がばっ、と一夏は体を起こす。
「あれ・・・・ここ」
「旅館だ。一夏君」
「剣崎さん・・俺」
「覚えていないか?キミはアンデッドと戦う時に」
一夏の脳裏にパラドキサアンデッドとの戦い、キングフォームの使用を思い出す。
そこで自分の手を見る。
普通の、人間の手だった。
「・・・・俺、まだ人間ですよね?」
「あぁ、人間だよ」
そういって剣崎は優しく微笑む。
一夏は剣崎からキングフォームについて一度だけ聞いたことがあった。
ライダーシステムを開発した人の考えではカテゴリーキングとの融合のみを構想においていたらしいのだが、剣崎のキングフォームは十三体のアンデッド全てと融合しているという状態で、体にどんな影響が起きるのかわからないといわれていた。
それは今も同じで。
最悪アンデッドになってしまうのではという仮説がある。
「まぁ、その話は置いておいて、お姉さんがすんごい心配していて・・・・・・」
「一夏ァ」
気のせいだろうか。
耳元で今、一番聞きたくない声が聞こえてきたような気がした。
ギ、ギ、ギ、とゆっくりと横を見る。
「心配したぞ?」
何故だろう、昔、竹刀を持って暴れた箒の姿とかぶる。
一夏は即座に土下座した。
「あれから、何日経過しました・・・・か?お、お姉様」
「一日だ」
むすーとした顔でこちらを見てくる千冬に一夏はびくっと尋ねる。
少し離れた所ではセシリアとラウラ、鈴音が「ご愁傷様」と合掌した。
剣崎と虎太郎が隣でなんとか千冬を宥めた事により一夏は無傷で済んだのだが、罰としてお姉様ということになった。
「すぐに・・あいつを探さないと」
「まだ、ダメだよ。体も・・・・・・あれ?」
むくりと立ち上がった一夏に虎太郎は驚いて千冬は何故か顔をしかめている。
「急がないと取り返しのつかないことになってしまうかもしれないんです・・・・あいつを何とかするために、行かないと」
「何故そこまであいつにこだわる?」
「友達だから、何年も会っていなかったけど、大切な仲間に変わりないから」
千冬の言葉に一夏は即答する。
そういって一夏は出て行く。
「いかなくていいの?織斑先生」
「あいつが決めた事に私は深く介入はしない・・・・今は見守るだけ・・・・だ」
そう、嘗ては介入する考えだった。
だが、今は信じる事にしている。
一夏のことを信じる。
仮面ライダーブレイドを継承した最愛の弟を千冬は信じることにしたのであった。
「・・・・・・」
「鈴さん?」
「どこに行く気だ?」
「・・・・ふん!」
一夏達のやり取りを聞いた鈴音は壁に自らの額をぶつける。
そして、
「いたーい・・・・」
「当然だろう」
「ど、どうなさったのですか」
「ようし、これで決まったわ・・・・あの奥で閉じこもっているヤツを引きずり出すわ」
鈴音は赤くなった額のまま部屋を出て行く。
外に出ると、そこには睦月がいた。
「あんた・・・確か」
「上城睦月、初代仮面ライダーレンゲルだよ」
「何かよう?」
「少し話そうかなと思ったけど、いらないお節介だったみたいだね」
「?」
「篠ノ之さんのこと、頑張ってね」
「当然よ」
睦月に見送られて鈴音は箒が閉じこもっている部屋に向かう。
箒は部屋の奥で縮こもっていた。
鈴音は乱暴に襖を開けて中に入る。
「あんた、いつまで閉じこもっているつもり?」
「・・・・・・」
「いつまでそこにいるつもりって聞いてんのよ!」
「・・・・私は・・・・もう、ISに乗らない・・・・何も」
「・・・・ざっけんじゃないわよ!」
鈴音は箒の胸倉を掴んで引き寄せる。
「たった一度失敗してISに乗らない!?そんな寝言が通用するほど専用機持ちは甘くないのよ!それに」
引き寄せたまま鈴音は叫ぶ。
「あんなことがあってもまだ諦めていないわよ。足掻いて足掻きまくって必死に昔の友達助けようとしている」
「無理だ・・・・私には力が」
「いい加減にしなさいよ!」
胸倉を掴んだまま箒の頬を鈴音は叩く。
「友達助けるのに力がいんの!?あんたには口や足があるでしょーが!力がなくてもあんたはそいつに伝えられることができるでしょ!なんでそれをしようとしないの!このまま逃げ続けるつもり!?今よりもっと後悔するわよ!」
「だが・・どうしろというのだ!あいつの居場所などわからないのに」
「少し、やる気になったようね・・・・問題ないわ。既に場所はラウラが見つけてる・・後は行くだけよ」
鈴音の言葉に箒は無言になる。
「まだ怖いとかいうなら今度は反対側を叩くわよ」
「・・・・・・」
箒は無言で立ち上がって歩き出す。
「(まだ怖い・・・・でも、でも)」
「行ったわね・・」
「無茶なさいますわね。鈴さんも」
「だが、あのままでは危ないだろう?簪たちはまだ眠っているんだぞ」
「だから、私達も行くのよ・・・・ジョーカーについては知らないけれど、見届けたいわ」
「奇遇だな」
「私達も見届けようと思っていたところですわ」
三人は悪戯を思いついた子どものように笑う。
「こっちにいるみたいだね」
「わかる・・・・んですか?」
ヒューマンアンデッドとシャルロットは歩いていく。
シャルロットの決意を聞いてから彼はジョーカーのところまで誘導するといって歩いていた。
「わかるよ」
「あの・・・・私のやろうとしてることって」
「正しいかどうかなんてわからないよ」
「そう・・ですよね」
項垂れるシャルロットにヒューマンアンデッドが口を開こうとした瞬間、彼は彼女を抱えて後ろにとんだ。
「グルルルル・・・・」
「始!?」
ヒューマンアンデッドの前に現れたのはジョーカー。
ジョーカーは獣のように唸りながらヒューマンアンデッドを睨んでいる。
「まずいな・・・・操られている」
「え・・!?」
「今の彼は理性を失っている。このままではジョーカーとして封印するしかなくなってしまう!」
「そんな・・・・始!私の声が聞こえないの?」
「グルルルル・・・・グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ジョーカーは唸って鎌を振り上げようとする。
目を見開いて動かないシャルロットを助けようとヒューマンアンデッドは割って入ろうとするが間に合わない。
鎌が振り下ろされる瞬間、ブレイドがブレイラウザーで受け止めた。
「・・・・ブレイド」
「始!やめろ!」
ブレイラウザーで鎌を振り払って剣先をジョーカーに向ける。
ジョーカーはブレイドを睨んだまま体勢を低くした。
「・・・・始?」
「無駄だ。今の彼は理性を失ってしまっている。君の声も届かない」
「・・・・ヒューマンアンデッド、コイツを元に戻す方法はないんですか!?」
「・・・・危ない!」
シャルロットが叫んでブレイドが顔を上げるとジョーカーが鎌を振り上げようとしたが急に左手で鎌を受け止める。
「え・・・・?」
「あれは・・・・アイエスの手」
ヒューマンアンデッドの視線の先、ジョーカーの左手が機械の手となっている。
その手は銀の福音の手となり、鎌を振り下ろそうとしていた腕を必死に押さえていた。
「アイエスが力を貸している・・・・のか、これなら」
なんとかなるといおうとした瞬間、ジョーカーの動きがぴたりと止まる。
何故、動きが?と思って視線を動かしてヒューマンアンデッドの表情が変わった。
「しまった!」
「きししし・・・・その力・・・・もらうぜぇえええええええ!」
ジョーカーの後ろにクローンがおり、彼の両手がジョーカーの心臓部分を貫いていた。
「・・・・・・ガ」
「始!?お前ぇ!」
「このぉおおおおお!」
シャルロットが黒い幽霊を展開しガトリングを取り出してクローンに攻撃しようとするが一足早く、クローンが何かをジョーカーから引き抜いて離れる。
離れた瞬間、クローンに向かってガトリングを連射するけれど、クローンを撃ち抜くことはなく、周囲の木々を破壊するに終わった。
クローンの右手にはどろどろした緑色の何かが握られている。
「きしし、これだこれ、これさえあれば俺は・・・・さっきよりも強く、強くなる」
「お前ぇええええ!」
ブレイドが地面を蹴ってクローンを殴ろうとするがそれよりも早く緑色のどろどろしたものを体内に取り込む。
衝撃が起こってブレイドは弾き飛ばされる。
「なっ、なんだ・・?」
「きしし・・・・な、なんだよこれぇ!?こんなもの体にいれていたっていうのか!?聞いていた話と全然違う!こんなもの取り込んでしまったら俺の体がもたない!ほ、崩壊してしまう!」
急に怯えだしたクローンだが、膨れ上がった体の中に顔が消えて、そして。
「GUAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
体が膨れて二メートルはある巨大な怪物へと変貌した。
顔がジョーカーと同じだが、体はぶよぶよに膨らんでいて、腕が四本になっている。
足がなく移動できるのかはわからない。
一夏達からは見えないが腹部の部分にアンデッドバックルがある。
「コイツ・・・・」
「因子が暴走している・・・・耐えられなかったんだ」
“化け物”という言葉を使うのはおそらくこの時だろう。
ブレイドはブレイラウザーを構える。
化け物は唸りながら襲い掛かってきた。