クラスはこれでもかというほど、重苦しい雰囲気に包まれていた。
教卓にいる山田先生すらどのように扱えばいいのかわからないみたいである。
原因は山田先生のすぐ隣に一人の少女が立っていた。
IS学園の制服を身に纏い、銀色の髪の少女。片目には黒い眼帯を装着している。
「挨拶をしろ。ラウラ」
「はい。教官。ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「・・・・・・あの・・・・それだけですか?」
名前を述べただけで何も言わないラウラに山田先生がおそるおそる尋ねる。彼女の纏う剣呑な雰囲気にたじたじだ。
「むっ・・・・キサマが」
その時、ラウラの視線が一夏を捉えると山田先生の言葉を無視してずかずかと進んでいき。
バシッと音が響く。
「いきなり殴りかかろうとするなんて酷くないか?」
ラウラの腕を掴んで一夏は尋ねる。
動きが読まれていたことにラウラは目を見開く。
だが、すぐに一夏の手を振り払い。
「私は認めん。お前が教官の弟であるなど」
「それは誰かに認められないといけないことか?」
言うだけいって去ろうとしたが一夏の質問に振り返る。
「なんだと?」
「俺は誰かに認められることで姉弟になるなんて思っていない。お互いがお互いの事を大切に思っているから姉妹なんだ」
「ふん、弱者がいうセリフだな」
「・・・・見た目だけで判断するなよ」
ラウラに対して真っ向からにらみ合う二人。
こほん!と千冬が咳き込んで二人に告げる。
「授業を始める。ラウラ。席に着け。織斑。それと後で話がある」
「わかりました」
「はい。教官」
そういって二人は席について授業が始まる。
といっても、一時間目は実習なので、全員がアリーナに集まっていた。
ただ、そこには普段いないであろう人がいた。
「橘さん!?なんでここに!」
そこにはサングラスをつけた橘朔也の姿があった。
普段いない男子、しかもイケメンにクラスの女子達(数人除く)は盛り上がっている。
橘さんはつかつかと一夏に近づいて。
「白式のデータの回収だ。白井が急用でこられなくてな・・・・一休みしたくてこっちに来た」
「・・・・あはは・・・・そ、そうですか」
「それと、お前に伝えておきたい事もあった」
「え?」
「あぁあああああああああああ、ど、どいてくださぁーーーーい!」
「あぶなっ!」
白式を展開して一夏は橘を抱えてその場所を離れようとしたがその飛んできた人物はそのまま橘に激突した。
「た、橘さん!?だ、大丈夫ですか!?」
生身の人間がISと激突したら大怪我になる。
一夏は橘が無事かどうか叫んだ。
「・・・・あぁ・・・・幸い怪我はない」
土煙の中橘の声が聞こえて、よかったと一夏は思った。
伊達にライダーとして戦っていたわけではない、きっとギリギリのところで避けたんだと考えた。
そして、土煙が晴れた時。一夏は思った。訂正、大丈夫ではない。
「あう・・・・あう・・・・・・」
何故なら橘朔也は地面に倒れていて、その上にISラファール・リヴァイブを纏った山田真耶が乗っかっている状態になっていた。
なのだが、橘さんの手の位置がかーなーり、マズイ。
橘さんの手は山田先生の豊満な胸を掴んでいた。
幸か不幸か、一夏が死角によって他の生徒からは見えなかった。
「む・・・・すまない、ギリギリのところで避けたつもりだったんだが、失敗してしまったようだ」
「わ、わ、わ、私のほうこそ、ISを纏っているのに、危うく生身の人とぶつかりかけるなんて、最低です」
「私は怪我をしていないのでそこまで気にしないで下さい。問題は次からです」
「・・・・はいぃ」
その後、山田先生VSセシリア&鈴音の模擬戦が行なわれることとなったのであるがすぐに撃墜される。
「うわっ・・・・山田先生強いんだな」
「射撃の腕は良いな・・・・ギャレンの訓練に使えるかもしれん」
「・・・・・え・・」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません(弾・・・・頑張れよ)」
一夏はここに居ない戦友の安全と願う事しかできない。
「ところで、織斑」
「はい、なんですか?」
「生徒達の指導をしてやらなくていいのか?他の代表候補生は動いているが?」
「え、わっ、出遅れた!」
一夏は慌てて自分の班の人のために打鉄を取りに行く。
凰鈴音は少し機嫌が悪い。
先ほどの模擬戦でセシリアの動きがもろにばれていて先手を打たれまくりなのだったのだから、一人ならと考えるが、どうしても勝てないイメージしかできない。
こうなったら腹いせに一夏とどこかでも出かけるか?
酢豚の約束も覚えていてくれたし、何が起こっても当分は許せるような気がする。
そう思っていた時期が彼女にもありました。
篠ノ之箒は目の前の打鉄を見て一夏に尋ねる。
「一夏・・・・・・届かないんだが」
「え・・・・あ、そうみたいだな。山田先生。これはどうしたらいいんですか?」
箒の前の生徒が打鉄を立ったまま飛び降りてしまったために、直立したISのコクピットに届かない状態になっていた。
このままでは彼女が乗ることが出来ない。
「あぁ、初めての時によくあるんですよ。織斑君。ISを展開して篠ノ之さんを抱っこして乗せてあげてください。そうすれば届きますから」
「あ、はい・・・・・・・・え」
あっさり頷いた一夏だが、よくよく考えたらそれって。
「一夏・・・・よろしく頼む」
「お、おう」
箒が顔を赤らめ(ある意味、顔真っ赤)て一夏に頼む。
ま、まぁ、いいかーと思い。一夏は箒を抱っこする。
いわゆるお姫様抱っこで。
その瞬間、三つの殺気のようなものを感じたがこれは不可抗力で仕方がないと思う。
「・・・・青春だな」
少し離れた所で橘さんが見ていた。
「織斑」
「はい・・・・先生」
箒を打鉄に乗せて様子を見ていると、離れた所に居たジャージ姿の千冬がやってくる。
「すまないが、ボーデヴィッヒの班が遅れているフォローをしてやってくれ」
「わかりました」
「悪いが頼む」
「はい」
この時、千冬のいっていた“頼む”という意味を一夏は理解できていなかった。
彼女の込めていた意味を。
ラウラ・ボーデヴィッヒの班は通夜と思うほど静まり返っていた。いや、通夜は少しは話し声があるだろうからそれよりも酷いものだった。
まるで冷たい氷を周りに囲まれているかのような気分でもある。
「貴様・・・・何か用か」
「織斑先生にいわれてきた。何かあったのか?」
「あ、その・・・・実は私がついISを立たせたままにしていたから次の子が乗せられなくて」
「俺みたいにISを展開させて乗せてやれよ」
「何故私がそんなことをしなければならない」
ラウラは冷たい瞳を一夏に向ける。
「自分の失態は自分でなんとかするものだ」
「誰もが一度は失敗するもんだ。失敗から学習する事もある、それを教えてもらったことがないのか?それに助け合うのが必要だと軍隊で習わなかったのかよ」
一夏は白式を展開して次の子を抱きかかえてISに乗せる。
その子が動き出したのを見ていると傍にいた子が近づいてきた。
「あの・・・・織斑君、ごめんなさい・・・・その、私がミスしちゃったから」
「別に気にする必要はないよ。誰だって失敗する。次からそうしないように気をつければいいんだし、みんなも気をつけてね、誰もが一度はありえるかもしれないミスだから」
「ふん、自分の不始末も自分でつけられないとはな」
「・・・・う・・・・」
ラウラの言葉に少女は目に涙をためる。
「誰もが最初から完璧というわけじゃない」
「お。織斑君・・・・」
一夏がラウラと少女の間に割り込んで真剣な表情でラウラを見た。
「・・・・・・今はこうでも徐々に伸びていく子だっている。最初からきつく人を見ていたら誰も伸びたりしないし想いに答えようとしない」
「何がいいたい」
「人とのつながりを大切にするべきだって・・・・いいたいんだよ」
「そんなもので戦いに勝てるわけがない。やはりお前は教官の弟ではない」
「好きに思っていればいい・・んじゃ、練習再開しょうか」
「「「はーい!」」」
先ほどまで暗かった雰囲気だが一夏の笑顔や気遣いにみんなが笑顔になった。
ラウラは相変わらず冷たい瞳を一夏に向けている。
「・・・・・・あの人間・・・・利用できるかもしれんな」
その様子を遠い所から一人の男が見ていた。
「あいつの心を利用すれば・・・・」
男は麦わら帽子をかぶりなおしてそのまま眠りに着く。
自分の計画を練るために。
昼休み、篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコット、織斑一夏、そして橘朔也を含めた面々は人が少ない屋上でで昼食をとっていた。
どうして橘朔也がいるかというと、一夏が誘ったからである。
昼をどうするのかと、一夏が尋ねた所。彼は一食抜くつもりだと答えた。
このことに激怒したのは珍しく山田先生。
「ダメですよ!ちゃんとした食事を取っていないといざという時に倒れてしまいます!!」
珍しく教育者?らしいことをいった山田先生に圧されて橘は一夏達と食事を取る事になったのである。
もし、食堂でとれば女性に囲まれて食事を取る事は不可能となることは明白、一夏はともかく、橘はクールな男性で、廊下を歩いているだけでハートを撃ち抜かれた犠牲者がでている。
食堂で食べるなどというのは危険すぎた。
「しかし、あの子は中々の気迫だったな・・・・」
橘は山田先生を思い出し、一夏も少し同意した。
「あの・・・・一夏さんよろしかったらこれをどうぞ」
ぼーっと空を見ている橘の横にいる一夏にサンドイッチが詰まった入れ物を渡す。
「あ、ありがとな」
そういって一夏はサンドイッチを口の中へと放り込む。
自分の味覚が一瞬で破壊された。
「・・・・・・?」
何かの間違いではないだろうか?と考えてもう一度サンドイッチを口に含む。
念には念を入れて丸ごと放り込んだ。
脳に衝撃的な“何か”が走って視界がぐらりと揺れる。
まさか・・・・もしや?
「俺も食べていいか?」
そういって横から一夏の食べていたサンドイッチを横から手で取って口の中に放り込む。
あ、と止める暇もなく橘は食べた後、ぱくぱくと食べていく。
「うん、食べないの?」
「あ、どうぞ」
一夏はどうぞ、と橘に促す。
さて、知っている人はわかるだろうが、かつて橘は虎太郎が失敗した料理を美味しく食べて、「残りをもらっていい?」と笑顔でいうほどの人物で、普通の人と比べて味覚が少しズレている部分がある。
故にセシリアが様々なものを詰め込んで作ったサンドイッチを食べても平気。
その後、次の授業が始まるはずだったのだが、一夏は橘と共に学園の外にいて、どういうわけか弾もいた。
「なぁ・・・・弾なんでここに?」
「いや・・・・俺もわからん。虎太郎さんに呼ばれて」
虎太郎は仕事の打ち合わせがあるということでここにはいない。
弾と一夏が戸惑っているとゆっくりと橘朔也が口を開く。
「さて、お前達二人に来てもらったのは他でもない、仮面ライダーレンゲルの新たな適合者の面倒を見てもらうためだ」
「レンゲル・・・・って」
「睦月さんの?」
“レンゲル”アンデッドとの戦いの中で誕生した四番目のライダー。
カテゴリーAの中で邪悪で強大な力を持っていたスパイダーアンデッドの力を使って戦う。
そして適合者である上城睦月。彼はBOARDの職員として働いているのだが、ここ最近は会えていない。
それが新たな適合者と関係があるのだろうと二人は判断した。
「あぁ・・・・睦月が見つけてつれてきた。睦月!」
橘に呼ばれて現れたのは上城睦月とその後ろを付き従うように一人の女の子がついてきた。
ショートカットの青い髪に気弱そうな女の子。
「あ・・・・」
青い髪の女の子は弾を見ると目を見開いて、ととと、と彼の所へやってくる。
「あの・・・・あの時は助けてくれてありがとうございました!」
「え・・・・?」
青い髪の女の子に感謝された時、弾の脳裏にある出来事が蘇った。
初めて仮面ライダーとなって戦い始めたときに、人を守りながら戦うという事があった。
そのときは後ろに人がいるというプレッシャーに押しつぶされそうになりながらなんとかアンデッドを封印したのだが、その時に助けた少女に感謝されたのである。
「もしかして・・・・あの時の!?」
「はい、あの時はありがとうございました」
「いや・・・・俺は仕事をしていただけだから」
「弾・・・・」
女の子、しかも蘭ではない子に話しかけられて戸惑う姿を見て一夏は苦笑するしかない。
睦月は二人の様子を見て微笑みながら告げる。
「この子の名前は更識簪ちゃん。キミ達の後輩となる子だ」
「後輩って・・・・この子もライダーに?」
「はい・・・・更識簪です。レンゲルに選ばれました。まだ戦いはそんなに経験していませんが、あ、足手まといにはなりません!よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる簪に一夏と弾は微笑みながら互いに自己紹介をする。
「俺の名前は織斑一夏。ブレイドだ。よろしく」
「あの時は名乗らなかったけど。俺の名前は五反田弾。ギャレン。よろしくな更識さん」
「・・・・簪って呼んでください。これから一緒に戦う仲間なんですから」
「おう、なら、俺のことは弾でいい」
「俺も」
「よろしく。弾さん。一夏さん」
「それで橘さんが俺達を呼んだのはレンゲルとの顔合わせなんですか?」
「・・・・これをお前たちに渡しておこうと思ってな」
そういって、橘が何かを言おうとした時。
頭上から黒い異形が降り立つ。
「私と取引きをしよう」