ロクでなし魔術講師とキツネの呪術師   作:モフモフ毛玉

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魔術競技祭 当日

一週間の練習期間があっという間に過ぎさり、魔術競技祭は当日を迎えた。

魔術競技祭は例年、魔術学院の敷地北東部にある魔術競技場で主に行われている。

その闘技場内部では―――

 

『おおっと!ここで二組が大逆転!またしても予想外の展開だ!グレン先生率いる二組の快進撃は一体どこまで続くのでしょうか―――ッ!?』

 

拡声音響の魔術によって、実況席にいる実況解説の生徒―――アースの声が響いてた。

 

今行われているのは『飛行競争』だ。

この競技にはカイとロッドが出場しており、今年は例年よりも長い距離を飛行している。

グレンは二人に対して速度ではなくペース配分を重視するよう指示を出し、二人もその指示を守って競技へと挑んだ。

結果、他の生徒が首位争いの終盤でペースが落ちていく中、二人は速度を落とさずに駆け抜ける事ができた。

 

『飛行競争』以外でも一位にはならずとも、二位か三位といった好成績を納め続けている。

二組は全員参加の為ペース配分を考えずに全力で挑めるのに対し、力を温存しなればならない使い回し組は全力で挑めないため、どうしても加減して挑まなければならないのも二組が好成績を収めている要因の一つだろう。

 

そんな快進撃に一番驚いていたのはこの快進撃の立役者であるグレンだった。

 

本人からしたらこうすればいいんじゃね?程度のアドバイスで予想を越える結果に呆然としている。

そんな自身の株がドンドン上がっていく光景にグサグサと心に刺さりながらも生徒たちの活躍を見守るグレン。

 

そしてそんなグレンを見ながら1人猫と戯れるコハク。

 

そしてコハクの出る種目である『使い魔使役』が回って来た。

 

「行ってきま〜す」

 

「おう!頑張れ!」

 

「無理すんなよ!」

 

「頑張ってね、コハク君」

 

生徒達の声を背に会場へと飛び降りた。

 

『おおっと!?会場に飛び込んだのは出場選手であるコハクだぁぁ!』

 

飛び入りして来た事に他の組の生徒からブーイングが飛ぶ…が、すぐに鎮まる

 

グルルル…

 

獣の鳴き声がしたからだ

 

学院教師が巨大な檻を引きながらやって来た。

 

中には巨大なツノに鋭利な爪…そして血走った目を辺りに向けている。

 

「……おいおい、ワイバーンとかやべーもん出してるじゃねぇか…」

 

ワイバーン、最強と謳われるドラゴンの中で強さが一番下のドラゴンでる。しかしそれでもドラゴンではある為、普通の魔術師や騎士では鱗に傷すら付けられず、使い魔にしようとしてもまず懐く事はない…と言われている。ワイバーンを使い魔にした者は大成すると言われており、実際セリカは服従させていた。

 

『さぁ、このワイバーンを服従させる事が出来る者は居るのかー!』

 

他の出場者も集まった…しかし、ワイバーンの迫力に怯えて使い魔の術を使えるようには思えない

 

「ふん…所詮これは捨て試合だ…」

 

ハーレイはそう吐き捨てて見るのをやめる

 

『それでは使い魔使役、始め!』

 

そう言うと同時にワイバーンは雄叫びを上げた

 

『グルァァァ!』

 

ワイバーンの雄叫びで生徒達は腰が抜けて座り込む

 

そんな他の生徒を尻目に、コハクは檻の中ワイバーンへと歩み寄る。

 

そしてワイバーンの目の前までやって来る。

 

『グルルル…』

 

ワイバーンは威嚇する

 

そんな事などお構いなしに、コハクは使い魔の術を唱えた

 

「《強き者よ・我に服従せよ》」

 

そう唱える刹那、コハクの周りの景色が歪んだ。

 

殆どの生徒が気付かない中

 

「アイツ…」

 

「「ん…?」」

 

「どうしたの?ルミア、システィーナ?」

 

「ううん…気のせい…かな?」

 

「そうよね…」

 

ルミアとシスティーナ、そしてグレンが気付けた。

 

「……あら、こんな所にあったのね」

 

「どうかしましたの?」

 

「いえ、お気にならさず…女王陛下…ホコリがあっただけですわ」

 

そして…もう一人気付く者が居た。

 

コハクがそう唱えるとワイバーンは徐々に頭を下げ始め、平伏した。

 

「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」

 

割れんばかりの歓声が会場に響く

 

『な、なんと!?ワイバーンを服従させたぁぁぁ!一体彼は何者なんだぁぁぁ!?』

 

騒ぎ始める観客席を見て、コハクやれやれと面に触れながら戻って行った。

 

その後もウェンディが出場する『暗号早解き』、ルミアが出場した『精神防御』も一位を獲り、午前の部は総合二位で終わった。

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――魔術競技場の観客席を通う通路の一角にて。

黒を基調とした揃いの礼服に身を包む、十代半ばの青髪の少女と二十歳ほどの藍色がかかった黒髪の青年がいた。

 

 

「―――グレン、だな」

 

「……ん」

 

 

その二人の男女はたった今、『精神防御』が終わり、中央競技フィールド上で、二人の少女に挟まれて何か言い合いをしている青年―――グレンに視線を注いでいた。

その青年―――アルベルトは鷹のように鋭い目をグレンに送る

そんなアルベルトを尻目に青髪の少女は無言のまま、中央のフィールドに向かって歩き始めるも―――

 

「……?」

 

途中で自らその足を止め、コハクへと目線を向けた

 

「?どうしたリィエル?」

 

少女―――リィエルの後ろ髪を掴んで止めようとしていたアルベルトは、自ら止まったリィエルに疑問をぶつけるる

 

「あの人、グレンの…敵…」

 

そう言って壁に手を置き…

 

「…待て」

 

そう言ってアルベルトは後ろ髪を引っ張る

 

「痛い、やめてアルベルト」

 

「何をするつもりだ?」

 

「あの人は…グレンの敵になる…決着をつける為にも…排除する」

 

そう言って大剣を持ち、進もうとして

 

「駄目だ」

 

アルベルトに後ろ髪を引っ張られる

 

「なら先にグレンと決着を付ける…」

 

「それも駄目だ」

 

「どうして?」

 

「今回…俺達の任務は二つ…そのうちの一つは女王閣下の護衛を務める王宮親衛隊の監視だ」

 

「分かった」

 

うむ、と納得した顔でリィエルは

 

「任務の為にあの人を倒す」

 

「駄目だ」

 

また後ろ髪を引っ張られる

 

そしてしばらくの間、リィエルはアルベルトに任務の説明を正座して受ける事になった

 


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