「あ、織斑君。おはよう~、ねぇ、転校生の話聞いた?」
「おはよう・・・・転校生?この時期にか、珍しいな」
「一夏、転校生のことが気になるのか?」
「いや、珍しいなって思っただけ」
「そんなことより!一夏さん、クラス対抗の方が大事ですわ!」
クラス対抗というのはクラスごとに、クラス代表者が戦う行事で、あのアンデッドの騒動の後、セシリアが一夏に譲るということになりクラス代表は一夏となった。
クラス対抗の話を聞いたクラスメイト達がぞろぞろと集まってくる。
「頑張ってね。織斑君!」
「勝利したらみーんなが幸せになれるんだよ!」
ちなみに対抗戦などに勝利したら食堂のおいしいデザート券などがもらえるらしい。
一夏としては外出する自由時間などがほしいがそんなものは叶わないだろう。
「それに専用機持ちは四組しかいないから楽勝だよ!」
「その情報古いわよ!そして会いたかったわ一夏ぁ!」
教室のドアがバーンと開いてIS学園の制服を着たツインテールの少女が現れる。
「なっ!り、鈴!?鈴じゃないか!?なんでここにってうぉおおお!」
一夏が驚き鈴音に詰め寄ろうとするよりも早く、彼女が一夏の胸倉を掴んでそのまま外へと出て行く。
「「・・・・・・」」
「え・・・・・・今の。なに?」
突然の出来事に、セシリアと箒だけでなく教室に入ってきた虎太郎すらも呆然と見送ってしまった。
それほどまでに鈴音の行動は早かったのである。
「げほっ・・・・げほっ、何するんだよ?鈴!」
胸倉を掴まれて屋上につれてこられた一夏は目の前にいる凰鈴音を睨む。
彼女はISを部分展開してここまでつれてきたので汗一つかいていない。
凰鈴音は篠ノ之箒と入れ替わりに一夏のクラスに転校してきた女の子。
箒がファースト幼馴染なら鈴音はセカンド幼馴染というポジションに当たる。
鈴音の父親が経営する中華料理店で何度かお世話になった事があり、鈴音とは喧嘩したりしているうちに自然と仲良くなった。
「まずは久しぶり一夏♪」
「おう、久しぶり・・・・って、教室でいっても問題ないだろ?」
「うるさいわね!場の雰囲気は大事にするタイプなのよ。私は!それと・・・・・・あんたに聞きたいことがあるんだけど」
「なんだよ?」
「仮面ライダーになるって夢・・・・叶えたみたいね?」
その言葉には少し語弊があるが、一夏は訂正する余裕がなかった。
「っ・・・・どうしてそれを?」
鈴音の言葉に一夏は動揺する。
まだ彼女には話していなかった。
一夏の態度だけでえられる答えを手に入れられたのか鈴音は息を吐いて。
「空港でアンデッドっていうのに襲われたわ」
「大丈夫だったのか!?」
「えぇ・・・・それで決めたことがあるの」
「決めたこと?」
「それはまた話すわ。それよりも・・・・私との約束覚えてる?」
「約束って・・・・・・あれか?大きくなったら毎日酢豚を作ってあげる・・・・だったか?少し記憶が曖昧だけど」
「そうよ♪ちゃんと覚えていて嬉しいわ」
「でも、これどういう意味なんだ?毎日酢豚を作ってあげるって奢ってくれるという意味じゃないんだろ?」
嘗て、彼女のとの約束のすぐ後に奢ってくれる!?といった途端、頭部に容赦なく踵落しが炸裂したのを思い出して攻撃を受けた箇所が痛くなってきた。
「う・・・・うん、その・・・・その」
鈴音にしては珍しく歯切れの悪い。
一夏が彼女の返事を待っていると屋上のドアを蹴破るようにして二人の少女がやってきた。
「一夏!」
「一夏さん!」
「うぉっ!?」
「アンタ達!?何の・・・・」
「一夏さん、急いでください!」
「“反応”があった!」
「っ・・・・場所は!」
箒の一言で一夏は表情を変える。
鈴音に見えないようにして小型のアンデッドサーチャーを見せた。
「わかった・・・・」
一夏は懐からブレイバックルを取り出してスペードスートのカテゴリーAをブレイバックルの中心部ラウズリーダーに装填して、屋上から飛び降りた。
「なっ!?」
「きゃあああ!?」
「い、一夏!?」
箒が目を見開き、セシリアが悲鳴を上げて鈴音がISを部分展開しようとするが、彼女達の前でオリハルコンエレメントを展開してブレイドへと変身した。
着地すると無人走行でブルースペイダーがやってくる。
ブレイドはブルースペイダーに乗って向かう。
次の授業のことなどすっかり忘れて。
ある山にある森の中で二人の人間が化け物に襲われていた。
いや、一人の人間が襲われているというほうが正しいだろう。
既に片方は目の前にいる化け物によって黒こげにされていないのだから。
「ひっ・・・・あっ・・・・ひ」
男はゆっくりとこちらに雷をまとって近づいてくるアンデッド。ヘラジカの祖たるディアーアンデッドはゆっくりと男へと近づいていく。
男はつまずきながら反対の方へと逃げる。
逃げている男の横をブルースペイダーが走り抜けた。
「ふっ!」
ブレイドはバイクからジャンプしてディアーアンデッドへキックを放つ。
真正面からの攻撃をディアーアンデッドは自身の得物、二本の七肢刀で受け止め後ろへ投げ飛ばす。
空中で回転し着地したブレイドはラウザーホルスターから醒剣ブレイラウザーを抜いて刃の上に手を乗せるようにして構える。
両者とも動かない。
お互いの放つ殺気に無駄に動いたらやられると察知しているからだ。
どちらも動かない状況の中、動き出したのはディアーアンデッド。
二本の七肢刀を交互に繰り出していく。
「くっ!?」
ブレイドはブレイラウザーで一本目を弾いてすぐに刃を振り下ろす。
ガギギィンと二本目の七肢刀とブレイラウザーの刃がぶつかる。
もし、振り下ろすのが遅ければ敵の刀がブレイドのアーマーを切っていただろう。
相手の動きに警戒しながらもブレイドも攻撃を繰り出していく。
「くそっ、動きが・・・・」
ブレイラウザーをディアーアンデッドは七肢刀でさばくようにしている。しかし、ブレイドのほうが剣裁きは上のようでディアーアンデッドの体に一撃、一撃と与えている。
しかし、どれも七肢刀に裁かれていたので威力が半減している上、決定打に欠けていた。
「こうなったら・・」
ブレイドは大きくディアーアンデッドと距離をあけてブレイラウザーのオープントレイを開いてプライムベスタを取り出してスラッシュリーダーに読み取らせた。
『スラッシュ』
カテゴリー2“スラッシュリザード”の力がブレイラウザーに付与されて、ブレイドは低く構える。
何かをやる前に倒す!と考えたのかディアーアンデッドが七肢刀を振り下ろしてブレイラウザーの動きを止めた。
そして、片方の七肢刀で止めを刺そうとしてディアーアンデッドの視界が暗転して地面に倒れる。
動かないディアーアンデッドにブレイドはプロバーブランクを投げた。
プロバーブランクに吸収されてディアーアンデッドは封印される。
「ははっ・・・・上手くいった・・・・・・」
ブレイドは手の中に、スラッシュの後に読み取らせたプライムベスタがあった。
カテゴリー4、タックルボアのカード。
スラッシュで切れ味を増しておき、敵の動きを封じると同時にタックルの力で相手の七肢刀を破壊して本体にまでダメージを与えた。
無茶苦茶だが、上手くいった。
そう考えてブレイドはブルースペイダーに乗ってその場所を離れていく。
「・・・・・・あれが“今”のブレイドの実力か」
戦いを見ていた男はそういって“空”へ飛んで姿を消す。
学園へ戻って自室で休もうとしていた一夏を待っていたのは教科書などの類を持った山田先生だった。
「さぁ、今日の分の補習をしますよ。織斑君」
「あ、はい・・・・」
アンデッドとの死闘を繰り広げて帰ってきた一夏を待っていた補習という名の授業。
ある意味当たり前の日常で嬉しい一夏。
しかし、非日常がゆっくりと、しかし確実にIS学園へ迫っていた。
「申し訳ありません。突然の電話に応じていただきまして・・・・」
「いえ、構いません。私としては一度織斑の姉であるあなたと話をしてみたかったので」
橘朔也は目の前にいる織斑千冬に言う。
突如、彼女から電話が掛かってきて相談したい事があるといい、こちらの空いている都合を伝えて、喫茶店ハカランダで待ち合わせをしたのである。
“喫茶店ハカランダ”白井虎太郎の姉である栗原遥香が経営しているお店で、BOARDの職員が愛用している店でもあった。
二人はコーヒーを注文してお互いに向き合う。
「橘さん。一夏は何と戦っているのですか?その戦いは何故一夏が行なっているのですか?他に行なえる相手がいるはずです」
「(ストレートにきたな)織斑一夏君が戦っているのは人類が誕生するよりも前に存在していた地球上の生き物の始祖といえるアンデッド、確かに彼以外にも戦える人はいました。ですが、彼が誰よりも一番、覚悟があり、私と・・・・私の仲間が用意した課題を全てクリアしたのが彼だったからです」
「だからって・・・・・・若い一夏を・・・・戦わせる理由にはならない」
「・・・・数年前の誘拐事件」
ぴくりと、千冬の手が動く。
「貴方はモンド・グロッソの大会に出場しており、次の戦いに勝てば優勝という状況の時に織斑一夏君は誘拐された。貴方はすぐにでも助けにいけたはずだ・・・・だが、出来なかった」
「それは・・・・」
「如何なる理由があれ、あの時、一夏君は貴方に見捨てられたと思い込みショックを受けた。その時、彼を助けたのが私の仲間。彼は傷ついている彼の心を癒そうとした。その行動、言動、全てを見て一夏君は望んだ。彼のようになりたい。彼のように誰かを助けられるような人間になりたい・・・・と」
あの時、橘は剣崎一真に尋ねた事がある。
どうして、一夏の傍にいてやるのか?と、彼にはちゃんとした家族がいるはずだと尋ねた。
その時の剣崎は苦笑してこういった。
『確かにあの子は家族がいますよ?でも、その家族に見捨てられたと思い込んでるんですよ・・・・体の傷は癒せても心の傷を癒すのは簡単じゃないんです。だから俺は彼の傷を癒してあげたい。そしてまた家族と向き合えるようにしてあげたいんです』
「私は別に、あの時の事を責めるというわけではありません。ただ、ちゃんと・・・・織斑一夏と向き合ってあげてください。貴方がどんな理由であれ、一夏君は裏切られたと思っています。あなたが向かい合うのは私ではなくほかにいるはずです。それでは――」
本当は詳しい事情を聞くつもりであった橘だが、今の彼女と話しても得られるのはないと判断して席を立つ。
残された千冬は一人考える。
一夏と向き合うにはどうすればいいかを。
「ふぅん・・・・あれがお前の敵である織斑千冬なのか?」
「あぁ・・・・あいつさえいなければ、一夏は“私のもの”なのだが」
「いや・・・・モノ扱いはどうかと思うんだけど・・?」
「エスの言葉に賛成。てか、こんな所で会うとは世界は狭いな」
「そうだね・・・・」