「というわけで頼む!」
IS学園の屋上で織斑一夏は両手を合わせてセシリア・オルコットに頼み込んでいた。
傍で箒は黙って様子を見ている。
「しかし、これはクラス代表である一夏さんの仕事ですわ?それを私なんかが担当するわけには、第一、織斑先生が許可するわけが・・・・」
「そうなんだが、どうしてもその日は行かないといけない場所があるんだ。俺と箒で」
「篠ノ之さんと・・・・?でしたら私も」
「すまない、セシリア。その場所にはどうしても二人で行かないといけないんだ(べ、別にそこで何かをするわけんじゃないから安心してほしい)」
後半のほうは一夏に聞こえないようにひそひそと小声で話している。
数日後に控えたクラス対抗戦、その日に一夏と箒はどうしてもいかないといけない場所がある。
IS学園の行事よりも優先しないといけない事だった。
「ですが、私がオーケーしたとしても」
「許可してやろう」
「お、織斑先生!」
いつもの剣呑な雰囲気と異なってびくびくしているように見えるのはここにいる三人だけだろうか?
「大事な用事なのだろう?それなら許可しよう・・・・・・すぐに戻って来るんだぞ」
「わかりました」
「ありがとうございます」
淡々と答える一夏とぺこりと謝罪する箒の二人に千冬は微笑もうとするが緊張してしまい、顔が引きつっているようにしか見えない。
それが逆に三人に対して余計な警戒心を抱かせることとなる。
「(一夏さん、箒さん!あなた方、何かなさったのですか?)」
「(いや、何も)」
「(俺も身に覚えがない)」
「(こいつらが何を考えているか手に取るわかるが・・・・ここは我慢だ)以上だ、そろそろ授業が始まるから教室にもどれ」
「「「あ、はい」」」
三人は恐ろしいものを見たような表情を一瞬してすぐに教室へ向かう。
「正面から向き合うというのは・・・・・・・・難しい」
がっくりと項垂れる織斑千冬だった。
Kは部屋でナイフを手に不気味に笑っている。
「ご機嫌だな?おい」
「ん・・・・オータムか。そりゃご機嫌もなにも・・・・・・ようやく、俺の目的が叶うんだからな・・喜ぶなって言う方が無理だ」
「まぁいいが・・素顔だけは晒すなよ」
「わかってる。スコールには迷惑かけねぇよ」
「ならいいっておい。私にはどうなんだよ!?」
「・・・・・・愛しのスコールに迷惑がかからないなら大丈夫だろ?彼女の恋人さん」
「ふん・・・・ならいい」
一部皮肉が込められていたが、気にしない。
いつものことにオータムは部屋を出る。
「さて・・・・俺も動くか」
Kは愛用しているコートを纏い、部屋を出た。
BOARDの部屋で橘朔也は報告書を見ていた。。
フランスのIS企業のデュノア社社長が何者かに殺害された事件。
殺害方法は首を一ひねり、アンデッドの殺害かと思われたのだが、狙われたのは社長一人ということだった。
「(時期が同じなのはたまたまなのか?ライダーが目撃された場所に近い・・・・偶然ならいいが、もし、これがライダーによる犯行だとしたら)」
橘は小さくため息を吐いて、書類を机の上におく。
彼の頭に浮かんだ疑問は消えなかった。
クラス対抗戦当日。織斑一夏と篠ノ之箒はある墓地へ歩いていた。
「あれから・・・・もう何年も経つんだな・・・・一夏は毎年?」
「あぁ、忘れられないからな・・・・」
「私はISのせいで、行く事ができなかった・・・・そんな私がいってもいいのだろうかと思ってしまう」
「いいに決まっているだろ?不安になるなよ。箒」
「一夏・・・・」
一夏はぽんと箒の肩に手を置いて階段を上がっていく。
少ししていくつものお墓がみえてくる。
一夏と箒の二人は墓参りに来たのだ。
墓標には深沢家之墓と書かれている。
「小夜子さん、お久しぶりです。篠ノ之箒です」
この墓には深沢小夜子という女性が眠っている。
昔、一夏と箒が幼い頃、近所で開業医として働いていた深沢小夜子の家によく遊びに行っていた。
小夜子は子どもの面倒を見るのが大好きで、いろいろな話を一夏と箒に聞かせてくれた。
「また・・・・来ていたみたいだな」
「小夜子さんの彼氏か・・・・」
昔、彼女が元気なさそうな時があって二人が聞いてみると、「彼の様子がおかしくてね」と苦笑していた時がある。
その時に一夏が彼氏?と尋ねたら笑いながら少し違うかもと濁してちゃんと教えてくれなかった。
墓には彼女が好きだった花が置かれている。
「あれ・・・・」
一夏の視界に一人の少年が目に入る。
小夜子さんの大好きな花を手に持ち、年齢は自分たちと同じくらい。
「もしかして・・・・・・織斑?」
「始?富樫始か!?」
「・・・・久しぶり」
富樫始、織斑一夏、篠ノ之箒、そして五反田弾の友達という間柄だった。
始とは小さな頃、篠ノ之家の道場で稽古を受けた間柄だ。
一夏とはいろいろな事でもめていたがおそらく親友と呼べる数少ない間柄だと思う。
中学にあがった頃に始、一夏、弾の三人でよくつるんでいた。
「もしかして、篠ノ之さん?」
「富樫か・・・・久しぶりだな」
「富樫はいまどうしているんだ?」
「学生だよ。その制服だと、二人はIS学園の生徒?」
「あぁ・・・・」
「俺も色々あってIS学園に」
「一夏らしい」
あれ・・・・?と箒は不思議な違和感を覚えた。
その違和感がなんなのかわからない。
だが、何かおかしな気がすると思って口を開こうとした途端、箒は奥の茂みからゆっくりと現れる存在に気づいた。
漆黒のハートスートのカテゴリーA・カリスが。
「一夏!」
「ひっ!」
「下がってろ二人とも!」
『お前らに用はない・・・・』
一夏はポケットからブレイバックルとスペードスートのカテゴリーAを取り出してバックルをセットする。
「変身!」
『ターン・アップ』
ターンアップハンドルを引いて目の前にオリハルコンエレメントを展開して潜り抜けてブレイドに変身するとカリスを組み合う。
『どけ・・・・』
「何が目的だ!」
『どけ・・・・といっている!』
カリスは叫ぶと同時にブレイドに一撃を叩き込み、投げ飛ばす。
いくつかの墓を壊しながら倒れた。
「一夏!」
カリスは醒弓カリスアローを構えて富樫始へと向ける。
富樫始は恐怖で表情が歪み逃げ出す。
逃げだした富樫の足を高熱エネルギーで形成された矢・フォースアローで射抜く。
「がっ!」
足から赤い液体を流して倒れ込む。
「お前ぇえええええええええ!」
ラウザーホルスターからブレイラウザーを引き抜いてカリスへと斬りかかる。
カリスはそれを左へ交わして、バックルのカリスラウザーをカリスアローと合体させてラウズカードを読み取らせた。
『バイオ』
カリスアローから植物の蔓が飛び出てブレイドと箒を拘束する。
「くっ!」
『どけ』
拘束されて動けない箒を押しのけてカリスは地面を這って逃げようとしている富樫始の服を掴んで無理やり立たせた。
「あぁ・・・・っ!助け・・・・」
『それ以上、その顔で呻くな』
カリスは富樫始の首を手で掴んでそのままへし折る。
ぽきり、と木の枝が折れるような音と共に富樫始は動かなくなり、地面に崩れ落ちた。
さらにとどめとばかりに顔に拳を叩き込む。
「お・・・・・お前ぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
蔓を引きちぎりブレイドは激昂し、カリスへと拳を放つ。
カリスは避けずに片手で拳を受け止める。
怒りの一撃を受け止めると同時にバァンと乾いた音が響く。
「なんで・・・・始を・・・・・・」
ブレイドの目の前にいるのは敵・カリス。
殺気で場を支配している二人を囲むようにして突如、アンデッドが複数現れる。
カリスは目の前にいるセンチビード、モスアンデッドの二体へカリスアローを構えて斬りかかる。
ブレイドは怒りを隠せずトリロバイトアンデッドアンデッドと向かい合う。
「ふん!」
カリスはカリスアローのソードボウでセンチビードを切り伏せる。
『トルネード』
ハートスートの6“トルネードホーク”の力を使い、フォースアローに風の力を付与させてホークトルネードをモスアンデッドに攻撃を放つ。
攻撃を受けたモスアンデッドは地面に倒れ込む。
攻撃を仕掛けようとしてセンチビードアンデッドの鎌をカリスアローで受け止める。
「これで終わりだ」
『チョップ』
『トルネード』
『スピニングウェーブ』
カテゴリー3と6によるコンボ技・スピニングウェーブを至近距離で受けたセンチビードアンデッドとモスアンデッドを巻き込んで爆発する。
二体はそのまま倒れ込み、腰部のバックルが開く。
カリスはプロバーブランクを二枚、アンデッドに向かって投げる。
二体が吸い込まれたプライムベスタはカリスの元へ戻った。
ブレイドはブレイドラウザーを振り下ろすがトリロバイトアンデッドの右腕の盾によって弾かれる。
追い討ちをかけるようにしてトリロバイトアンデッドは左手の二本の爪がブレイドのアーマーを斬りつけた。
「一夏!?」
「大丈夫だ!箒は安全な所に!」
叫んでトリロバイトアンデッドと距離を置いて、ブレイラウザーのオープントレイを展開し二枚のプライムベスタを取り出してスラッシュリーダーに読み取らす。
『サンダー』
『キック』
『ライトニングブラスト』
ブレイラウザーを地面に突き刺し体制を低くして、ブレイドの角から顔まで赤く発光し、スペードの形をなす。
「ウェェェェェイ!!」
地面を蹴って空中を舞い、電撃を纏った右足を前に繰り出す。
トリロバイトアンデッドは右腕の盾を構えるが、ライトニングブラストの強力なキックは盾を破壊してトリロバイトアンデッドの体を貫く。
「グルルルル」
うめき声を上げて地面に倒れ込み、腰部のバックルが開く。
「・・・・」
ブレイドはプロバーブランクを投げてトリロバイトアンデッドを封印する。
同時にカリスも戦闘を終えていたので両方とも向かい合う。
「・・・・・・・・」
少し冷静さを取り戻したブレイドだが、カリスに対する怒りが消えたわけではない。
現にブレイラウザーを握り締めている手はギチギチと怒りに震えている。
唐突にカリスは口を開く。
「お前は何も知らない」
「なに・・・・・・」
「あの日。誘拐された日に起こった出来事の本当の目的も・・・あの人形がなんなのかも――お前は」
――何も知らないのだ。
「黙れ!」
ブレイドは叫ぶ。
カリスの言っていた人形=富樫始だとわかり叫ぶ。
「俺が何を知らないというんだ!?お前は何を知っていると・・・・」
「・・・・・・・・」
カリスは言うだけ言うと、茂みの中へと消えていく。
後を追いかけることが出来なかった。
何故なら、停車させていたブルースペイダーから通信が届く。
『一夏君!大変だよ!IS学園にアンデッドが出現したんだ!五反田君がこっちに向かっているんだけど、このままじゃオルコットさんと凰さんが危ないんだ!』
「グッ・・・・はっ・・・・はぁ・・・」
カリスから人間の姿に戻ってKは嘔吐する。
その中に赤い液体も混じっているがKは気にしない。
いや、慣れたという言葉が正しいだろう。
既に何年も味わった苦しみ。
――誰にも話していない。
――誰にも理解されない苦しみ。
「くそっ・・・・・・慣れたつもりだったのにな」
Kは口元を拭いながらおぼつかない足取りで歩いていく。
ここから離れないといけないし、次の任務が待っている。
手元のプライムベスタを懐に仕舞って歩き始めた。
「(後悔はない・・・・・・全てを取り戻すんだ。名前・・顔も取り戻した。後は・・・・)終わらせるだけだ・・・・この原因を作り出したヤツを見つけて・・・・殺すだけ」
覚悟を決めて進む茨の道。
K・・・・否、富樫始という“名前を取り戻した”少年は歩き始める。
どこまでも暗く重たい道。
それを止めることを出来るものはここにはいない。