俺はディアッカ、板前だ。   作:オファニム

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供養供養


出前『得酢満』

 

 俺はディアッカ、今日は出前だ。

 

 ラクスから注文を受けてプラント評議会にまで来たぜ。

 中には議員のおっさん達とラクスがいた。キラとイザークもいるな。

 

「まいど! 出前だぜ!」

 

「ディアッカ!? 貴様なぜここに!」

 

 イザークが驚いてやがる。さてはラクスのヤツ、周知してなかったな?

 

 当のラクスは、のほほんと手を振っている。

 

「私が頼んだのです。さあ皆さん、お昼にしましょう?」

 

「はあっ? しかし議題はどうするのです!」

 

「そうだ、国の信頼を取り戻す案を──」

 

 おいおい、皆イライラしてやがるじゃねぇか。腹減ってるからか?

 じゃあ、板前として美味いもん食わせてやらないとな。

 

「お前ら、メシ食ってないんだろ? 待ってろよ、すぐにグゥレイトなネタにぎってやるからな」

 

 シャリの入った飯台を置いて、クーラーボックスから切り身を取り出す。

 次に寿司げたを取り出して、その他もろもろの準備も済ませた。

 

 ムラなく酢を混ぜたシャリを掬うと、優しく丁寧に包む。

 慈しみ、愛を込めて形にしていく。

 

 今日も調子良いぜ。

 

「呑気に寿司など食っている場合か! こうしている間にも国民はバラバラになっていっているのだぞ!」

 

「落ち着けってオッサン。寿司食え」

 

「何を! このままでは国が不安定に──」

 

 ネタを乗っけて出来た寿司をひとつ、寿司げたにそっと乗せる。

 

 そして新たにシャリを掬って、それを全員に見えるように手のひらに乗せた。

 

「……国民ってのは、シャリとよく似てるんだ」

 

「は?」

 

 そして俺はシャリを乗せた手を、飯台の上でゆっくり傾ける。

 シャリは崩れて落ちていった。

 

「掬っただけじゃ、てんでバラバラ。そんままだとボロボロ崩れてっちまう」

 

「…………」

 

 飯台に帰っていったシャリを眺めてから、俺はもう一度、シャリを掬って手に乗せる。

 そして、キュッとシャリをにぎってやった。

 

「でもな、しっかりにぎってやればちゃんと固まるんだ。お互いに繋がる力はあんだよ」

 

 俺はもう片方の手を突き出すと、全員に見えるように手のひらを開いた。

 

「お前ら国は、手だ。今はにぎりたての未熟な手かも知れねぇ。けど、それはこれから修行していきゃあ良い」

 

 そして、その手を固く握りしめる。

 同時に、形を整えたシャリを見せてやった。

 

「しっかり修行すりゃあ、ちゃんとシャリは応えてくれる。良い形で固まるんだ」

 

 オッサン達は何かに気づいたのか、ハッとした表情で俺に目を向けた。

 それに笑って応えつつ、特上のネタを手に取る。

 

「後は未来というネタを合わせてにぎってやれば、ハッピーだろ?」

 

 そして片目を閉じながら、ネタを合わせて寿司として完成させた。

 その寿司をまた寿司げたに乗せながら、オッサン達を見据えて言う。

 

「頑張れよ。俺もシャリの一粒として、お前らがにぎってくれるのを待ってるぜ」

 

 それだけ言うと、俺は黙々と人数分のネタをにぎっていった。

 

 程なくして、全てが完成する。

 どれもこれも良い脂が乗ってやがる。今日も良い出来だぜ。

 

 自信をもって、この場全ての議員に送り出す。

 そのどれもが、光り輝く俺の最高傑作だ。

 

「さあ、お待ちどうさん。最上級のにぎりを楽しみな」

 

 シャリはどれもが光を反射している。まんべんなく酢が通っている証拠だ。

 

 ネタはもちろんどれもが最上。

 プリっプリの海老に、しなだれかかって来るようなサーモン。

 荒い海で生き残った勇敢なマグロが不味いはずはない。

 

 この場にいる誰もが、ネタから目を離せないでいた。

 当然だぜ。このグゥレイトな寿司は誰であろうと必ず墜とす。

 

 ゴクリ

 

 そんな食欲に支配された音が、この室内で反響する。

 誰からともなく、箸を手に取り始めた。

 

 そして、思い思いのネタを持ち上げ……その口へと放り込んだ。

 

『……ッ、んぅッ──!』

 

 ──辿 り 着 く 場 所 さ え も 分 か ら な い

 

 

 

「あ、そういやついでにチャーハン作ってみたんだけど食ってけよ」

 

「あ、うん。……普通だね」

 

「うん、普通」

 

「普通に美味いな」

 

「普通」

 

 ……やっぱもうチャーハンは作らねえ。




たぶん続きません!

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