真・恋姫†無双Withパワーアップキット   作:アイソー

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これで書き出めは全てになります。
これからは週一更新目指して頑張っていきます。なお投稿するのは日曜がメインになります。


初陣に出て

 趙雲は荒れた土地にいた。

 

 地面は所々陥没しており、中には人が何人も入れるような場所もある。全体的に草木が少なく緑があまり見当たらない。

 そのような土地を彼女は馬に乗り一人駆けている。ただ夕日で出来た影が後ろにぴったりと着いて来ているだけだ。

 

 

 彼女の目的地は先程から視界に入っている廃村。そこは今賊達が根城として使っている場所だ。

 

 そこに彼女は単身突撃しようとしていた。

 

 

 廃村の入口には扉がないボロボロの門があり見張りと思われる腰に剣をさした男が二人ほどいた。

 二人とも怠そうに立っている。門を抜けたすぐの所に小屋らしきものがあり中から人の声が趙雲の耳に入る。どうやら中に何人か人がいるようだ。

 

「ん? おい、何だアンタは――」

 

「ハッ!」

 

「グギャ!」

 

 廃村の入口まで来た趙雲は話しかけてきた男の喉を、自らの槍でひとつきにした。一瞬の叫び声の後男はぴくりともしない。

 絶命したようだ。

 

 

「な、何だキサマ!」

 

 もう一人の見張りの男が仲間の死に動揺しながらも腰の剣を抜く。

 さらに男の悲鳴を聞きただ事ではないと感じた小屋の中の男達が十数人出てきた。全員手に剣や槍等を持っている。

 

「私は常山の趙子龍! 貴様ら悪しき賊共を征伐しにまいった! 覚悟いたせ!」

 趙雲は高らかに叫ぶ。その迫力に圧倒され大人数ながらも賊達はたじろぐ。

 

「ひ、怯むな! 相手は女一人だ!」

 

 何とか一人が声を出すと、賊達が彼女に武器を掲げ迫っていく。

 

 

「ハイハイハイ!」

 

 だが彼女は馬から降りる事すらせず賊を貫き、切り捨てていく。槍は確実に賊の急所を貫き、命を奪っていく。その槍さばきは美しく、例え戦場で出くわしても見とれてしまう程だ。もっとも、出くわした者にその余裕があればだが。

 

 

 彼女はその調子で切り伏せていき、実に二十人近くを討ち取った。

 しかし地に伏せる屍の数よりも新たに現れる賊の数が圧倒的に多い。そしてしだいに彼女に向かって行く者は少なくなっていく。考え無しに向かって殺せるほどの者ではないと全員が理解したからだ。

 

 

「よし、囲め! 囲んで袋だたきだ!」

 

 誰かがそう言うと賊達は彼女を円形に囲むように動き始める。

 

「そうはいかん!」

 

「グエッ!」

 

 後ろに回り込もうとした賊を切りながら、彼女は完全に囲まれる前に踵を返し後退する。

  趙雲は賊の囲いを抜けるとそのまま廃村を離れて行く。

 

 

 しかし仲間をこれだけやられて簡単に逃がすつもりはなかった。

 

「逃がすなぁ! 追うぞ!」

 

 三、四十人がその後をすぐに追いかけ始め、残った者は馬の準備を始める。流石に一人の為に千人全員を動かすつもりはないようだ。

 

 賊達が趙雲を追いかけ少し進むと、地面に横に大きなひびが入ったような場所に出た。

 彼女はひびを挟んで賊の反対側にいて、賊達の方を見ていた。

 

「今だ、斉射!」

 

 彼女がそう号令を出すとひびから兵士が百人程現れ、一斉に矢を放つ。

 

「ふ、伏兵だ! うわぁぁ!」

 

 いきなり射られた賊達は何十人かはそのまま倒れ込み、あとは慌てて足を止める。

 

「全員後退!」

 

 彼女は斉射の後無理に敵を追わずに再び後退する。兵士達は次々にひびから出て来て趙雲の後を追う。

 

「チキショウ! あの女、官軍の将だったんだ!」

 

「お、お頭に伝えてくる!」

 

 兵が彼女の指揮に従っていたのを見た廃村に残っていた賊達は嵌められた事に気がついた。

 

 

 そして賊の一人が廃村の中央に走って行き、事の顛末を伝えた。すると十分も経たないうちに廃村の入口にはかなりの数の人が集まった。騎兵が五百に、歩兵が二百。賊の全戦力ではないが七割程が集まっている。

 

 

 

 

「馬に乗ってる奴は俺と先行。歩兵は後から着いて来い。行くぞ!」

 

 賊の頭自ら馬に乗り先頭をきり、他の騎兵達がそれに続く。

 

 彼等が出発したとき趙雲達はかなり遠くまで離れていたがそこは騎兵と歩兵。みるみる内に差が詰まっていく。

 

 趙雲達が廃村からは確認出来ないくらい遠い台地の横を通り抜けた頃には差は数十メートルしかなかった。

 しかし、趙雲達が横を台地を抜けると台地の上で銅鑼がジャーン、と鳴った。そして銅鑼がなると同時に兵が出て来て旗を掲げる。

 夕日に照らされ上がったのは深紅の『呂』の旗。

 

 

「また伏兵だと!?」

 

 彼等は銅鑼と旗に気を取られ、行軍を止めてしまう。

 そしてその隙に兵士達が後ろから人一人分くらいある大きな玉を持ってくる。

 それは全て枯れ草で出来ており、百メートル近く横に並んでいた。

 

「…………今……」

 

 将である呂布の号令を聞き、兵達は玉に松明の火を付け台地の坂を転がす。

 そして転がっていく間に火が全体に回り、火の玉となった。

 

「うわぁぁ! 火だ!」

 

 これにより賊達は一気に混乱した。

 実際の所、この火の玉による被害はあまり大きくない。しかし賊達は火が迫ってくる事実に驚き慌てふためいている。

 

「うわっ、落ち着……あああ!」

 

 特に馬の慌て方は尋常ではなかった。

 火の玉が転がってくるのを見て人が乗っているのも忘れ暴れ出す馬達。馬同士でぶつかったり、馬から振り落とされる者もかなりいた。訓練された馬と騎兵ならば抑える事が出来ただろうが、ここにいる者は訓練などした事もない。しかも歩兵を置いて先行してきたため今この火計をくらっているのは全て騎兵。

 混乱はちょっとやそっとでは収まりそうになかった。

 

 

 

 

「…………三、二、一……斉射……」

 

 そこに追い打ちとばかりに呂布の部隊が斉射を仕掛ける。これにより賊達は完全に統制を失った。

 

「…………突撃……!」

 

「全員反転!! 我等も突撃だ!!!」

 

 更に呂布と趙雲の両部隊が突撃をする。

 もともと練度の差があるうえに、この状態ではいとも簡単に賊達は討たれていく。

 

「ハイハイハイィィィ!」

 

「…………フンッ……!」

 

「ヒィィ! 何だこいつら!」

 

 しかも趙雲と呂布の武は凄まじく、それを見た賊達は畏縮していく。呂布にいたっては彼女の戟の一降りで三、四人の命が一瞬で消えていた。彼女が十回も振ればもう死体の山が出来上がる。

 それを見た賊達の士気はどんどん下がっていき、逆に味方の士気は上がっていく。

 

 

 

 

「クソ! 一度退け!! 火の側から離れろ!」

 

 このままではまずいと思った賊の頭は退くように命じる。全体には伝わなかったものも、命令が届いた賊達は徐々に後退していく。

 

 

 まずは後方の歩兵と合流する事。そうして態勢を立て直す事が先決だと頭は考えていた。

 

 

 

 

 しかし頭の思い通りにはいかない。

 

「お、お頭ぁ! あれ見てください!」

 

「な、いつの間に!?」

 

 退くために後ろを見た彼等の目に映ったのは自軍の歩兵が全滅寸前の姿だった。

 賊の歩兵を駆逐しているのは騎馬に乗った黒い『丁』の旗を持った兵士達。

 

 

「彰義君の読み通りこちらに退いて来たわね。じゃあ挟撃しましょうか、張燕ちゃん」

 

「了解だぜ!」

 

 指揮はもちろん丁原と張燕がしていた。彼女達は火計が始まると同時に台地の反対側にある森から出て来て、騎兵に置いてかれた歩兵達に騎射と突撃を仕掛けていたのだった。

 

 

「行くぜお前ら! 突撃ィィ!」

 

 張燕の後に兵士達がもの凄いスピードで迫っていく。

 

「みんな、援護するわよ。騎射用意……放て!」

 

 そしてその後の丁原達が馬の上から矢を放ち張燕達の上を抜け賊に降り注ぐ。

 矢を受け隊列が乱れた所に張燕達が突っ込み、叩き潰していく。

 

「オラァ!」

 

 その中でも張燕の破壊力は別格で、次々と賊をなぎ倒していく。まれに武器で彼女の鉄棍を防ごうとする者もいたが、防いだ武器は叩き割られ、そのまま賊に直撃する。

 

 

「私達も突撃!!」

 更に丁原の部隊が突撃し、賊達は大損害をくらう。それと同時に呂布と趙雲達も再び突撃し賊を挟撃した。

 賊の頭は逃げるのに必死でなにも対策が打てなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………残ったのはこれだけか……急いで根城に戻るぞ……」

 

 なんとか挟撃から逃れた賊の頭は数十人の部下を引き連れ廃村に向かっていた。

 しかし彼の声には生気がなく、顔も疲れきっている。それは周りの者にもいえ、士気は最低だった。日はもう殆ど沈んでいて辺りは戦いが始まった時よりも暗い。暗さが彼等の士気をより下げていたのかもしれない。

 

 

 だが、暗いと言っても充分弓矢で狙う事は出来た。

 

「三、二、一、斉射」

 

 賊達の頭上から矢が降り注ぎ、射ぬかれた賊の悲鳴が辺りに響く。

 賊の頭地面がへこんだ所や岩陰に兵士達は隠れていて、そこから矢を射っていた。

 

「……もう……勘弁してくれよ……」

 賊の頭は半泣きで鼻声になっている。度重なる伏兵で彼の心は折れていた。

 

 しかし、だからといって手を緩める程この部隊の将は甘くなかった。

 

 

「廃村の方に一人でも戻られると後が面倒だ。皆殺しにしろ」

 

 彰義の顔はいつもと変わらず無表情。声にも感情がこもっていない。

 

 地面のへこみから出て来た彼は手に槍を持ち、腰には剣をさしている。彼は自分の武器を持っていなかったため、一般兵に渡される物を使っていた。

 そして彼が出て来ると兵士達も次々と出て来る。数は約五十。少ないが、士気が最低に下がり、最早戦意もない賊達には充分――むしろ過剰だった。

 

 

「全員抜刀……かかれ」

 

 彼の号令と共に兵士達がときの声を上げながら賊達に突っ込んでいく。

 

「た、助けギャアア!」

 

「嫌だ! 死にたくない!」

 

「待ってくれ! 俺だって好きでこんな事を、アアアアアア!」

 

 それはもう戦いではない。虐殺の域に達していた。

 

 だが彰義は無表情で敵に槍を突き立てていく。

 雑談をしている時と同じに。食事をしている時と同じに。普段と変わらない表情で。

 

 

「クソガァァァァ!」

 

 せめて一矢報いようと賊の頭が彰義に突撃をする。矢に当たったらしく彼の左手はだらんとしていた。

 右腕だけで剣を振り上げて襲い掛かる。

 

 

「……自棄になったらもう終わりだ」

 

 しかし彰義はただ冷静に、冷徹にそれだけ呟いた。

 頭が振るう剣を簡単に避け、槍の柄の方で足を払う。そしてバランスが崩れた頭の眉間に槍を突き刺す。

 悲鳴すら上がらず賊の頭は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 その後は丁原軍は廃村に残った賊達に奇襲を仕掛けた。

 相手の不意をつき、戦力も賊達を上回っていたため戦いが終わるまでに一時間もかからなかった。終わる頃には辺りは真っ暗になっていた。

 

 

 真っ暗な中、兵士達は戦後の処理に追われ、松明を持ちせわしなく廃村の中を歩き回っている。

 

 しかし彰義は兵達に指示を出し終わって暇になったので、廃材の上に座り考え事をしていた。

 

 ――今回敵が上手い事策に嵌まってくれたし、廃村の方にも一人も帰さなかったから夜襲も完璧にできた。初陣にしては上出来だな。

 

 戦局はほぼ彰義の考え通りに動いた。こちらの被害も少なく、丁原も非常に喜んでいた。

 

 

 しかし、彼が辺りを見渡すと、そこには死体が大量に並べられていた。彼がいる場所は廃村の中央にある広場でそこには今回の戦死者が集められていた。

 

 殆どは賊のものだが、中には兵士のも混じっている。そしてその横には仲間の死を悼み涙を流す者や黙祷をしたりする者が何人もいた。

 

 

「……すまない」

 

 彼は小さく呟いき、空を見上げる。

 空は満天の星空でかなり美しく物だったが、彼は自然とため息をついた。

 

 

 

 

「お、ここにいたのか」

 

「……なんだ張燕か」

 

 彼はしばらく物思いにふけていたが、張燕に話し掛けられ中断する。

 

「なんだとはなんだよ、無愛想な奴だな」

 

「悪い、ちょっと考えごとしていてな。それでなにか用があったんじゃないか?」

 

 彼はそう言うと廃材から立ち上がり体を伸ばすと体がバキバキと鳴った。意外と長い時間座っていたため彼の体は固まっていたようだ。

 そんな彰義を、彼の顔を張燕は何やら意外そうな目で見ていた。

 

「あー……丁原さんがお前の事を捜してたぞ。なんでも話があるんだと」

 

「話か……まぁ大体想像はつくがな」

 

 彼はゆっくりと丁原のいる本陣に向かって行く。

 しかしそんな彼の進路を塞ぐように、張燕が彼の前に立った。

 

 

「? まだ何かあるのか?」

 

「……俺こういうの苦手だがらよ、上手く言葉に出来ないけどよ……」

 

 張燕は煩わしそうに頭をガシガシ掻いた。

 そして何ともバツが悪そうに、もどかしそうに口を開く。

 

「何というかよ、そこまで気負う事はないと思うぞ? 最低でも、お前の今回の行動で助かった命があるんだからよ」

 

 思わず、彰義は目を見開いた。自身の今の無表情さで、自分が悩んでいる事が気づかれるとは夢にも思っていなかった。

 だからこそ、彼女の言葉は非常に救いになった。

 

 

「……ありがとよ。じゃあ今度こそ行ってくる」

 

 彰義は張燕の横を通り、今度こそ本陣に向かっていった。

 そんなすれ違う瞬間に、彰義の顔を見た張燕はニヤリと笑う。

 

 

「なんだ、笑顔も出来るんじゃねぇか」

 

 彰義はこの世界に来てから初めて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彰義君、私に仕えてみない?」

 

「丁重にお断りさせて頂きます」

 

 本陣まで来た彰義は、丁原の言葉に即答して頭を下げる。

 本陣には彼等の他に趙雲、張燕、呂布がいたがその即答ぶりに二人は驚いていた。

 

「………………」

 

 ちなみに呂布は夕食のお粥のような物に夢中で聞いていない。

 なお、彼等がいる本陣は廃村から少し離れた所にあり陣幕で四方を囲んだ簡単な物だ。中には特に何もなく丁原が座っている椅子ぐらいしかない。

 

 そしてその椅子に座っている丁原は彼の言葉を予想していたのか、やっぱり、と言った感じで苦笑いを浮かべていた。

 

 

「よいのか? 彰義殿は金がいると言っておったと思ったが」

 

「それは今回ので充分だし、今はいろいろな場所を回りたいからな」

 

 彼は今回の戦を経て、ある目標を立てていた。その目標の達成の為にも、今は各地を回り様々な人に会っておきたかった。 

 

 

 

「それならしつこく引き止めないわ。でもせめて私の真名を受け取ってくれない? もちろん趙雲ちゃんと張燕ちゃんもね」

 

「…………恋のも……」

 

 丁原の言葉に食事中の呂布も乗っかる。

 

 

「……いいんですか?」

 

 彼はこの世界の生まれでは無いため真名の重要度はそこまで理解していなかったが、かなり大切な物だとはわかっていた。なのでまだ会って数日で、得体がしれず、士官を断った男に真名を渡す理由がわからなかった。

 

「もちろん。今回は貴方達がいたからこんな大勝が出来たのよ。そんな人達に真名を渡さないのは失礼に当たるわ」

 

「…………恋は……気に入ったから……」

 

「私も彰義殿に真名を受け取って貰いたいものだな」

 

「それなら全員で交換しねぇ? なんか一人ずつやるの面倒臭いし」

 

 趙雲も名乗り出たために張燕が案を出す。

 

 

「じゃあそうしましょうか。私は丁原。真名は舞よ」

 

「…………恋は……恋…………」

 

「私は姓は趙、名は雲、字は子龍。真名は星だ」

 

「俺は張燕。真名は飛鳥だぜ」

 

 

 次々と真名を言っていき、最後に彰義が残る。

 

「姓は彰、名は義、字は紅炎。真名は考輝(こうき)だ。よろしく頼む」

 

 彰義――考輝の初陣はこうして終わった。

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