トータル・イクリプス Cold of united front【凍結】 作:ignorance
待っていてくれた人がいるのならすいませんでした!
「ジャール大隊を預かるフィカーツィア・ラトロワ中佐だ。演習期間中、諸君らを護衛させていただく。たっぷりと地獄を満喫していくがいい」
イムヤは教場の真ん中で簡単な自己紹介をする彼女に口元を隠しながらほくそ笑んでいたが、目は笑っていなかった。
ソ連もハイヴを抱えており前線であることには違いなく、光線級が確認されていないことだけが演習にもってこいのこの場所ではあったがそれがいつ覆されるかわからないため、イムヤはあまり気乗りではなかった。
特にBETAに攻め込まれた場合、一番槍を任されるのは彼女の部隊で、ほとんどが少年兵であるため、年喰いの自分が守られるというのも気に入らなかった。
そんなことを尻目にラトロワは背後の大型スクリーンモニターをレーザーポインタで指し示し、なんの前触れもなく本題に入った。
「これが諸君らの実験場となる戦域だ」
カムチャツカ半島の概略地図と部隊配置、大まかな戦域区分けが書かれていた。がスコーレスト小隊の部隊配置だけが書かれていなかった。
(大尉、我々だけ省かれているようですが)
(元々、ここに来る予定がなかったからな。だからズレが生じたんだろう)
アレクサの耳打ちに独り言のように応える。
「諸君らは実に運が良い。幸いにもカムチャツカは今、周期的な大規模侵攻頻発期に入っている。実戦形式の試験はやりたい放題、というわけだ」
ラトロワの口調が変化したのと同時にイムヤの目つきも変わる。今までののうのうとした雰囲気から即座に衛士としての雰囲気に切り替わる。
「では次に作戦の概要に移る。第一段階は水上艦による爆雷攻撃だ」
ラトロワの背景が変わる。
「第二段階では上陸地点に対し、海上艦艇、地上支援砲撃部隊、航空爆撃による面制圧を行う。この海岸線を第一防衛ラインとする」
イムヤはカムチャツカの戦線が現在でも保たれている最大の要因を即座に理解したが光線級と幾多と戦ってきた彼にとってはそこまで重要ではないと判断された。
「第三段階はそれをかいくぐった敵個体を機甲部隊と戦闘ヘリ部隊の直接打撃にて駆逐する。この時の機甲部隊初期配置位置を結んだ線を、第二防衛ラインとする」
作戦地形図の海岸線から約10キロメートル内陸に赤いラインが引かれ、点滅した。
「そして第四段階。万が一混戦になればいよいよ戦術機部隊の出番となる。この時の初期配置位置が第三防衛線だ。ここまではセオリー通りだが…振動探知など、総合的に残敵が一定数を下回ったと判断された段階で大規模のBETA群を第二防衛ラインまで引き込む。諸君らはそれを使って存分に実験するといい。…」
(子供でも出来る簡単な任務だな。まぁ、セオリー通りにいかないのがBETAだからな。警戒は厳にしておくか)
おそらく彼女も同じことを考えているだろうとイムヤは思った。
「それと、スコーレスト小隊。貴官らの戦域区分けをしておきたいのだが…どこがいい?」
「そうですね。我が小隊は近接戦闘を主として部隊が成り立っているので、アルゴス小隊とイーダル小隊の間くらいに配置してもらえるとありがたいですね」
不似合いな敬語を使いながら淡々と答えていくイムヤ。おそらく長い付き合いの彼女からしてみれば笑いのネタにはなるだろうが他の小隊の前ではそんなことはなく、表情を変えずにスクリーンにマーカーを配置する。
「この辺りでいいか?」
「はい。問題ありません」
軽いやり取りが終わり、ラトロワは各小隊を睨むように見た。
「では最後に我々が貴様らに望むのは、第一次派遣部隊におけるドゥーマ小隊の轍を踏まないよう、注意する事だけだ」
演壇を降りたラトロワにサンダークが慌てて敬礼の号令を掛けると、ラトロワはそれを制して退場した。
他の小隊が退出した教場でスコーレスト小隊はミーティング兼ブリーフィングを行っていた。
「ドゥーマ小隊ね…。どうなったんだっけ?アレ」
「開発衛士全員が戦争神経症になったので更迭されたとききましたが?」
「神経症ってこたぁ、実戦経験無しの衛士を使ってたのか。そりゃ、なって当然だな」
「大尉。戦域区分けの配置に何か意味があるの?」
「アルゴス小隊は
「はいはーい。大尉さんはその情報をどこで手に入れたんですか?」
「昔のツテ」
3人の質問にトントン拍子で答えていく。
「さて、こんなところだな。実戦試験は明日だ、今日は無理せず休むように。以上」
イムヤの一言でブリーフィングは終了した。