【完結】謡精は輪廻を越えた蒼き雷霆の夢に干渉する   作:琉土

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Chapter:蒼き雷霆

未来からの少女(シアン)言葉(ねがい)(チカラ)となり彼は立ち上がる
例え歌が響かずとも
蒼き雷霆(アームドブルー)は迸り、輪廻を越えし意思を携え、「第六法(キセキ)」を成す


そして謡精は夢から目覚める
第七十五話


 私達は紫電達を撃破し、「アメノウキハシ」へと戻った。

 紫電達はそれぞれ散り散りな状態で倒れており、意識を失っていた。

 その中に、今の私も含まれていた。

 今のモルフォは力を使い果たしていた為、表には出ていなかった。

 

 GVは今の私を見つけ、駆け寄っていく。

 そんな時だった。

 あの時と…転生前のGVが寿命で亡くなる直前の時と同じ様に、

眼前に広がる地球や、宇宙に広がる星々が消えていく。

 

 GVを中心に、この世界が消えて…いや、これは違う。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、今もなお世界は消えて行っているのに、

ここには居ない未来のGVの想いが私達を包み込んでいく。

 

 そして、それは私達に対しての枷となり、私達を縛り付けた。

 その枷は、私達がその気になれば直ぐにでも抜け出せるような儚き枷。

 だけど、その枷からは私達を絶対に手放さないと言う絶対の誓い(協力強制)が込められている。

 そして私達は、この絶対の誓い(協力強制)に嵌り、抜け出せなくなった。

 

 ううん、抜け出せなくなったのでは無い。

 抜け出したく無いのだ。

 私達はGVとずっと一緒に居たい。

 何があっても、どんな時でも一緒に居たいのだ。

 

 体を失ってしまっても、今の私達はもうあの時の、GVに助けてもらった直後の私達じゃない。

 何も出来なかった、私達じゃない。

 今なら実体化だって出来るし、GVの事を直接守ってあげる事だって出来る。

 このGVの(記憶)の旅は、私達を強くしてくれた。

 

 ……あぁ、そうだったんだ。

 GVの意思力が如何して第七波動に大部分が反映されていなかったのか、分かった。

 それはこの夢を私達に見せる為に、GVが持つ本来の力の大半が、

世界と時間を越えて使われていたからだ。

 本来、GVの意思力は私達を凌駕しているのだ。

 

 私がGVと対峙した時…いや、転生前のGVが亡くなる前から、

GVは私達の意思力を凌駕していた。

 そうでなければ、いくらモルフォ込みだったとはいえ、

あの時の私が負けるなんて事は無かった。

 あの時ラムダドライバ…「波動の力」で私の放った鎖を砕いたりなんて出来なかった。

 

 雷撃麟やライトニングスフィアで鎖が砕けなかったのは単純に能力の練度の差が、

圧倒的に私の方が上だったからだ。

 だからこそ、それ以外の意思力が反映される「波動の力」であっさりと砕かれたのだ。

 あの時、GVは(記憶)の世界を展開していなかった。

 

 だからその意思力をフルに運用する事が出来たのが勝因なのだろう。

 あの時のGVはストラトスさんと同じように一般人だったのもあって、

モルフォからの記憶共有込みでも動きが明らかに鈍かった。

 能力の練度だって全くの初心者レベルだった。

 

 だけどそれを、私の本音を引きずり出す、

ただそれだけの為に立ち上がり、それを成し遂げたのだ。

 思えば、GVは私達の前で決して、ここぞと言う時に弱音なんかを表に出さなかった。

 その過程が意思力を鍛える為の訓練として機能したのだろう。

 

 そしてGVが私達にこの(記憶)を見せた理由…

それは()()()()()()()()()()

 その過程で私達の力が強くなったのはあくまで序なのだろう。

 もしかしたら私達がGVを助けていた時、G()V()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの全身の出血は、グリードスナッチャー一発で出来る様な物じゃなかった。

 私達のペンダントがGVを守っていたからだ。

 つまり私が撃たれ、GVが撃たれた後、何かしらの出来事が起こり、

GVはあのような余りにも酷い出血や怪我をしたのだろう。

 

 だけど、それでも、グリードスナッチャーの一撃は、

ペンダント込みでも十分に致命傷になりうるのは間違いない。

 …GVの(記憶)の世界が終わりに差し掛かり、

遂に「アメノウキハシ」その物が消滅していく。

 

『結局、私達はこの時のGVを助ける事が出来なかった

あれだけ沢山訓練や模擬戦をこなしてきたのに…』

『でも、アタシ達の訓練はここまでに至るGVを助ける事は出来ていたわ

それに、紫電達との決戦で力を貸す事が出来たんだもの

アタシ達の努力は決して無駄では無いわよ、シアン

…あそこに誰かが居るわね』

 

 その際に私達は、そのグリードスナッチャーを撃てるボーダーを持つ人影を見た。

 そしてその人は、目を覚まし、立ち上がった今の私にその銃口を向け、

その引き金を引き、今の私の心臓を穿った。

 その引き金を引いた人物は、()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 恐らく、GVを混乱させる事が目的であり、万が一これで仕留められなかった時の保険として、

アシモフさんとの同士討ちを目論んだのだろう。 

 …その人物の気配に、()()()()()()()()()()()()()()()

 このアシモフさんに成りすましていた人物は…

 

『『貴女だったのね、()()()()()』』

 

 私達がその名前を呼んだと同時に、GVはパンテーラに簒奪の弾丸で穿たれ、

既に倒れていた私の隣へと仰向けに倒れ、既に広がっていた血溜りを更に広げた。

 そして、その光景を最後にGVの(記憶)の旅は終わり…

私達も、意識を失った。

 

 最後に意識を失う寸前、私はGVの耳元でこう囁いた。

 この一言が、GVを突き動かすと信じて。

 

『GV…未来で待ってるから…だから、生きる事を諦めないで…』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 僕は今、血だまりに沈んだシアンの横で仰向けになって倒れていた。

アシモフ…いや、アシモフを謀る何者かが先の戦闘で弾き飛ばされたボーダーで、

シアンと僕の心臓を撃ち抜いたのだ。

 だけど、僕は未だ意識が残っており、簒奪の弾丸は辛うじて急所を外していた。

 

 理由はとても簡単な理屈だった。

 シアン達の手作りのペンダントが僕を守ってくれたのだ。

 二人の想いがこれでもかと込められていた、ペンダントが。

 だけど、簒奪の弾丸の直撃を受けた事に変わりはない。

 

 そしてアシモフを謀る何者かと断定できる理由…それは、

モニカさんの能力による通信が再接続された際、

最終防衛結界「神代」が解除された事と、

今アシモフ達は皇神とは違う所属不明の機械群と戦闘中だった事が分かったからだ。

 

 ならば、ここに居るアシモフを謀る人物の正体は…もう予測は付いている。

 寧ろ、このタイミング…紫電と僕が衝突して互いに消耗しきった所を突いてきたのだ。

 そんな事が出来る奴なんて一人しかいない。

 アリスからの情報もこれを裏付けている。

 

「パン…テーラ…」

「おや、私の正体を見破るだけでは無く、

この弾丸を受けて意識がまだ残っているだなんて、流石はガンヴォルト

出来れば私の正体を見誤り、同士討ちして貰おうと思っていたのだが…

電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力を振るう紫電や宝剣の能力者達を倒しただけの事はある…

その意志の強さに愛を感じるよ」

 

 僕が正体を見破った瞬間、奴はあのふざけたかのような姿に戻っていた。

 僕が最も油断しているタイミング…シアンとの再会を狙って、

僕が持っていたボーダーでシアンを撃ち、そしてその事に動揺した僕を撃ち抜いたのだ。

 …あの時僕が動揺したのは、シアンが撃ち抜かれた事だけでは無い。

 

 僕の物心が付いた時からずっと一緒に居た、

未来のシアン達の気配が希薄となっていき、

僕が撃ち抜かれた後、完全に無くなってしまったからだ。

 この時、僕の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 

 今の僕は第七波動を封印されている。

 SPだって、先の戦闘による度重なる強化と無茶が重なって回復する兆しすら見えない。

 おまけに、心臓への直撃は辛うじて避けてはいるものの、

簒奪の弾丸は僕の全身を砕いている。

 

「ガンヴォルト、見るがいい…今正に、生きた宝剣(シアン)から電子の謡精(サイバーディーヴァ)が分離する瞬間を!!」

「シアンを…如何する…つもりだ…?」

「決まっているさ、彼女は我が愛に溢れる楽園(エデン)に至る為の人柱…

生贄になってもらうのさ」

 

 そうパンテーラが言った時、

 シアンの亡骸から電子の謡精(モルフォ)が分離する瞬間を見た。

 この時の電子の謡精(モルフォ)はまだ目が虚ろで、意識が無いように見える。

 だけど、その虚ろな気配は何所と無く未来のシアンを感じた。

 

 …未来のシアンが居なくなってしまったのは、

僕がシアンを守れなかったから居なくなってしまったのだと、最初は思っていた。

 もう僕の生きる理由が無くなってしまったと、シアンが撃たれた瞬間絶望していた。

 だけど、未来のシアンの気配が希薄となって消えゆく寸前、僕にこう言った。

 

『GV…未来で待ってるから…だから、生きる事を諦めないで…』

 

 この言葉の意味を、シアンの部屋での決意を思い出し、

この光景を目に焼き付けた事で、僕の心に再び火が灯った。

 いや、激しく荒れ狂う様に燃え広がった。

 あの時のシアンと対峙した時みたいに、今までに無い力を感じるのだ。

 

「フハハハハッ! これだ! この時を待っていた!!

さあ電子の謡精よ…我が愛の檻に囚われ…」

 

 たかが第七波動が封じられて、全身が砕かれた程度で、

シアン達を守る事を諦めてたまるか!!

 僕は頭を揺り動かし、予備電源としての機能もあるテールプラグをダートリーダーに直結し、

 全身を蝕む痛みを気合と根性でねじ伏せ立ち上がり、受雷針カートリッチを、

統合した際に必要ないと断じていた「デュラハン」に切り替え、パンテーラを狙い撃った。

 

「……っ! その状態で立ち上がるのかい?

実に愛を感じるが、無駄な努力さ

さあ私の愛を受け、天国(エデン)へと昇天するがいい!!」

 

 パンテーラはシアンの捕獲を中断し、僕に対してハート型の弾丸を無数に浴びせて来た。

 僕はそれを全て真っ向から受けたが、微動だにせず、そのままパンテーラを狙い撃ちし続けた。

 そんな僕の様子にパンテーラは驚きを隠せなかったようで、

今度は確実に仕留めようとSPスキルまで使ってきた。

 

 SPスキルは通常のスキルと比べてほんの刹那の差はあるが時間が掛かる。

 その刹那の瞬間が重要だった。

 パンテーラのSPスキルが発動する瞬間、僕の第七波動の封印が解けた。

 僕の体から蒼き雷霆(アームドブルー)の雷が再び息を吹き返した。

 

 だけど、僕の体の節々が先の攻撃で更にズタボロになった。

 内臓も、一部機能していない物まである。

 血管もズタボロで、所々無数に内出血している所もある。

 心臓の鼓動も弱弱しく、もう何時止まっても可笑しくは無い。

 

 だが、それがどうしたと言うのだ。

 そんな物、転生前から既に経験済みだ!!

その様な事実如きで僕の体は、意思は、決して止まりはしない!!

僕はパンテーラのSPスキルに対抗する為に、僕の中での禁じ手に手を染める決意をした。

 

 この禁じ手を、僕は既に二回ほど犯している。

 一度目はデータバンク施設に侵入した時、そして二度目は先の紫電との決戦の時だ。

 その禁じ手とは、()()()()()()()()()()()()()()()

 何故そう僕が思うのかは、「相州戦神館學園 八命陣」での、

主人公の最終決戦における最後の行動を見れば分かるはずだ。

 

 それならば協力強制は如何なのだと問われるが、あれは現実でも可能な事。

 柔道における背負い投げや、シアン達との交わりあい何かで出来る事だ。

 だからこそ、これだけは例外的に多用していたのだ。

 そして今回僕が行おうとしてるのは、邯鄲の夢の五常楽の中でも最上位、第六法「終段(ついだん)」。

 

 それ以前の前提である「破段(はだん)」や「急段(きゅうだん)」をすっ飛ばし、

盧生でも無いのに行おうと言うのだ。

「八命陣」の登場人物達がもし僕のこの行為を見たら、恐らく呆れ果てた馬鹿だと断じるだろう。

 だけど、それがどうしたと言うのだろうか?

シアン達を守る為ならば、あの時と同じように、

そんな僕の禁じ手等と言う拘りなんてかなぐり捨てる!!

 

 僕は復活した直後の蒼き雷霆(アームドブルー)を叩き起こし、

EPエネルギーを全身に行き渡らせ、意識を、()()()、加速させていく。

 どこまでも、どこまでも、無限に加速させていく。

 そして、先の刹那が永遠になった。

 

 そして無限にも等しい「波動の力」が発現し、僕はこの力を元にイメージする。

 奴の幻影を晴らし、真実を射止める、そんなイメージを。

 そして、そのイメージは見つかった。

 僕は全力でこのイメージを練り上げる。

 

 無限加速した意思力からなる「波動の力」が僕の体を蝕む。

 ただでさえ満身創痍だった体が更に軋みを上げ、粉砕される感覚がする。

 脳が沸騰する所か、まるで蒸発してしまうかの様な感覚を覚える。

 魂が砕け散り、四散してしまうかのような感覚すら覚える。

 

 もうこのままシアンの事を諦めてそのまま倒れた方がいいとすら思える程、

僕の全身が痛みを、熱さを、かき混ぜられるかのような感覚を訴えた。

 だけど、僕は諦めるつもり等無い。

 そんな言葉は、たった今僕の辞書の中から破り捨てた。

 

 僕の背に居る後の未来のシアンを守る為ならば、どんな無茶だって通す。

 汚名だって幾らでも被る。

 今、この瞬間だけは絶対に負ける訳にはいかない。

 歯を食いしばり、眼前の(パンテーラ)を見つめ、僕は立ち続けた。

 

 …僕は今まで、ずっとシアン達に守られてきた。

 あの時、トラックに撥ねられた所を謡精の歌(ソングオブディーヴァ)で助けられた。

 ネームレスとして動いていた時も、カレラとの戦いの時も、

紫電達との決戦の時も、そして、シアン本人との戦いの時も、僕は守られてきた。

 

 情けない話だ。

 僕は今までシアン達を守っていたつもりだった。

 だけど、実際に今までずっと守られていたのは僕の方だった。

 だから、シアン達の力を借りる事の出来ない今だからこそ、

僕は絶対に負ける訳にはいかないのだ。

 

 そして、僕のイメージが完成する。

 それの大本は日本神話において、国土創生を為したと伝えられる神世七代(かみのよななよ)の一で、その末代。

 伊邪那美(いざなみ)とともに日本の国を形作り、数多の神々を産み出した男神。

 ペルソナ4における、人の世に満ちる嘘を晴らし、真実を射止める究極の言霊を放つ大神。

 そして、永遠の時間は刹那へと戻り、僕は練り上げたイメージを元に「波動の力」を開放した。

 

「パンテーラ! 僕はシアン達を守る!

息を引き取り、幽霊になってしまっても、僕は絶対にこの手を離しはしない!!

迸れ! 蒼き雷霆よ!(アームドブルー)

シアン達を守る為、幻影を晴らし、真実を白日の下に曝け出す雷光となれ!!

 

           ――終段・顕象(ついだん・けんしょう)――

 

伊邪那岐…大神(いざなぎの…おおかみ)ィィッッ!!」

 

 全ての(幻影)を打ち破り、曝け出す神威を纏う言霊「幾万の真言」。

 その言霊の輝きに晒されたパンテーラは自身の持つ能力全てを無力化され、

そして自身もまた能力で出来たコピーであった為、

断末魔を叫ぶ間もなくその姿を維持できなくなり、消滅した。

 

 パンテーラの消滅を確認し、僕は再び仰向けになって血溜りに沈んだ。

 僕の目の前に、目の焦点の合っていないモルフォ…シアンの姿が見える。

 僕はもう体を少しでも動かす力は残ってはいない。

 今も尚、何故生きていられるのかすら分からなかった。

 そして、シアンの目の焦点が合い、輝きを取り戻した。

 

『G…V…』

 

 彼女の声が聞こえる。

 

『「私」は…謡精(モルフォ)に…なったんだ』

 

 やはり、今の姿をしたモルフォはシアンだった。

 

『そうだ…GV…GVは!?』

 

 僕が守れなかったせいで息を引き取ったと言うのに、それでも僕の事を気遣ってくれる。

 

『ぁ……! まだ、生きてる…!!』

 

 そして僕が生きていた事に、喜びを感じてくれている。

 

『これ…は……?』

 

 僕を簒奪の弾丸から庇い、壊れてしまったペンダントを見て顔を綻ばせている。

 

『違う…まだGVは――!』

 

 だけど、僕の今の状態を見て、シアンは涙を流し叫んだ。

 

『嫌だよGV…! 私を置いて逝かないでぇ!!』

 

 大丈夫だ、シアン…僕はまだ生きる事を諦めてはいない。

 

『――そうだよ、GVはどんな時も、何があっても決して諦めなかった

GVはどんな時でも諦めなかった! 私が無理だと思っていたことを実現してきた!

電子の謡精(サイバーディーヴァ)による能力共有を! モルフォの実体化を!

モルフォに料理を…味という概念を教えてくれた事を!

能力を利用した空を飛ぶ方法を……私に自由に、空を舞える翼をくれた事を!』

 

 シアン…君がそう思ってくれるのならば、僕はいくらでも生き抜いて見せる。

 

『なら……私だって…私だって、諦めない! 絶対に!!

だって、まだGVは生きてるんだからぁ!!!』

 

 シアンの意識が僕を助ける方法を模索すべく、「アメノウキハシ」を覆う程に広がっていく。

 

『GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…GV…』

 

 シアンの狂気に満ちた意思の高まりにより、第七波動(セブンス)が爆発的に、際限無く増大していく。

 

『GVは私に…「私達」に沢山の大切なモノと思い出をくれた』

 

 シアンは僕を助ける方法を見つけたのだろう…狂気に彩られた綺麗な笑顔を僕に向けていた。

 

『だから今度は、()()()()()()()()――私がGVを助けるの!!』

 

 僕の隣…シアンの亡骸に蒼き雷霆(アームドブルー)の力が作用するのを感じる。

 そして、それが僕自身に流れ込む感覚がする。

 それが終わった後、シアンはその電子の体を僕に重ね、

僕の生体電流と一つとなって、謡精の歌(ソングオブディーヴァ)を僕の内側から響かせた。

 

 僕の体に力が戻ってくる。

 あの時みたいに既に感覚すら無かったのが、痛みが蘇り、そしてその痛みも引いていく。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 欠損していた筈の左腕が、元に戻っていく。

 

『良かった…本当に良かった…GV…』

 

 僕は心の底から愛おしく囁くシアンの声を聞いた。

 

『GV…私の()()()…あなたと共に生き続ける…

これからは…ずっと…GVが生きている限り…ううん、例え死んでしまっても…

私の歌が…想いが…あなたの(チカラ)になる!』

 

 僕は考えた。

 どうすればシアン達を僕と言う枷に嵌められるのかを。

 …()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だけど、それには途方もない力が必要だ。

 

 ならば、僕自身の今まで生きて来た人生で本来発揮されるはずだった大半の力を対価に、

シアン達に対して枷を嵌める為に、僕の(記憶)の世界を構築しよう。

 それで心が僕から離れると言うのならば、僕は仕方が無いと諦めきれる。

 だけど、もしその逆の結果になったら…僕はシアン達を永遠に僕の体に閉じ込める。

 

 その心を、魂を貪り、弄び、愛でていいのは僕だけだ。

 僕自身、蒼き雷霆(アームドブルー)の能力を得て、「波動の力」を扱えるようになった時点で、

寿()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして最後に、協力強制を利用した「波動の力」による枷を嵌め、

シアン達を僕だけの物にする。

 

 そして、シアンと僕が一つとなったその瞬間、

シアンを僕の(記憶)の世界へといざなう為に、「波動の力」を振り絞った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 気がついたら、私達は立ち上がっていたGVの中に居た。

 そしてGVは何時ものフェザーの制服では無く、見慣れない特殊なスーツを着ており、

あの綺麗だった金色の髪が、完全に私の髪の色へと染まっていた。

 そして欠損していた左腕も、無事元に戻っていた。

 

 その瞳の色も、青色だったのが私と同じ赤色になっていた。 

 (記憶)の旅が終わり、私達が意識を取り戻した事にGVは気がついたのか、

私達に声を掛ける。

 私達の能力によるテレパシーによって、当たり前のように声を掛けて来た。

 

(気がついたみたいだね、シアン、モルフォ…)

(私は……っ! GV!! 良かった…本当に無事で良かった…)

(GVィ…アタシ…アタシ……!)

(…心配を掛けてゴメン、それと…僕を助けてくれてありがとう、シアン、モルフォ…)

 

 私達は実体化してGVに抱き着いた。

 GVはそんな私達を一緒に抱きしめ、互いに喜びを分かち合った。

 こうして私達の(記憶)の旅は終わりを告げ、今を生きる現実世界へと戻ったのであった。




これにて「謡精は輪廻を越えた蒼き雷霆の夢に干渉する」は完結しました。
ここまで時間を掛けて読んで頂き、誠にありがとうございました。

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