真・恋姫†無双Withパワーアップキット   作:アイソー

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沢山の方が過去の投稿を覚えていて下さっていて、とても嬉しく、今度こそ完結させるという思いが強まりました。

遅筆ですが、更新頑張って参ります。


移動の中で

 考輝は舟の中にいた。

 

 

 舟はオールのような物を使って漕ぐ人力のものでなかなか大きい。百人くらいは軽く乗れるだろう。兵士達が十数人程で漕いでいるがかなりゆっくりと黄河を進んでいる。

 

 日は高く舟の真上で輝き、うっすらと見える川辺には小さく森が確認できた。

 

 舟の中央には屋根がついた空間があり、そこが大部分を占めている。ただ壁は後ろ半分しかなく、前半分は柱しかない屋形船といった感じだ。

 

 

 そしてその舟には丁原軍の全武将が乗っていた。最強の武を持つ呂布、神速と名高い張遼、陥陣営という異名の高順。見る物が見れば裸足で逃げ出す集団であろう。

 なお舟の進路は都である洛陽。都の何進大将軍に丁原軍は召集されたため、こうして黄河を昇っていたのだった。

 

 

 そのような場所に考輝はいた。なお、趙雲と飛鳥もいる。

 

 丁原軍ではない彼等が何故そこにいるのかと言うと、ただ単に送ってもらっているだけである。

 五日前に初陣を終えた彼は丁原の仕官の誘いを断った後、直ぐににも旅立とうとしていた。しかし、「どうせなら都まで一緒に来ない?」と、誘われ彼等は着いて来ていた。

 

 

 彼がこの話しを受けたのは今都には丁原以外の諸侯達も集まっていると聞いたからだ。

 名門の袁紹を始め、異民族討伐で名を上げる董卓、西涼の馬騰。かなりの大物が揃っている。

 

 そのような大物達の中でも考輝が一番会いたいのは陳留の曹操だ。今はまだ一介の県令にすぎないが、いずれは天下の一角を治める程にまで成長する。彼はそのような者の器を見ておきたかった。

 ――曹操はたしか恋姫無双にもちゃんとキャラとして出てたよな。容姿とかは余り覚えていないが……たしか百合だったか? ともかく女なのは確定だな。

 

 彼は本を読みながら曹操についての記憶を思い出していた。ちなみに今彼が読んでいる本は何故か日本語で書かれている。これもパラレルワールドの影響らしい。

 

 

 彼が今座っているのは舟の中央に置いてある細長い机の前のこれまた細長い椅子だ。そして机を挟んだ反対側には趙雲と丁原軍の張遼が座り酒を飲んでいた。

 張遼はサラシを巻いた上にマントを羽織るだけというかなり豪快な格好をしていて、酒のせいか少し顔が赤い。

 

 

「いや〜、アンタなかなかいける口やな」

 

「こんなの飲んだ内に入りはせぬよ。お主もそうであろう?」

 

「それもそうやな」

 

 そこで二人は顔を見合わして笑い合う。わりと気が合ったようだ。

 

 しかし、彼女達はたいして飲んでいないと言っているが周りにはかなりの数の徳利が散乱している。世間一般的には物凄い量だろう。

 

 

 

 

「って、何堂々と酒を飲んでいるんですか! 今、一応仕事中ですよ!」

 

 その二人の間にオールバックのピッチリとした服を着た男が割って入る。

 彼は張楊といい、丁原軍の事務仕事を統括している。もとい政務をまともに出来る将は彼ぐらいしかいない。

 

「相変わらず固いな〜。それにウチらの仕事は護衛。今襲撃なんかされとないやん」

 

「せめて緊張感を持って下さい!」

 

「そないな事言ってもな〜」

 

 張楊は張遼にいろいろと注意をするが彼女はのらりくらりとかわしていく。余り効果はなさそうだ。

 

「第一呂布ちんはどうなるんや? モリモリ肉まん食っとるで」

 

「…………?」

 

 話題が考輝の隣に座って大量の肉まんを食べていた呂布に移る。当の本人は悪い事という自覚はないようで首を傾げていた。

 

 

「あぁ……そんな首を傾げる恋様も素敵でございます…………」

 

 そして呂布の隣に座り、彼女の事を恍惚の表情で眺めているのは女性は高順。基本的に恋の副将をしている。髪は金髪のミドルで頬についている傷が目立っている。黒いジャケットみたいなものを着ており、下半身はピッチリしたズボンを履いていてかなり動きやすそうだ。

 

「……もう呂布殿には何を言っても無駄だと悟りましたから……」

 

 そう言って張楊は遠い目をする。彼は昔の恋に対しての様々な自分の努力を思い出していた。

 

 

 

「……大変そうだな。それから高順。お前鼻血出てるぞ」

 

 考輝が本から目を離し高順の方を見ると彼女は鼻血を出していて、ツーと、下に垂れていた。恍惚の表情をしながら。

 

「……これは失礼」

 

 高順は手で血をふき取り、普段のキリッとした表情に戻る。今の表情だけ見ると、大抵の人はクールな美人の印象を持つだろう。

 

 

「あ、恋様。口周りが……」

 

「ん……」

 

 しかし、また一瞬で呆けた顔に戻る。今呂布の口元を拭いている女性が、先程までクールな雰囲気を醸し出していたとは今の姿からは想像も出来ない。

 そんな豹変にも呂布は特に動じる事なく、大人しく口周りを拭かれていた。

 

 

 

 

「って、はぐらかされる所だった。張遼殿はいい加減飲酒を止めてください。今は仕事中です」

 

 最初の目的を思い出した張楊は再び張遼に注意をし始める。

 

「ホント固いな〜。せやけどちゃんと仕事しとる奴他におらへんで?」

 

「何を言っているんですか。あそこで舞様が仕ご――」

 

 張楊は振り返り舟の後ろにある机に目をやる。

 その大きめの机の上には木簡や竹簡が沢山置いてあった。

 

 

 そこにはそれらと格闘している丁原の姿が――――なく、彼女は机に倒れ込んでいた。

 

 

「って、舞様ァァ?!」

 

「速っ!」

 

 張楊はそれを見た瞬間物凄い速さで彼女の所まで駆けて行く。それは神速の張遼を唸らせる程であった。

 

 

「だ、大丈夫ですか!!」

 

「…ち、張楊……」

 

 彼が揺すると丁原は顔だけよろよろと上げる。彼女の目は軽く虚ろになっていた。

 

「私……武官なのよ? なんで……こんな仕事をしているの?」

 

「ちょ、なんか目が死にかけてますよ!? ……それは貴方が州勅まで頑張って出世したからですよ! 素晴らしい事なんです!」

 

「……じゃあ私州勅辞めるわ」

 

「って、何とんでも発言してるんですか!」

 

 

 

 

「……大丈夫なのか? あんな感じで」

 

 流石に他人事ではあると言っても、考輝はいろいろと心配になってきていた。

 この感じでまともに軍が運営できているのかは、素人の考輝から見ても不安だ。

 

 

「問題ないで。いつもあんな感じや」

 

「政務部屋での日常風景です。心配不要――恋さま、追加の肉まんが運ばれてきましたよ」

 

「………」

 

 考輝の心配も気にせず、張遼は酒を飲み、高順は呂布の世話をやき、呂布は幸せそうな顔で食べ物を食べている。完全に各々が好きな事をしていた。

 正直、何も知らない人物がこの状況を見れば、とても一つの州を統治している軍とは思わないだろう。

 

 

 しかし武力に関しては間違いなく天下最強の軍団である。

 考輝の見ている数値では、張遼は92。高順は88ある。一番弱い文官の張楊で70。これに丁原と呂布を加えて平均を出すと約90。一般人の平均値が45の世界でこれは異常なまでの高さだ。

 

 

 

 

 

 

「うぅ……彰義殿は本当に仕官なさらないんですか? 文官が非常に足りていないので、今なら好待遇ですよ?」

 

 最終的に何とか丁原を仕事に復帰させた張楊は溜息まじりに考輝の隣に座る。その顔には疲労が色濃く出ていた。

 そして何度目か分からない考輝の勧誘をしていた。余程文官が欲しいのか、考輝の話を丁原から聞いてからは、条件を変えたりして何度も同じやり取りをしている。

 

 

「申し訳ないですが、考えを変える気はありません。私は若輩者ですし、今の世というものを見て回りたいのです」

 

 しかし入る気は無い考輝は毎回こう答えていた。

 彼としてもこの軍に入るという選択肢もあるのだが、正確な情勢も分からずに自分の身を置く勢力を決めるのは危険だと考えていた。

 

 

 ――それに、軍に入るのが全てじゃないしな。

 

 考輝の今の能力は軍人に向いている。能力だけでなく、歴史を知っている、未来の知識がある、そして何よりもこの世界が恋姫無双ベースだと気づいている。これらの事は相当なアドバンテージになるだろう。

 

  しかし、わざわざ危険な戦場に出向く事もないとも考えていた。乱世なので常に危険は付きまとうが、商人や農民という選択肢も見据えていた。

 

 

「それでは、世を見た後に、また一考の程お願いします。いつでも大歓迎ですから。それで彰義殿は都を見た後はどこに回られる予定で?」

 

 あまりしつこいのも逆効果だと思ったのか、張楊は薄く笑って話を変える。

 そして近くに侍従に声をかけると、二人分のお茶をお願いした。

 

 どうにもまずはコミュニケーションを取って、仲良くなる作戦にシフトしたように考輝は感じた。

 

「そうですね……実はまだ決めかねているんですよ。でも今都には有力者が集まってますし、まずは――」

 

 

「なぁ彰ギン」

 

 考輝の話を遮るような形で張遼が話し掛けて来た。酒が尽きたのかもう酒は飲んでいない。

 彰ギンという呼び方に面食らっていたが、とりあえず彼は突っ込まない事にした。

 

「……どうしました?」

 

「あー、ウチに敬語いらんで。むず痒くなる。――それでさっきから気になってたんやけど……あれ大丈夫なん?」

 

「ん?」

 

 張遼に指差されるがままに考輝と張楊が振り向くと、そこには舟の縁にぐったりと寄り掛かっている飛鳥がいた。頭と手が縁から飛び出しているのでまるで洗濯物が干されているようだ。

 

 

「随分と大人しいと思ったらあんな所にいたんだな」

 

「気付いてなかったんかい……」

 

 考輝の言葉に張遼は肩を竦める。

 

「舟は慣れないと酔いますからね。ちょっと薬がないか探してきます」

 

 張楊は苦笑いをしながら席を立った。

 

 

 そして彼と入れ替わりに趙雲がやって来た。

 

「舟に弱いとは言っておったが、まさかここまでとは……。今のこやつの姿を見て、これがあの張燕とは誰も思うまい。しかしこれなら乗る前の暴れっぷりも納得であるな」

 

 飛鳥は舟に乗る前、周りの人が引くぐらい抵抗していた。

 全速力で逃げ、得物を振り回して暴れ、趙雲と呂布と高順に取り押さえられた後は駄々っ子のようにジタバタと抵抗した。最終的に舟に投げ入れた後は途端に大人しくなっていたので、考輝も舟が出た後はあまり気にしていなかった。

 

 ここまで弱いのだったら、もう少し気にかけておくべきだったと考輝は軽く後悔した。

 飛鳥も飛鳥でこんな姿を人に見せたくなっかたので、誰にも助けを求めずにいたのも原因ではあるが。

 

 

「なんだよ。お前そんなに舟に弱かったのか?」

 

「……うっせぇ……今話し掛けてきてるんじゃねぇ……年中無表情野郎……」

 

「………」

 

 考輝は少し、ほんの少しだけイラっとした。

 特に年中無表情野郎、というのが何故か彼の心をかき回した。

 

 

「…………!」

 

 そんな考輝は何か思いついたのか彼女に近付いていく。ニヒルな笑みを浮かべこれからやる事は間違いなくロクな事ではないだろう。

 そして彼は彼女の直ぐ傍まで来ると足を舟の縁にかけ、舟を揺らし始めた。舟が大きいので彼が体重をかけても大きくは揺れないが、今の飛鳥には効果てき面であった。

 

「バッ! ……てめぇ……何……しやが……る……」

 

 飛鳥の顔がどんどん青くなっていき、声も徐々に弱くなっていく。

 碌な抵抗もできないのか、飛鳥は動く事もなくただ力なく考輝を睨みつける。

 

「ん? 辛いのか? すまんな、人の感情に疎くてな。年中無表情だから」

 

 しかし彼は止める気はない。むしろ更に強く揺らしていく。

 

 

「……陸地に…着いた…ら…おぼえ……てろ……」

 

 そんな騒ぎに呂布や高順達が集まって来た。

 なお恋は手に今だに肉まんを持っている。ただそれが最後らしく大層大事そうに持っていた。

 

「彰ギンも鬼畜やな……普通あんな弱っている奴に追い打ちなんかかけられへんで……」

 

「普段は冷静なのだがな。どうにも年中無表情と呼ばれたのよっぽど気にくわなかったようだな」

 

「…………顔が青い……」

 

「そろそろ限界のようですね」

 

「すみません、薬もう全て使い切ってしまったようで――何ですかこの状況?」

 

 張楊が戻って来た時には、飛鳥の周りには人だかりが出来ていた。

 

 

 

 

「ウッ! もう無理!」

 

 飛鳥は口を手で抑えながら急に立ち上がった。しかし足元もおぼつかなかったので、そのままフラフラと前のめりにバランスを崩してしまう。そうなると舟から落ちてしまうのは必然だ。

 

 

 飛鳥はそのまま川の中に落っこちてしまった。

 

 

 

 

 とっさに伸ばした手で、考輝の腕を掴みながら。

 

「なっ!? ――ブハッ!!」

 

 その結果、考輝も川の中に引きずり込まれた。

 

 

「……あ…………」

 

 ついでにその時考輝の腕が恋の腕に当たり、肉まんも一緒に落っこちてしまう。

 

 

 

 

「ちょ、……俺……泳げな……」

 

「てめ、ゲホッ……抱き着いてくんじゃ……俺まで沈むだろ……」

 

 飛鳥は泳げなかったらしく、必死に考輝にしがみついている。いくら考輝が泳げても、これでは沈むのは時間の問題だ。実際二人とも頭が水面から上がったり下がったりを繰り返し、徐々に下がっている時間が長くなっている。

 

 

「えーい。世話のやける!」

 

「…………」

 

 見兼ねた趙雲と呂布が縁に乗り出し川に飛び込もうとする。

 

「って、呂布ちんも行くんか?」

 

 張遼としては、呂布がこういう時に動くのは意外だった。

 

 

「……肉まん…………」

 

「目的違うんかい!」

 

「私もお供します。恋様の行くところ例え火の中、水の中、この高順あり」

 

 呂布が動いた事で、高順も飛び込む準備をする。

 

 

「「ブクブクブク………」」

 

 しかしそうこうしている間に二人は沈んでしまった。もう水面上からは姿が確認出来ない。

 

 

「クッ、待っていろ!!」

 

 最初に星が飛び込み、恋と高順がそれに続く。

 

 

 

 

「ブクブクブク……」

 

 しかし高順は飛び込むと同時に沈んでいった。どうやら泳げなかったようだ。

 

「高順ッチは一体何がしたかったんや!!」

 

 救助対象が一人増えただけであった。

 

 一方の趙雲と呂布は普通に泳げるようで水の中に潜っていく。

 だが、うまく助け出せないのかなかなか上がってこない。

 

「クッ、しゃあない。ウチも……」

 

「駄目よ。霞ちゃん」

 

 痺れを切らして張遼が飛び込もうとすると、いつの間にか近くに来ていた丁原に止められた。

 

「なんで止めるや、舞さん! まだ誰も上がって――」

 

「だからこそよ。下手に霞ちゃんが飛び込んでも状況が悪化するだけよ。霞ちゃん一人で何人も同時に助けられないでしょう?」

 

「ッ……」

 

 その時の丁原の目は先程までの死にかけた目ではなく、一軍を司る者の目になっていた。その迫力に押され、張遼は言い返す事が出来なかった。

 

 

「そんな心配する必要はないわよ。みんな強いしこのくらいで死ぬような子たちではないもの。そろそろ補給もしたいころだったし、近くの港に寄って五人を探しましょうか」

 

 丁原はそう言って微笑みかける。

 それは、先程とはまた違う顔だった。

 

「……せやな」

 

 張遼は納得し、川下の方に目をやる。

 

 ちょうど、少し暖かい風が吹き通った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丁原軍の舟から少し下流に行った所の川辺に、小さい広場のような場所があった。

 地面には背の低い草が生い茂っていて、太陽の光を一杯に浴びている。広さ的にはそこら辺の宿屋の一室と対して変わらないぐらい。周りには森が広がり、森の中は少しうっすらとしている。

 

 

 

 

「……ひどい目にあった…………」

 

 その場所に彼等全員は流れ着いていた。

 考輝はそう呟くと木まで歩いて行き、もたれかかる。全身びしょ濡れになっていて、歩く度に水が滴り落ちていた。ちなみに、今彼が着ている服は彼がこの世界に来た時に着ていた学ランではなく、丁原から貰ったこの時代の服だ。

 

 

「全くだぜ……それもこれもお前が舟を揺らすのが悪いんだぞ」

 

 飛鳥は俯せで寝転がり、考輝に文句を言う。船酔いも割と回復したようで、普通に喋っていた。

 

「……元はと言えばお前が船酔いなんかするからだろうが。しかもあんなに悪化してまで人に助けを求めないとか、意地はりすぎだ」

 

「あ? 喧嘩売ってるのか?」

 

 彼女は考輝の言葉を聞いて起き上がろうとする。

 

「止めぬか。今はそれ所ではないだろう」

 

 しかし星が二人の間に割って入り、飛鳥は渋々と言った感じでまた寝転ぶ。

 

 

 そんな少し雰囲気が悪くなったところに、誰かの腹の音が響いた。

 三人が音のした方を見ると、呂布が膝を抱えて座っていた。

 

「……肉まん…………」

 

 余程肉まんの事がショックだったのだろうか、落ち込んでいるようだ。

 しかもさっきまであれほど食べていたというのに、もう腹を減らしているようだ。

 

「……恋様……私がいながら申し訳ありません。生憎私も今食べ物の持ち合わせが――って恋様下着が!」

 

 水に濡れて呂布の下着が透けていたらしく、それを見て高順は鼻血を出しながら倒れた。

 

 

 この状況であっても、丁原軍は平常運転のようだ。

 そんな様子に考輝達も毒気を抜かれ、争う気も失せていた。

 

 

 

 

「とりあえず服を乾かすか。俺は向こうでやってくる」

 

 そう言うと考輝は一人で森の中に入っていく。

 

「ん? あいつ何で森の中入ったんだ? ここでやればいいじゃねぇか」

 

「お主はアホか。服を乾かすのに服を着たままでは出来ないであろう」

 

「あ、そういう事か」

 

 飛鳥はそこまで言われて察した。

 男女比が1:4だと男の肩身は狭い。

 

 

 

 

 

 

 考輝は少し歩いて適当な場所を見つけると、まず上半身だけ脱いだ。

 そして焚火を起こすために木の枝を集め始める。火打石は一応買い揃えてもっていたので、枝さえあれば簡単に火を点ける事ができる。

 

 

 一抱え程の枝を集め、そろそろ充分だろうと彼は枝を一か所に集め、懐から火打石を出そうとした時、ふと彼は動きを止めた。

 

 考輝が目を細めると少し遠くに人影が確認できた。距離があるので誰かまでか分からず、何人かが走っているのが見えたくらいだ。

 

「キャーー!!!」

 

 そしてその方向から悲鳴が聞こえた。

 

「…………ハァ」

 

 考輝はため息を軽くついた後、悲鳴が聞こえた方に走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「賊か……」

 

 近付いて行くと詳細が確認でき、彼は舌打ちをする。

 武器を持ち、ボロボロの服を着た男達が数人で二人の少女を囲んでいた。どうやら男達は身なりからして賊のようだ。

 

 しかし一人の少女は双剣を持ち果敢に戦っている。剣の腕も素人という訳ではなくそれなりに扱えていて、何人かの賊は切り捨てられていた。

 だがもう一人の少女、もとい幼女は戦えないようで少女の後ろに隠れている。それを庇いながらのため、少女は満足に戦えずに顔をしかめている。このままでは二人共賊の餌食になるのは目に見えていた。

 

 

「………」

 

 考輝は走りながら石をいくつか拾う。彼は武器を今は持っておらず丸腰のため、石を使おうとしているようだ。

 

 

「……!」

 

 そして石を投げて当てられる距離にまで行くと無言で、全力で石を投げる。

 

「グアッ!!」

 

「な!?」

 

「……え?」

 

 石は見事に賊の一人の頭に当たる。そして打ち所が悪かったのかそのまま倒れて動かない。

 それを見た他の賊達は驚愕の声を上げ、少女も小さく声を漏らす。

 

 

 考輝はそんな賊達に残った石を全て投げていく。

 流石にもう考輝の存在がばれているので急所には当たらないが、体の各所に当り賊達は顔を歪める。

 

「ウラッ!」

 

 そして怯んだ所に殴り掛かって剣を奪い、そのまま何人かを切り捨てる。

 賊達は動揺したまま動かず、考輝を囲もうともしない。

 

 

「……まだやるか?」

 

「ク、クソ! 覚えてやがれ!」

 

 まだ賊は八人くらい残っていたが考輝が睨むとあっさりと退いていく。

 まともな統率がとれる者もいなかったようで、突然の乱入者にただただ慌てふためいていた。

 

 

 

「あの……」

 

「………」

 

 双剣を持った少女が話し掛けて来たので考輝は振り返る。

 少女はブロンドヘアーで眼鏡をかけていた。緑の目が印象的で、服がわりと凝っている。お洒落に気を使っているのだろう。

 

 

「助かったの。沙和一人では危ない所だったの」

 

「別に構わない。それよりお前はこの辺りの人間か?」

 

 考輝としては土地の情報が欲しかった。彼はまだ土地勘がないが、場所が分かれば趙雲や高順が聞けばこれからの行動の方針が立てられると考えたからだ。

 なおもう一人の幼女は眼鏡の少女の後ろに隠れている。

 

 

「そうなの。沙和は近くの村で義勇軍を率いているの」

 

「ほう……」

 

 彼は思わず声を漏らした。この幼ささで人を率いているというのに驚き、義勇軍の隊長とはどれほどのものか気になったからだ。

 そして彼が少女のステータスを見ようとした時後ろから声が聞こえる。

 

「おい! この辺りで悲鳴が聞こえたが大丈夫か! ――って考輝?」

 

 その声は彼にとってもう聞き慣れたものだった。

 

「飛鳥か。悲鳴の件ならちょうど今――――――は?」

 

 

 彼は喋りながら振り向いて途中で止まってしまった。振り向いた先の光景が信じられないものだからだ。

 

「? …………あ」

 

 飛鳥は最初彼が何故フリーズしたのか分からないようだったが途中で気付き、彼女もフリーズする。

 

 彼女もまた考輝と同じように上半身に何も身に付けていなかったのだ。

 胸元の二つの丘ももちろん隔てるものがなく露出されている。筋肉質ではなく意外とすらっとした身体つきをしていた。

 

 

 

 

「……こ……の…………」

 

 状況を理解してフリーズしていた飛鳥であったが、ワナワナと体を震わしながら自らの得物を振り上げる。

 ここで考輝は非常に嫌な予感がした。非常に嫌な予感で、正直生命の危機も感じていた。

 

 

「いや、待て。これは完全にお前が悪――」

 

「うっせぇ! このムッツリ無表情野郎がァァ!」

 

 考輝がなんとか弁明しようとするが飛鳥は聞く耳を持たない。

 丸腰の彼に対して本気でかかってくる。

 

 

「ッ、ちょっと待っ、ひとまず隠せ!」

 

 

 今彼女は自身の体全く隠さずに暴れている。そのため彼女の双丘も彼女が得物を振り回すと暴れていた。凶悪なまでに。

 しかし彼女はそれすら聞かずに暴れている。周りが完全に見えていないようだ。

 

 

 

 

「「…………」」

 

 この光景を少女達は唖然とした表情で見ていた。呆れ、というよりは状況についていけない戸惑い要素が強いが。

 

 

 

 

 そして考輝が避け続けるのにも限界がやってくる。

 むしろ彼の実力で本気の飛鳥の攻撃をここまで避けれたのは奇跡に近いだろう。

 

 

「くっ!」

 

 避けるのに必死になっていたため足元の確認が疎かになり、先程切り伏せた賊の一人に躓き、後ろ向きにこける。

 そのまま頭から地面に落ちていくがそこにはさっき賊に向かって投げた石があった。そして考輝は後頭部を石で強く打ち、気を失った。

 

 

 

「って、やべえ!? やっちまった! おい考輝、しっかりしろ!」

 

 流石に正気を取り戻した飛鳥が彼に馬乗りになり身体をゆさゆさと揺らす。

 しかし反応がない。良く見ると白目まで向いている。

 

 

「ま、本気でヤバイぞ、これ! お、おい、あんた! この辺りに医者はいないか?」

 

 流石にマズイとは思い、飛鳥は近くにいた少女に尋ねる。その声は焦りからかかなり早口になっていた。

 

「は、はいなの!それなら沙和達の村に――」

 

「ん?」

 

 途中で少女の言葉が止まり、飛鳥の後ろの一点を見つめる。

 

 それに釣られて玄鳥が後ろを振り向く。

 

 

 

 

「まさかお主達がそのような間柄だったとは……。しかしお主も水臭い。言ってくれれば我らも空気を読んで消えたというのに」

 

 そこにはニヤニヤした顔の趙雲と。

 

「…………邪魔だった? ……」

 

 何時もと変わらない様子の呂布と。

 

「しかし時間と場所は弁えるべきだ。ここには少女達もいる事だし教育上良くない」

 

 冷静な顔をしながらも、少し顔が頬が赤くなっている高順がいた。

 

 

 

 

 三人の言葉に飛鳥は今の自分の姿と状況と考輝の状況を冷静に考える。

 半裸の考輝に半裸の飛鳥が馬乗りなり体を揺すっている。おまけに恥ずかしい思いをした後なので、飛鳥の顔も真っ赤だ。

 

 

 ――これ、俺が襲ってるみたいじゃね?

 

 その考えに至った途端、飛鳥の全身から冷や汗が溢れ出始める。

 

「いや、ちょっ、これは誤解だ!」

 

「ほう、何が誤解なのだ?」

 

「いや、それは……」

 

 飛鳥は必死に弁解するが趙雲では相手が悪すぎる。

 何を言っても直ぐに返され、結局は弄られてしまうだろう。

 

「もう、誰か助けてくれーー!」

 

 虚空に向かって飛鳥は叫んだ。

 

 

 

 

 なお今回の事で宴会の度に飛鳥が皆から弄られるのはまた別の話しである。




本編には出ていない、張遼、高順、張楊のステータスです。


張遼

統:93 武:92 知:78 政:58
剣:B 槍:S 戟:S 弓:B 騎馬:S 兵器:B 水軍:C
特技:神速(部隊の機動力が上がり、相手の士気を下げる)


高順

統:85 武:88 知:55 政:46
剣:S 槍:A 戟:C 弓:A 騎馬:S 兵器:S 水軍:C
特技:攻城(城や拠点や陣への攻撃が強力になる)


張楊

統:72 武:70 知:74 政:75
剣:B 槍:C 戟:B 弓:A 騎馬:A 兵器:C 水軍:C
特技:防諜(密偵を発見しやすい。流言が収まりやすくなる)
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