何もかも、あそこで間違えた。
結論から言おう。俺はソードアート・オンラインのプレイ中、累計14人の人間を殺害した。勿論比喩ではなく、実際に人は死んでいる。
始まりの街、ゲームマスター茅場晶彦によってVRMMORPGソードアート・オンラインは、紛れも無いデスゲームへと変貌し、一万人のプレイヤーを恐怖へと陥れた。
たくさんの人が死んだ、その中には俺の殺したプレイヤーもいただろう。
俺の守ろうとしたあの子も、その中の一人だ。
◇
──あぁ、そうだ。
あの始まりの日から俺は、文字通り死に物狂いでレベルを上げ続けた。不思議と苦にはならない、ゲームだからだろうか。俺は両手剣を振り続けた、三日三晩というのも比喩じゃない程に。
そんなある日のことだった。
アイテムストレージいっぱいのアイテムを街まで換金しに来た時だ、そのアイテム量に驚いたのだろうか一人のプレイヤーがパーティーを組まないかと誘ってきた。
「俺をパーティーに……?」
「はい! 一人より二人なら効率も上がって危険性も減るし、何より楽しいじゃないですか! それに階層が上がる事に状態異常を使う敵が増えますし、二人ならカバーもできます!」
……確かに、この階層から明らかに状態異常やダメージが増えた。武器を優先的に揃えてきたからか明らかに被ダメが増え、回復アイテムを使う機会が増えた。
デスゲームとなった今、効率よりも安全性を考慮するのはごもっともだ。いい機会だ、ここでコミュニティを築くのは悪い事ではないだろう。
「分かった、了承しよう。改めてよろしく、えーっと……」
「マーヤです! よろしくお願いします!」
片手剣と盾を持った女性プレイヤー、マーヤはにっこりと笑みを浮かべた。
「俺はトウマ、よろしく頼むよ」
俺達はこうして二人のパーティーを組むことになった。
パーティーを組んで数ヶ月がすぎた頃、連携もかなり取れるようになり、効率も最高潮となった頃だった。
階層も上がりかなり危険度が上がったが、二人ならまだカバーしあえるので特に不自由はしていない。だがもう一人メンバーが増えれば、という欲が出たのだろうか。俺らは迷宮区へ行くパーティーメンバーを募集していた。
「中々集まりませんね」
「当たり前だ、始まりの街で既にコミュニティは出来上がっていたんだ。既に決まったパーティーメンバーやギルド内で狩りをしていても不自然じゃない、ここに集まるのは俺らのような人数の少ないパーティーかソロプレイヤーだ」
「そうですかぁ……うーん」
実際に前線へ出ていたプレイヤーは極少数だった。殆どは始まりの街に留まっており、実際に攻略をしている攻略組は少ない様に感じた。
そんな中、あと一人パーティーメンバーを見つけるのは困難を極めるだろう。
「あと一時間! 一時間ねばって来なかったら仕方ありません、いつもの狩場へ行きましょう!」
「あぁそうだな、一時間で見つかれば良いが……」
俺は半ば諦めた様にストレージ内のアイテム確認をしていた。
「こうも上手く見つかるとはな……」
「ふふーん! 日頃の行いですよー!」
胸を逸らし自慢げに話す。特に善い行いはしていないはずだ、逆にこの前迷宮区で回復アイテムを忘れたと言って強引に俺から奪ったのを忘れてないぞ。
「ありがとぉございますー、いやぁーここら辺から敵が強くてねぇー」
新しくパーティーメンバーになったのは糸目で短剣を扱う男性プレイヤーガカだ。独特な喋り方で、こちらのペースを乱してくるマイペースなやつなんだろう。
「そうですね状態異常が地味に嫌らしくて……、ガカさんはよくここまでソロできましたね!」
「いやぁー実は前までパーティーを組んでたんですよぉ、でもちょっとドロップで揉めちゃってぇ……」
よくある事だ、ドロップ配分で揉めパーティーが解散するのは珍しくは無い。そういうのは予めルールを決めておくことが解決方法だ、俺らはドロップした人のモノというのがルールだ。
まぁ、マーヤの欲しいのがあれば無償で提供しているが。
「私達はドロップした人のモノって、ちゃんと決めてますから大丈夫ですよ!」
「そうですねぇ、ルールを予め決めておくのは大事ですねぇ」
そんな談笑をしながら俺達は迷宮区へ歩みを進めていく。
「……ッ」
俺達は気付かなかった。
いや、一人は気付いていたんだろう。
──隠密スキルの高い二人組が後を着けてきていた事を。
◇
間違えた。そうだあの時、間違えたんだ。
素直に迷宮区へ出かけていればッ!
パーティーメンバーを死なせる事は無かったんだッ!
マーヤの首にかけられた短剣が横に引かれる。
「──ごめん、ね」
彼女からガラスの割れる音と、青い拡散エフェクトが吹き出る。
違う!お前は悪くない!悪いのは俺だ、俺が守ってやれば良かったんだ!
マーヤが宿で寝た頃、時間を見計らって深夜帯に狩りを行なっていた。そのせいで、マーヤと俺のレベル差は7以上も離れていた。
そのことを俺は、アイツに隠していた。
素直に打ち明ければよかった!そうすればこんな事にはならなかった、狩りがキツいとマーヤが感じていたのは適正レベルによる問題だ、レベル差が開けば自然とパーティーは解散となる。
──だが俺は、この雰囲気がいつの間にか気に入っていた。
俺はこの世界に閉じこめられて一人になったような感覚に陥っていた。だが、パーティーを組むようになってからその孤独感は薄れて行った。
だが、レベル差の事を打ち明ければまたあの孤独に逆戻りになってしまう。それが嫌だったから、そんな俺の我儘が──殺してしまった。
俺が、彼女を殺してしまった。
その事実を一度認識してしまった俺は、呼吸が上手くできない、目の前が霞んでよく見れない、そして感情が──爆発した。
「ああ……あ、あああああああァァァ!!!」
ガタガタと身体が震える、忘れていたこの世界での死は現実での死。文字面では覚えていても、その恐怖は今鮮明に思い出す。
現実での死、ゲームオーバー。
じゃあ、目の前にいる三人組は何だ?
──人殺しだ。
この世界で初めてできた友達を殺した、人殺しだ。
呼吸の乱れが収まる、スッと視界がクリーンになる、感情が無くなる。
俺は次の瞬間、両手剣を振り下ろした。
「これで、正しいのか──?」
次は出ると思います……多分。