僕は今、皇神第一ビルでデータサーバーから情報を
痕跡を「力」で完璧に消し、今正に撤退しようとしていた。
その時、男とも女ともしれない存在が部屋に侵入してきた。
こういった油断している時に想定外の事が起こる事は一番警戒していたため、
僕は慌てる事も無く音を立てずに身を隠した。
こういった事はミッション中何度も想定してきた事だ。
慌てると寧ろ、僕はここにいると相手に教えてるようなものだ。
僕は侵入してきた相手を障害物越しに見た。
髪は金髪で長く、ぱっと見では性別の区別は難しいだろう。
…少なくとも「彼」は男だろう。
「彼」は今僕らが情報を抜き出したデータサーバーに慣れた手付きでアクセスしており、
何かを探っているようだった。
…まさか、「彼」も
もしそうなら…そう思っていた時、隣の部屋から変な声が聞こえて来た。
「アぁ……! スゴい、スゴいわぁ!
そう、そうよぉ! もっと強く、激しくアタシを
カワイイ子をいたぶるのもいいけどぉ…
いたぶられるのも、イぃっ!
アナタのお陰でぇ…アタシは新しい
さぁ~少年! アタシをいい
この声は…あの時、僕に拷問を掛けたあの
おかしい、あの男には軽く電流を流して気絶させただけのはずなのに、
何か変な
一体どういう事なんだ…
あの時、僕は
モルフォの名前を出されて頭の中が怒りで満たされていた。
その時の僕の感情が表情に出ていたのだろうか?
そう考えていたのが顔に出たのか、
未来のシアン達からミッションに集中して欲しいという想いが伝わって来た。
ゴメン、確かにミッションに集中しないとね。
ありがとう、シアン、モルフォ。
そう思っていたら、今度は「彼」が
「このような美しい愛が存在していたとは…! 世界は広い…
これだから愛を探求するのを辞められない!
この私の知らなかった愛を隣の部屋の男に植え付けた男…いや、少年!
いい! 実に愛らしい名前だ!
あの少年の事は様々な情報媒体で取り扱われていたから私も知っていたが…
これは本格的に調べなければなるまい!
あの少年の愛をあの男と同じように、私も感じてみたい!!」
ここにも
皇神グループというのは変態の巣窟なのだろうか?
…シアン達をそこから助け出せて良かった。
下手に救出が長引けば、今のシアン達も変態の思考に染まっていたかもしれない。
絶対に、シアン達を手放したりはしない。
誰にも渡しはしない。
あの時、僕はシアンの自由を望むような事を言ったけど、本当は違う。
僕の本当の望みは…
そう、考えていた時だった。
「そうは思わないかね? そこで隠れている存在よ」
気が付かれた!?
未来のシアン達からも驚きの感情が伝わってくる。
今の僕達は「力」で
気が付かれる理由なんて…
「今この部屋は私の
それなのに一部だけぽっかりと、まるで私の愛を拒んでいるかのような「穴」があった
ならば、君の存在に気が付かない道理はないさ
…君は実に惜しい この美しき私でなければ隠し通せただろうにねぇ…
私の愛を拒めるというのならば、君も能力者なのだろう?
さあ姿を現して、大人しく私の愛を受けたまえ!!」
こいつ…「彼」は能力者だったのか。
しかも自身の能力をそう使う事でこちらの位置を把握するとは…
「彼」の能力は不明だが、相当な練度があるのは間違いないようだ。
だが、だからと言って僕が姿を出す必要はない。
それに向こうも皇神第一ビルに侵入している側だ。
大きな騒ぎを立てるなんて事は無い筈だ。
「そうそう、美しき私の所属と名前を君に教えておこう
「皇神の
それが美しき私の所属と名前さ
これがどういう事か、君には分かるかな?
…さあ、もう一度言わせてもらおうか
姿を現して、大人しく私の愛を受けたまえ!!」
……っ! このまま騒ぎを起こしても問題は無いと言いたいのか!
「彼」…パンテーラは僕を能力者だと断定している。
ここに来たのも
そういう事なのだろう。
僕はこの先の脱出経路及び段取りを構築していく。
…こういう時、モニカさんのありがたみが身に染みて分かる。
優秀なオペレーターの有無はミッション難易度に直結するからだ。
…かなり力押しだが、行けるはずだ。
未来のシアン達にも説明し、こちらの準備も出来た。
後は、行動に移るのみだ。
僕は意を決して光学迷彩を解き、パンテーラの前に姿を現した。
「ほう! これはなんと愛らしい、それでいて美しい「少女」ではないか!
その艶のある綺麗な長い黒髪! 私を射殺すような真っ赤な瞳!
この場に似つかわしくない黒いゴシックドレス!
それに合わせた右手に持つ黒い銃!
いい! 素晴らしいではないか!! その姿に君の愛を感じるよ!!
そんなに愛らしく美しい姿を隠すなんて、実に勿体ない!!」
「…そう思うのならば、見逃してくれると
「あぁ……! 声も実に愛らしい! 君は実に愛だらけではないか!
…君には残念だけど、
さあ! 私の愛を受け、捕らわれるがいい!」
来る…! さて、パンテーラはどんな能力を持っている?
その内容次第では即時撤退も僕の視野に入っている。
最悪の想定である「アレ」関係じゃなければこのまま戦闘を開始してデータを取り、あわよくば始末する。
だけど、もし「アレ」関係だったら…
「これから捕らわれるであろう君にこの美しき私の能力を身をもって教えてあげよう
私の能力は
このように、君を私の愛で惑わせるのが…」
パンテーラの能力が発動し《上下が逆様になった》。
僕は迷わずシアン達に合図を送り、歌の発動を要請。
しかる後、ラムダドライバによる「力」を完全開放し光学迷彩を再展開後、
『『大丈夫…GVは、私達が守る!! 私達の
「……っ! はぁぁっ!」
「おっと! 君の愛らしい気持ちは嬉しいけど、せっかちなのはよくない…」
僕はパンテーラの言葉を最後まで聞くことは無く、
未来のシアン達の歌での強化と同時に壁を突き抜けビルから脱出しその場を後にした。
…まさか、ここで最悪の想定である「幻覚系」の能力者とかち合うとは。
幻覚関係は実に恐ろしい。
相手を惑わすだけでは無く、
さっきみたいな上下を反転させたりとやりようによっては色々と出来る。
こちらが相手の
これは恐らく僕自身に幻覚を掛けているのではなく空間その物に幻覚を掛けているからだろう。
これらから分かるに僕の予想通り、相手は相当な練度を持った能力者だ。
まだ見ぬ力もあるだろう。
それこそ、僕の前居た世界の娯楽にあった剣の世界に存在していた幻影で構築されていた都市…
もしくは魔法の集会に出て来た精神魔法使いによる高度な幻覚魔法…
そう、現実となんら変わりの無い幻覚を出してきても不思議では無い。
そういった事を考えると、
今の状態でも負けはしないと思うが、分が悪いのは間違いないだろう。
最悪、正体がバレてしまうかもしれない。
そう考えると、撤退以外の選択肢は無かった。
…パンテーラは見事に僕を「少女」と勘違いしてくれた。
これがビルから抜き取った情報以外の数少ない収穫の一つだろう。
少なくとも、
僕は実に色々な意味で厄介な相手と関わった事に頭を痛めたのだった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
追記
※GVの幻覚を使う能力者に対する警戒度が高すぎる件
転生前のGVによる娯楽経由の知識が主な理由です。
剣の世界の設定に存在する衣食住を現実と変わりの無い高度な幻覚で満たした都市、
及び魔法の集会に登場する精神魔法使いによる嗅覚すら騙せる程の幻覚魔法。
この二つの設定と人物のインパクトがGVには強すぎたのです。
敵に回ったらヤバイと確信する程に。
GVはそれだけ幻覚使いの能力者に夢を見ており、警戒しているのです。
それこそうまくこの能力を扱う事が出来れば、
この世界の状況の改善が出来るのではないかと考えていたりもします。
後にこういった理由でGVは機械に繋げて能力にブーストを掛けるなら、
シアンじゃなくてパンテーラだろとも思うようになります。
爪の件を考えるとそっちはそっちで新たに倒錯しそうな危ない絵面になりそうですが。
実際パンテーラの能力が
GVが警戒したりそう思ったりするのは実際に正しいと私は思っています。
…実はGV本人も
この小説内では