真・恋姫†無双Withパワーアップキット   作:アイソー

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賊に襲われて

 少年は森の中にいた。

 

 黒い学ランを着て立たずんでいる姿は、その場の青々とした森の景色から浮いている。

 木々の間から見える空はやけに澄んでいて、地面には草が生い茂っている。とても閑散としていて、時折鳥の鳴き声が聞こえる程度だ。

 

「あれは夢だったのか……それとも今が夢なのか……」

 

 少年は誰となく呟く。白い空間で黒い光に包まれたかと思えば、一瞬でこのような森の中にいた。少年には何が夢でどれが現実だったのか、判断がつかなくなっていた。

 

 とりあえず少年は辺りの景色を見渡すが、彼の記憶する限りではこのような森は見た事がなかった。それに静かで人の気配も感じられない。

 ここがもし彼の世界だとしても、かなり田舎の方にあたるだろう。

 

 

 ――流石にこんな手のこんだどっきり有るわけないよな。しかも一般人の俺に対して。

 

 普通こんな状況になれば慌てるだろうが、少年は妙に落ち着いていた。少年自身が妙に思う程に。

 

 

 ――そういえばプレゼントってやつの説明があるんだったな。あれが夢じゃないとしたらだが。

 

 少年は先程の会話を思い出し、学ランのポケットを探る。

 

 そこには一枚の紙が入っていた。

 

 

 

 

『こんにちは!! この紙にはこの世界の事と貴方へのプレゼントについて書いてあります。いきなり違う世界に飛ばされて心配でしょうが大丈夫!! この手紙さえ読めば(ry』

 

「……」

 

 余分な前置きが長かったので、少年は自分に必要な情報が書いてある所まで飛ばすことにした。

 

 

「……ここからだな」

 

 全体の三分の二まで行った所で必要な情報が書いてあった。ここからは箇条書で纏められている。

 

『・この世界は西暦180年の中国のパラレルワールドです。

 

・どう生きるかは貴方の自由です。

 

・貴方へのプレゼントは人間のステータスが見えるようになる事です。

 

・見えるのは統率力、武力、知力、政治力の基本ステータスと武器や軍隊の武装の適性、それから特技です。

 

・基本ステータスは最高が100、最低が1、人々の平均値は全て45です。

 

・但し、特定の人物は100を越えます。

 

・武器や軍隊の武装の適性は最高がS、最低がCです。

 

・なお見える適性は剣、槍、戟、弓、騎馬、兵器、水軍です。

 

・基本ステータスおよび適性は伸びしろがあるものは青色で、限界なものは赤色で表示されます。

 

・特技は基本的に一人一個です。

※これで見れるステータスとは別に熟練度や体調があります。このステータスの数値だけでの判断は止めましょう。

 

 さぁ、ここまで読んだ貴方はもう大丈夫!! とっても楽しい異世界ライフを楽し(ry』

 

 ここで少年は読むのを止めた。

 

 

 ――この手紙が正しいならここは後漢末期。黄巾の乱が起こる二年前か。ただ、パラレルワールドというのが気になるが……。

 

 少年は結構歴史好きで、三国志についてそれなりの知識があった。そのため年号からの判断も直ぐに出来ていた。

 

 

 ――とりあえずは自分のステータスを見てみるか。書いてはないが自分のだって見れるだろうし。…………どうやって見るんだ?

 

 ステータスの見方に少年は一瞬行き詰ったが、すぐにステータスが表示された。どうやら念じれば見れるような仕様になっていたようだ。

 

 少年の目の前にステータスが載った表が現れるが、透けていて表の向こう側も見えるようになっている。視界の妨げになる事はなさそうだ。

 

 

 

 

統:73 武:72 知:88 政:93

 

剣:B 槍:A 戟:C 弓:B 騎馬:C 兵器:S 水軍:A

 

特技:深謀(計略が強力になる)

 

 

 

 

 ――俺って、こんなに頭良かったか?

 

 これが少年の感じた第一印象だ。

 彼の学校の成績は中の上。決して人に誇れるものではなかった。

 

 しかし、このステータスを見ると知力の数値だけ見ると平均値の倍近くある。しかも知力だけでなく全てにおいて平均を大きく上回っていた。

 

 おまけに全てのステータスの色は緑色だ。赤と青の中間という事はまだ伸びるという事だ。

 

 ――神が何か弄ったのかもな。それならこんなに冷静なのも納得できるな。

 

 そう考え彼はステータスを閉じる。これも彼が念じれば閉じる事が出来た。

 

 

 ――まずは人のいる所に出よう。手紙が本当かどうかも確かめたいし、そうだとしたら言語も確認したい。

 

 もしここが古代の中国だとしたら日本語など使われているはずがない。

 しかし、パラレルワールドとも書いてあったので、例え日本語でも不思議はない。むしろわざわざ日本人の自分を送っている辺り、日本語の可能性の方が高いと彼は考えていた。

 

 

 ――そういえば服装が学ランだが大丈夫かだろうか? 学ランなんて有るわけないし、変な扱いを受ける可能性が高いよな。

 今彼に着替えはない。学ランがマズいのは承知していたが、裸で行く訳にもいかないので着るしかなかった。 

 ちなみに荷物にいたっては何もない。強いて言えば、プレゼントの内容が書いてあった手紙があるくらいだ。

 

 

「……とりあえず歩こう」

 

 そういう考えに至った少年は森を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、兄ちゃん。珍しい服持ってんじゃねぇか。命が惜しけりゃ 身ぐるみ全部置いてきな!」

 

「でなけりゃ痛い目見るぜ!」

 

「み、見るんだな」

 

 少し歩くと、少年は武器を持った三人の男達に取り囲まれた。

 

 一人は槍を持った普通の男。もう一人の剣を持った男は異常に小さく、普通の男の半分程の身長しかない。最後の一人は逆に大男だ。手には斧をもちかなりパワーがありそうだった。

 

 

「……」

 

 そんな状態においても、少年の頭は冷静に働いている。

 それどころか余裕がある程だ。言語は伝わるんだなとか、こんな野党が出るなんてやっぱり後漢なんだな、と考えていた。

 

 

「さっさとしやがれ! 何を黙ってやがる!」

 

 ずっと黙っていたのに痺れを切らしたのか小さい男が声をあげる。耳障りな金切り声に少年は眉を少し顰めた。

 

「そう言ってやるなチビ。この張燕様に山で出くわしちまったんだ。 それくらいの畏縮は当たり前だ」

 

 普通の男が小さい男を宥める。どうやら彼が三人のリーダーのようだ。

 

 

(張燕……あの黒山賊の張燕か。たしかかなりの猛将で軍の機敏さから飛燕とか言われていたな。

 

 彼には張燕という人物の知識があった。

 歴史に名を残す人物がどのくらいの強さをが持っているのか気になり、彼のステータスを開く。

 

 

 

 

統:53 武:58 知:17 政:15

 

剣:C 槍:C 戟:C 弓:C 騎馬:C 兵器:S 水軍:A

 

 

 

 

「うそくさ……」

 

 少年は思わ心の声を漏らしてしまった。熟練度等があるとはいえ、このステータスは弱すぎる。

 後の二人のステータスも確認するが、小さい男が武力47で、大きいのが50しかない。数値の上ならば、少年の方が遥かに上だ。

 

 そんなステータスを見て、流石にこいつらは張燕の名前を語る偽物なのだろうと少年は推測する。

 

 

「な、こいつ馬鹿にしやがって! デク、やっちまえ! 相手は丸腰だ!」

 

 先程の少年の呟きが男に聞こえたらしく、リーダーの男がでかい男に命令をとばす。

 

「わ、わかったんだな」

 

 でかい男は斧を振り上げ突進してくる。だがそれはお世辞にも速いとはいえなかった。

 実際、少年はいとも簡単に大きな男の一撃をかわし、さらに足を引っ掛けた。

 

 

「わ、わわ」

 

 バランスを崩して、男の巨体は前のめりに倒れる。そして少年は倒れてがらあきになった首の後ろに、踵落としを入れる。人体の急所に重い一撃を入れられた男は、声すら上げられずに気を失った。

 

 そして少年は今の光景を見て呆然としている小さい男に一気に近づく。小さい男は一瞬の事で反応ができず、慌てて武器を構えた時には 既にに少年は目の前に来ていた。

 

 少年はそのまま渾身の力で男の顎を殴る。  顎を殴られ脳を揺らされた男はそのまま意識を手放した。

 

 

「どうした張燕? たった一人の丸腰相手に三人がかりでこのざまか?」

 

「クソ、なんだってんだ……」

 

 少年は挑発するように喋りかけるが男は槍を構えて動かない。流石に今までの流れから少年を警戒しているようだ。

 

 そんな男に対して、少年は腕をだらりとたらしてただ見つめる。一見隙だらけだが、男には明らかな誘いにしか見えない。男の頬から嫌な汗が垂れる。

 

 そのままの姿勢で二人とも動かない。沈黙が二人の間を支配していた。

 

 

 

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

「ん?」

 

「げ!?」

 

 その沈黙を破ったのは第三者だった。

 二人がいがみ合っている近くの木の上にいつの間にか女性が立っていて、大声を上げる。

 

 

 女性は頭に黒い手ぬぐいを巻き、手には細長い鉄の棍棒のような武器を持っている。 目はキリッとしたつり目で、服は胸元とへそが出ている露出の高いものだ。

 

 

 女性は二人の注目が集まると、枝から飛び降りてちょうど二人の中間地点に着地した。

 それと同時に男は後ずさる。さらに女性を見て顔を青ざめさせていた。

 

 

「悪いがこの勝負は預からせてもらう。そっちの兄ちゃんもそれでいいか?」

 

「……ああ、構わない」

 

 いきなりの乱入者に若干戸惑いながらも少年は答える。

 そんな少年に女性は微笑んだ。

 

「すまないな。……さてと」

 

「ヒッ……」

 

 一方で男への目つきは厳しく、かなりの殺気が込められていた。その殺気に押され、男はさらに後ずさる。

 

 

「びっくりしたぜ? 俺が山賊から足を洗ったてのにこの辺りじゃ まだ張燕が暴れてるって噂がしたんだからよ」

 

「……」

 

 睨まれている男は何も言わなかった。正確には、全身から感じる殺気のせいで何も喋れなかった。

 それほどまでに女性の殺気は凄まじく、男の顔は青を通りこして白色になっている。

 

「それで気になって来てみれば正体はお前だったんだな、牛角。 私の名に泥を塗ってくれたな、ん?」

 

「で、でも姐御……」

 

 男は殺気に怯えながらも必死に掠れた声を出す。

 

 

「問答無用! そんな腐った心でこの飛燕、張燕様の名を語るんじゃねぇよ!」

 

 しかしそれは女性――張燕の怒りを増長するだけにしかならなかった。

 怒号と共に張燕の鉄棍が男に向かって振り下ろされる。

 

「ヒギャッ!」

 

 男は反応する事すらで出来ずに、そのまま頭をかち割られた。

 

 

「「ヒィィィ!」」

 

 いつの間にか目を覚ましていた男の部下達は、その光景を見て我先にと逃げ始めた。

 

「フンッ! 覚悟も無しに俺の名を使うなってんだ」

 

 張燕はそれを追わずに見送る。彼女の足元には男の死体と血だまりが広がっていた。

 

 

 ――これが本物の張燕か強いな。しかし……女性か。

 

 少年の記憶していた張燕は男だった。だが自ら名乗っているし、あの強さを見せつけられた少年も疑いはしない。

 

 

 ここで少年の中で一つの仮説が生まれる。突拍子もない仮説だが この現状では充分にありえるものだった。

 しかし現状では確認する術もないので、とりあえず少年はこの仮説を置いておく事にする。

 

 

 そして確認の為に、張燕のステータスを開く。

 

 

 

 

統:82 武:81 知:53 政:48

 

剣:A 槍:B 戟:B 弓:C 騎馬:S 兵器:A 水軍:C

 

特技:長駆(騎馬の移動力上昇)

 

 

 

 

「強いな」

 

 知力はともかく武力では少年よりも高い。さらに統率力や武力はまだまだ伸びしろあるようだ。

 

 

「お前もなかなか強いと思うぜ? 素手で二人も倒したんだからよ」

 

「……やっぱりお前最初から見てたろ。俺が奴らに囲まれた辺りにはもう木の上にいたな?」

 

 少年は批判がましく目を細める。

 

「お、なんでわかったんだ?」

 

 張燕は悪いとも思わずに驚いた顔になる。彼女は限界まで気配を消して隠れていたため、気づかれるのは驚 いていた。

 

 

「あいつが自分の事を『張燕』って名乗ったのは一回だけ。しかも 俺が切り掛かられる前。つまり最初から見てないとあいつが『張燕』 って名乗ってるの分からないからな。  ついでに俺が二人を倒したのも知っていたし」

 

 少年は彼女の気配に気付いていたわけでなく、彼女の言動から推測していた。

 

「へぇー、お前頭いいんだな」

 

 張燕はさっきとは別の意味で感心していた。先程の立ち回りの動きから、少年の事を武に長ける者と考えていたため尚更だった。

 

 

「それより何か言う事があるんじゃないか?」

 

 少年はさらに目を細めた。

 

「それは悪かったって。でもお前なら平気だと思ったんだ。なかなかお前は強いと思ったからよ。そういえばお前名前なんて言うんだ?」

 

「……」

 

 ここで少年は黙り込んだ。

 勿論少年に名前がないわけではない。ただその名前は日本名だ。この時代の中国の名前とは様式が全く違う。

 

 

「……姓は彰、名は義、字は紅炎だ」

 

 とりあえず彼は偽名を使う事にした。咄嗟にありそうな名前を言ったため特に意味はない。

 

「彰義だな。もうわかっていると思うが俺は張燕だ。それでさっきの詫びと言っては何だが、街でご馳走させてくれないか?」

 

「それはありがたい。それにしても意外と律儀なんだな。さっきの感じだとあまり気にしてないような感じだったんだがな」

 

「サラっと毒吐いたな……まぁいいや。それから連れもいるんだが大丈夫か?」

 張燕は苦笑いを浮かべる。だが彼女はあまりそういう事は気にしない性格のようで、直ぐに普段の表情に戻った。

 

「大丈夫だ。それでその連れは何処にいるんだ?」

 

「森を出た所にいる。とりあえず森を出よう」

 

「了解した」

 

 二人は森の出口を目指し歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇だな……」

 

 その森の出口の所に一人の女性がいた。 人一人乗ってもまだスペースが余る岩の上で自らの槍にもたれながら座っている。

 

 容姿は赤い目をしていて青い髪をしている。

 白を基調とした裾の長い服を着ていて、裾の先には金色の筋が入 っていた。頭には白い帽子をかぶり、もたれかかっている槍は女性 の身長くらい長く、先端は赤い。

 

 そんな女性が暇そうな顔をして空を仰いでいる。

 

 

「飛鳥め……いくらなんでも時間がかかりすぎではないか?」

 

 その女性は恨めしそうに自分が待っている友の真名を呟く。少し前に森に入ったきりなかなか戻ってこないので、待ちくたびれていた。

 何でも自分の元部下の事なので、自身でけじめをつけたいと言っていたので待つ事を了承したのだが、こんな事なら無理やりにでも付いて行くのだったと女性は後悔し始めていた。

 

 

 

 

「……少し練習でもするか」

 

 女性は岩の上で立ち上がると懐を探る。そして懐から一つの仮面を取り出した。

 形は蝶をもした仮面のようだが目の周りしか隠せないため仮面としての役割は果たせないだろう。

 

「フフフ……」

 

 そんな仮面を見て彼女は不適に笑う。

 そして素早く仮面を顔に付けた。

 

「美と正義の使者、華蝶仮面推参!!」

 

 そして高らかにポーズをとりながら宣言した。

 

 

 

 

 

「……あれがお前の連れか? もしそうなら飯の話、遠慮して いいか?」

 

「大丈夫だ。あいつは置いていくからな」

 

「それなら安心だな」

 

 ちょうどその時森から出て来た少年――彰義と張燕はかなり冷たい目をしていた。

 

 

 

 

 しかしこの光景を見た時、彼の中にあった仮説は確信に変わっていた。

 

 

 ――ここは恋姫無双の世界だ。

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