ロクでなし魔術講師とキツネの呪術師   作:モフモフ毛玉

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ロクでなし、本気を出す。キツネ、巻き込まれる。

その日、グレンは珍しく遅刻せずに教卓に立っていた。

 

「よし、じゃあ授業始まる前に……白猫!」

 

そう言ってビシッとシスティーナを指差すグレン

 

「な、なんですか!?人を動物みたいに!?私にはシスティーナって言う名前があります!白猫じゃありません!」

 

「うっさい、話を聞け。昨日の事でお前に言わなきゃならん事がある」

 

「な、何ですか!?昨日の続きですか!?魔術がろくでもないモノだと言うんですか!?」

 

昨日のように魔術を酷く言うのだろうと思っていたシスティーナは……次のグレンの行動を見て硬直する事になる。

 

「昨日は……すまんかった!」

 

そう言ってシスティーナの前で土下座するグレン。

 

「へ、え!?……ぐ、グレン先生!?」

 

困惑するシスティーナに土下座したグレンが頭を上げて言った。

 

「まぁ、その、なんだ……大事なもんは人それぞれだろ?俺は魔術が大っ嫌いだが……そのお前の事をどうこう言うのは、筋違いっつーか、やり過ぎたっつーか……その、なんだ……悪かった」

 

そんなグレンを見て生徒達は混乱した

 

「お、おい。グレン先生どうしたんだ?」

 

「お、俺が知るかよ!?」

 

そんな困惑の中、一人。コハクは腕を組み冷静にグレンを見つめた。

 

「あの捻くれたグレンがねぇ……」

 

「ふふっ…」

 

「どうかしたのルミア?」

 

「ううん、何でもない……それよりコハク君、聞きたい事があるんだけど……昨日の魔術実験室での出来事……知ってるでしょ?」

 

「……!?……いやぁ、なんの事かサッパリだよ。僕はそのまま帰ったからなぁ…」

 

「そっかぁ…コハク君が『そう言う』ならそうなんだろうね」

 

コハクに対して慈愛の目で見るルミアを見てコハクは思った

 

(いや、これバレてるバレてないの次元じゃない。勘付いてる……うへぇ…こりゃ面倒な事になって来たなぁ…)

 

そんな中、予鈴が鳴った。どうせ遅刻しなかっただけで黒板に自習と書き寝るのだろうと思っていた生徒達だったがその予想は裏切られる。

 

「じゃ、授業を始める……さてと、これが呪文学の教科書だっけ?」

 

そう言ってグレンは呪文の教科書を持つと

 

「そぉい!」

 

窓から全力でぶん投げた。投げ捨てられた教科書は哀れにも下に居た神経質そうなハゲ先生の頭に落ち、その先生が苦悶の表情を浮かべるのは別の話だ。

 

「さて、授業を始める前にお前らに一言言わせて貰おう」

 

そう言ってグレンは一呼吸置いて……言い放った。

 

「お前らって本当に馬鹿だよなぁ?」

 

嘲笑うように言い放った。

 

「「「なんだとコラァァァ!?」」」

 

キレる生徒達

 

「昨日までの十一日間のお前らの授業態度を見てて分かったよ、お前らって魔術の事なぁんにも分かっちゃいねーんだな。分かってたら呪文の共通語訳を教えろなんて間抜けな質問が出てくる訳ねーし、魔術の勉強と称して魔術式の取り書きやるなんて言うアホな真似する訳ねぇもんな?……なぁ?コハク?」

 

そう言ってコハクの方を見るグレン。そんなグレンに釣られて生徒達はコハクを見た。

 

「は?……何コレ?なんでみんな僕を見る訳?」

 

そんな中システィーナがコハクへ近づき

 

「ねぇ、コハク君、ちょっとノート見せて!」

 

そう言ってコハクのノートを取った。

 

「あっ、ちょっと!?」

 

「な、何コレ……!?」

 

そこには魔術の法陣が書かれており、その下には細かく法陣の説明が書かれており、自分達が見ていた教科書よりも分かりやすく書いてあり、そして自分達の知らない事が山のように書いてあった。

 

「……こ、これは…どう言う事?」

 

「あー……それはねー?適当に書いただけだよ。オーケー?」

 

「嘘でしょ?こんなに丁寧に説明してあって、しかも私達の知らない知識まで知ってる……適当に書いたなんて、見え透いた嘘じゃない」

 

「あっちゃー…バレたか。まぁ、そんなの知識にも満たないぞ?」

 

「どう言う事?」

 

「グレン先生の授業聞けばわかりまーす」

 

「……そう」

 

「つー訳だ、授業、始めるぞ〜」

 

「授業をすると言っても先生は【ショック・ボルト】の一節詠唱もできないじゃないですか。そんな三流魔術師に教わりたくありませんね」

 

そう誰かが言うと教室は静まり返り、あちらこちらからクスクスと侮蔑の笑い声が上がった。

 

「ま、それを言われると耳が痛い……残念ながら、俺は男に生まれたわりには魔力操作の感覚と、後、略式詠唱のセンスが致命的なまでに無くてね。学生時代は大分苦労したぜ。だがな、誰かはわからんが今、【ショック・ボルト】程度とか言ったヤツ。残念ながらお前馬鹿だわ。自分で証明してやんの」

 

教室中に苛立ちが蔓延した。

 

「まぁいい、今日はその件の【ショック・ボルト】の呪文について話そうか。お前らのレベルならこれでちょうど良いだろ」

 

「今さら【ショック・ボルト】なんて初等呪文の説明なんて……」

 

「やれやれ、【ショック・ボルト】なんて僕達はとっくの昔に究めてますよ?」

 

「はいはーい、これが、黒魔【ショック・ボルト】の呪文書でーす!ご覧下さい、なんか青春の恥ずかしい詩みたいな文章や数式や幾何学模様がルーン語でみっちりと書いてありますねー、これを魔術式って言いまーす!」

 

そんなグレンの説明に一人の生徒が

 

「それがどうしたって言うんですか?」

 

「お前ら、コイツの一節詠唱ができるんだから、基礎的な魔力操作や発声術、呼吸法やマナ・バイオリズ調節に精神制御、記憶術。魔術の基本技能は一通りできると前提するぞ?魔力容量も意識容量も魔術師として問題ない水準にあると仮定する。……てなわけで、この術式を完璧に暗記して、そして設定された呪文を唱えれば、あら不思議。魔術が発動しちゃいます。これが俗に言う『呪文を覚えた』って言うヤツだ」

 

そう説明するとグレンは誰もいない壁に向かって唱えた

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

グレンの指先から紫電が走り壁を叩いた。

 

相変わらずの三節詠唱に対して侮蔑の目線が集まるが、グレンはまったく気にしていなかった。たった今自分の唱えた呪文を黒板に書いた。

 

「さて、これが【ショック・ボルト】の基本的な詠唱呪文だ。魔力操作のセンスがあるヤツは《雷精の紫電よ》の一節で詠唱可能なのは……まぁご存知の通りだ。そんじゃあ問題だ」

 

そう言うとグレンは黒板に書いた呪文の節を次のように切った。

 

《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》

 

「さてと、これを唱えると何が起こる?当ててみな」

 

クラスは沈黙した。何が起こるか分からないから答えられないという沈黙ではなく、何故そんな事を聞くのか?という困惑による沈黙だ。

 

「詠唱条件は……そうだな。速度二十四、音程三階半、テンション五十、初期マナ・バイオリズムはニュートラル状態…まぁ最も基本的な唱え方で勘弁してやるよ。さぁ誰か分かる奴は居るか?」

 

沈黙は継続された。

 

「これは酷い、まさか全滅か?しゃーない…コハク!答えろ」

 

「えー……答えは右に曲がりまーす」

 

そう言うとグレンは黒板に書いた通り、唱える。すると本当に直線上に進んでいた紫電が急に右に曲がった。

 

「はい正解。じゃあこれは?」

 

そう言ってグレンは更にチョークで節を切った。

 

《雷・精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》

 

「更に射程が三分の一くらいになります」

 

これも言った通りになった。

 

「更に、こんな事すると…」

 

コハクは立ち上がり、黒板に書き込んだ。

 

《雷精よ・紫電 以て・撃ち倒せ》

 

「出力が物凄く落ちる」

 

そう言ってコハクは目の前の生徒に向かって呪文を唱えた。

だが、撃たれた生徒は何も感じなかったようで目を白黒させていた。

 

「まぁ、究めたって言うならこれくらいはできねぇとな?」

 

そう言ってドヤ顔でチョークを指でクルクル回すグレン。

 

「そもそもさ?お前ら、なんでこんな意味不明な本覚えて、変な言葉を口にしただけで不思議現象が起こるのか考えた事ある?」

 

「そっ、それは術式が世界の法則に干渉して––––」

 

メガネをかけた少年、ギイブルの発言をグレンは聞き逃さなかった。

 

「ほーら、そうやって言うんだろ?分かってる、じゃあそもそも魔術式ってなんだ?式ってのは人が理解できる、人の作った言葉や数式や記号の羅列だ。魔術式が仮に世界の法則に干渉するとして、なんでそんなもんが世界の法則に干渉できるんだ?おまけになんでそれを覚える必要がある?で、魔術式とは一見なんの関係のない呪文を唱えただけで魔術が起動するのはなんでだ?おかしいを思った事はないのか?ま、ねーんだろうな、それがこの世界の当たり前だからな」

 

相変わらず沈黙を続ける生徒達

 

「つーわけで、今日はお前らに【ショック・ボルト】の呪文を題材にした術式構造と呪文のド基礎を教えてやるよ。ま、興味ないヤツとか既に知ってるわーってヤツは寝てな」

 

真剣に聞こうとする生徒達を尻目にコハクは速攻で寝た。

 

(((お前は寝るんかい!?)))

 

グレンは生徒達に魔術の二第法則の一つ『等価対応の法則』の復習から始めた。大宇宙すなわち世界は、小宇宙すなわち人と等価に対応しているという古典的魔術理論である。

 

「占星術なんてまさに等価対応の賜物だよな? 。星の動きを観察して、運命を読む。つまり世界の影響が人に及ぼす影響を計算する術だ。魔術ってのはその逆なわけだ」

 

すると寝ていたコハクがむくりと起き上がり

 

「つまり魔術ってのは強力な自己暗示だよ」

 

そう言うと再び眠った。

 

(((いや、ずっと起きてろよ!?)))

 

「何?たかが言葉ごときに人の深層心理を変えるほどの力があるのが信じられないって?……たく、ああ言えばこう言う奴らだな……おい白猫」

 

「だから私は猫じゃありません!私にはシスティーナという名前が……」

 

「……愛してる、実はお前の事を一目見た時から惚れてたんだ」

 

「なっ!?えっ!?あ、ああ、貴方!?何を言って!?」

 

グレンに突然告白されて動揺するシスティーナ

 

「プッ……ククク…」

 

プルプルとうつ伏せになりながら震えるコハク。

 

「はーい、今白猫の顔が赤くなりましたねー?見事に言葉ごときが意識になんらかの影響を与えましたねー?比較的理性による制御のたやすい表面意識ですらこの有様な訳だから理性の効かない深層心理なんて……ぐわぁ!?ちょ、この馬鹿!?教科書投げんな!」

 

「馬鹿はアンタよ!この馬鹿馬鹿馬鹿ぁぁ!」

 

「愉悦」

 

起き上がりそんな事を言うコハク

 

(((コイツ最低だ!?)))

 

 

「……コハク君?」

 

そんなコハクは心なしか怖い目で見つめるルミア。

 

「……僕知らない」

 

「ねぇ?起きてよっか?」

 

再びふて寝しようとするのを怖い笑顔で止めるルミア

 

「……」

 

押し黙るコハク

 

「あーいてて……まぁ、核心を先に言っちまえばやっぱり文法と公式みたいなもんがあるんだよ。深層意識を自分の望む形に変革させる為のな」

 

そしてグレンは呪文とは深層意識に覚え込ませた術式を有効にするキーワードだと説明する。このキーワードを唱える事で、術式が深層意識を変革させる。

 

「まぁ、簡単に言っちまえば連想ゲームだ。例えばそこの白猫と聞けば白髪、と誰もが連想するように呪文と術式の関係も同じだ。ルーンで呪文を括ることで相互……痛ぇ!?ちょ、頼むから教科書投げないでぉぶはぁッ!?」

 

「プッ」

 

「コ・ハ・ク・く・ん?」

 

「……」

 

「要するに、呪文と術式に関する魔術則……文法と公式の算出方法こそが魔術師にとっては最重要なわけだ。あのにお前らと来たら、この部分を平気ですっ飛ばして書き取りだの翻訳だの、覚えることばっか優先しやがって。教科書も『細かい事はいいんだよ。とにかく覚えろ』と言わんばかりの理論だしな」

 

システィーナはコハクのノートの中身を思い出した。

 

「要するにだ。呪文や術式を分かりやすく翻訳して覚えやすくする事、それがお前らの受けて来た『分かりやすい授業』であり、ガリガリ書き取りして覚えること、これがお前らの『お勉強』だったんだろ?もうね、アホかと」

 

グレンは肩をすくめて、呆れ返ったように鼻を鳴らした。

 

「で、その問題の魔術文法と魔術公式だが……実は全部理解しようとしたら、寿命が足らん……いや、怒るな。こればっかりはマジだ」

 

「ここまで教えておいて説明しないんですか?」

 

「だーかーらー!ド基礎を教えるって言っただろ?これ知らなきゃより上位の文法公式は理解不可能、まぁ算数の公式と同じだ。最初の基礎知識が無けりゃ後の公式なんて理解出来ないだろ?まぁ、俺の教える事が理解出来れば……んーと」

 

そう言うとグレンは考え込み。

 

「《まぁ・とにかく・痺れろ》」

 

三節のルーンで変な呪文を唱えた、すると【ショック・ボルト】の魔術が起動した。

 

「あら?威力が思ったより弱いな……まぁいい、こんか感じに即興でこの程度の呪文なら改変することができるようになるか?大抵精度が落ちるからお勧めしないが……じゃこれからいよいよ基本的な文法と公式を解説すんぞ。ま、興味ないヤツは寝てな。正直マジで退屈な授業だから」

 

コハクはまた寝た。

 

(((授業受ける気あるのかお前!?)))

 

 

「ま、【ショック・ボルト】の術式と呪文に関してはこんな所だ。何か質問は?」

 

「……無いな、今日俺の話したことが多少でも理解できるなら、呪文を三節から一節に切り詰めるのがどれだけ危険極まりない物だったかよく分かるはずだ。確かに魔力操作のセンスさえあれば実践するのは難しい訳じゃない。だが、詠唱事故による暴発の危険性は最低限理解しておけ。軽々しく簡単なんて口にするな。舐めてるといつか事故って死ぬぞ」

 

そう言うグレンの表情は真剣そのものだった。

 

「最後にここが一番重要なんだが、説明の通り魔力の消費効率で言うなら一節詠唱は三節詠唱に絶対勝てん。だから無駄のない魔力行使という観点なら三節詠唱がベストだ。別に俺が一節詠唱が出来ないから言ってるんじゃないぞ?本当だからな?」

 

(やっぱり悔しいんだ…)

 

この時コハクを除く全ての生徒の心の声は一致した。

 

「とにかくだ、お前らはただ魔術が得意な『魔術使い』に過ぎん、将来、『魔術師』を名乗りたいのなら自分に何が足りないのかよく考えるんだな。まぁお勧めはしねぇよ、こんな下らない事に時間費やすなら他によっぽど有意義な事に使えるはずだしな……さて…」

 

そう言っ懐から懐中時計を取り出し見たグレンは呻き声を上げた。

 

「うげぇ……時間過ぎてたのかよ…超過労働分の給料は申請すればもらえるのかねぇ?まぁ、いいや。今日は終わり。じゃーな」

 

愚痴を零しながらグレンは教室から出ていく。

 

「なんてこと……やられたわ、まさかあいつにこんな授業が出来るなんて……」

 

そう言いながら顔を手で覆ってため息をつくシスティーナ

 

「そうだね、私も驚いちゃった」

 

「悔しいけど、認めたくないけど……あいつは人間として最低だけど……魔術講師としては本当に凄いヤツだわ……人間としては最低だけど」

 

「あ、あはは……二回言わなくても…」

 

「そりゃそうさ、グレンはぐーたらでクズな時の方が多いけど、やれば出来るヤツなんだし」

 

「コハク君?」

 

「まー、やっとやる気になってくれたみたいだし……そろそろのんびりしますかねぇ…」

 

そう言ってコハクはお面を少しだけズラしてため息をついた。

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