IS学園の二学期がスタートして一週間が経過した。
授業が終わって放課後、アリーナの一角で打鉄を纏った始と紅椿を操る箒との練習試合が行われている。
紅椿の振るう二本の刃を打鉄の戦艦刀で受け流していく。
激しい戦いだが、始は押されていた。
「このまま勝たせてもらう!」
「ただで、負けるつもりはない!」
迫る刃の一本を避けて、戦艦刀で箒の腹を突く。
だが、打鉄のエネルギーが0になって、勝敗が決する。
「くそっ・・・・」
打鉄を脱ぎ捨てて始は悪態をつく。
「やっぱり、ぎこちないね」
「あぁ、どうも反応が悪い」
観戦していたシャルロット、セシリアが近づいてきて尋ねる。
紅椿を解除して箒も近づく。
「戦っている私から見ても、始の動きはぎこちなかったぞ」
「相手からも理解されるほどじゃ、致命傷だね」
「くっそ、量産機の限界ってヤツか」
入学試験以降、始は何度もISを操縦しているが一向に上手くならない。
「しかし、二人は専用機を持っているというのに、どうして使わないんだ?」
「使わないんじゃなくて、使えないんだよ。篠ノ之さん」
「俺らのISは競技用じゃない。ガチ戦争用のISだから表立って使うと委員会がうるさいんだそうだ」
「不便ですわね」
表向きの理由と始は説明する。
実際は使用してもいいのだが、そうなると二人の立場がかなりややこしくなるため、非常時以外は使用禁止にしているのだ。
だから、始は打鉄、シャルロットはラファール・リヴァイヴを学園から借りている。
「じゃあ、次は私とシャルロットさんですわね?」
「よろしく、オルコットさん」
ブルー・ティアーズを纏ったセシリアをみて、シャルロットもISを纏う。
「思ったんだが、二人は織斑の方にいかなくていいのか?」
「いや・・・・いきたいんだが、一夏は生徒会長に鍛えられていて・・・・」
「あ、そ」
始はそれ以上追及しなかった。
「一応、鈴とラウラが様子見としてあっちにいるんだが・・・・」
「死んでいないといいなぁ・・・・アイツ」
「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
次々と繰り出されるガトリングガンを一夏は悲鳴を上げながら逃げていた。
訓練は一方的な攻撃から一撃も受けずに逃げ続けよ。
もし、一撃でもあたれば・・・・うふふ。といった内容。
「あれ・・・・八つ当たりよね?」
「言うな、言えば我々に被害が来る」
観客席で鈴とラウラが様子を見ていた。
前に、一夏と楯無が二人っきりで訓練していると聞いて、嫉妬した彼女達が様子を見に行くと、そこでは煤まみれで瀕死の一夏君の姿があった。
「あら、やりすぎちゃった☆」
そういって楯無はほくほくした顔をしていたのを見てから、彼女達は決意する。
――一夏を見守っていないと、危険だ。
彼女達はそういって、かわるがわる一夏を見守る事にした。
「でもさぁ、あの人、なんでイラついているのかしら?」
「富樫始との距離だろうな」
「距離ぃ?」
ラウラは説明する。
「更識楯無会長は富樫始に結婚までの道のりを想像するほどに好意をよせている。だが、愛しい相手の傍にはいつもシャルロットという存在がある。彼女と交わした協定により富樫を襲うことはできない。目の前にいるのに何も出来ないという歯がゆさに苛立ち、丁度いい八つ当たり相手として嫁を選んだのだろう。よほど、嫉妬していると見える。まぁ、私と一夏のいちゃいちゃと同じぐらいあの二人の仲はいいからな」
「アンタと一夏のいちゃいちゃについては後で問い詰めるわ・・・・にしても、あの人の瘴気、前よりも強くなってない?」
「そうだな・・・・正直、私でもあれは勝てない」
「私もよ」
狂ったように笑っている楯無から逃げている一夏の身を案じながら二人は観戦する。
「はぁい、ここまでにしましょう」
楯無にいわれて一夏は地面に崩れ落ちる。
燃え尽きた。
真っ白に燃え尽きた一夏の姿がそこにあった。
「さぁて、今日はここまで、あ、明日は全校集会があるから特訓はおやすみだから~」
ほくほく顔で去っていく楯無と入れ替わるようにラウラと鈴音がやってくる。
「大丈夫?」
「・・・・・・」
「反応がない、ただの屍のようだ」
「アンタ、どこでそんな知識もってくんのよ・・・・さ、さっさと運びましょ」
用意した台車に一夏を載せて二人は寮に向かう。
一夏が色を取り戻したのはそれから一時間後のことだった。
次の日。
全校生徒が集まっている中で一夏はげっそりとした表情だった。
楯無との訓練で確実に自分は力をつけている。
だが、
「(明らかに八つ当たりも混じっているんだよなぁ)」
一夏はちらりと、離れた列のところにいる始を睨む。
彼が全ての元凶というわけではないが、悪いのは始だろう。
「(なんとかしてくんないかなぁ)」
ぼーっと、考えている間に楯無が壇上にあがって、演説をしている。
考えていたら急に歓声があがった。
なんだ!?と一夏が身構えて顔を上げると。
「織斑一夏を巡っての部活争奪戦を開始しまーす!」
混沌再来!とかかれた扇子をひろげて楯無は不敵に微笑んだ。
「どういうことだ、一夏?」
「顔が近い、てか、木刀コッチに向けないでくれ、箒」
剣道場で特訓を終えた一夏は箒に尋問されていた。
更識楯無の宣言以降、クラスメイトを含めて女子全員(主に上級生)が騒ぎ出す。中には公式大会など放置せよと叫んでいた人もいる。
いいのか、それで?と思ったのは内緒だ。
「何故、お前が部活の出し物の対象になっているのだ?」
「いや・・・・俺も、今日の事は全く知らなくて・・・・・・」
「災難ねぇ、織斑君も」
箒と話をしていると剣道部部長がやってくる。
「でも、仕方ないと思うよ?織斑君がどこの部活にも入ろうとしないのに剣道場にいりびたっているから生徒会に苦情がいったんだと思うし」
「え、そう・・・・なんですか!?」
「成る程」
初耳だった一夏は驚きの声を漏らす。
ソレに対して箒は納得の表情だった。
「え、箒はわかっていたのか?」
「お前は自分の立場がわかっているか?お前は世界で唯一・・・・おっと、数少ないISを動かした男子だぞ。その男子が部員でもないのに剣道場にいる。部活に所属しているのなら納得するだろうが、入っていない、苦情が来る・・・・当然の事だろうな」
「やばいなぁ・・・・」
「だから、織斑君争奪戦が始まったのよ・・・・それにしても、もう一人の男子は運がいいわよねぇ、もう少し速かったら争奪の対象になっていたかもしれないのに」
「「(それはないな)」」
箒と一夏は部長の言葉を心の中で否定する。
「(あの人、始に執着しているし)」
「(独占欲が強そうだ・・・・始、頑張れ)」
「まぁ、学園祭も近いんだし、頑張ってね」
唐突だが、二学期が開始すると同時に始とシャルロットの二人は一組に転校生として振り分けられた。
顔見知りが多かったことから不自由のない生活を送れている。
そして、一組では学園祭に行われる催し物について話し合っていた。
「・・・・却下」
「右に同じく」
『えぇ~~~~!』
一夏と始が目の前の提案を全て却下した。
すると、クラスメイトの全員が不満の声を漏らす。
「だいたいなんだよ。ツイスターゲームとか・・・・苦労するの俺と始じゃないか」
「俺が転校した事で人数が多いんだ。そこを攻めろよ」
「でも、折角の男子だよ?有効に使わないと!」
「方向性がおかしいってことに気づいて!!」
「ならば・・・・喫茶店はどうだろうか?」
「ラウラ・・・・?」
騒ぐクラスメイトの中で挙手したのはラウラだった。
「日本にはメイド喫茶なるものがあるのだろう?それならば、私達も働けるし一夏達男子も何か生かせるのではないか?執事喫茶とかいうのもあるそうだが」
『成る程!』
「・・・・執事ね」
「俺にあうかねぇ?」
「柄の悪い執事になりそうだな」
「はっはっはっ」
一夏の言葉に始は大きな声で笑う。
「いいんじゃないか?」
端に座っていた千冬が立ち上がる。
「他のクラスとかぶりそうになった場合の候補をもう一つ考えておけ。そうならない場合は私が死守してやる・・・・邪魔したな。続けろ」
「は、はい」
一夏は戸惑いながら次の候補を考える。
「あの・・・・劇とかどうかな?」
挙手したのはシャルロットだった。
「劇?」
「なにするの?」
「これとか・・・・どうかな」
シャルロットが取り出したのは教科書として使われている仮面ライダーという名の仮面、だった。
「・・・・えっと・・・・」
「いいかも!」
「この話、結構面白いもんねぇ!」
「執事喫茶もいいけれど!ダメになったらこっちやるのもありかもね!!」
戸惑っている一夏に対して、クラスメイト達は乗り気になっていた。
「えっとぉ・・・・」
「ほら、さっさと候補に入れろ」
始に促されて一夏は表示する。
第一候補、メイド執事喫茶。
第二候補、劇「仮面ライダーという名の仮面」
「(大丈夫なのか・・・・これ?)」
一夏が不安に思いながら授業終了のブザーが鳴り響く。
昼休み。
「なぁ、始、お昼一緒に食べないか?」
「いきなりだな・・・・まぁいいか」
「おう」
一夏は始と一緒に食堂に向かう。
「一夏―って、あれ?」
「・・・・一夏さんでしたら富樫さんと一緒に行きましたわ」
「え~、またなの!?」
教室にやってきた鈴音は不満な声を漏らす。
実際の所、夏休みが終わってからというものの一夏は始と一緒に食事を取る事が多かった。
昔からの親友で、色々あった末に一緒に学生生活を送れるという事で一夏は喜んでいる。
始のほうはというと、クラスメイトの視線を少しでも緩和させるために彼と一緒に行動しているという裏があるが、あまり意識している様子はなかった。
「今はそっとしておいてもいいのではないか?始もまだ学園にきて日が浅いのだから」
「箒さんはよろしいんですの?」
「納得しているといったらウソになるが・・・・一夏にも休息は必要ではないか」
「そうですわね」
「は・じ・めく~~~ん!」
ドアが開いて「私、参上!」と書かれている扇子をひろげて楯無が現れた。
「あら、ねぇねぇ、始君、どこにいったのか知らない?」
「えっと・・・・織斑君と一緒に食堂に」
「そう、ありがとう・・・・待って~~~~」
「あれですものね・・・・」
「アイツのどこがいいのかしらねぇ」
「そもそも、始はあそこまでアタックされていて、なびかない・・・・あの精神の鍛え方があるのなら教えて欲しいものだ」
一人ずれた感想を漏らして、三人も食堂へ向かう。
食堂の一角で簪、ラウラ、シャルロットの三人が食事をしていた。
授業がスタートしてからというものの、ラウラと同室になったことや話が合うといった理由で一緒に動くというのが多くなっているシャルロット。
様々な理由で同世代の女子と触れ合う機会のなかった彼女にとっては素晴らしい親友といえる二人だった。
「しかし、シャルロット」
「なに?ラウラ」
「あの生徒会長はかなりの回数、富樫始にアタックしているぞ」
「・・・・お姉ちゃんは本気だから気をつけないと何かされるかもしれない」
かなりのいわれようだが、ありえそうだというのがラウラと簪が抱く楯無のイメージだ。
「まぁ・・・・ありえるかもしれないよね・・・・はぁ」
わかっている。
楯無の行動力のおそろしさ、このままだと始が取られてしまうという事もありえる。
「でも、どうすればいいのか思いつかないんだよねぇ」
「どうすればいいというのは?押し倒せばいいのではないのか」
「ラウラ、それはダメだよ」
「いっそ・・・・」
「シャルロットも!」
簪にいわれて二人は正気に戻る。
「だが、このままの状況というのもマズイだろうな。私の副官によるとマンネリするほど危険な物はないらしい」
「マンネリ・・・・っ!」
シャルロットは息を呑む。
学園に入学してから始とはしっかり話をしていない。
お互い、生活に馴染む為ということで色々な人と接したり考えていてまともに話をしていないのである。
「どうしょう・・・・このままじゃ、始を捕られちゃう!」
「・・・・」
簪は少し考えて。
「そうだ、二人っきりの呼び名を考えるとか、どうかな?」
「呼び名?」
「うん、シャルロットは、あの人の事をなんと呼んでいるの?」
「え、私は始で、彼はシャルロット」
「普通に呼んでいるのとは別に二人っきりの呼び名を考えるだけでも新しい気分に、なると、思うの」
「二人だけの呼び名かぁ・・・・」
「それはいいかもしれんな。私と嫁もそうすれば・・・・」
「というわけで、どうしたらいいとおもう?」
「シャルロットさんのことか?」
「あぁ」
その頃、一夏と始は二人で食事を取っていた。
周りの女子達はktktと騒ぎ、鼻血を流している人がいたが二人は意識していない。
「ここの生活に慣れさせるという理由で俺と引き離したけれど、このままだと自然消滅とかありえそうだ」
「そういわれてもなぁ・・・・俺もこういう話には疎いし、楯無さんに相談は・・・・まずいよな」
「そんなことしてみろ、俺が捕食されてマリッジ・エンドだ」
ふざけていると殺すぞ、と始は冷たい目を向ける。
「えっと・・・・弾に放課後、相談しにいかないか?」
「そうだな・・・・その方が、殺気!!」
始は持っていた箸を後ろに投げる。
直後、音を立てて、箸とクナイがぶつかって地面に落ちた。
「もう!ダーリンったらぁ」
「あ、俺の昼飯!」
余所見をした隙をつかれて楯無に昼食を奪われてしまう。
「俺の飯、返せ」
「これは私が責任を持って食べるわ。ダーリンにはこ・れ」
ドン!と大きな音を立てて目の前に、重箱が置かれる。
「おい・・・・これは」
「私の手作り弁当、ささ、食べて食べて」
「毒とか入ってないだろうな・・・・」
「あのね、食べ物に愛情を注ぐ事はあっても異物を注ぐ事はしないわ。これ、妻の基本!」
「妻になってないだろ、お前!」
始が叫ぶが楯無はスルーして重箱を開ける。
箱の中にはハートマークのご飯が目に入った。
すぐに、始は食欲を失う。
「おい・・・・」
「しっかり!味わってね!私の愛がつまってるから!」
「(重い・・・・)」
「(重過ぎる!なんだこりゃぁ!)」
目の前の重箱が放つ桃色の威圧感に始は圧されていた。
楯無はにこにこと微笑み、箸を指しだす。
食べろ、食べろ、と楯無の瞳は濁っていた。
隣の一夏はブルブル震えていて頼りにならない。
おそらく、毒物はないだろうと始は判断して食事をする。
味はおいしかった。
それだけを記しておこう。
「(うふふふふ、胃袋を掴んだわ!これで勝つる!)」
「(あの顔からして、へんなこと考えているんだろうなぁ・・・・おいしいけれど、色々と重い)」