私達がGVの拠点に来てから今日でもう一週間が経った。
GVはこの期間に色々な物資をフェザーに依頼していたり、
GVの拠点を正式に譲り受ける手続き等をこなしていた。
私達はその間そんなGVの事を観察していたり、
GVの休憩の合間を縫って、料理の基本的な事を教えてもらったり、
モルフォの大ファンでもあったGVにサインを顔を少し赤くしながらねだられて、
私と実体化したモルフォがGVにサインを目の前で直接書いて手渡したり、
息抜きに外に出て、GVの拠点付近の散歩に出かけたりしていた。
この時のGVと私はGVが使う
私達の髪と瞳の色を黒にして誤魔化す事で私達であると認識されないようにしていた。
モルフォの方は私の方である程度の姿形をコントロールする事が出来ていたので、
何時ものモルフォの衣装からインターネットで検索した今流行りの服を参考に
その姿を変化させた。
その後私達と同じように黒い瞳と髪に変更した後、GVが実体化させる。
こんな感じに変装をしていた為、比較的安心して外に出る事が出来たのだ。
「今日もG…
「まだ初日の時はアタシは外に出かけるのは反対だったけど、
こうして外にいざ出てみるとアタシ達は自由になったんだって実感出来るわね、
「うん! そうだね、モル…
危なかった。
思わずモルフォの名前を外で出しちゃう所だったよ…
「もう、
…今までのG…優の努力が無駄になってしまうわよ?」
「ごめんなさい…
「その辺については大丈夫 僕が周りを警戒しているからね
今はまだ名前を間違えても大丈夫だよ、紫明、舞」
「もうっ! 優は紫明に甘いんだから!
……でもそんな貴方だから、アタシは…」
GVの場合、外出中は「優」って外では名乗っている。
拠点に来て初めて外出する前にこの名前を教えてもらったの。
何でも、
でも、GVは訳あってこの名前を捨てて、コードネームであるGVを名乗っている。
初めて教えてもらった時少し考え込んでたけど、
今にして思えばあの時から私達の偽名の問題について考えてくれていたのかもしれない。
私の場合は私の髪の色である「紫」に、
私に自由を齎してくれたGVの「明」るい光を元に考えた名前、それが、
モルフォの場合はバーチャルアイドルをやってた時、
蝶の様に「舞」を踊っていた時の綺麗な姿から考えた名前、それが
と、こんな感じに私達の偽名が決まっていた。
「優、今日は外に出てどこに行く予定なの?」
「そういえばアタシも気になるわ そろそろ教えてもらってもいいと思うのだけど」
「そう慌てないで、二人共 ほら、もう見えて来たよ?」
そう言ってGVが指を指していたのはカラオケボックスのお店だった。
「「からおけぼっくす?」」
「そうだよ、紫明、舞、ここは自由に歌を歌うことが出来るお店なんだ」
そういえばまだ皇神に居た頃に聞いた事がある。
なんでも、今GVが言った通りに自由に歌が歌える場があるのだとか。
私に親切にしてくれた人が詩集を私に渡してくれながらそんな事を言っていた記憶がある。
そっか…ここがそうなんだ…
「今日はここで三人で一緒に歌おうと思ってるんだけど、どうかな?」
「私は賛成だよ! 舞お姉ちゃんもそうだよね?」
「ええ! 紫明と同じようにアタシも賛成よ!
こうやって自由に歌を歌う機会なんて無かったもの」
「じゃあ、早速中に入ろうか」
「「うん!」」
私達はこうして初めてカラオケボックスに足を運んだ。
GVは慣れた様に手続きを済ませ、私達は部屋に案内してもらった。
その後飲み物を注文してもらい、その間に何を歌おうか三人で考えた。
「ねぇ優? アタシは久しぶりに歌うから、慣れた歌で慣らしたいんだけどいかしら?」
「舞がそういうなら最初は舞に任せたいと思うけど、紫明もそれでいいかな?」
「うん! 私もまずは聞きなれた歌からの方がいいと思うよ」
「じゃあ…「蒼の彼方」から歌いましょう?」
そう言って歌いたい曲を決定した所で店員さんが注文した飲み物を持ってきてくれた。
その後私達三人は喉を潤し歌を歌った。
「「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」」」
私達は今、自由に歌を歌えている。
モルフォも、GVも、私も、皆で歌えている。
皇神の人達に無理やり歌わされているのではなく、私達の意思で。
歌っているモルフォを横目で見た。
あんなに嬉しそうに、楽しそうに歌っているモルフォを見たのは初めてだった。
あの頃の皇神に居た頃のモルフォは表情は演技で誤魔化せていたけど、
その実無理矢理歌わされていたのがたまらなく苦痛で、嫌でたまらなかったのだそうだ。
モルフォは私の本心の片鱗。
私自身が無理矢理歌を歌わされるのが辛くて、嫌でたまらなかったのだ。
だからこそその苦しみをよりダイレクトに受けていたのだろう。
それがどうだろう。
今のモルフォはあんなにも嬉しそうに歌っている。
私も三人で歌うのを心の底から嬉しいと思っている。
だからこそあんなに眩しいくらいの笑顔で歌えているのだろう。
…ううん、それだけじゃない。
私もそうだけど、モルフォはGVを見ながら瞳を潤ませて歌っている。
だってこの状況を作ってくれたのは他ならぬGVなのだ。
その嬉しいと思う感情を堪え切れなかったのだろう。
歌い終わった時は私と同じようにモルフォの瞳に涙が零れ落ちていた。
「………紫明、舞、
「「…………!!」」
「正直に言うよ、紫明、舞…僕はここに連れて行く事が実は不安だったんだ」
「「……えっ!」」
「二人共、無理矢理歌わされていただろう?
だからもしかして、歌そのものが嫌いになっていたんじゃないかってね
でも、その様子だとここに連れてきて正解だったみたいだ
二人の嬉しそうな気持ちが歌を歌っている間に伝わってきたんだ
僕にはそれがたまらなく嬉しかった」
「「優…」」
私の顔が熱くなるのを感じる。
視界に入っているモルフォの顔も真っ赤だ。
GVの優しい想いが伝わってくるの…こんな優しい気持ちを向けられたらしょうがないよね?
その後のカラオケは夢心地な状態で、私達は時間を忘れて歌を歌った。
そして終わりの時間を迎えた。
「……あ、二人共、そろそろ時間みたいだ
紫明、息が切れてるのを忘れたみたいに歌ってたけど、大丈夫?」
「本当、もうこんな時間じゃない! …紫明、大丈夫?」
「ハァハァ……あれ? もう時間なの? うん、大丈夫だよ、優、舞お姉ちゃん」
「……紫明、もし良かったらだけど、明日から体力作りに挑戦してみないか?」
「体力作り?」
「うん、今回のカラオケで歌ってみて分かったと思うけど歌を歌うって体力を結構使うんだ
紫明は体力があまり無いみたいだし後の事を考えると今の内に何とかするのもいいと思うんだ」
「優…うん、私、体力作りに挑戦してみるよ」
「決まりだね…体力作りは、体力が付く前は大変だけど思うけど…」
そう言って私に手を伸ばしながらGVはとあるスキルを私に発動させた。
「……
GVがリフレッシュヴォルトと呼ばれるスキルを発動した後、
少しの痺れと共に、私の今まで感じてた疲れが吹き飛んだ。
「あぅ…! …あれ? さっきまで疲れていたのに、それが無くなっちゃった
優、今私に何をしてくれたの?」
「僕の
元々生体電流を活性化させて傷を癒すスキル「ヒーリングヴォルト」を応用した物なんだ
このスキルは傷では無くて、
「そんな便利なスキルがあるのね…
実は紫明にそういった事をさせるの、アタシは不安だったのよ
ずっと体を動かす機会なんて無かったお陰で、発育も遅れちゃってるし…」
そんな事を話していたら、私のお腹から音が鳴った。
「やだ…さっきお菓子を結構食べてたはずなのにお腹が鳴るなんて…」
「大丈夫だよ紫明 それはリフレッシュヴォルトの副作用みたいな物なんだ
新陳代謝を強化する関係上、受けた人のエネルギーの消費が激しくてね…
リフレッシュヴォルト使用後はそうやって直ぐにお腹が空くんだ」
「流石に、利点ばっかりじゃないって事ね」
「そういうこと でも、紫明の場合はそれが利点になるんだ」
「え? それって…」
「
その分この方法で体作りをするのは成長痛とかもあって想像以上に大変だけどね…
これについては無理に提案をするつもりは無いけど、どうするシアン?」
その言葉を聞いた時私は新しい希望を得る事が出来た。
私はこの小さな体が嫌だった。
もう十三歳にもなるのに、こんな子供みたいな体なんて…と。
でもそれが改善される可能性が出来たのだ。
年相応の体になれるその可能性が。
こんな機会はきっともう無い。
GVはこの方法は大変だと言っていたけど、それは当然だと私は思った。
何しろこの疲労困憊の状態に何回もなる必要が出てくるのだ。
大変なのも頷ける。
…GVの体付きが逞しいのもGV本人がそれを身をもって体験したからなのだろう。
提案した本人が心なしかゲッソリとした顔をしていた。
…私はGVのこの提案を受ける事に決めた。
成功例が目の前にあるのである。
大変だと思うけど、私には不安は無かった。
そして、ここから本格的に私達の新たな日常が始まったのだった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
※リフレッシュヴォルトについて
ヒーリングヴォルトを応用して傷では無く、
新陳代謝を強化して体の状態を正常化するこの小説内に登場するスキル。
但し問題があり、
一度に体中の老廃物が出て行く為色々と惨たらしい事になってしまうのだ。
GVがこのスキルを
この惨たらしい事態をその身をもって体験する事となった。
GVの表情がゲッソリとしていたのはこれを思い出していたからである。
その後色々と試行錯誤をした結果、
ラムダドライバの現実改変能力を組み合わせて漸く望んだ機能を得るに至った。
なお、ラムダドライバ単独でこのスキルの再現は何故か出来なかった。
これは最初に失敗した時、GVにトラウマが出来てしまったからである。
シアンに掛けたこのスキルはその完成版な為そういった害は無い。
故にGVはシアンに提案したのである。
……初使用時の場所はGVが予め結果を予測した上で念には念を入れて、
GVの拠点にあった風呂場だったため尊厳は守られた模様。