俺はディアッカ。チャーハンはもう飽き飽きだ。
来る日も来る日もチャーハンチャーハン。そればっか作らされるのは、いい加減うんざりだぜ。
だから決めた。俺は和食を作る。
俺はディアッカ。
──板前だ。
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「へいらっしゃい! 今日はグゥレイトなネタが入ってるよ!」
俺はディアッカ。寿司屋の店主だ。
軍を退役して修業を始めた俺は、数年の時を経て店を持つにまで至った。
プラントに店を構えてるが、そこそこ繁盛してるぜ。
昔馴染みも来てくれるし、その中でも偉いヤツは特上ネタを頼んでいくから在庫を腐らせなくて済む。ありがてぇ。
開店した時は皆に宣伝を協力して貰ったっけな。あの時は助かったぜ。
今日はその内のひとり、イザークが来てくれた。
「はんっ、相変わらず狭い店だな。もっと広くしたらどうだ?」
「おいおい、土地代が馬鹿にならねぇっての。それに今のままが気に入ってんだよ」
「貧相な価値観だな。おい、いつものだ」
「はいはい。大トロマグロの特上にぎりセット頂きましたってね。イザークはマグロ好きだな」
「黙ってにぎれ」
素っ気ない態度に肩をすくめると、シャリを掬ってにぎる。
優しくふんわりと包み、だがしっかりとした絶妙な力加減で形を造る。
その上に特上の大トロを乗せ、ふたつをひとつへと逢わせる。
さも初めから一体だったかのように重なるふたつは、抱き逢う恋人のようだ。
もちろん、わさびも忘れていない。
舌を刺激的に踊らせるアレは、例えるなら音楽。
より盛り上がる味わいを引き出すには、必要不可欠だ。
セット分のネタを作り、イザークのテーブルへ置いた。
ツヤっツヤで新鮮なネタだ。今日も自信をもって送り出せる良い出来だぜ。
「OK! へいお待ちどう!」
「遅かったな、もう少しで帰るところだったぞ」
イザークの挑発的な視線を、確かな自信と余裕をもって真正面から受け止める。
そして瞳を閉じ、軽く手を振って催促をした。
「そう言うなって。食えっての。味わえよ」
「ふん、良いだろう」
そう言うイザークの視線は特上マグロに釘付けだ。
どっしりと構え、上質な脂を蓄えるコイツからは、ザフトの誇るエースでさえも片時も目が離せないらしい。
そして漆塗りの箸を手に取ると、上品にネタを挟んだ。
イザークも箸の使い方が上手くなったもんだ。
そのままネタを少量の醤油に浸けると、ゆっくり……この時間を噛みしめるように、口へと運ぶ。
入った。
「……くう……っ!」
──輝 く 光 が 照 ら し
イザークは大層満足して帰った。
さーて、次は誰が来るかな。