エターナルメロディ・悠久幻想曲SS集 恋と冒険と鉄骨と   作:レトロ騎士

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第九話 『GLOW OF LOVE』

「詳しい説明はちょっとはぶくけど、まあそんな感じでカイルの魔宝の権利があったおかげで私はこっちの世界にきたの。……来た、っていうか、こっちの世界にはじめからいたって感じだけど」

「そうか……カイルに感謝だな。あ、あれ? でもちょっとまって。じゃ、じゃあ俺のこっちの世界でのお前との記憶は? 幼馴染は実はレミットで……あれ? 子供のころから一緒だったよな」

 混乱しながらも、実のところ彼も「何故」ということの答えに気付き始めていた。

 頭で理解したのではなく、それはもう感覚的なものである。

 目の前のレミットは、幼馴染の少女と入れ替わったわけでも憑依されたのでもなく、記憶を改ざんされたのでもなく――「両方」が本物である、と。

 ふいに、レミットが軽く胸のボタンをはずし始めたのを見て、ドギマギしていると、「毎回勘違いすんなバカ」と顔を赤らめた少女から、何かを差し出される。

「これは……」

 それは、あのときに贈ったネックレスだった。

「うん、アンタが向こうでくれたネックレス。……そして、小さい頃、アンタがお祭りのときに買ってくれたものよ」

「……あ、確かにそんな記憶もあるけど……え?」

「そして、私からはアンタに王家のアミュレットをお返しに渡したけど――そのお祭りのネックレスのお礼に、私からも手作りのビーズのお守りをあげたの、覚えてない?」

 言われて思い出すのは、いつのまにか鞄に入っていたレミットからもらったあのアミュレットだ。その後、肌身離さず着けていたそれを胸ポケットからとりだす。

宝石に見えていたそれは、ビーズで縁取られた硝子玉で、そして――彼女からの思い出の品。

「ある……そうか、これ、俺はずっと前から持っていたんだな」

「ね? だから、どっちも本当の思い出なのよ。向こうでのことを思い出したのだって、こっちの世界に来たという記憶とそれまでのこっちでの私の記憶が混ざっちゃった感じだったし。……告白だって、レミット・マリエーナとしての記憶も想い出せたことがきっかけで決心したんだから」

 だんだんと、理解が追いついていく。

 つまり、レミットはこっちの世界ではじめからいて、もう一人の自分である「向こう」の記憶を思い出したようなものなのだ。

 どちらもが確かな自分だと、彼女ははっきりと自覚している。

 ただ、魔法の力が体にないせいなのか、すこしづつではあるが、「向こうの世界」の自分の感覚がどこか遠く感じることもある。

「……ね、こっちの世界に戻ってから、向こうの思い出が夢みたいに思えてたりしない? そして、向こうにいたときはその逆で、帰るべきこの世界がどこか儚く思えてなかった?」

「あ、ああ」

 そう、そうだ。

 最初は唐突な異世界に驚愕したが、慣れたと思ったときには魔法というファンタジーなものを自分で使うまでになっていた。そして、魔力を自覚してからは自分が魔法を使えるのが当然だとすら感じていた。

 そうなったとき、こんどは「魔法が使えない故郷の世界」が、まるで夢の世界のように現実感がなかったことを覚えている。

 大事そうに、ぎゅ、とネックレスを握り締めながら、レミットは青年の胸にその体を預けてよりかかる。

 ふわっと、少女の甘い匂いが青年の鼻腔をくすぐった。

「実際に夢を見るときもそうだけど、夢の中ではそれが現実であると疑わない。そして夢から覚めて、初めてそれが夢だと思える。多分だけど――あっちの世界は、こっちの世界の夢みたいなものだと思うの。そして――その逆でもあって」

 そこで一度言葉を切って。

 彼女は、言ってることがちゃんと伝わってるか確かめるように青年を見上げる。

「うん……なんとなくわかる。続けて。それにどうしてそう思った?」

「だって夢の中では、なんでも願いが叶うじゃない。だから、ね。きっと向こうでの願いはこっちで、こっちの願いは向こうで叶うんじゃないかなって」

「うん……」

「今は、私たちはこの世界にいるからこれが現実と認識してるけど、向こうからしたらこっちが夢。向こうにいるときは、その逆。多分、そういう関係なんだと思うの」

 言われてみると、自分の感覚にストン、と何かがはまる気がして、青年は無言で頷いた。

 だけれど。

 もしそうだとしたら、「どっち」が現実で、「どっち」が夢なのだろう。

 なんで、そんな世界が生まれ、関係しあったのだろう。

 それよりも、だとすれば、これは「誰」の夢なのだろうか。

 そんな風に考えた青年の思考になんとなく気づいたのか、レミットは言葉を続ける。

「そして、これは推測だけど、私かアンタは一度この世界でお互いのどちらかを失ったのよ。多分、私がアンタを。この工事現場の事故で」

「……え?」

 今、自分は確かに生きているが――あの鉄骨事故で、本当は死んでいた?

「私は、きっとそれで、『夢』を見た。アンタとまたバカやって暮らせる世界を。そんな世界があってほしいと願った」

 きゅう、と、青年の胸に自分を強く押し当てる。

 もう二度と、離さないと誓うように。

 

「その世界は、モンスターが居て、魔法があって、御伽噺のような世界。私はわがままな姫として生きていて、アンタは異世界から来たという、うさんくさい旅人で、わくわくどきどきの冒険に出るの。それはとても楽しい日々で――なのに、私は向こうでもアンタを失った。だから私は再びアンタと暮らせることを夢見て――」

 

 どっちが先かなんてわからない。

 どっちが本当の世界、なんていうことも意味がない。

 だから、どっちもが本当。どちらの世界も現実で、どちらの世界もその夢。

 そんな風にいうレミットの言葉の意味が、理屈ではなく感覚でしみこんでいく。

 そして、それが真実だということも。

 

 

「だから、私は向こうの世界から『また』やってきて」

 

 レミットが、胸元から顔を上げて、そっと手を青年の頬に沿わす。

 

「だから、オレはこの世界で、ずっとお前を探していて」

 

 青年がそれに応えて、同じように少女の頬に手を当てる。

 

「本当は、最初からずっと貴方が私のそばにいて」

 

 ゆっくりと、顔を青年に近づける。

 

「本当は、最初からずっと、おまえは俺のそばに居て」

 

 青年もそれにならい、二人のおでこがこつんとぶつかった。

 

 

『ただ、二人で幸せになりたいと望んで――』

 

 

 全てを代償にしてでも、青年に会いたいと願った少女。

 全てを失ったとしても、少女と共に居たいと望んだ青年。

 

 二人が共にいること。

 それが『二人』の見ている、優しい夢――

 

 引き寄せたのは、どちらからか。

 

 

 はじまりは、小さな接吻け。

 それは、二人が『こちら』でする始めての、微かな、触れ合うだけのもの。

 なんどもついばみ、確かめるように唇を這わせ、その柔らかさを感じ合う。

 徐々に熱が混じり、それだけでは足りなくなったのか奪い合うように二人は舌を絡めていく。

 優しく頬を撫であっていた互いの手が、いつしか強く結び合い、そして互いのぬくもりを求めて衣服の下の素肌へと伸ばされる。

 

 時折漏れる少女の吐息に、青年は愛おしさと同時に熱い猛りを感じながら、またその口を自分のそれで塞いだ。

 

 止まれなかった。

 

 今までの十数年間と、あの冒険での最初の一年と、もう一度くりかえした一年。

 すでに溢れそうになっていた、思慕。

 

 そして互いの想いを確認しあった今、止まれる理由などどこにもない。

 

 全てがこの時の為にあったような気がして――。

 

 

 きっと、向こうの世界での記憶は、こちらに居る限り時が経つにつれて曖昧になるかもしれない。

 それが夢のものだと思ってしまうかもしれない。

 

 でも、絶対に忘れない。

 自分が忘れそうになったらレミットが。

 レミットが忘れそうになったら、自分が。

 

 その世界のことを信じて語り合える大切な人が、隣に居る。

 

 

 それで、いい。

 

 

 そのことを、言葉には出さない。

 だけど、今、レミットもそう思ってくれていると、痛みすら嬉しさとして求めてくる彼女を見て、なんとなく思った。

 

 

 睦みあい、果て、そしてまた睦みあう。

 

 

 世界と時を越えて、初めて愛し合う二人を祝福するように――

 

 少女の胸元の宝石が、カーテンの隙間から差し込んでいた月の光を受けて、優しく輝いていた。

 




次でラスト。多分コミケ明けかな
なおタイトルはPS版OPより
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