【完結】謡精は輪廻を越えた蒼き雷霆の夢に干渉する   作:琉土

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第二十六話

 私達は今、GVの拠点付近の空に居る。

 あの時の私達はどうやってGVがここまでの高さを飛ぶ事が出来たのかが疑問だった。

 何しろ目を開けたら突然の綺麗な景色だったのだ。

 疑問に思うのも当然だろう。

 GVにはあの時どうやって飛んだのかの簡単な説明は聞いていたけれど、

その答えをGVの(記憶)の世界で直接見ることが出来た。

 ラムダドライバを使って、たった一回の跳躍であの高さまで飛んだのだ。

 しかもあの時の私はその事に気が付かなかった。

 普通は飛んだ衝撃とかそういうのがあるはずなのだ。

 それが全く無かった。

 ラムダドライバはそういった反動も打ち消せるし、重力だって無視するのだ。

 GVが言うには厳密には超能力では無く、「世界改変能力」なんだとか。

 だから理論上ラムダドライバは何でも出来るのだそうだ。

 …この「力」から第七波動(セブンス)を感じ取れない。

 あくまでこれは蒼き雷霆(アームドブルー)を動力源として発生している「力」だ。

 …GVを中心に広い範囲にこの「力」の結界のような物が張り巡らされている。

 それにこの結界…外からの光が屈折して、私達の所に入らないようになっている…

 この結界は恐らくGV達の第七波動(セブンス)反応を隠蔽、そして「光学迷彩」の機能がある。

 改めてこうしてラムダドライバを見てみると、GVが何かと多用するのも分かる気がする。

 第七波動(セブンス)反応が無い未知の力だから皇神も把握出来ないらしいし。

 日常でも私達しか居ない時なんて料理や勉強の教材を運んだりするのに「力」を使っていたし。 

 

『この景色をこうやってまた見る事になるなんて…』

『昔のアタシったら、あんなにはしゃいじゃって…』

 

 私達もこの光景を、今でも決して忘れてはいないこの光景を見て嬉しい気持ちに溢れていた。

 この私達の思い出の綺麗な景色が好きだから、

やさしい世界のとある山頂から見れる街を見下ろした景色が大好きだったのだ。

 そういえばこの時のGVは確か…

 

『あぁ、GV…やっぱり綺麗だなぁ

あの蒼い翼も、舞い散る羽も、綺麗な長い髪も、私達を見ている嬉しそうな表情も』

『…この時のGVを見て私達はあっさり心を奪われちゃったのよね

よく娯楽とかで「心を鷲掴みにされる」って表現があったじゃない?

それをされたらこうなるんだなって身をもって知ったんだもの』

『あ、やっぱりモルフォもそうだったんだ

私もあの時のGVを見て頭の中が真っ白だったの』

『当然よ ほら見て、あのアタシの惚けた顔

あの時のアタシ、シアンと同じように頭の中が真っ白だったのよ』

 

 あの時の私達は意気消沈していた。

 そんな状態からこんな綺麗な光景を見せられて、

トドメに長くて綺麗な金色の髪を靡かせているGVが私達を見て、あんな事を言うのだ。

 こんなの、恋に落ちるに決まってる。

 顔を上気させて、瞳を潤ませ、熱い吐息を出して媚びたくなる。

 私達の身も心も何もかもを捧げたくなる。

 ありったけの呪い(祝福)を注ぎたくなる。

 四肢を私達の体で拘束してあの時みたいに只管肉欲に溺れたくなる。

 このGVを見るのが二度目の今の私達だってこんな反応をしているのだ。

 初めてこのGVを見た私達はもう抗う術等無かった。

 頭が一度真っ白になって私達の記憶に、体に、魂に刻まれた後、

今日を含めて暫くの間、GVの事しか考えられなくなっていた。

 それくらい今のGVは私達にとって魅力的なのだ。

 

『ねぇモルフォ、GVは今の私達に預けてるから…』

『分かってるわ、シアン…お互い気持ちを持て余しているし…』

『何時もみたいにお互い、慰め合いっこしよ? 今日は私がモルフォを虐めてあげる』

『ええ、そうしましょうシアン…何時もみたいに激しく、壊れてしまうくらいしてね?』

 

 そうしてGVの事を今の私達に任せ、お互いの体を重ねて慰め合った。

 あの場所でGVと直接交わった時を思い出しながら、只管肉欲に溺れていった。

 …あの時は周りに何も無くておねだり出来なかったけど、

この(世界)が終わって一息付いたら、首輪が欲しいなぁ。

 私のと、モルフォのと、GVの分が。

 それで、GVが私達の首輪に鎖を繋げたり、逆にGVの首輪に鎖を繋げたりするの。

 それでね、お互いに口では言えないあ~んな事や、こ~んな事をし合うの。

 ふふ…楽しみだなぁ。

 モルフォもそう思うでしょ?

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ……何やら新しい楽しみが増えた気がする。

 今僕は空をラムダドライバでこのまま僕の拠点へと直行する為にゆっくりと下降している。

 シアンとモルフォの二人は僕の顔を見て顔を赤く染めている。

 そんな二人が愛おしくて、シアンをラムダドライバで浮かせて両腕から放し、

シアンの頭を撫で、モルフォの頭を撫でる素振りを()()()()調()()で行った。

 

「わぁ…凄いよGV! 私、今浮いてる、浮いてるよ! G…V…」

『もう、シアンったら、いくら嬉しいからって(はしゃ)ぎすぎ…』

 

 最初は二人共驚いていたが、直ぐに身を任せてくれた。

 シアンは顔を赤くしながら(うつむ)いて、なすが儘でいる。

 モルフォは最初戸惑っていたみたいだったが、

シアンを見てそれがどういった事なのかを理解した途端、

少し顔を赤くしながら身を任せる素振りをしてくれた。

 この時のモルフォは何も言わなかったけど、

『しょうがないわねぇGVは』とでも言いたげな表情をしていた。

 そうこうしている内に僕の拠点へと到着し、二人を案内した。

 

「ここがGVのお家?」

「ここが僕の拠点、セーフハウスみたいな場所さ」

「セーフハウス?」

「隠れ家とかって意味の事だよ、シアン」

『隠れ家ねぇ…男の人が好きそうな感じよね、秘密基地とか』

「そうだね、モルフォ…」

 

 ってマズイ!

 僕の部屋が色々と二人に見せたらマズそうな品物で溢れかえっているじゃないか! 

 

「…まずは僕の拠点を色々と案内したい処だけど、

今日の所は簡単な夜食を済ませて、もう休もう」

「そうだね…今日は色んな初めてを知って疲れちゃったかも…」

『ありがとう、GV…アタシ達を気遣ってくれて』

 

 二人の嬉しそうな気持ちが僕の心に刺さる…

二人が眠りについたのを確認したら部屋を片付けなければ…主に欲望を発散させる本とかを…

モルフォの特大ポスターは…これは大丈夫なはずだ。

 むしろ欲望を発散させる本への隠れ蓑に出来るはず…

 

「このくらいお安い御用さ 所でシアン、お風呂はどうする?

湯船を張ってもいいし、シャワーで済ませてもいいよ」

「お風呂も用意してくれるの!? …もしGVが良かったら、湯船に浸かりたいなぁ…

でも着替えはどうしよう…」

「……ちょっと乱暴な方法だけど、ちょっとの間は僕の「力」でなんとかするよ

後日にモニカさんに着替えや下着なんかの手配をお願いする予定だからそれまでは我慢して欲しい

流石に僕が直接購入したり準備したりする訳にはいかないし」

「色々と気を使ってくれてありがとうGV…ちょっと恥ずかしいけど…GVになら…私は…」

『もぅ…シアンったらはしたない……

そういえばその「力」ってさっき空に飛んだ時に使った能力の事かしら?』

「そうだよモルフォ、この「力」は色々と便利なんだ…ほら…こんな風にね」

 

 そう言って僕はシアン達の目の前でリンゴと皿を出現させ、

そのリンゴをシアン達の目の前で器用に「力」を使って剥いていき、

一口サイズの大きさに切り分け皿に乗せて二人に差し出した。

 これはラムダドライバの「現実改変能力」利用して出現させたリンゴと皿である。

 

「GV!? このリンゴ、何所から出てきたの!?」

『…何かが収束してからこのリンゴと皿が出て来たわね

なるほどね、これもGVの言う「力」なのね?』

「そうだよモルフォ

このお陰で少なくとも食べ物には困る事は無いからね

じゃあそこの椅子に座ってこのリンゴを食べながら待ってて

今夜食を用意して来るから」

 

 そう言って僕は自分の分と、シアンの分と、

()()()()()()の夜食を用意してテーブルの上に並べた。

 

「これでよし…お待たせ()()()、簡単な物だけどうどんを用意したよ」

「ありがとうGV! 私もいつかこういった料理が作れるようになりたいなぁ…」

「僕がシアンに教えてあげるから大丈夫、出来るようになるさ」

『……所でGV、一人前多くないかしら?

多分GVはアタシの分も作ってくれたみたいだけど、アタシは、第七波動(マボロシ)だから…』

 

 モルフォは少し悲しそうにそう答えた。

 大丈夫だよ、モルフォ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 …これは即行で、大きな賭けだ。

 上手くいかなければ…

でも、もう賽は投げられたのだ。

 絶対に成功させて見せる…!

 

()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『……ぇ?』

 

 モルフォの悲しそうな表情が期待の感情に変化していくのを感じる。

 僕はその期待に応えるべく、蒼き雷霆(アームドブルー)を迸らせる。

 

「迸れ! 蒼き雷霆よ(アームドブルー)!

謡精(ディーヴァ)第七波動(マボロシ)実体化(現実)にする為の、真実の極光(きょっこう)となれ!

謡精の物質化(マテリアライズオブディーヴァ)!」

 

 僕の蒼き雷霆(アームドブルー)の力がモルフォに干渉し、モルフォを実体化させていく。

 モルフォの()()()()()()という想いを、

僕が「協力強制」を利用して蒼き雷霆(アームドブルー)の力を応用する事で、

モルフォの電脳体に干渉、実体化させると言う物だ。

 これはモルフォの中に()()()()()()という想いが無かったら上手く行かなかった方法だ。

 これは即行ではあるが、()()()()()()()()()S()P()()()()だ。

 きっと僕の想いが届いてくれているはずだ。

 そして実体化を完了させたモルフォはその感覚に戸惑っている様だ。

 

「GV、モルフォが…モルフォが…!」

「何? この感覚…アタシ、本当に実体化出来たの?」

 

 どうやら僕はこの賭けに勝ったようだ。

 少なくともモルフォにも()()()()()()という想いがあった。

 あの時シアンにリンゴを剥いて出したのは何も僕自身の部屋の片づけの為だけではない。

 美味しそうにリンゴを食べるシアンを見て、モルフォがどう反応するのかを確かめる為だ。

 そこで未練が無ければそれでよし、でも今回みたいに未練があったと言うのならば…

 僕はこうして力を振るっただろう。

 

「じゃあ早く食べようか、うどんも伸びちゃうし…

シアンも()()()()()、早く食べよう」

「うん! …モルフォ、一緒に食べよう?」

「…うん」

 

 そしてシアンとモルフォが箸を使いうどんを食べる。

 シアンが箸を使えるのが理由なのだろうか、モルフォも初見なのに箸が使える様だ。

 そしてそれを口に含んだ瞬間、

シアンは美味しいと喜び、モルフォはその初めての感覚に表情を綻ばせ、涙を流した。

 

「…これが、味なんだ」

「そうだよモルフォ! でもGV、どうしてモルフォにも食べさせてあげたいって思ったの?」

「シアンにリンゴを剥いてあげた時、モルフォがシアンの事を見て、

どこか羨ましそうな表情をしていたからなんだ

だからその想いに僕は答えた…それだけの事だよ、シアン」

「…これがおいしいって事なんだ

……アタシ、シアンには言ってなかったけど、こうして何かを食べるのに憧れてたの

シアンも皇神の人達もこの食事という行為だけは共通して嬉しそうだったから…

GVはそんなアタシの気持ちを、あのリンゴ一つで把握して…理解してくれて……!」

 

「とても、とても嬉しいの…」とモルフォは涙声で答えた。

 …僕のこの選択は間違いでは無かったと目の前に広がる光景を見て確信し、

僕は二人が美味しそうに僕の作ったうどんを食べているのを眺めつつ、

自分のうどんに箸を伸ばすのだった。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




追記

謡精の物質化(マテリアライズオブディーヴァ)について
この小説内におけるモルフォの電脳体を実体化させる為の、
GVによる蒼き雷霆(アームドブルー)と「協力強制」を利用したSPスキルです。
その効果時間はGV側で自由に制御が出来ます。
他にもモルフォが電脳体に戻りたいと思った時は解除されます。
それでいてモルフォの持つ能力を阻害する事は無いと言う都合のいいSPスキルです。
何しろこのSPスキルはモルフォの為だけの物だからです。
因みにこのSPスキルがヒントとなって第一話にて、
蒼き雷霆(アームドブルー)との能力完全共有化が確認出来た時に、
この実体化をシアン単独で出来るようになったという訳です。

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