「ちっきしょう! いい加減当たれってんだよ!!」
「フハハハハ! その程度の愛では、私には届かない!!」
あの野郎…いや、あの女か? …どっちでも構わねぇな。
パンテーラを名乗る能力者と戦闘を初めてもう三十分が経過した。
奴の持つ
これだけの時間が経っているにも関わらず未だ捕捉出来ていない。
GVが齎してくれた事前情報がこちらにあるにも関わらずにだ。
しかもあのふざけた態度…さっきからこっちのペースが乱れまくりだぜ。
…あの時モニカには強がって見せたけど、悔しいがもう余り持ちそうもない。
GVがあれだけ警戒していた理由を身をもって体験する事になるとはな…
外でGVが派手に暴れてくれたお陰で奴の取り巻き全てが居なくなってだいぶ楽にはなった。
だが、俺が持つ弾丸の予備のマガジンがもう残り僅か…
GVが来るまでに持ちこたえられるか?
「さあ、少年! いい加減私の愛を受け、溺れるがいい!!」
「何度も言うが、そんな愛なんてお断りだぜ!!」
そう言いながらパンテーラを攻撃し続けるが、
鏡とその幻惑に惑わされ、俺の射撃が全て外れる。
…これでマガジンは品切れかよ! くそ!!
「どうやら君の愛が尽きたようだねぇ…では、フィナーレと逝こうじゃないか!!」
そう言って奴はもう一人の、女の姿をしたパンテーラを呼び出し何かを仕掛けようとしている。
俺にはもう攻撃手段が無い。
その行為を指を銜えて黙って見ている事しか出来なかった。
「「めくるめく! 愛の宴!
愛の姿は万華鏡…惑い見えるは走馬灯…ここはそう、境界なき鏡界!
その瞬間、俺の感覚の上下が反転し、
奴から無数の反射弾、誘導弾、ビーム等の攻撃が一斉に放たれた。
俺が出来たのはその場で転がる様に避けつつ、
避け切れない攻撃に対して身を守る事だけだった。
……大分、やられちまったな。
左腕はボッキリと折れちまってやがる。
それに右足も、こりゃあもう動かねぇ…
…もう俺は助かりそうもねぇな。
ならばせめて少しでもこのパンテーラと会話して、情報をモニカに送らなきゃな…
「ぐ……っ!」
「これは驚いた、我が愛の宴を受けてなお生きているとは!!
君の愛の強さを感じるよ!!」
「そいつは…光栄だな…俺はもうこんな状態だ…
せめて最期にここを襲撃した理由を聞かせてはくれねぇか?」
「……そうだねぇ、君は我が愛の宴を耐えた愛の強い少年だ!
特別に教えて差し上げよう!! …非常に恥ずかしい話なのだがね、
…さて、では今度こそ本当のフィナーレと逝こうじゃないか!!」
ここに送り込んだ裏切り者だと…!
こいつ、この場所にフェザーの施設がある事を初めから知ってやがったのか!!
しかし何故この施設に…いや、もう時間切れか。
俺は「最期に」と言っちまった。
これ以上はもう無理だな。
そう思っていた時だった。
突然俺の横から鏡が出現し、その中から少女が現れた。
あの子は確か…俺が保護した能力者の子、アリスちゃんじゃないか!
「おやおや…噂をすればそちらから出てくるとは…
ここを襲撃されて、大人しく処分される気にでもなったかい?
私のコピー…いや、アリスだったかな?」
「…………あの人はどうしたのですか?」
「あの人? 私は色々な人達に愛を授けているから、
あの人と言われても分からないなぁ!!」
「私のおかあ…保護者だった人はどうしたのですか!?」
「あぁ…彼女でしたか…彼女なら、我が愛の礎となってもらったよ
…最期の言葉は君の事を気にかけていた…無能力者だと言うのが実に残念だと思う人だったよ!」
「……っ!!」
アリスちゃんが、あのパンテーラのコピーだって!!
嘘だろおい! このあり得ない落差は何なんだよ!!
こんなんじゃ下手したら俺らフェザーの全施設を把握されてる可能性が出てくるぞ!!
それに、奴の
会話から察するに、あの子の親代わりだった女性隊員を殺されたから裏切ったのか?
…パンテーラと接敵する直前に、それらしい女性隊員が血まみれで倒れていたのを俺は見た。
あの人はフェザーでも珍しい無能力者の構成員で、かつて能力者の夫と娘が居たけど、
理不尽に暴れまわる能力者によるテロに巻き込まれて亡くなったって本人から聞いた事がある。
だからこの人はアリスちゃんの保護者役を買って出たんだろう。
俺もその事情を知っていたからアリスちゃんの事を頼んでたんだが…
パンテーラの野郎…!!
「どうして、そのような事を…!!」
「それは君自身が悪いのさ…あのような無能力者達に惑わされただけでは無く、
美しく、愛らしい長い黒髪を靡かせる「彼女」の情報を寄こさない君がねぇ!!」
「それは…! まだ確定もしてない情報を送ったって、意味なんてないでしょう!?
確かにあの時彼女に名前を教えてもらえました!
でも、それが本名なのかまだ裏が取れて無かったのです!!」
長い黒髪を靡かせる彼女…まさかこいつ…! ネームレスの事を探ってたのか!!
…まじぃ、意識が
「それは君自身のただの言い訳…本当は彼女の愛を独占したかったのだろう?
君は私のコピーだ、そのくらいの考えなんてお見通しさ」
「それは…!!」
「まあいいさ、どうせ君を処分する事実は変わりない…
私達の出来損ないのコピーよ! 我が愛でその身を砕くがいい!!」
そう言ってパンテーラはハートの形をした無数の弾丸をアリスちゃんに放った。
アリスちゃんはそれを黙ってただ見ているだけだった。
そしてその無数の弾丸がアリスちゃんに直撃し、爆発を起こした。
「ふぅ…これで裏切り者の処分は完了だ…
さて、待たせたねぇ少年、次は君が私の愛の礎となる番さ」
「できれば…忘れていてほしかったがな…」
「それを忘れるなんてとんでもない!!
君は実に頑張ったのだから、我が愛を受ける資格があるのさ!!」
「そいつは…光栄、だな…」
いい加減眩暈がやべぇ…
…この情報、確かにモニカに送ったぜ。
俺のやるべき事はやれた。
すまねぇ、GV、モニカ、アシモフ…
俺はここまでみたいだ…
そう思っていた時だった。
「これは…!! 馬鹿な…私の愛を受けて何故存在を維持出来るんだい!?」
「残念ですが、
そう言って出て来たのは、
先ほどの攻撃を受けたのにも関わらず無傷な姿のアリスちゃんだった。
そのアリスちゃんが、今正に死に逝こうとしていた俺に近づいてきた。
「しっかりして下さい、ジーノさん…
「……っ! こいつは…傷が、塞がっていく…」
アリスちゃんの治癒により、俺は生き永らえた。
まさかこうして助けてもらえるなんてな。
だけど、アリスちゃんはあんな力を一体何所で得たんだ?
…引き続き、モニカに情報を送り続けた方がいいな。
「その力…! アリス…! その力を何所で得たのです!!」
「裏切り者の私がそれを教えるとでも?
貴方には私の新たな能力、
(お姉様のそばに居た能力者が私に与えてくれたこの力、貴方に教えてなる物ですか!!
これは私の力…お姉様やはたちゃん達を守る為の力なのです!!
断じて偽りの
…それに貴方は私のお母さんの仇!! 絶対に許さない…
今は本体を補足できていないけど、見つけ次第必ず息の根を止めてやる!! 絶対に!!)」
そうして傷の癒えた俺を後目に、パンテーラとアリスとの戦いの火蓋が切られようとしていた。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。