トータル・イクリプス Cold of united front【凍結】   作:ignorance

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stage 22

「来たか。それも予定よりも数段速い」

 

近くのBETAを駆逐したジュラーブリクに囲まれている不知夜のセンサーが不知火を捉えていた。

 

「アルゴス小隊、ユウヤ・ブリッジス少尉だな。貴官らの上官、篁中尉を保護している。受け渡しが終わり次第、この場から撤退しろ。いいな?」

 

一方的とも言える要求に通信から舌打ちくらい聞こえそうなものだったがそんなことはなく冷静な返答が返ってきた。

 

『こちらアルゴス小隊のユウヤ・ブリッジス少尉だ。篁中尉の保護、感謝している』

 

少し距離をおいたところにXFJ-01とF-15Eが降り立つ。銃口を向けようとするジュラーブリクを静止させて、不知火に近づく。

受け渡しが可能な距離までつくと管制ユニットを展開し、唯依と99式を渡した。

 

「大尉!…」

 

「そこまでだ、中尉。ここからは俺とジャール大隊の持ち場だ。頼んだぞ!ミラ・ブリッジスの息子、ユウヤ・ブリッジス!」

 

「なんで…あんた、母さんの名前を…!?」

 

「知りたけりゃ、是が非でも生き残れ。死んだらなんにも残らねぇからな」

 

管制ユニットを収納し、2機が飛び立つ。

それと交差するようにSu-37M2と1個小隊のSu-27SMが到着する。

 

『何を話していたんだ?スコーレスト01』

 

「別に深くは話してねぇよ。ただ、ああ言っとけば死にはしねぇだろうな」

 

『そうか。…ところで貴様の勘は当たるようだ。どうする?』

 

「簡単なことだろ。巻き込まれないように退避するだけだ」

 

即座にラトロワから指揮がはいる。

基地周辺から離脱し、爆撃に巻き込まれないように退避する。

退避が完了すると同時に爆撃が開始される。

爆撃により基地周辺にいるBETAが殲滅されそうになったとき、地上から爆撃機に向けて幾多の光線が走った。

 

『まさか…!?』

 

「あぁ。そのまさかだ。…光線級だ!」

 

二人のオープン会話が終わる前に爆撃機は全て墜されていた。

 

「退避信号を出さずに爆撃されるのもアレだが光線級が出たとなりゃ話は別だな。どうするよ、ジャール01」

 

『仕方あるまい。ジャール01より大隊各機へ通達。これより我が隊はソ連で初となる光線級吶喊(レーザーヤークト)を仕掛ける。殿は私が務める。ジャール19を先頭に各機先行せよ。行け!』

 

『『『了解!』』』

 

各方面に分かれていた大隊のマーカーが一点に集まっていくのを確認しながらイムヤは次の作業に移った。

USBメモリを差し込み、マーカーデータを弄くり、

〈Skorost01〉から〈Unknown〉へと切り替えた。

それについでIFFを書き換え、大隊から攻撃を受けないように仕向けた。

 

『…スコーレスト01、何をしている?』

 

「ジャール01、ここにスコーレスト01はいない。正体不明の友軍機が援護しているだけ、いいね?」

 

『全く…。昔と何ら変わらんな、貴様は。それでなんと呼べばいい?』

 

「シトゥイーク01とでも」

 

『そうか。!、後方からこの基地に接近する機体だと!?今更、放棄されたこの基地になんのようだ?』

 

戦域図には基地に接近するアンノウンマーカーは単機。イムヤとラトロワは互いの機体を遮蔽物の中に潜めた。

 

(さてと敵さんは接近戦をお好みかな。BETA相手とは言え、射撃をしないのは些か無謀というか、それとも…ただの決闘主義者(バカ)か。けどまぁ、付き合ってやりますかな)

 

不知夜(いざよい)の背部兵装担架が展開し、マニピュレータが74式長刀を掴む。Su-37M2(ラトロワ)も両腕のモータブレードを展開しつつ、狙撃の体勢に入っていた。

未確認機が誘導路(タクシーウェイ)に入ったと同時に不知夜が突撃した。

互いの獲物が交差し、距離を取る。一瞬の間が空き、再び斬り結ぶ。今度は立ち位置が反転し、距離を開ける。

一時の静寂。互いの相手を屠る為に一瞬のスキを見定めるこの時間を別の音が切り裂いた。

距離にして約300メートル。轟音とともに放たれた弾丸(ソレ)は確実に未確認機(アンノウン)を捉えていた。

…はずだった。未確認機は少しの動作で回避した。

即座に2発目が放たれた。

だがソレは、場を制圧できる弾丸ではなく面向かい合う相手を討つ長刀だった。

弾丸を回避した未確認機にとってその一瞬は致命的だった。側面から撃たれたことに意識を向けたが為に面向かう的に距離を詰められた。

寸でのところで長刀を左腕のモーターブレードで弾くが、その左腕を不知夜の右腕に搭載されているカーボンブレードが切り裂いた。

2撃目を回避しようと後方に跳んだのは悪手だった。

弾いた74式を持った青い機体(チェルミナートル)が背後に迫っていた。

着地と同時に跳ぶが斜めに振り下ろされた長刀は右側の跳躍ユニットと主脚を切り裂いた。

未確認機はバランスの取れない状態ながらも2機から距離を取り、撤退していった。

 

「…案外どうにかなるもんなんだな」

 

『全く貴様は。いきなり突撃するなど誤射でもしたらどうするつもりだったのだ』

 

「どうにかなったんだから儲けもんだろ。しくじってたら俺たち二人はお陀仏さ」

 

『やれやれ。これからどうする?シトゥイーク01』

 

「願望を言えばこの後まで手伝ってやりたいんだが撤退させちまったからな」

 

『いや、ここまでくれば十分だ。即座に部隊に帰隊しろ』

 

「そうか、レーザーヤークトが終わり次第、このポイント地点に行け。少なからず匿ってくれるはずだ」

 

『全く貴様は…。どこまで手回しがすんでいるんだ?』

 

「さあな。俺にもわかんねぇや。またな、ラトロワ」

 

『ああ。いつかまた会おう、イムヤ』

 

モノクロの機体と青い機体は互いに背を向け、元いる場所に帰っていった。


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