【完結】謡精は輪廻を越えた蒼き雷霆の夢に干渉する   作:琉土

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第六十五話

 俺は新しく移設した研究所でガンヴォルトのあの時の戦闘データを見直していた。

そう、ガンヴォルトに戦いを挑み、みじめに敗北した時の物を…

 俺はあの時、愚かにも慢心していた。

 能力者に対する絶対的なアドバンテージとなる()()だった、

この対能力者用特殊弾頭(グリードスナッチャー)を手にした事で。

 

 この疑似第七波動はガンヴォルトが撃破した磁力を操る能力者…

カレラと呼ばれた宝剣の能力者の能力、

「磁界拳」のSPスキルである「超重磁爆星」を再現した物だ。

 これは能力者の第七波動の流れを乱し、

空気中に拡散することで一時的に能力を無効化する特殊な弾丸だ。

 

 この弾丸を扱えるように父さんの形見である「ボーダー」、

そしてもうひとつのフォトンレーザーを放つ「ボーダーⅡ」にその機能を組み込んだ。

 これはエクスギア、ロロでの他の能力との同時運用に不安が残っていたのと、

父さんの形見の銃で第七波動能力者を殲滅するという俺なりの決意を込めたかったからだ。

 

 その効果は間違いなく発揮されていた。

 あの宝剣の能力者、ストラトスを始末出来た事を確認した事で。

 思えばこの時から俺は増長し、慢心していたのだろう。

 この簒奪の弾丸を当てればガンヴォルトを討滅するのも容易いと。

 

 実際、この時俺は同時期に新しく開発したはずだった疑似第七波動、

「ジェラシックゴルゴン」と「ラストドップラー」をこの戦闘で使用していなかった。

 せめてロロに使わせていたら、あの時の戦いの結果も変わっていたかもしれない。

 奴の持つ銃から放たれる雷撃を誘導するダートの対策も立てていたのもそれに拍車を掛けた。

 

 負ける要素はこれで粗方潰すことが出来た。

 奴の戦闘データの解析も済んでおり、もう俺はガンヴォルトに負ける要素は何処にもない。

 愚かにも俺はそう思い、作戦すら立てずに姿を現し、勝負を挑んでしまった。

 あの時、ノワにもガンヴォルトとの戦闘は避ける様に言われていたのにも関わらずに…

 

 そして、その結果が俺が今見終わったノワが記録した戦闘データだった。

 ダート対策でメガンテレオンに新たに装備された「磁力の鎧(マグネティックアーマー)」も、

 既に装備されていたフェイクカゲロウも雷撃麟を介したハッキングで無力化され、

 ダートを三発撃ち込まれ、奴の放つ鎖に拘束され、雷撃を直接流し込まれたのだ。

 

 それでも俺にはまだ勝機はあるとこの時思っていた。

 この距離ならば対能力者用特殊弾頭(グリードスナッチャー)を外しようが無かったからだ。

 この簒奪の弾丸をガンヴォルトに放ち、

奴の雷撃麟も鎖も食い破ったのを見て勝利を確信していた。

 その弾丸は奴の第七波動を食い破り、心臓目掛けて吸い込まれていくはずだった。

 

 そう、ガンヴォルトの心臓を貫く寸前、()()()()()()に阻まれたのだ。

 そしてその事に激しく動揺した俺に対してガンヴォルトは、

その見えない何かを左腕に収束させ、俺に解き放った。

 その威力は俺が知る限り奴が持つSPスキルと何ら遜色が無かった。

 

「無様だな…父さんの意思も果たせずに、ただ逃げる事しか出来なかった…」

『あのガンヴォルトと戦ってこうして生きているだけで十分な戦果だと僕は思うけど?』

「だが、俺があの時無謀にも戦いに挑まなければ、

ロロが大破寸前に追い込まれることも無かった」

『でもそれは二日前に新品同様に直してくれたじゃないか!

それに、あのガンヴォルトの切り札を引き出せたし、あの戦闘の後、

U()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その事が分かったお陰であの能力者の居所だって分かったんだ

結果だけ見れば悪くないと僕は思うよ!』

 

 そう、ここに来て正体不明の能力者の居所が判明したのだ。

 その居所はガンヴォルトの傍。

 あの時ロロが俺を庇う為にガンヴォルトに突撃し、接触した事で判明した事だ。

 この事が俺にとってのこの戦闘における数少ない救いだった。

 

 そしてもう一つ、ガンヴォルトの切り札…

ロロが突撃して接触した時、あの攻撃をガンヴォルトが放つ瞬間、

奴の体の内部で凄まじい第七波動反応をロロが感知した。

 その時のデータをロロを修理した時に解析して、その原理が判明した。

 

 その原理は、俺にとって余りにも信じられない事だった。

 奴は…ガンヴォルトは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この世界では今の所第一から第七までの波動が確認されている。

 俺はこの事を父さんの遺してくれた研究レポートで把握していた。

 

 その中でも第一から第三の波動は、人間や動物ならば誰もが持ちうる波動だ。

 だけどその波動はあまりにも微弱で利用価値も無いと判断されてそこで研究は終わっていた。

 俺もこの波動に対しては研究レポートに目を通しただけで、

第七波動を知る為の前提知識という認識しかなかった。

 

 それをガンヴォルトは、その利用価値も無いと判断されていたその力で、

対能力者用特殊弾頭(グリードスナッチャー)を防ぎ、ロロを大破寸前に追い込んだのだ。

 この事実を知った時、あの時逃げる事しか出来なかった時以上の屈辱を俺は味わった。

 俺はあの戦いで科学者としても、奴に敗北したのだ。

 

 そして俺はこの戦闘データを元にその再現を試みた。

 奴に勝つためにはこの屈辱すら飲み込まなければならなかったからだ。

 そのメカニズムを解明する事は簡単だったが、実装するのに問題があった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこで俺はかねてより設計だけはしていた新たな強化ジャケット…

 機動力に特化した「ヴァイスティーガー」を開発し、

この機能を「コード」として盛り込めるようにしたのだ。

 その序に「フェイクカゲロウ」と「磁力の鎧(マグネティックアーマー)」も、

コードとする事でメガンテレオン以上の拡張性を確保出来た。

 

 ガンヴォルト相手にいくら防御性能を高めても意味が無い。

 何故ならば、その防御性能は機械制御で確保されている物。

 それを雷撃麟を介したハッキングで容易く無力化されてしまうからだ。

 それを解決するには、雷撃麟の間合いの外を常に確保するしかないのである。

 

 だが、いざ開発して実際に運用した時に判明したのだが、このヴァイスティーガー、

機動性に特化した事が仇となったのか、凄まじくじゃじゃ馬である事が判明した。

 初めて運用した際壁に何度も衝突して怪我を負い、ヒーリングのお世話となったのだ。

 この事をノワに相談したら何時もの訓練メニューの内容に、

ヴァイスティーガーを十全に扱えるようにする為の専用の訓練が追加される事となった。

 

 そして更に問題となったのが、増幅された「波動の力」の運用方法だった。

 ()()()()()()()()()()()()

 ヴァイスティーガーの機動性の更なる向上に疑似第七波動の強化は勿論、

ブリッツの自動生成まで出来てしまうのだ。

 

 ただでさえ俺はヴァイスティーガーの機動力に翻弄されていると言うのに…

俺はこの機能を十全に使う事を諦め、制御をロロにしてもらう事としたのだ。

 あの時大破寸前に追い込まれたロロはUSドライブの出力上限向上によって、

任意にP(フェニック)-ドール形態になれるようになっていた。

 

 そのお陰でロロはミチルと会う際は常にP-ドール形態のままだった。

 その光景は、はたから見れば仲の良い友達同士に見える。

 その時のミチルとロロが一緒に歌っていた光景は、あの時の俺の傷ついた心を癒してくれた。

 ノワもそんな二人を見て珍しく表情を崩し、嬉しそうにしていた。

 

 そのお陰で「波動の力」を扱う為の条件のひとつである人体を模す事を満たし、

増幅器とも言える「ABドライブ」も相まって、

ロロは俺以上に「波動の力」を扱う事が出来るようになっていた。

 ロロは機械なので、単独ではこの「波動の力」を使用する事は出来ない。

 

 そこでロロには俺の第一から第三の波動を使ってもらう事で問題を解決している。

 ロロもこの「波動の力」を気に入った様で、様々な使い道を探し、

俺の事を助けてくれるようになった。

 そうして俺は、力を着実に身に付けていった。

 

 そんなある日の夜…俺とロロはミチルの様子を見に部屋を訪ねようとしていた。

 その部屋の前にはノワが居た。

 その時のノワは表面上は何時ものノワであったのだが、

長い付き合いである俺にとっては何か焦っている様に見えた。

 

「アキュラ様、ロロ…ミチル様に何か用事でも?」

「ああ、ミチルの様子を見にな…」

『今日はミチルちゃんに顔を合わせられなかったから、

せめて顔だけでも見に来たんだ♪ …ひょっとして、もう眠っちゃってる?』

「…ええ、そういう訳ですので、今日の所はお引き取りをお願いします、アキュラ様、ロロ」

「どうしたノワ? …珍しく何かを焦っている様に見えるのだが…

まさか、ミチルに何かあったのか!? 其処を通せ! ノワ!!」

『あ……アキュラ君、今日の所は戻ろう?

ミチルちゃん、すっごく疲れて眠ってるのが伝わって来たんだ

だからノワの言う通りにしよう?』

 

 ノワの様子だけでは無く、ロロの様子までおかしくなった…

二人はミチルに何かあった事を知っているのか?

 もしそうだとしたら、何故俺をミチルから遠ざけようとする?

今までだったら、ミチルに何かあれば真っ先に俺を部屋に通したはずだ。

 

「…………二人共、俺に何か隠しているな?

お前達の様子が普通じゃない事くらい、俺には分かるぞ……ミチルに何があった?」

「……どうしても知りたいのですか? アキュラ様」

「当然だ、ミチルの事だからな」

「……後悔しますよ? それもアキュラ様の根幹を崩しかねない程に」

『アキュラ君…』

 

 俺の根幹を崩すだと? ……いや、そんなはずは無い。

 そんな事はあり得ない。

 ミチルは俺と同じ、普通の人間…無能力者のはずだ。

 だが、ノワの表情を見る限り、とても冗談を言っているようには見えない。

 

 …………覚悟を決めよう。

 今ここで引いてしまったら、俺はこの事を一生後悔する。

 思えば、正体不明の能力者の力の波動でミチルが体調を取り戻した事がおかしかったのだ。

 そしてロロのUSドライブの出力限界が増えてますます元気になった事もだ。

 

「……頼むノワ、そこを通して欲しい」

「……アキュラ様…昔話をしましょう…まだミチル様が生まれた直後、

ある強大な力を宿していた事で、体を蝕まれておりました

その強大な力の因子を、神園博士…貴方の父君が取り除き、その命を救ったのです」

「…………」

「その力はやがて、とある少女に皇神によって秘密裏に移植されました

そしてその力を持った少女は、

やがて能力者をあぶりだす為のソナーとして使われる事となったのです

…ここまで言えば、アキュラ様ならばもう分かるはずです

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

……今ならまだ引き返せます…本当に、宜しいのですか?」

 

 その事実に、俺は目を背けていた。

 ミチルが元気になったからと、声を聞けたからと耳を塞いでいた。

 あの嬉しそうなミチルの笑顔に、目を眩まされていた。

 つまり、ミチルは…

 

「……頼む、ノワ」

「覚悟を決めましたか…では、この先にお進みください」

『アキュラ君…ミチルちゃんの事を傷つけたら、アキュラ君でも許さないからね!』

「大丈夫だ、ロロ…俺はミチルを傷つけるつもりは無い」

 

 そして俺はノワとロロと一緒に、ミチルの部屋へと足を踏み込んだ。

 その先に居たのは…

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





※ミチルの背中の翼について
シアンの魂を取り込んでない為、
爪の真のラスボス戦みたいに片翼が蝶の羽だったのが、
ロロの翼のみが展開されている形となっています。
そして何故ミチルがこんな事になってしまったのかは…
ここまでこのお話を読んで頂いた人ならば想像はつくと思いますが…
一応、次の話で判明する予定です。

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