【完結】謡精は輪廻を越えた蒼き雷霆の夢に干渉する   作:琉土

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第二十五話

 僕は背後からの追手の気配が無くなったのを確認して、

シアンを抱えながら僕の拠点へと向かっていた。

 その拠点はフェザーの施設とはまた違っていて、

僕個人がアシモフ達を頼って予め用意した個人用のセーフハウスみたいな物だ。

 僕はシアンに意識を向ける。

 どうやら彼女はとても悲しんでいるみたいだった。

 あの時僕は不意を突かれて左足を怪我した時、

アキュラに足手纏いと言われていた事を気にしているのだろう。

 …どうやら抱きかかえているシアンの想いも未来のシアン達と同様に僕には分かるようだ。

 そして別の意味で焦った事もあった。

 怪我をした僕を見て未来のシアン達の怒りが目も当てられないレベルで膨れ上がったのだ。

 あの感情から察するに、「Ar(アル) tonelico(トネリコ)」をアキュラに撃ち込もうとしていたのだろう。

 あれはあの場所だったからこそ周囲に気にせずに発動できたSPスキルなのだ。

 あそこで発動されていたら色々と収拾が付かなくなる所だった。

 まあでも、そんな所も僕にとってはとても可愛いと思うのだが…

 

「…………」

「私…足手纏い…GVの…」

 

 シアンの悲しみの感情は、僕には辛い。

 シアンには笑顔でいて欲しいのに…アキュラの奴め…!

あの時アシモフの狙撃が無かったらその引き金を引いた瞬間を狙って、

ラムダドライバで銃口を塞いで暴発させた隙を突いて制圧したのに。

 そうすればあの狙撃手も迂闊には手を出せなかっただろう。

 …まあそれは兎も角、今はシアンの事だ。

 僕はシアンになんと声を掛ければいいのだろうか?

この場合、安易に「君は足手纏いなんかじゃない」と言ったって無駄だろう。

 間違いなく、余計にシアンを傷つけるだけだ。

 寧ろこの場合、そっとしておくのがベターなのだろう。

 でも、本当にそれでいいのだろうか?

もっといい方法があるはずだ。

 考えろ。

 シアンの悲しみを喜びにする方法を。

 ……以前、転生前に居た世界で未来のシアンがモルフォを呼び出そうとしていた時、

町を一望できる山頂を呼び出す場所にしていたな。

 あの景色は僕もお気に入りで、

転生前の時は二人の歌が僕の体に届かなくなるまで行く機会があった。

 街を一望できる景色が好きなのだろう。

 山頂まで登り切った時の二人の街を見下ろしている時の表情はとても嬉しそうだった。

 でも今から山に向かうのは距離があり過ぎるし、時間も相応に掛かるだろう。

 ……あの時山頂まで登るのに僕は二人に(チカラ)を借りていた。

 そして今の僕には(チカラ)がある。

 あの時誓ったように、今度は僕がシアンに(チカラ)を貸す番だ。

 僕は足を止めてシアンに話しかけた。

 

「……シアン、突然で悪いけど僕がいいって言うまで、目を瞑って欲しい」

「…うん、分かったよGV」

 

 シアンは目を瞑った。

 それを確認した僕はお下げの先端に付いているテールプラグを能力を利用して外し、

体内にEPエネルギーを込めラムダドライバを発動させる。

 テールプラグは本来おさげに付けたままの状態で「ダートリーダー」に接続する事で、

僕の第七波動(セブンス)をダイレクトに放射出来る機能がある。

 最近ではこのテールプラグに新たな機能として、

ラムダドライバのリミッター機能を追加してもらったのだ。

 ラムダドライバは人に向けて直接撃つには強力過ぎる。

 …訓練室の壁を一度粉々にしてしまい、

僕もアシモフもモニカさんに物凄く怒られたという苦い経験が理由で付けているのだ。

 故にアシモフ達にお願いしてこの機能を試行錯誤している間に追加してもらったのだ。

 でも今はその全力を僕は行使する。

 誰かを傷つける為では無く、誰かを守る為でも無く、シアンとモルフォに喜んでもらう。

 ただそれだけの為に。

 そして、僕は全力で重力を無視して空に向かって跳躍した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……シアン、突然で悪いけど僕がいいって言うまで、目を瞑って欲しい」

「…うん、分かったよGV」

 

 GVは走っていた足を止めて私にこう切り出してきた。

 もうすぐGVの拠点に着くのだろう。

 足手纏いである私にその場所の経路を直接見せる訳にはいかないとGVは判断したのだろう。

 …そんなのは嘘。

 この私の考えはアキュラに傷つけられた私の心が見せている幻。

 あの優しいGVがそんな事を理由に私にこんな事を言った訳では無くて、

何か考えがあって私にお願いしているのだろう。

 でも今の私の心は、それが幻であると断言出来ない程に弱っていた。

 …私は自由になりたいと思っていた。

 それが叶ったと思っていた。

 でも、いざ外に出てみれば何も出来ない所か、文字通りGVの足手纏いとなってしまったのだ。

 GVはあれから私に口を開かなかった。

 私はGVに嫌われちゃったのかな…GVに嫌われるなんて嫌…嫌だよぉ…

私の瞑った目から涙が零れ落ちようとしていたその時、GVは声をかけて来た。

 

「シアン、目を開けてごらん?」

 

 私はGVの言う通りに、目を開けた。

 最初は涙で目が霞んで、よく見えなかった。

 でも涙を拭って、再び前を見た。

 そこは…

 

「わぁ……」

 

 そこは先ほどまで私達のいた街を一望できる景色だった。

 夜の街を、人の営みの証である光が照らす光景だった。

 まだ皇神に居た頃の、モニターの中でしか見れない光景だった。

 私が、モルフォが、手を伸ばしたかった、焦がれていた、憧れていた光景だった。

 そこは生きとし生ける人々皆が「(そら)」と呼ぶ場所だった。

 そんな光景に私は再び涙を流す。

 さっきまで流していた涙は冷たく感じていたのに、今の涙は温かく感じた。

 GVがあの時私に目を瞑る様に頼んだのはこれを私に見せて驚かせたかったのだろう。

 私のアキュラに傷つけられた心を癒そうとしてくれたのだろう。

 その事が私にはたまらなく嬉しかった。

 そして私のその気持ちに呼応してモルフォが私の中から飛び出し、

GVの隣で私が今まで見た事の無い笑顔で嬉しそうに空を舞い、

私と同じように景色を見ていた。

 

『……凄い景色ね、シアン

アタシ、今この瞬間だけでもGVに着いて行って心から良かったって思えるの』

「そうだね、モルフォ…私が、ううん、私達が、

叶わないと思ってた、届かないと思っていた景色…

それをGVが見せてくれた」

 

 私達はそんなGVにお礼を言おうと今見ていた景色からGVの顔に目を向ける。

 GVはそんな私達の様子を見てとても嬉しそうな、愛おしそうな、優しい表情をしていた。

 おさげだった髪が解け、纏まっていた綺麗な髪を靡かせるように、

キラキラと光り輝いているように見えた。

 その背中からはコアから救出してくれた時に見た羽の元となっているであろう、

儚く光る蒼い翼が生えていた。

 そんな姿を見て言葉を失っている私達にGVはこう切り出した。

 

「今はまだ僕の(チカラ)が必要だと思うけど、

シアン達なら将来きっと僕の(チカラ)が無くてもこの景色を見れるようになる

自分の歌を歌えるようになる…その時は、僕と一緒にこの景色をまた見に行こう

そして歌を歌おう…僕ら三人で、一緒にね」

 

 さっきまで見ていた、焦がれていた景色よりもずっと綺麗で、

幻想的な姿をしたGVの言葉を聞いて、見て、感じて…

私は、私達は、顔を朱色に染めて恋に落ちたのだった。

 

――これが私達とGVの出逢い。

 私達はきっと生涯、ううん、例え死んでしまっても忘れる事は無い…

私達に自由をくれた、蒼の翼のことを…




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




※テールプラグについて
この小説内におけるテールプラグはダートリーダーとの接続機能以外にも、
ラムダドライバのリミッターの役割があります。
つまりGVが全力戦闘をする際テールプラグが外れます。
外れたテールプラグは能力を利用して外したり回収したり出来ます。
このリミッターが付いている状態でもラムダドライバで銃口を塞いで暴発させるくらいは余裕です。
ぶっちゃけお下げが解けたGVというのを書きたかっただけです。


追記

※GVのシアンちゃん達の気持ちの察しが良すぎる件について
第九話で「私と会話する時はGVはずっと私に対して強く意識して居る必要がある。
それをどんな時でも辞めないのだ。」
とあったのを覚えていますでしょうか?
 これは転生前のGVが百二十七歳になって息を引き取るその瞬間まで、
そして転生後のどんな状況でもこの努力が今も継続されているのです。
 いや、もうGVはこの努力を努力と認識しておらず、当たり前の物と認識しています。
 故に長年の経験と努力により、
もうシアンちゃん達の考えがエスパーかってレベルで把握出来ているのです。
 次のお話でもこの努力の結果が花開いています。
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