真・恋姫†無双Withパワーアップキット   作:アイソー

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褒美を貰って

 漢帝国の皇帝、霊帝は洛陽の中にいた。

 

 しかし漢帝国の皇帝と言っても、今では政治の能力は全くと言っていい程無い。

 現在実際に政治を動かし、権力を握っているのは外戚(皇后の親戚)の何進であった。彼女は皇后の姉であり、たったそれだけで大将軍の地位まで上りつめ、権力を我が物顔にしていた。

 

 だが、外戚が権力を持つ事に張譲を始めとする宦官(皇帝の身の回りの世話をする者)は快く思っていない。

 

 朝廷内には非常に不穏な空気が漂い、何進ら外戚と張譲ら宦官の権力争いが水面下で行われていた。

 

 

 政治がそんな状態のため都である洛陽の治安は余り良くない。碁盤のように整備された大通りは今でも沢山の露店や客で賑わっているが、裏路地は酷いものだった。そこでは飢えと貧困が溢れ、死が蔓延している。盗賊まがいの連中も住み着いているため略奪も日常茶飯事だった。

 

 

 そして今の政治の状況を示すものがもう一つある。それは洛陽の郊外に駐屯している軍隊だ。

 都の近くに近衛兵以外の軍がいるのは基本的に戦時しかないが、今は戦時という訳ではない。

 

 ただ単に何進が宦官への威嚇や自身の警護のために呼んでいた。これもまた政治が腐っているから起こる事である。

 

 

 そんな何進に呼ばれた軍は大小合わせて十近くあり、一番大きいのは袁紹軍であった。軍旗にも『顔』『文』『荀』等の袁紹配下の猛将に智将が集まっている。

 

 後の軍はだいたい同じ大きさだが曹操や丁原、董卓や馬騰と言った名高い者達が多い。

 

 

 

 

 そんな軍勢の中で、一際小さい軍が一つあった。

 その軍は『張』『楽』『李』『于』といった無名の将達から成り、軍のトップである『彰』という旗にも丁原軍を除き、誰も覚えがなかった。

 

 

 その軍の一角の陣幕に無表情の男が座っている。

 彼は黒い学ランを羽織っていて、この時代には何とも不似合いだった。

 

 彼は姓は彰、名は義、字は紅炎で真名は考輝。彼こそがこの無名の義勇軍を率いている隊長である。

 

 

 そんな彼の目の前には彼とは正反対に楽しそうにニコニコと笑みを浮かべている金髪の女性が座っていた。

 彼女は名は丁原といい并州州勅――今は役職名が変わり州牧だが、ともかく并州のトップの女性である。

 

 そのような女性が何故無名の義勇軍の陣幕にいるのかというと、考輝や将の一人の張燕こと飛鳥と個人的な知り合いだからだ。

 

 

 

 

 一週間程前に考輝達は洛陽に到着したが、呂布達から彼が軍を率いてくるとあらかじめ聞いていた丁原はいろいろと準備をしていた。まず彼等がここに駐屯出来るように何進に働きかけ、物資や金銭等の援助もしている。実は彼等が今いる陣幕も丁原軍の古い物を譲って貰った物だ。

 

 最初は大将軍派の戦力を増やしておきたかったのだろうと考輝は考えていたが、今も優しく笑っている丁原の様子を見ているとどうもその意図は薄いように彼には見えた。

 どちらかと言えば、近所の世話焼きのおばさんのような印象だ。

 

 

「それにしても考輝君には本当に驚かされるわね。舟から落ちる程度では死なないとは思ってたけど、まさか義勇軍の隊長になって戻って来るなんて夢にも思わなかったわ」

 

 丁原は笑みを崩さずにに考輝に話しかける。そして陣幕の入り口から外を見ると、そこでは兵士達が調練をしていた。将の指示に従い陣形を整えている兵達の練度は高い。それはもう義勇軍の動きのレベルを越え、正規軍にも匹敵する程だ。

 

 

 

 

「糞虫共! さっさと亀みたいに遅い足を動かしてさっさと鶴翼の陣を作るの!」

 

 

『サーイエッサー!』

 

「声が小さいの! そんなやる気のない貧弱野郎共は家に帰ってセン〇リこいてろなの!」

 

『サーイエッサー!』

 

「沙和……一体何がお前をそこまで駆り立てる……」

 

 

 調練方法は普通ではないが。

 于禁こと沙和はその細身の何処から出ているのかという程の大声で兵士達を罵倒しながら指示を送っている。そして隣で一緒に調練している凪は、自分の親友の一人の豹変ぶりを嘆いていた。

 

 

「……なかなか変わった子達も見つけたみたいだしね」

 

 丁原はその光景を見て苦笑いを浮かべる。始めて見た時は彼女はもっと驚いていたがもうだいぶ慣れていた。

 

「俺もまさかこんな風になるなんて夢にも思いませんでしたよ……」

 

 考輝は軽くため息をつき、丁原と同じく調練風景を眺める。実は沙和にあの訓練方法を教えたのは考輝だ。しかし彼は冗談のつもりだったが、予想外に彼女が気にいってしまい、今にいたる。

 しかもかなり効率が良いのか兵の練度の上がり方は右肩上がりだ。そうなっては、今更直せとも言えない。

 

 

 余談だが、あの訓練方法を沙和がするようになった後彼女のステータスは統率力が五も上昇していた。

 

 また凪と李典こと真桜の能力もかなり伸びている。

 

 真桜は都の様々な本を読んで知識を深め、自らの槍をドリルのように改造をしていた。そして考輝が洒落のつもりで言った仕込み武器まで完成させた。

 

 凪は気をかなり扱えるようになっている。前々から扱えはしたようだが、今では戦闘に使える程にまで成長した。とうとう数日前には気弾で人を吹き飛ばしていた。

 

 そして二人も沙和のように能力が上昇していた。凪は武力、真桜は知力が5ずつ上がっている。どうやら三人の得意分野が上昇しているらしい。

 

 

 ――正直、俺の方が伸び悩んでいるな。どうにか打開策を考えておかないとな。

 

 考輝は調練風景を見ながら自身の能力を上げる方法を考えていた。

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 考輝と古万が二人でいろいろと話していると兵士が一人陣幕に入って来た。格好からして考輝の軍の兵士のようだ。

 

「隊長にお客様がいらして――す、すみません……」

 

 べつに考輝は怒っているわけではなく、ただ兵士の方を見ただけなのだが、伝えに来た兵士は一歩後退りながら謝罪した。どうにも彼の無表情のせいで睨まれているようみ感じたらしい。

 

 

 そんな姿を見て丁原は苦笑いをしながら席を立った。

 

「じゃあ私はそろそろおいとまさせてもらうわ。意外と長い時間話してたみたいだしね。――それからもう少し表情豊にした方がいいわよ。考輝君の無表情、なかなか迫力あるもの」

 

「……肝に命じておきます」

 

 そう言いながらも考輝は無表情だ。彼も表情筋を動かす努力はしているのだが、どうにも動かないでいた。

 

「それから募兵に関しては私から何進に言っておくわ。安心してね」

 

 丁原はそんな考輝にウィンクをしながら帰り支度をする。

 

 当たり前だが都で募兵は簡単には出来ない。皇帝のおひざ元なので朝廷の許可を貰わないといけないのだが、今の政治事情もありなかなか許可がおりない。

 

 しかし、考輝は黄巾の乱が起こる前にもっと戦力を集めておきたかったので、頭を悩ましていた。そこで彼は何でも頼むのは悪いと思いながらも丁原に相談した所、彼女は二つ返事で引き受けてくれた。

 実は今日話していた事も大半は募兵に関してだったりする。

 

 

「本当に何から何まですいません。こんなに援助までしていただいて――」

 

「はい、そこまで」

 

 考輝が謝罪すると丁原が手を前に出して静止させる。

 顔には優しい微笑みを浮かべていた。

 

「別にいいのよ。貴方みたいな才能を持った人間を埋もれさせるのはもったいないもの。それじゃあ募兵頑張ってね」

 

「……有り難うございました」

 

 丁原は悠々と陣幕を出て行く。

 去り際に客が来た事を伝えに来た兵士にも、お勤めご苦労様、と声をかけていたのが考輝には印象的だった。

 

 

 

 

「……それで客ってのはどんな奴だ?」

 

 丁原が出て行くのを見届けた後、考輝は兵士に客が誰ではなく客の様子を聞く。

 なお彼に客の心当たりがなかった。まず彼はこの世界に来てから日が浅いため知人が多くない。唯一訪ねて来そうなのは丁原とその配下の将、呂布や張遼や高順くらいだ。

 

 しかし丁原は今の今まで話していたし、配下の誰かにしても来るなら彼女と一緒に来る。

 そう考えていくと彼に心当たりは全くなかった。

 

 

「左慈と名乗る目つきの鋭い男です。なんといいますか、妖術士のような格好をしていまして……追い返しましょうか?」

 

 兵士としてはそんな得体の知れない怪しい男を考輝に会わせたくはない。さらに左慈の上から目線で高圧的な態度も兵士に悪い印象を与えている。

 

 しかし、考輝はその左慈という名前に聞き覚えがあった。

 

『洛陽に着いたら左慈って奴を訪ねろ。それでそいつから褒美を受け取れ』

 

 以前村で見た夢での神との会話。

 洛陽に着いてから忙しかったため彼はすっかり忘れていたが、左慈という名前を聞いて思い出していた。

 

 

「いや、会おう。通してくれ」

 

「は、はい……」

 

 すっかり追い返すものだと考えていた兵士は少し動揺しながら返事をする。そして彼は客人を呼びに陣幕から出て行く。

 

 それから左慈という男が陣幕に来るのに五分もかからなかった。

 

 

「お前が彰紅炎か」

 

 陣幕に入って来るなり左慈は挨拶もせずにそう言った。もし考輝の軍の誰かがいればその無礼な態度から口論になるかもしれないが、今陣幕には考輝と彼以外誰もいない。

 なお左慈は白い装束を身に纏い、額と目の下に赤い化粧のようなものをしている。この時代ならそれだけで怪しいと言われ役人に突き出されても文句は言えないだろう。

 

 

「そうだ。それにしてもそっちから来るとは予想外だな」

 

 考輝は言うと同時に左慈のステータスを開く。

 初めて会った者のステータスを開くのはもはや癖になっていた。

 

 

 

 

統:110 武:110 知:90 政:90

 

剣:A 槍:A 戟:A 弓:A 騎馬:A 兵器:A 水軍:A

 

特技:管理人(外史において全てが優遇される。ただし直接干渉する事は基本的に出来ない)

 

 

 

 ――こんなステータスは初めて見たな。流石は神の使いってとこか。

 

 考輝はとりあえずそう納得する事にした。管理人や外史等気になる単語はいくつかあったがあえて触れはしない。

 

 

「ふん。俺も訪ねてやるつもりは無かったがお前があまりにも遅かったからな。ほら、受け取れ」

 

 左慈はぶっきらぼうに布に包まれた平たい丸い物を投げる。

 考輝はそれをキャッチして布をとると一枚の銅鏡が出てきた。

 

「……これは?」

 

 考輝はこの銅鏡の意図が分からなかった。

 確かに銅鏡はとても貴重な物だ。しかし神が渡す物にしてはおかしく感じた。

 

 

「詳しくは俺も知らん。取り扱い説明書があるそうだからそれを見ろ」

 

 考輝が投げられた布をあさると冊子が一冊出てきた。

 表紙には「パワーアップキットの使い方――君もこれでチートになろう!!」と書いてある。

 

 ――なんであいつが送ってくる物はこうも胡散臭いんだ?

 

 こちらの世界に来た時に考輝のポケットに入っていた紙もこのような感じだったので、逆に信憑性が増していた。

 

 

「質問はもう無いな。なら俺は帰らしてもらう」

 

 左慈は一言そう言うと考輝に背を向け陣幕の外に歩いて行く。

 

「わざわざすまなかった」

 

 考輝も興味なさげに声を発し、視線を冊子に落とした。

 

 

 

 

『〜はじめに〜 異世界に来れたのはいいけど、その世界は争いが多くて命の危険も多い。そんな事ってよくあるよね! でもこのパワーアップキットがあればもう安心。これさえあれば念願のチートになれてハーレムでウハウハな――――』

 

 前の手紙と同じで余計な内容が大半を占めていたので考輝は流し読みをしていく。

 

 結果として重要な事は後半の二割に書いてあった。

 

 

 この銅鏡の名前はパワーアップキットと言って、ステータスを上げるための道具。

 

 コマンドというものがあり、それを実行すると能力が上がる。

 

 コマンドには回数制限がある

 

 真名を知っていれば他人にも使えるって事になるな。

 

 パワーアップキットによるテータスの上昇は個人の限界値自体も伸ばすので、伸びしろが減る事はない。

 

 

 銅鏡は考輝が思った以上に有用なものだった。

 これなら弱点のフォローも出来るし、伸びしろを潰さないならば長所を伸ばすのにも使える。

 

 

 ――とりえず、一度使ってみるか。……副作用とかありそうで怖いが。

 

 彼は冊子の指示に従って銅鏡の後ろの真ん中にある珠を軽く押す。すると、カチッと音がして鏡の部分に文字が浮かび上がる。

 

 統+5(低)×5 武+5(低)×5 知+5(低)×5 政+5(低)×5

 

 剣適性C→B×5 槍適性C→B×5 戟適性C→B×5 弓適性C→B×5

 

――これがコマンドみたいだな。冊子によると×5は残り回数で、(低)ってのはステータスが70未満の奴に使えるコマンドか。……俺が使えるコマンド一つしかないか。

 

 彼の今のステータスは基本的に70を越えて(低)は使えず、適性においても戟適性C→Bが使えるだけだ。

 考輝はがっくりと肩を落とし、コマンドがこの状態から増えないか冊子を読み返してみる。

 

 

 

 

「……あった」

 

 意外にもそれは早く見つかった。

 

『・コマンドの増やし方

コマンドを増やすには神を楽しませるしかありません。いろいろと派手な事をしてみましょう』

 

 

「つまりあいつの気まぐれで俺にはどうしようも出来ないと……」

 

 考輝は思わずため息をついた。

 

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