた。

 

『私は……私は外の世界で、私の歌を唄いたい…! 唄いたいよぉ…』

「…うん、それが君の願いなんだね? …シープスリーダー、僕はフェザーを抜ける

かつて貴方が僕に自由をくれた様に、今度は僕が彼女の(チカラ)になる」

『それがお前の選んだ「自由」かGV…ガンヴォルト』

「はい…!」

『フッ……了解だ…組織に規律を乱す者は不要!

これよりコードネームGVをフェザーから除名する』

『ちょっとちょっと、二人とも! 何を言っているの!?』

『そうだぜ! 二人とも! どうかしてるんじゃねぇか!?』

「…いいんだ、シープス3…シープス2も…今までありがとう」

『皇神の増援部隊は我々フェザーにまかせてもらおう

今の君は我々フェザーとは関係のない一般市民だ…戦いに巻き込むわけにはいかん

…グッドラック、GV』

「ありがとう、シープスリーダー……アシモフ」

 

 そのやり取りがあった後、GVは今の私をコアから蒼き雷霆(アームドブルー)のハッキングを利用して救出し、

両腕を使いお姫様だっこで抱きかかえた。

 この時今の私はGVが蒼き雷霆(アームドブルー)を使った時に舞い散る羽を見て、こう答えた。

 

「綺麗な羽……貴方は、天使?」

「僕はGV――ガンヴォルト………君の名前は?」

「私は…シアンです」

「シアンか……とても…とても、いい名前だね」

 

 この時のGVは万感の思いで私の名前を呼んで、褒めていた。

 GVからすれば、(ようや)く今の私達に会えたのだ。

 転生前の百二十七年と転生後の十四年、合わせて百四十一年も掛けて出会えたのだ。

 顔を合わせて、触れ合え、話が出来たのだ。

 だからなのだろう、GVの目から一筋の涙が零れていた。

 

「GV? あの…どこか怪我をしているの?」

「ん? あぁ……何でもない、何でもないんだ、シアン」

 

 今の私がそんなGVを心配し、GVはとても優しい声を私に掛けて答えている。

 そんな二人のやり取りを私達は懐かしい気持ちで見つめていた。

 ……GVの通信機から声が聞こえる。

 

『……シープスリーダー、実はコアの正体があの子だった時から、

GVならこう動くって確信してただろ?』

『……何のことだ? シープス2』

『声が嬉しそうだぜ? シープスリーダー…シープス3もそう思うだろ?』

『そうね…シープスリーダー? GVの抜けた穴はきっちりと埋めて貰いますからね?』

『問題は無い…この新しいサングラスも、馴染んで来たしな』

『そういえばそのサングラス、いつの間に用意したんだ? シープスリーダー?』

第九世代戦車(マンティス)を狙撃した時からだ、シープス2』

『シープスリーダーが何時ものサングラスから別のに変更するなんて珍しいわね

前よりも狙撃の精度も上がってたから、何か新しい機能でもついてるのかしら?』

『そんな所だ シープス3…詳しい事は私の能力に関わる話なので詳しくは話せないが…

一言だけ言わせてもらえるならば、このサングラスはGVの置き土産みたいな物だ

私に、新たなホープ(希望)パワー()を授けてくれた、置き土産なんだ』

『随分と嬉しそうね、シープスリーダー』

『そう見えるかな? シープス3』

『ええ、とっても…そう思うでしょ? シープス2』

『ああ、そんなに嬉しそうな声を出すシープスリーダーなんて初めてだぜ

こりゃ明日は槍でも降るかな? なんてな』

 

 その様な会話がGVの耳には入っていなかったみたいだが、私達の耳には入っていた。

 ……これはあの時のアシモフさんの凶行に何か関わりがあるのではないかと私達は思った。

 そして今の私を抱えて止まった列車の外に出たその瞬間。

 GVは「それ」を察知し、電磁場を利用した超機動で飛翔した。

 その瞬間、GVの居た場所に銃痕が刻まれていた。

 

「……っ! シアン、大丈夫かい?」

「……うん、私は大丈夫だよ、GV」

 

 …私達はGVにこれから未来で何が起こるのかを話してはいない。

 GV本人がタイムパラドックスを警戒しているのを私達も聞いているし、知っているからだ。

 だからこそこの出来事が起こる事が私達に分かっていても黙って見ている事しか出来なかった。

 その光景は、かつてのやさしい世界にて見覚えのある少年が一人。

 特殊な武装をして、大きな盾と銃を構えて、憎悪をむき出しにした表情でGVを見ていた。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。

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