「はぁ……ったく、酷い目に遭ったぜ……」
女子達の魔術でボロボロにされ、更にコハクの呪いによりあちこちでこけたりした為、グレンの服はズタボロになっていた。彼を見た生徒がギョッとした目で見ているが、今のグレンにそれを気にする余裕は無い。
「しっかし、最近のガキどもは発育がいいな……一体何食ったらあんなにすくすく育つんだ?……一人発育不良な可愛そうな子が居たけど……まぁいいや、それよりもメシだメシ」
と本人に聞かれれば命を取られかねない恐ろしい台詞を呟きながら、グレンは魔術学院の食堂へ足を運んでいた。
「あれ、グレン居たんだね。僕はてっきりそのまま安らかに眠っていると思ってたよ」
「馬鹿野郎、寝てたらメシが食えないだろ!?それよりもお前、俺にかけた呪いはいつまで続くんだよ」
「グレンが改心するまで、……セリカに解いて貰おうとしても無駄だよ、セリカも知ってるからね」
「ちくしょー!こうなりゃやけ食いだやけ食い!地鶏の香草焼き、揚げ芋添え、ラルゴ羊のチーズとエリシャの新芽サラダ、キルア豆のトマトソース炒め、ポタージュスープ、ライ麦パン。全部大盛りで!」
「ほんと、痩せた体型なのに食べるよねぇ……その栄養素はどこで消費されているのやら…」
そう言うコハクのお盆にはグレンよりも大量の料理が乗っていた。
「うるせー、お前の方が俺よりも沢山食べるだろうが…お前のその食った分の栄養はどこに行くのか不思議でしょうがねぇよ」
「成長期だからね、しょうがないね」
「……身長伸びてねぇクセに…」
「……何か言ったかな?」
コハクが怒気の纏わせながらグレンに問う
「いいえなんでもございません!」
「なら、さっさと行こう…空いてる席は……システィーナ達の所しか空いてないね…」
「ちっ、しょうがねぇか…」
「舌打ちしない」
コハクはウキウキしながら、グレンは嫌そうにしながら、システィーナ達の席へ歩いて行った
「そもそも『メルガリウスの天空城』は––––」
「失礼」
グレンは一応、一言断って、金髪の少女、ルミアの正面、銀髪の少女システィーナの対角線上の席に座った。
「ごめんねー、空いてる席が無いからグレン先生と一緒にここに座ってもいいかな?」
コハクはルミアの隣の席へ座った
「––––なっ、あ、貴方は!」
「違います〜、人違いです〜」
システィーナを完全にスルーしてグレンは食事を始めた
「美味え……やっぱこの大雑把な感じが実に帝国式って感じだなぁ……」
しみじみと味わうグレン
「これもこれで美味しいけどさ、僕としてはもう少し薄味でもいいんだけど」
お面を外さずに口元だけ見えるようにお面をずらし、食事をするコハク
「お前は東の島国の連中と同じ味覚センスなのかよ…それより、食事の時くらいお面外せよ」
「嫌だ」
「お前ホントにソレ付けっ放しだよなぁ…」
「あの……グレン先生とコハク君っていっぱい食べるんですね」
とルミアがグレンとコハクに問う
「そりゃな?食事は俺にとって数少ない娯楽の一つさ、コハクは……自分の身長が伸びないのを気にして……いったぁ!?」
机の下でグレンの脛を蹴ったのだろう、コハクは少しだけ椅子にもたれ掛かっていた。
「うるさい…」
「おま……脛を蹴るなよ!?イテェだろ!?」
「食事中なんだから静かにしてよ」
正論である。
「グレン先生とコハク君って知り合いなんですか?」
「知り合いっていうか……居候だな」
「そうなんですか…」
「ところで、そっちのお前、そんなんで足りるのか?」
そうグレンに問いかけられたシスティーナは一瞬動揺したが、すぐに平静を取り戻して、きつめな言葉で答えた
「食事に関して先生から文句を言われる筋合いはないと思いますけど」
「とは言ってもな、お前成長期だろ?食わないと育たないぞ?」
「余計なお世話です。私は午後の授業が眠くならないように昼は少なめに食べているだけです。真面目ですから。まぁ先生には関係ないですよね」
そういいながらシスティーナはグレンの前に並んだ料理を一瞥した。
「ねぇ、その言い文句だと僕も午後眠くなるにもかかわらず食べてる子になっちゃうんだけど?」
「あっ……えっと……その…」
コハクの指摘に狼狽えるシスティーナ。
「そ、それは成長期だからよ!直ぐにエネルギーを補給しなきゃいけないから当然よ!」
「それだとシスティーナも食べないと頭回らないよ?」
「わっ、私はこれだけで足りるもの!」
「えぇ……パッと見ても野菜がたくさんだし……炭水化物を摂取しないと頭回らないよ?」
「たんすいかぶつ?何よそれ?」
「うーん、簡単に説明するとね、パンや東の島国にあるお米に含まれる脳を働かせる為のエネルギーだね」
「そ、それじゃあ、パンを食べるわ…」
そう言ってシスティーナは立ち上がりカウンターへと向かった。
「そうそう、パンを食べると頭の回転がすぐに早くなるんだよ、お米に比べて脳への補給が早いから」
そうコハクが言うと周りの生徒たちが立ち上がり我先にとパンを買う為に群がった。
「……余計な事言っちゃったかな?」
その後一週間のグレンの授業は日に日にずさんになっていった。そしてコハクのグレンに対する説教も日に日にグレードアップしていった。
最初は一応教科書の内容を説明し、要点を黒板に書き上げ、授業のような感じにはなっていた。
しかしそれが面倒臭くなったのか、教科書の内容を丸写しで黒板に書くようになり、それが面倒だと思ったのか教科書から授業のページの部分だけ破り取り黒板に貼り付け、そして等々それさえ面倒になったのか、遂には黒板に釘で教科書を打ち付け始めた時、システィーナの怒りが頂点に達した。コハクは説教に疲れて寝て居た。
「いい加減にしてください!」
「ん?だから、お望み通りいい加減にやってるだろ?」
「子供みたいな屁理屈を言わないでください!」
「まぁまぁ、そうやってカッカッするな、白髪が増えるぞ?」
「だ、誰が怒らせていると思ってるんですか!」
「ほら、そんなに怒るからその歳で白髪だらけになってるじゃないか、……可哀想に」
「これは白髪じゃなくて銀髪です!本当に哀れむような顔で見るな!ああ、もう!こんな事言いたくないですけど、先生が授業に対する態度を改めなければこちらにも考えがありますからね!?」
「ほう?どんなのだ?」
「私はこの学院にそれなりの影響力を持つ魔術の名門、フィーベル家の娘です。私がお父様に進言すれば貴方の進退を決することもできるでしょう」
「え……マジで?」
「マジです!本当はこんな手段に訴えたくありません!ですが貴方がこれ以上授業の態度を改めなければ–––」
そう言うシスティーナの手を取りグレンは笑顔で言った
「お父様によろしくとお伝えください」
「なっ!?」
「いやー、よかったよかった!これで一ヶ月もせずにやめられ……」
「なぁに言ってるのかなぁ?グレン先生ぇ?」
「おわぁ!?」
嬉々として喜ぶグレンの真後ろに立つコハク
「お、お前!びっくりさせるなよ!?」
「はぁ……まったく、ここはシスティーナさんには悪いけど」
そう言ってコハクは制服の袖から扇子を取り出し、グレンの頭に叩きつけた。
バチィン!
「いってぇぇぇ!?」
「グレン先生、流石に酷いので、決闘しましょ?」
「コハク君!?」
「ふっ、だがとこわ……いたぁ!?」
「決闘しましょ?」
「ちっ、わかったわかった!」
「グレン先生、僕が勝ったら真面目に授業して下さいね?」
「ふっ、それなら俺が勝ったら明日から俺に昼メシを奢れ」
「「「「最低だ!」」」」
「ふっ、なんとでも言え!」
「いーですよー、じゃ決闘しましょうか」
「ただし、使っていいのは【ショック・ボルト】の呪文のみだ、他の手段は全面禁止、いいな?」
「はいはい」
「じゃ、中庭に行くぞ」
アルザーノ魔術学院、中庭
コハクとグレンは睨み合っていた。そんな姿を見て女子生は隣の男子生徒……カッシュに問いた。
「ねぇ、どっちが勝つかな…」
「うーん、コハクに勝って欲しいけど、相手はアルフォネア教授イチ押しの奴だからなぁ……セシルはどう思う?」
講師と生徒の決闘、当然ながらグレンのクラスの生徒達が二人の囲み、噂を聞きつけてやってきた野次馬たちがそれを遠巻きに眺めていた。
「さて、いつでもいいぜ?」
「はいはい、じゃ行くよ〜」
余裕ぶるグレンに対してのんびりとした声で答えるコハク
「《雷精の紫電よ》」
そうコハクがグレンへ指を構えながら唱えると
「ぎゃぁぁ!?」
バチンッと電気が弾ける音と共にグレンは倒れた
「あれ?避けないの?」
コハクはそう呟いた
「あれ、これって……」
「コハクの勝ちだよな?」
クラスメイト達もあまり呆気ない終わり方に少々動揺していた。
「ふっふっふっ、これは、お前を試しただけだ…次が本番だぞ……!」
「あ、やっぱりか」
「ふっ、行くぜ!《雷精の紫電よ・紫電の衝撃を持って・打ち倒せ》!」
今度はグレンがコハクへ指を突きつけながら唱えるが
「よっ」
コハクは余裕で躱し
「《雷精の紫電よ》」
反撃した
「ぬわぁぁぁ!?……くっ、まだだ…」
今度は倒れ伏す事もなく再び立ち上がるグレン
「なぁ、決闘ってどっちかが倒れるまでだっけ?」
「さぁ…」
クラスメイト達も動揺していた。果たしてこれは決闘なのかと
「あれ?決闘ってどちらかが動かなくなるまで続けるものでしょ?」
「「「「何それ怖い!?」」」」
そう言うコハクに突っ込むクラスメイト達
「というか、グレン先生って三節詠唱しかしてないような……もしかして【ショック・ボルト】の一節詠唱が出来ないんですか?」
「ふ、ふはは、な、なんのことだか、わっ私にはサパーリ!?そもそも呪文を省略するなんて邪道だよね!先人に対する冒頭だよね!別に出来ないからそう言ってるわけじゃなくて!」
「「「「できないんだ……」」」」
「まぁ、僕の勝ちだしグレン先生明日から真面目に……」
「あれ?なんか約束したっけ?僕忘れちゃったなー?」
そう言うグレンにシスティーナは
「まさか、魔術師同士の約束を反故にする気なんですか!?」
「じゃ、間を取って授業の時くらい真面目にやりましょう?真面目にやれば僕の昼ごはんを少しだけ分けますから」
「「「決闘した意味ないじゃん!?」」」
「……というか何譲歩してるんですか!?コハク君!?」
「え〜、悔しいだろうし授業中くらいなら真面目でいいと思うよ?それに僕のお昼ご飯が犠牲になるだけだし」
「えっ…」
「ふっ、ならそれで行こう!それで手を打ってやる!」
「……負けたヤツが何言ってるんですか…」
「ふっ、今日はお前を勝たせる為に手を抜いてやったのだ!次はないぞ!ふはははーー!ぐはっ!?」
そう言い残し去って行くグレン
「なんなんだよ、あの講師」
「まさか、初等呪文の【ショック・ボルト】の一節詠唱すら出来ないなんてね」
「見苦しい人ですわね」
誰も彼もがグレンを酷評する中、コハクは思った
(うーん、魔術をトコトン嫌うグレンにはこれは逆にダメだったみたいだね〜、うーん、それじゃもう少し別のアプローチして見るか)