富樫始はある研究施設を破壊して空を見上げる。
建物はカリスの力によって原型を保てないほどに破壊されていた。
「ったく・・・・・・人間てのはどこまでも汚い事しか考えない」
襲撃したのは組織の命令ではない。
彼の目的のために。
この研究所はVTCシステムを行なっていた場所。
ラウラ・ボーデヴィッヒのIS・シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていたシステムを開発していた場所を襲撃して、データなどを根こそぎ破壊する。。
「ゴホッ!?・・・・ガバッ・・・・ガハッ・・・・ハァ・・・・ハァ・・」
突如、口から大量の血を吐き出す。
赤い液体があたりに広がっていく。
ぽつぽつ、と彼の頭の上に雨が降り注いでくる。
小雨だったのが大降りになり地面に広がっている赤い液体が薄れていく。
「・・・・ぁ・・・・あぁ」
ぽつりと富樫始は口元を拭いながら笑う。
残り少ない。
「一夏・・・・・・お前にも真実を知ってもらわないとなぁ・・・・俺がこの世から完全に消え去る前に」
赤い液体が広がる中で狂った笑いが響き渡る。
液体の中にうっすらと緑色のようなものが付着している事に気づかない。
篠ノ之箒はこれでもかというほど緊張していた
今日は一夏との買い物をするのである。
本当なら先日行なう予定だったのだが、思い出して彼女は顔をしかめた。
「(一夏め・・・・また女の子に好意をもたれるとは・・・・しかも、キ、キスまでされるとは・・・・私が一夏のファーストキスをもらおうと狙っていたというのに・・・・・・・・って、何を考えているんだ私は!?)」
先日、退院したラウラ・ボーデヴィッヒのキス騒動の後、長時間の説教中に箒は買い物の約束を思い出した。
けれど、時間が時間だったのでメールで明日行こうと提案する。
その時、周りに見られないように細心の注意を払っていたので大丈夫、誰にも気づかれていない。
箒は一夏にすぐに会いたくて部屋へと向かう。
「だぁぁぁっ!何やってんだぁ、お前は!?」
一夏はベッドから大きく距離をあけて叫んだ。
彼が使用しているベッドには別の人がいる。
流れるような銀髪、着衣はひとつも身に纏っておらずいわゆる生まれたままの姿の少女がいた。
彼女の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。
先月色々な出来事があったのだが、無事解決。
その結果、惚・れ・ら・れ・てしまった少女だ。
ちなみにファーストキスを奪われてしまった。
「夫婦というものはお互いに包み隠さぬもの・・・・と教わったが?」
「意味が違う!それは裸を見せ合うとかじゃなくて隠し事がないという事だ!」
「そうなのか・・・・ならば問題ないな」
我々の間には隠し事がないからな!と胸を張るラウラから視線をそらして一夏はシャツを棚から取り出してラウラに投げる。
「これでも着ていろ」
「むっ・・・・嫁の臭いがする」
そういってシャツを着る。
サイズが大きいのでぶかぶかだが、そこは気にしないでおく。
裸で居られる方が色々とヤヴァイ。
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえてくる。
「はい、・・・・箒」
「一夏・・・・まだ寝ているのかと思ったぞ」
「いや・・・・部屋にラウラが侵入していて」
「なにっ!?」
「いや、何もなかったんだけどな・・・・ラウラが侵入していたせいで早く目が覚めたんだ」
裸で布団に入り込まれていたといえば竹刀・・・・否、真剣で襲われるかもしれない。
考えただけで震えが止まらない。
「そうか・・・・」
「今日の予定ならちゃんと忘れていないから安心しろ、先に食堂に行っていてくれ」
「あぁ・・・・」
顔を赤くして箒は右手と右足を同時に前に出して歩いていった。
一夏は着替えるために中に入るとラウラが襲いかかってくる。
「うぉっ!?なにするんだ!」
「私という存在がありながら他の女と話をするなど許せると思うか?」
「あぶなっ!」
飛んできたラウラを抱きしめるようにキャッチして一夏はベッドの上に倒れ込む。
色々と柔らかいなんて不届きな事を考えてしまう一夏だが、男として仕方のないことだと思う。
そこで今さらながらあることに気づく。
彼女は片目に眼帯をしているのだが、どういうわけか今日は外していて金色の瞳が見えている。
「ラウラ・・・・眼帯外したのか?」
「あぁ・・・・寝るときだけだが・・・・」
そこで少し言葉を区切り。
「お前に私の全てを見てほしくて・・・・」
頬を赤くして真っ直ぐにいう言葉。
その言葉がどういうことを意味するのかまともな男なら理解していただろう。
だが、一夏はそれを受け止めることが出来ない。
いや受け止めきれることが出来ないのだ。
自分は彼女に答えを返していないから。
「・・・・」
返答に困っている一夏にゆっくりとラウラが近づいていく。
そして唇と唇が触れ合う距離になった瞬間。
ドアが音を立てて吹っ飛んだ。
ギギギギと一夏はゆっくりとそちらの方へ視線を向ける。
そこには木刀を構えた織斑千冬というラスボスの姿があった。
「不純異性交友は許さん!」
ボガンと木刀が二人の頭上に炸裂する。
避ける手段はなかった。
「はっ・・・・また仕事がないだ?」
Kは目の前にいるスコールに尋ねる。
スコール自身もそうなのよ、と少し困った表情をしていた。
「暴れまくったらしくてね、そのために組織が自由に動けなくなってきているみたいでね。本当に仕事がないの」
「本当に・・・・って、前はウソついていたのか?」
「あったのだけど、拒否したわ。私たちが別働隊の後始末なんてイヤじゃない」
「御もっともです」
そんな仕事を誰もやりたがるわけがない。
上司がスコールでよかったと心底思う。
「というわけで本当に少しの間休暇みたいなことになったから各自好きに過ごしていいわよ」
「お前はどうするんだ?」
離れて本を読んでいたMが尋ねる。
ちなみに、現在部屋にはスコール、K、Mの三人しかいない。
エスはまだ眠っている。オータムは知らない。
「私は好き勝手に過ごすから、貴方達も好きにしなさい」
「・・・・・・はいはい・・・・さて、なら俺はのんびりと昼寝でも」
「どうせならエスとデートでもしたら?」
「・・・・はい?なにいってんだよ。俺は」
「貴方、身体検査の結果はどうしたの」
「は?なにを」
「その結果、すりつぶしたみたいだけど見せてもらったわ。このままいくと確実に」
「・・・・」
それ以上はいうな、とKが目で語る。
スコールが視線を向けるとエスが私服を着て部屋に入ってくる所だった。
「あれ、二人ともどうしたの?」
「喜びなさい。エス、どうやらKがデートに誘ってくれるみたいよ」
「え、で、デート!?」
「おい・・・・」
スコールがにこりと微笑んで部屋を出て行く。
気がつくと部屋にはKとエスの二人しかいない。
エムは空気を読んで逃げたみたいだ。
エスはもじもじと服の裾をつかんでこちらの様子を伺っている。
「(スコールのやつ・・覚えていろ)じゃあ・・・・出かけるか」
「うん・・」
赤くなったシャルロットと共に富樫始は街へ繰り出す。
この時、二人は予測していなかった。
街で出会う人物との騒動を。
一夏はボロボロになりながらモノレールにのって街へと来ている。
あの後、千冬姉というラスボスの必殺ファンクション・お説教を受けてしまい。解放されるまでにかなりの時間を有した。
予定から一時間はずれて一夏と箒の二人は買い物に来ている。
「買い物って何を買うんだ?」
「その・・・・臨海学校が近いだろ・・?」
「そういえば、あったな臨海学校」
「そのためにみ、水着を買おうと思って」
「水着か・・・・・・俺はどうしょうかな」
「一夏はどんな水着を持っているんだ?」
「ん・・・・BOARDのロゴマークが入った水着」
「・・・・は?」
「いや、ライダーになるための訓練で水中戦を想定したものがあって、水着を橘さん達にもらったんだよ」
「・・・・」
箒は少し想像してみた。BOARDのロゴマークがででん!と貼られている派手な水着を。
想像してみて思う。
「違う水着を買うべきだ!」
「えっ・・?お、おう」
箒の剣幕に押されて一夏は頷いた。
ちなみにBOARDのロゴマークはプリントされているがそれは隅っこの方とか小さな部分であって、箒が想像していたものとは大きく異なることを注意しておこう。
富樫始はこれでもかというほど緊張していた。
今までアンデッドや施設を守る自動防御兵器などと対峙するときにどのように戦うかなどの戦術を考えて緊張する事が度々ある。
しかし、これはそういうものとは無縁で、どう対処すればいいのかわからない。
「・・・・・・・・」
向こうもそれは同じなのかガチガチに固まっている。
だったらやるなよと叫びたいが場所が場所なのでいえない。
もし、言えば始は容赦なく・・社会的に抹殺されてしまうだろう。
先ほどもISが普及した影響で態度がでかくなった女性に偉そうに命令されたので断ると即答したら警備員を呼ばれた。
その時はシャルロットのおかげで無事に終わったのだが、今はシャルロットという切り札は使うことが出来ないだろう。
さて、いい加減に何が起こっているのか説明すると、現在、始とシャルロットの二人は水着を買いに来ていて、なにをどうしてこうなったのか、シャルロットと一緒に更衣室の中に居る。
もう一回言おう、更衣室の中に“二人で”居る。
水着を選んでどっちがいい?と聞かれたからオレンジ色のほうを選んだ途端、そっか!といっていきなり始の腕を掴んで更衣室に入り込んで着替え始めたのである。
「(どうしてこんなことになってんだ?・・・・しまった・・・・そういえばシャルロットって、田舎暮らしとかいっていたな・・・・まさか、スコールやオータム辺りに変なこと吹き込まれたんじゃないだろうか?)」
「(うぅ~。オータムさんとスコールさんが水着の試着をする時は大好きな人と一緒に入るっていっていたけど、後ろに居るって考えると緊張して心臓が破裂しそうだよう)」
実はちゃっかりとオータムとスコールが悪戯心満載でシャルロットに色々と吹き込んでいたようだ。
「(よく考えたらシャルロットと任務とかで一緒に行動するといった事で多かったけど、こういう私生活で一緒というのはあまりなかったな)」
任務の回数が減ってきていて始達は各自好きに過ごしていることが多かった。
始はアンデッドを封印するために各地を点々と動いて回り、シャルロットはMと模擬戦をこなしてという日々。
年頃の男女が行なう生活として有りえない。
「(この笑顔も・・・・結構みているようで、まだほんの四ヶ月程度しか経っていないんだよな)」
出会ったのは外国の墓場。
ISの不調で着地した所で泣きそうになっていた少女、それがシャルロットだった。
「(でも・・・・・・これ以上近くにいては)」
『本当にそれでいいのかい?』
聞こえてきた声に富樫始の表情が変わる。
富樫始は大通りから離れた所にある人通りが少ない神社に来ていた。
周りには何人かの老人や子どもが仲良く遊んでいる。
「気のせい・・・・だったか?」
「気のせいではないよ。富樫始君」
神社の入口、そこに一人の男が座っていた。
民族風の衣装を身に纏い、緑茶を美味しそうに飲んでいる男が。
「はぁ・・・・はぁ・・・・始?どうしたの突然」
慌てて後を追いかけてきたシャルロットが尋ねるが始は答えず目の前にいる男に尋ねる。
「お前は・・」
「僕の名前は嶋、見ての通り、旅行者だよ」
「ウソをつくな。ただの旅行者がなんで俺の名前を知っている」
「風は色々なものを運んでくれる・・・・君の体内にある遺伝子のこととか」
「てめっ」
「えっ!は、始どうしたの!?」
始はハートスートのカテゴリーAのプライムベスタを取り出す。
彼の様子を見てシャルロットが慌てだした。
「真実を隠したままにしておくのはよくないよ。富樫始君。いや、“ジョーカーになりつつある者”といったほうがいいかな?」
「“ジョーカー”・・って、なに?」
シャルロットは嶋の言葉の意味を理解できず戸惑ってしまうが、始は違う反応を示した。
始は無表情になる。
「キミは人間だ。しかし、人間はアンデッドの姿になるなんて事は出来ない。驚いたよ君の体内の中にあるジョーカーの因子がアンデッドに変身する事のサポートをしてくれている」
「黙れ・・・・」
「しかし、アンデッドに変身するたびにジョーカーの因子が活性化を始めてしまい、最終的には」
「黙れっていってるだろーが!」
『チェンジ』
カリスに変身してカリスアローを構えようとしたがビクンと体が大きく痙攣をして強制的に人間の姿に戻り、始は口から大量に吐血した。
「始!?」
シャルロットは慌てて始に駆け寄る。
始は地面に広がっていく自分の血を見て気づいた。
うっすらとだが血が緑色に変色している事に。
「・・・・・・」
覚悟していないといったらウソになる、と始は心の中で呟く。
この因子を埋め込むことを決めたことに迷いはない。
決めていたのだ。全てに復讐をすると、その代償として自分が人間に戻れなくなっても良いという覚悟はしていた。
「今はまだ他のアンデッドの力で抑圧されているが、そう遠くない未来、キミの体は完全にジョーカーとして覚醒して闘争本能のままに暴れることになる。これ以上アンデッドの力を借りるのはやめるんだ」
「嫌だね」
即答する始。
この力を使い続ければ何れは怪物になるという覚悟はしていた。
でも、やめはしない。
とまることもしない。
――俺は。
「違うカテゴリーだろうと俺の邪魔をするっていうなら・・・・封印するぞ」
「私は戦うつもりはないよ・・・・そうか、どうやらキミを止める事は私では出来ないようだね」
嶋は悲しそうな表情をして立ち上がる。
「だが、一つだけ忘れないでくれ・・・・君は君であるということを」
「・・・・」
そう告げて始の前を去っていく。
残された二人はしばし無言だった。
「ねぇ・・・・始」
「なんだ?」
「なんのために、戦うの?」
「・・・・そうだな、もう少ししたら・・・・話してやるよ。俺が怪物になってまでも戦おうとする理由」
この時、富樫始が遠くに要るような感じがしてシャルロットは隣に彼がいるのを確認するために強く抱きつく。
「どうした?」
「ううん・・・・なんでもない」
しばらく抱きついた。
それから始とシャルロットの二人は有りえない場所に来ていた。
「スコールのヤツ・・・・なんて場所を勧めてくるんだ」
二人がいるのは都内にある高級ホテルの中にあるレストラン。
高級のため、ドレスコードが義務付けられていて、IS普及の影響でスーツやドレスを貸してもらえることはない(女性はちゃんと貸してもらえる)
スーツはどうやらスコールが届けておいてくれていたようなのでトイレで着替えてきたので問題はない。
だが、どうしてこんな所を?
「お、お待たせ」
「お・・・・・・・・」
疑問に思っているとシャルロットがやってきたようなので顔を上げて言葉を失う。
シャルロットは戸惑ったような表情を浮かべながらやってきていたのだが、彼女の着ていたドレスがあまりにも
「綺麗・・・・」
あまりにも似合っていたので見惚れてしまった。
白いワンピースタイプのドレス。
童話にでも出てきそうな、いや、童話の中からお姫様が飛び出したかのようだ。
「どうかしたの?」
「・・いや・・・・なんでもねぇよ」
見惚れていましたなんていえるか!と思いながら始はグラスに入っていた水を飲み、運ばれてきた料理を食べる。
不思議と料理の味をまるで感じない。
レストランを出た後、二人は会話をしていなかった。
「あの・・・・始」
「・・・・ん?」
「・・・・・・好き」
「・・・・何が?」
とぼけてみる、どういう反応をするだろうか?
「私、シャルロットは富樫始の事を愛しています」
「・・・・・・・・俺は」
立ち止まってシャルロットのほうへと向き直る。
「いずれ俺は怪物になってしまう・・・・目的が果たす前になるかならないかの違いだが、怪物を好きになって幸せになれるかどうか」
「なるよ」
シャルロットは変わらない笑顔で告げる。
「私は始が怪物になったとしても変わらない、あの時からずっと始への気持ちは変わらないよ、絶対に・・」
「・・・・・・」
「あ、それと答えは今すぐでなくていいよ」
シャルロットは微笑んで告げた。
富樫始はいま答えていいかどうか悩んでいたので救いだった。
しかし、これは一種の逃げ。
この結果が後に起こる悲劇を避けられたかもしれない。
臨海学校まで後、二日。