「はぁ・・・・はぁ・・・・」
「始、大丈夫?」
「少し休めばなんとかなる」
海岸から少し離れた山の中、
富樫始とシャルロットは休憩をしていた。
彼女から渡されたボトルの水で始は口の中を簡単に洗浄して吐き出す。
水は赤と緑が交じり合っていた。
「・・・・・・」
ちらり、とシャルロットは始を見る。
先ほどまで荒い呼吸をしていたが段々と落ち着いてきているようで息も安定してきている。
もう少し休めば回復するかもしれない。
「(でも・・体の方はどうなんだろ・・・・)」
アンデッドの力を使っている始は代償として人ではなくなっていく。
どのぐらい侵攻しているのかわからない。
もしかしたら既に人間でもないかもしれない。けれど、
「(私が絶対守るんだ、始を)」
「・・・・誰だ!」
始が叫んでシャルロットが視線を向けるとそこには黒衣を纏った三人の女性が立っていた。
「へぇ、あんたがスコールの部下の男か」
「大したことなさそう」
「雑魚」
同じ身長、同じ体型、そして。
「同じ顔・・・・?」
シャルロットはぽつりと呟いた。
現れた三人は髪型、表情、なにもかもが一緒だった。
似ているでは済ませられない。
まるで、同じ人間が三人並んでいるような感じだ。
「三つ子にしては気持ち悪いな」
「随分と失礼な事を言うわね」
「礼儀がなっていない」
「うざい」
「そうか・・・・お前らが最近亡国機業に入った奴らか」
「そうよ、中々に察しがいいわね」
「中々に鋭い」
「びっくり」
「それで、何のようだ?」
「あんた達を殺しにきたのよ」
「殺してやる」
「抹殺」
三人は黒いラファール・リヴァイブを纏ってライフルを取り出し、攻撃を仕掛ける。
「ちっ!」
「始!」
始とシャルロットは“銀の福音”と“黒い幽霊”を纏ってその場所を離れた。
銀の福音が背中の翼を広げて光の槍を三体のISに向かって放ち、分断させる。
「そこ!」
シャルロットが両手に持つサブマシンガンでラファール・リヴァイブに攻撃し、入れ替わるように光の矢が三機に直撃した。
「「「くっ!」」」
実弾と光線の雨に三体のISは成す術もなくシールドエネルギーを削られた。
相手は動きからして連携がとれていたが、攻撃態勢を整える前に分断してしまえば、怖くなかった。
「さて、教えてもらおうか?何で俺達を殺そうとする。お前らに殺される覚えがないんだが」
「誰が・・・・」
「いわないなら痛い目」
「死ね」
「お前がな」
ライフルを向けた一人に始は腕の一部を光の刃に変える“レーザーアーム”を発動させて首をはねる。
「俺が本気だと理解してもらえたか?さて」
「始!」
「っ!?」
シャルロットの声に異変を覚えて始は離れる。
直後、彼が居た場所をライフルの弾丸が飛んできた。
始は珍しく目を開いて相手を見る。
「おいおい・・・・どういうことだ?」
目の前に首がないのに動いているISの姿に始は驚いていた。
操縦者が死んだらISは起動しない。
シャルロットの声に動いていなかったら自分はやられていた。
「こいつ・・・・ロボットなのか」
「いつ、我々が人間だといった」
「愚か愚か」
「始・・・・!」
「なら、遠慮する事はないよな?」
銀の福音は軍用のISでリミッターを解除すれば容赦なく人を殺せる。
IS学園に置かれているISや代表候補生のISとは決定的に異なる部分――軍事兵器としての力を発動させる。
銀の福音の背中の翼が大きく展開してエネルギーをチャージしていく。
異変に気づいた三体が攻撃を仕掛けようとするが福音を守るように黒い幽霊が浮遊武装を展開して煙幕を放つ。
見えないながらも三体はライフルを連射して二人に襲い掛かろうとした。
けれど、
「時間切れだ。楽しい悪夢をみて、果てろ!」
銀の福音の光の槍がさきほどよりも強く降り注いで三体のISを“破壊”し操縦者のロボットを破壊した。
「始・・・・大丈夫?」
「あぁ、問題・・」
何かに気づいて始はシャルロットを突き飛ばす。
直後、見えない刃が始のわき腹を貫いた。
「がっ・・・・・・・・」
「始!?」
「余裕だねぇ?偽物君」
「・・・・・・てめぇ」
振り返ると茂みの中に始と同じ顔をした男が立っていた。
笑みを貼り付けたような表情の男。
シャルロットは直感した。
この男は危険だ。
今までに遭遇した科学者とかも怖いや気持ち悪いと思う事があった。
でも、この男は決定的に違うところがある。
言葉で言い表す事はできない、けれど・・。
「(近づくのはダメだ)」
「おかしいなぁ。クローンは根こそぎ破壊した筈なんだがな?」
カリスの力を手に入れたとき、始は過去に自分をモルモット扱いした施設を強襲、そこで生み出されていた自分のクローンを全て、破壊していた。
薬物投与などの過程でIS適正がでていた始のクローンを生み出して調べれば、ISに男が乗れるかもしれないと考えた連中の欲の果てに生み出された存在。
「面白いなぁ・・・・てめぇはぁ・・・・殺しても足りないだろうなぁぁああああ!」
「ほざけ、また破壊してやるよ」
「それは無理だ」
クローンはにこりと笑うと上を指差す。
「お前を殺す存在がやってきたからなぁあ」
「見つけたぞ、アンデッド!」
雨月のレーザーが始に襲い掛かる。
攻撃を避けようとするとわき腹に痛みが走って動きが鈍った。
「がっ!?」
レーザーが直撃して地面に叩きつけられる。
「このまま貴様を倒してやる!そうすれば・・」
「篠ノ之・・・・箒ィ」
よりによっててめぇがやってくるのかと始は歯軋りしながら睨む。
さっきから体の動きが鈍い。
動かそうとすると鉛のようになって手を動かせない。
眩暈もする。
吐き気もしていてやばい。
その中で篠ノ之箒が二本の刀をゆっくりと構えて振り下ろしていく。
「(殺されるなら・・・・こいつより)」
迫ってくる刃を前にして、始は死を覚悟した。
「ダメぇえええええええええ!」
雨月、空裂が振り下ろされる直前、瞬時加速でシャルロットが間に入り込んで攻撃を受け止める。
ISのおかげで肉体にダメージはなかったが、装甲が爆発してボロボロになった。
「シャル・・・・ロット?」
「始!こんなところで諦めないで!」
シャルロットは無事なライフルで紅椿を牽制して叫ぶ。
「くっ!貴様」
ライフルの弾丸を避けながら箒は歯軋りした。
「・・・・」
離れた所で見ていたクローンは舌打ちをした。
「ったく・・・・あいつ殺すか」
手を動かして振るう。
「始、すぐに」
逃げて、といおうとした彼女の体に衝撃が走る。
「え・・・・・・?」
「なっ!?」
箒と始が同時に声を漏らす。
シャルロットがわき腹を見ると止め処なく血が流れていた。
彼女のわき腹には箒の刀が――。
「・・・・箒?」
そこにブルースペイダーに乗って一夏がやってくる。
「シャルロット・・・・シャルロット!」
始は震える声で躓きそうになりながら倒れた彼女に駆け寄る。
ISが強制解除されたシャルロットは地面に崩れ落ちる途中で始をみて、ゆっくりと手を伸ばす。
始も同じように彼女に向かって、伸ばす。
そこにニンジンのミサイルが降り注ぐ。
「危ない!」
『ターンアップ』
ブレイドに変身した一夏が呆然としている箒を抱きしめるように引き寄せる。
ミサイルはシャルロットと始の周りで爆発し衝撃と爆風が広がる。
「箒!?なんでここに」
「違う・・・・私は・・・・・」
「おい、どうしたんだよ!?」
茫然自失となっている箒を一夏が揺らすが、彼女は違う、違う、と繰り返す。
その言葉に反応する者がいた。
「・・・・・・・・違う・・・・だと?」
「え?」
煙の中、聞こえてきたのは富樫始の声。
ブレイドが尋ね返すと煙の中から始が姿を見せる。
ミサイルの爆発を受けたのか右腕が吹き飛んでなくなっていた。
「違う・・・・だと?ふざけるな・・・・お前が・・・・お前が」
腹部に出現していたカリスラウザーが赤から緑色へと姿を変える。
側面のホルダーが勝手に開いてカリスが持っているプライムベスタが空へ舞う。
「お前が殺したぁああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
始の姿がはじけ飛んでさらに黒くおぞましい怪物へと姿を変える。
なくなった腕から先に化け物の腕が姿を見せた。
カミキリムシを模したようなアンデッド。
「なんだ・・・・こいつ」
アンデッドが歩くたびに衝撃と殺気が二人に飛んできた。
上級アンデッドや下級アンデッドとは比べ物にならない殺気。
箒が殺気を受けてがくがくと震えている。
ブレイドは箒を守るためにアンデッドと対峙しようとするがブルースペイダーから虎太郎の声が響いた。
『一夏君!箒ちゃんをつれてすぐにそこから逃げるんだ!』
「虎太郎さん!でも!」
『そいつは普通のアンデッドとは違うんだ!すぐにそこから逃げるんだ一夏君だけじゃ勝てないんだ!』
「なんなんですかこいつ!?」
『・・・・・・そいつは“ジョーカー”だ!』
ジョーカーは口から煙を吐き出しながら目の前にいるIS“紅椿”を纏った箒とブレイドにゆっくりと近づいてくる。
一歩ずつ距離が縮まるたびに凄まじい殺気が二人に襲い掛かってきた。
ブレイドはなんとか意識を保っているが箒は目が白くなり口端から泡が出てきていた。
やばい、このままじゃ箒が危ないと判断したブレイドは彼女を抱えてその場所から離れようとする。
しかし、ジョーカーの右手にブーメランを取り出すと、一気に間合いを詰めてブレイドに切りかかる。
ブレイドは咄嗟にホルダーからブレイラウザーを引き抜いて片手で攻撃を受け止めるが。
「重たい・・・・なんだ、こいつの攻撃!」
両者はしばらくつばぜり合いをしていたがジョーカーが距離を置く。
ジョーカーは唸りながら胸を押さえて苦しみだす。
「今のうちに逃げる」
ブレイドはラウザーをホルダーにしまいこんでブルースペイダーに箒を載せて一緒に走り出す。
残されたジョーカーは苦しんでいたかと思うとまた起き上がる。
「大丈夫?」
宿に一夏達が戻ると、虎太郎が尋ねる。
「俺は大丈夫です・・・でも」
ちらり、と隣の箒を見た。
彼女は意気消沈していた。
ISで戦っていたのがアンデッドではなく、人だったという事実に戸惑い、苦しんでいた。
「すいません、虎太郎さん、箒の事、よろしくお願いします」
「一夏君、どこに?」
「あいつを探してきます。今ならまだ間に合います」
「ダメだ」
出て行こうとしたら千冬が止める。
「千冬姉、なんで!」
「先ほど・・・・橘朔也から連絡があった。ギャレンが到着次第、最優先でジョーカーを封印しろと、それまでは待機・・だそうだ」
「封印!?あいつは人間なのに!」
「残念ながら彼はもう人間ではない」
「嶋さん!」
旅館の入り口に現れたのは上級アンデッドの嶋だった。
「どういうことですか!もう人間じゃないって・・」
「彼の体は既に我々と同質のものになってしまっている・・・・もう、人間には戻らない」
「だからって、封印しなくても」
「一夏君・・・・残念だけど、ジョーカーは危険なんだ」
虎太郎の言葉に一夏が反論する。
「危険って、確かに凶暴でしたけど、でも・・・あいつは!」
「バトルファイトでジョーカーが生き残れば、この世界はリセットされてしまう、としてもか?」
「弾・・」
旅館の入り口にレッドランパスが停車して弾が入ってきた。
「どういうことだよ・・・・それ」
「橘さんから・・ジョーカーについて、教えてもらった。お前のところにもジョーカーについての情報が入っているんじゃないのか?」
一夏が携帯電話を開くと、確かに橘からジョーカーの情報が載っていた。
そして、弾の言うとおり、バトルファイトでジョーカーが生き残ると、世界がリセットされる。
実際、剣崎がジョーカーを封印しなかったら世界はリセットされるところだった。
「俺達が最優先でジョーカーを封印しないと世界がヤバイ。俺達三人でもジョーカーに勝てるかどうかわからない・・・・一夏、覚悟決めろ」
「でも・・」
一夏は悩んでいた。
富樫始、自分のせいであんな道を歩む事になってしまった彼を封印、出来るのだろうか?
――無理だ。
なんといわれても彼は人だ。
――人を封印なんて、俺には。
「弾!アイツは始なんだ!俺達と一緒に遊んで、笑ったりした」
「違う」
一夏の言葉を弾は否定する。
「アイツはもう俺達の知っている富樫始じゃない!ジョーカーだ。人類の天敵と言っていいくらい危険な存在だ・・・・一夏、お前、アンデッドを守る為にライダーになったのかよ?違うだろ!人を守る為のライダーだ」
弾の言葉に一夏は反論できない。
彼のいう事は正しく事実だった。
けれど、一夏は納得して戦うという事が出来ない。
「俺はヤツを封印する。それが俺達にできることだからな」
弾はそういって旅館を出る。
「一夏・・・・私も」
「みんなはここで待っていてくれ、ここなら嶋さんがいるから安全だから」
「・・・・一夏君」
ついてこようとする彼女達に待っているようにいい、一夏も外へ出ようとした。
嶋に呼び止められて一夏は止まる。
「もし、悩んでいるのなら希望を探すんだ」
「?」
「希望は日本に来ている」
その一言で、一夏の脳裏にある記憶が蘇る。
「ありがとうございます!嶋さん!」
一夏はブルースペイダーに乗って旅館を出る。
「(希望は日本に来ている・・・・もしかしたら、もしかしたらなんとかなるかもしれない!)」
ヒューマンアンデッドを探すために一夏は弾達とは別の方に向かった。