異世界?での改変生活 作:松竹
長文の感想ありがとうございました。正直とても参考になりました。これまでもいくつも感想を送ってもらい指摘された点について自分なりに「次は気を付けよう」と考えてはいましたが今回のご指摘はこの話の「根本的な問題」に気付かせて貰いました。
長くなりそうなので感想の返事だけ書いて置きます。とりあえず今後は今まで私が気にしていた「このほうが普通っぽいんじゃね?」みたいな考えはあまり気にしない事にします。
もともと話が進めばオリ主も精神的に成長させようとは思ってたので基本的な方針と言うか話の方向性自体は変わらないと思います。なのでいきなりキャラの性格が変わる事は無いと思いますがもしかしたら違和感を感じる方もいるかも知れません。なるべくそうならない様に注意しますがその時はごめんなさい。
「……はぁ」
復興途中のオスティア市街を抜け、人影の疎らな外延付近で一人ため息をつく。
既にナギとの試合が終わり数日の時が経っている。とりあえず王宮内では俺が懸念していた様な
どうも試合以来アスナの魔法に対する興味が増したらしく、最近の彼女はよく魔法について教えを乞うて来るんだが俺は人にモノを教えるのが苦手だったらしい。もともと原作介入のために魔法学校で色々調べたりしていたので一般的な水準よりは俺の知識量は多い。多いがだからと言ってその知識を人に伝えるのが上手いかどうかはまた別のお話。
「この前教えてたんじゃ?」と言われるかも知れないがあの時やってたのは俺が簡単な魔法を見せてそれをアスナが真似して見るといったハッキリ言えば遊びの延長の様なものだ。で、今回乞われたのは本格的な魔法の勉強。初歩的な知識や魔法くらいは何とか教える事が出来たがそれ以上は無理。子供特有の何にでも疑問を持つ性質の所為で時に俺が今まで疑問に思わなかった様な事にも「……なんで?」と聞いてくるから俺にも答えられない事がよくあるし、そもそも俺の説明は自分でも解るくらいに下手くそで解り難い。
なんというか自分の頭の中で色々考えを整理する事は出来るんだがそれを上手く人に伝えられない。要するに「魔法先生 サイま!」の連載は開始数日をもって打ち切りなりました。
そこで白羽の矢がたったのが俺とは比べ物にならない知識を有するだろう世界屈指の魔法の使い手でありあのナギの師匠でもあるゼクトだ(何?アルも色々知ってるんじゃ?あの変態をアスナに近付けるなんざ在り得ないね!どんな悪影響があるか解ったもんじゃない!)。
元々【紅き翼】の面々はオスティアの復興作業に従事していた訳だがこの前の試合までに瓦礫の撤去なんかの力仕事もほとんど終わり、今彼らにできる事はほとんど無い(ハイスペックな彼らにも壊れた家を建て直す事はできないしね。それは大工やら専門家の領分だ)。なので最近の彼らは王宮内にいる事が多い。まぁ【紅き翼】がオスティアに滞在している間も当然続いてる戦争の動向やらを知るために色々情報を集めたりしているので別に何もしてない訳じゃないが。
そんな訳で以前よりは手の空いているゼクトにアスナの教師役をお願いしてみた所、快く引き受けてくれた。俺も興味があったのでアスナと一緒にゼクトの講義を聞いてみたが……やはり俺とは一味違う。話は理路整然としていて解り易いし、アスナの疑問にも己の見解なども交えて的確に答えてみせる。理論的な話の後は実際に簡単な魔法を使ってみる実技の時間も入れたりとアスナを飽きさせない様な工夫も色々考えられていた。正直言ってなんでこの人の教えを受けたナギがああも大雑把な魔法の使用しか出来ないのか理解不能だ。
原作ではバカレッドの名を持つアスナだがこの世界の彼女の頭はけして悪くない。多分原作のアスナの頭の悪さは記憶消去の魔法の悪影響なんだろう(ネギも少々頭がパーになるとか言ってたし)。もしくはアルバイト生活の疲れで授業に集中できないから単に勉強が出来なかっただけかもしれない。ともかくナギと違い出来のいい生徒なアスナにやりがいを感じるのか講義初日以降も「よければワシ等がオスティアに居る間くらいは教師役を続けたいんじゃが?」とゼクトから申し出がくる程度にはアスナは優秀だ。
アスナもやる気になっているのでここ数日は「魔法先生 ゼクま!」のお時間だ。俺も知らなかった様な事も教えてくれるので色々興味深いんだが如何せんあくまで生徒はアスナでありその話もやはり初歩的な知識が中心になる。流石に俺にとっては今更なモノも多いので少々手持ち無沙汰になった訳だ。正直ゼクトが付いているなら俺がアスナに張り付いている必要も無い。ゼクトは俺より強いし【紅き翼】の中で最も守りに長けた存在だ。戦闘経験も長年生きてるゼクトと俺じゃ比べるべくも無いしね。
なのでアスナの護衛を一時的にゼクトに任せ、とりあえずもう一人の護衛対象のアリカの下へ。
現在のウェスペルタティアの体制をものすごく簡単に言うとアリカが全体の意思決定をしてアルナがその意を受けて動く形だ。なのでアリカは普段執務室で仕事をしていて表にでる事はほとんど無い。ようはアリカが王宮内から出ないからこそ俺がいつもアスナの護衛兼遊び相手をやれる訳だ(俺に政治的な話は解らないのでアリカといても精々ボーっと立ってるくらいしかできないしね)。
アスナといてもやれることが無いなら何か他にできる事は?とアリカの下に向かってみたが……こちらでも俺にできる事は無かった。執務室ではなにやらアリカとアルナ、ついでに何故かアルビレオが難しい顔で話し合っていて俺が割り込む余地が微塵も無かった。で、恐る恐る話しかけて見た所「ん?サイか。何?仕事は無いかじゃと?ふむ……特に無いな」みたいな感じ。
仕方ないからアスナの所に帰るかと部屋を出ようとした所アリカから声がかかり「お主も先の戦や試合で疲れも溜まっているじゃろ?ゼクトがアスナに付いておるなら丁度よい。たまには体を休めるがいい」と何故か休暇を貰ってしまった。
年中無休で今も絶賛仕事中。明らかに俺より大変なアリカに「疲れておるじゃろ?」と言われて「その通り」などと言えるほど面の皮が厚くない俺だがくれると言う物を拒否するほど
俺がまずした事は先日から気になりつつも出来なかった「街での俺の風評」の確認だ。通常街に行く機会が無いので気にしつつも後回しになっていたが俺にとってはある意味今最も重要な問題だ。結果如何によっては今後街に行き難くなる。とりあえず外套を羽織りフードで顔を隠しながら話を聞いて回って見た所……とりあえず俺のロリコン疑惑についてはほぼ問題無かった。……無かったがそれとは別の問題が発生していた。
……どうも俺はロリコンでは無く「幼女から老女までイケる男」らしい。
なんでやねん!!
思わず使えもしない関西弁を使ってしまうほどの衝撃!話をしていたオッサンが引くほどの勢いで詳しい噂の詳細を求めたところ何とか原因が判明した。原因は……俺だった!
どう言う事かとりあえず簡単に噂の経緯を説明する。まずあの試合はアルナ達の悪意?ある演出のお陰でアスナをめぐる恋敵同士の決闘にされていた。次にナギとの試合中へたれた俺を叱咤したアリカの姿は当然あの場に居た数万の人間が目撃している。で、試合後に当然その時の話をいろんな人が口にする。
おそらく最初は俺が「アスナ姫だけじゃなくアリカ女王とも仲が良い」みたいな内容の軽口の類だったんだろう。だが人の話というのは人から人へ伝わる内に少しずつ誇張され脚色されていく。俺が王宮から動けなかったこの数日をかけて面白おかしく脚色されまくった結果、最初は「サイはアスナとアリカと仲が良い」みたいな話がいつの間にか「サイは女性であれば誰にでも手を出す真性の女好き」に変貌していたのだ!
俺がへたれ無ければアリカが俺を叱咤する必要は無く、当然「サイはアリカと仲が良い」みたいな話が出ることも無かっただろう。その場合は最初に恐れていたロリコン疑惑が浮上していた可能性もあるが今となってはあったかもしれない可能性の話。今の噂の内容では俺が原因の一端を担っているのでアルナやアルビレオだけを責める訳にもいかず怒りのやり場も無い。いまさら噂を払拭する手も思いつかず気落ちしながら歩いていたら、いつの間にか人気の無い所まで来ていた訳だ。
「……はぁ」
ロリコンと度を越した女好き、果たしてどちらがマシなんだろう?人によって回答の異なる問題だろうが俺にはどちらも五十歩百歩だ。答えの見つからない深遠な問いに対する答えを求め一人物思いに耽る。
「……ままならんなぁ」
元々自分が原因ではあるが憂鬱なモノは憂鬱なのだ。「世界はこんなはずじゃ無かった事ばかり」みたいな事を言っていたのは誰だったか……。あんまりよく覚えてないんだが確か……黒い人が言ってた気がする。
「確かク?…ク…クロ…クロ……ス?」
あれ?それはどこかの不良神父な元帥だったか?確か黒い人は提督だったような……あれ?逆だったか?まぁどっちも黒かった気がするし似たようなモンか?
「……よく考えたらどうでもいいな」
なんでこんな事考えてたんだろうか?どうも思考が迷走してる気がする
「ふぅ……まぁいいか。人の噂も75日って言うし」
何時までもグダグダ悩んでいても仕方ない。前向きに考えよう。話してたオッサンも冗談半分くらいの感じだった気がするし。
「そう言えばこの辺りには来た事無かったな」
どうも考え込んでいたら今まで意図的に来るのを避けていた場所に来ていたようだ。
「この街に住みだしてからも出来るだけ近付かない様にしてたからな」
顔を上げ視線を送った先に巨大な建造物が見える。かなり距離があるから正確なところは解らないが多分オスティア王宮に匹敵するんじゃないだろうか?視線の先には空に浮かぶ巨大で壮麗な建造物---
「……あれが【墓守り人の宮殿】か」
---【完全なる世界】の本拠地、原作最終決戦の地【墓守り人の宮殿】が悠然と存在していた。
初めて【墓守り人の宮殿】をこの目にして感じた事は先ずデカイ!そして何よりも思ってた以上に近い!近すぎる!ハッキリ言ってマジで怖い!
【墓守り人の宮殿】はそもそもオスティアの一部な訳だから当然ではあるが本当にこの街の目と鼻の先と言える場所に存在している。街から完全に独立して存在してるし住民はおろか王族ですら基本的に立ち入り禁止な場所だから誰もその存在を気にかけない。まさに灯台下暗し。よもやあんな所が世界最大最悪最強の闇組織【完全なる世界】の本拠地になっているとはアリカ様でも気付くまい。
俺はアリカに原作知識のいくつかを話したが【墓守り人の宮殿】についてと【完全なる世界】の幹部連中の詳細については未だに話していない。
理由はいくつかあるがまず【完全なる世界】の幹部達については正直どこまで話していい物か判断が付かなかったからだ。只でさえ情報源は「前世の知識」なんて胡散臭いモノだ。俺の知ってることなんか原作にでていた表層的なモノでしかないがそれでも余りに詳しすぎると余計な疑念を呼びかねない。
【墓守り人の宮殿】については簡単。理由は危険だからだ。自らが統べる国、守るべき街の目と鼻の先、自分の目の前に世界の裏で暗躍する闇組織の本拠地が存在すると知ってあの女傑が黙っていられるか?答えはNOだ。流石に全軍で特攻するなんてバカな真似はしないだろうが(この国の総力を挙げても返り討ちにあうだけだ)それでも何の対処もせず放置も出来ないだろう。アリカの性格を抜きに考えても国の指導者が自国を脅かす存在に対して完全に放置するなど在り得ないことだ。
そうするとどうなるか?多分【完全なる世界】の目を引いてしまう。
今のところ彼らからのリアクションは何も無い。これは俺達の行動や情報に気付いてないと楽観的に考えるよりは取るに足らない存在だから放置されていると考えるほうがシックリ来る。【完全なる世界】は世界中に根をはる巨大な組織だ。今の段階で俺達の行動に脅威など感じないだろう。
だが俺達が【墓守り人の宮殿】に手を出せば流石に黙っていてはくれない。アレは彼らの本拠地であり【造物主】も住まう【完全なる世界】の中枢だ。その情報が外部に漏れていれば当然対処するだろうし俺達の下には彼らの計画の鍵であるアスナもいる。今の所彼らがアスナを放置しているのはおそらく儀式の準備が整ってないからと早過ぎる段階でアスナを確保する事で余計な興味を集めないように慎重を期しているからだろうがこれは言い換えれば俺達程度はいつでも潰せると言う意味でもある。
だから話せない。言えばアリカやアルナは動かざる得ない。だが動けばほぼ確実に殺される。俺一人で彼らを退ける事は不可能だからだ(最大限に楽観的に見て1対1でギリギリ五分、複数相手なら間違いなく負けるだろう)。正直俺が色々隠している事に気付きながらも信用してくれているアリカ達には申し訳なさと感謝の気持ちで一杯だ。いずれ全部話そうとは思ってるがどのタイミングで話すべきかずっと悩んでいた。
「だけど今は【紅き翼】がいる」
そろそろ俺も本格的に動く時期が来たのかもしれない。今まではただアリカやアスナの傍にいただけでこれと言って明確な行動を起こした訳でもないが俺が本気で原作の流れを変えようと思うなら多少のリスクは覚悟の上で動くべきだ。
「幸いこの世界のナギは多分原作より強いしな」
未だに原作の【紅き翼】のメンバーは揃ってないが此方の最強戦力は強化されている。それだけでラカンやガトウの穴は埋まらないがその分は出来るだけ俺ががんばろう(いや俺一人であの二人と同等の働きが出来るとは思ってないけどね。てかそんなの不可能)。
「ん?呼んだか?」
「おわ!?」
「何驚いてんだよ?」
何時の間に来たんだよ!
「【紅き翼】がいる~あたりだな」
心を読むな!
「何言ってんだよ?さっきから全部喋ってんだろうが」
「なん……だと!?」
まさか俺は無意識に全部口に出してたのか?一人でブツブツ喋ってたのか?だとしたら傍から見ると今の俺って危ない人って言うかキモイ人じゃないのか?もしかしてこの辺りに人がいないのは俺が原因なのか!?
「で?何か用かよ?」
ふぅ…少し落ち着こう。ナギの接近に気付かなかった事といい少し気を抜きすぎてたみたいだ。
「そっちこそ態々こんな所に来たんだ。何か俺に用があるんじゃ無いのか?」
「いや?今日はアルナのお供もねぇし、やる事ねぇからブラブラしてたらお前を見かけてな?暇だから付いて来た」
「そうか……」
どうする?丁度いい機会だし全部話してみるか?ナギなら俺の胡散臭い話も信じてくれそうだしな
「……【完全なる世界】って聞いたことあるか?」
「へぇ~要するにそいつ等がこの戦争の原因な訳か?」
「まぁ其処まで単純な話でも無いけど【完全なる世界】が裏で暗躍してるのは事実だな」
で、原作漫画のネギま!以外の事を全部話してみた結果想像以上にアッサリ信じられてしまった。
「てか随分アッサリ信じるな?少しは疑わないのか?」
「あん?だって本当なんだろ?」
何で疑う必要があるのか?と言わんばかりの態度だ。こういう良くも悪くも単純と言うか真っ直ぐな所が人を引き付けるんだろう。俺には絶対無理だ。俺がナギの立場なら間違いなく相手に疑念を覚える。
「まぁいい。ともかくこの戦争を止めるには【完全なる世界】を排除する必要が在るって事だ」
「んでそいつ等の親玉が
そう言ってナギは彼方に浮かぶ【墓守り人の宮殿】を指差す
「そう言う事だな」
ナギの言葉を肯定し頷く
「んじゃ行くか」
あれ?少しおかしな言葉が聞こえたんだが
「……何処へ?」
「何言ってんだよ?すぐ其処に敵の親玉がいるんだろ?ならこれからちょっと行ってブッ飛ばせば良いだけじゃねぇか」
イヤイヤイヤ!?良くないからね!?俺の話ちゃんと聞いてたのかコイツは!?
「あのなぁ。言っただろ?あそこには敵の幹部がゴロゴロいるんだよ。全員が【紅き翼】クラスの相手だぞ?【造物主】にいたってはお前でも勝てるかどうか解らない本物の化け物だ。いくらなんでも俺達だけで考え無しに特攻かけてどうにかなる相手じゃ無いよ」
いくら今のナギでも俺と2人だけで【完全なる世界】の幹部全員相手にするのは不可能だろう。それに原作ではナギ一人で倒した【造物主】だがこの世界でも上手く行くとは限らない。この世界は漫画とは違うのだ。ナギが原作より強くなっている様に【造物主】が強くなってない保証も無い。短慮に動いて万一ナギが敗れればもう誰にも【造物主】を倒せなくなる。それに仮に上手い事全員倒せてもそれはそれで問題だ。
「それに【造物主】は
「ああ。そうだっけ?メンドくせぇなぁ。でもお前が何か考えてんだろ?」
「一応な」
考えてはいる。原作の情報を頼りに自分なりに対処方法を考えて検証も重ねてきた。
「じゃあお師匠達も呼んで全員で行けば……」
「それも駄目だ」
それでも足りない。失敗の許されない一発勝負なのだ。しくじれば原作のゼクトの様に【紅き翼】の誰かが犠牲になる。或いは俺かも知れない。そんなのは御免だ。やる時は万全の態勢を整えてからにしたい。
「ならどうすんだよ?」
「その辺はアリカ達も交えてこれから皆で話し合って決めるべきだけど……とりあえず俺が考えてるのは仲間の確保。つまり戦力の増強だな」
少なくともあの男だけは外せない。原作最強の一角。あるいは今のナギとも渡り合えるかもしれない可能性を持つ男。最強のバグ野郎ことジャック=ラカンの存在は。
「何かアテでもあんのかよ?」
「聞いたこと無いか?ジャック=ラカンって名前なんだが」
サイ達がそんな事を話している丁度その頃、話題の男ジャック=ラカンは酒場で真昼間から酒を飲んでいた。
「いやぁ~助かたネ」
「なぁに別に大した事じゃねぇよ。それにあの程度お前さんでもどうにでもなったろ?」
その理由は道を歩いている途中で目の前の少女がチンピラに絡まれている現場に遭遇したからだ。どう見ても
「そんな事はないヨ。ワタシはか弱いからネ」
「へ~え。俺様にゃそうは見えねぇがなぁ?」
少女を観察しながらカマをかけて見る。ラカンは見た目の豪快でいい加減な態度とは裏腹に慎重な男でもある。数々の死線を越えてきた経験によって培われた勘が眼前の存在に警鐘を鳴らしている。対面に座る少女が見た目通りの存在では無いと。だらしなく椅子に腰掛けわざと隙を見せつつもラカンはけして油断していなかった。
「それは勘違いネ」
「そうかい」
にもかかわらず彼女の誘いに乗った理由は単に暇だったからだ。ラカンは幼少期よりずっと奴隷として命がけで戦い続けて来た男だ。自らの力だけを頼りに幾多の戦いを乗り越え、ついには奴隷からの解放を勝ち取った古今無双の戦士。それがジャック=ラカンだ。まぁ苛烈な人生を送ってきた弊害か極度の面倒臭がりでもあるが。
「で?嬢ちゃん
「亜人じゃ無くてもこの国に住んでいる人もいるネ。それにワタシは
望めばどんな国にでも高待遇で仕官できるラカンが傭兵などをしている理由は縛られるのを嫌う彼の性格と適度なスリルを求めての事だ。常に死と隣り合わせの人生を歩んできたラカンは戦う以外の生き方を知らないし今更穏やかで安定した生活など求めてもいない。
適度に刺激を求めつつ基本的にダラダラ過ごす。それが彼の生き方だ。そんなダラダラ期間に退屈を覚え始めていた頃に向こうから
「ほう……まぁそう言う事もあるか」
「そうネ」
どう見ても生粋の人間にしか見えない少女の告白にも動じない。奴隷として生きてきた彼は悲劇など
「ところで嬢ちゃんは何て名だ?」
「おや?言って無かたカ?」
ラカンの興味はただ一つ。眼前の少女がどう自分を楽しませてくれるかだけだ。
「そうだネ。とりあえず
「とりあえずって……それじゃ偽名じゃねぇか」
楽しそうに偽名を名乗る少女にボヤキながらもラカンは自分の勘の正しさを確信する。
「そうネ。でも本当の名も似たようなモノだヨ?まぁ愛称の様なモノと思てくれないカ?」
「まぁいいか。それで?今は戦争中だぜ?確かにこの国にも亜人じゃねぇ奴はいるがそりゃ元々この国に住んでる人間だ。鈴嬢ちゃんみたいな
外套など街の住民でも着るし特に大きな荷物を持っている訳でもない。一見この街に住む人間に見えるがハッキリ言って彼女は
「どうしてそう思たカ?」
「言わなきゃ解らねぇか?」
理由はいくらでもあるがいちいち説明するのは面倒臭い。一言で言うなら……
「勘だ!」
「勘なのカ!?」
まるで理由になってない答えに驚愕する鈴
「クッハハ。そうカ。勘ならしかたないネ」
「ああ。しかたねぇ」
「でも内緒だけどネ」
「チッ」
望む答えを引き出せずラカンが舌打ちする
「女はミステリアスな方が魅力的だロ?」
「ハッ!10年早えぇ」
鈴が艶然と笑って見せる。歳に見合わぬ魅力的な微笑みだったがラカンから見ればまだまだ子供な彼女がやるには少々早すぎる仕草だ。
「ムゥ……まだまだ魅力が足りて無かたカ」
今度は歳相応に膨れてみせる彼女を見ながらラカンはこれ以上の追求を諦める事にした。目的は達せられ無かったが酒は飲めたし暇つぶしにはなった。これ以上粘るのは無粋だし自分の趣味でもない。
「まぁ言いたくねぇなら仕方ねぇ。とりあえずいい暇つぶしにはなったしな」
そう言いつつ席を立ったラカンの背に鈴の声がかかる
「ワタシも楽しませてもらたネ。だからお礼にいい事を教えよウ。首都に行ってみるといイ。きっと素敵な出会いが在るヨ」
「あん?どういう…!?」
この時ラカンは真実驚愕した。先ほどまでいた筈の少女が
「……おもしれぇ」
自分にすら気付かせず消えた鈴。そしてその彼女が残した言葉。どうやら自分の勘はやはり正しかったらしい。
「久しぶりに行ってみるか」
そこで待つだろう素敵な出会いとやらに期待を抱きながら最強の傭兵剣士がついに動き出す。
「マスター。勝手に出歩くなと言ったと思うのですが?」
立ち去るラカンを遠くに眺めながら隣に立つ主に苦言を呈する。
「悪かたヨ。謝るネ」
「しかもあのジャック=ラカンと単独で接触するなど……」
主の力は知っているがそれは自分と共にいて初めて十全に発揮される。
「会ったのは本当に偶然だヨ?まぁその後誘ったのはワタシだけどネ」
「……これからはマスターの財布は私が管理しますので」
反省している様子の無い主の態度を見てドライは断固たる態度で主を諌める事を決意する。
「な!?それは横暴じゃないカ!?」
「横暴じゃありません。少しは反省して下さい」
ドライは喚く主を無表情に見据える。彼女は感情が表にで難いだけで機械のように何も感じない訳では無いのだ。要するに今ドライは迂闊な主に対して怒っていた。
「ムムムッ何時からそんな子になったんダ!ワタシはそんな風に育てた覚えは無いヨ!」
「私もマスターに育てられた覚えはありません」
共に睨み合う両者。しばらくした後最初に折れたのは鈴だった。
「解ったヨ。私が悪かたネ」
「ならいいのです。それでこれからどうしますか?」
反省を示した主に溜飲下げつつ今後の予定を尋ねる。
「そんなの決まっているだろウ?」
「……本当に偶然ジャック=ラカンと接触したのですか?」
「モチロンダヨ?」
「……」
嘘くさい笑顔を浮かべる主の顔を黙って見つめる。
「……(汗)」
「……」
どうやら偶然で押し通すつもりらしい。ドライの冷ややかな視線に冷や汗を掻きながらも鈴の笑顔は崩れない。
「もういいです。どうせ理由を聞いても……」
「それは秘密だヨ?」
「……だと思いました」
呆れたように溜め息を吐きながら自分の主はこういう人だと諦める事にした。
「では行こうカ」
「それでは行きましょう」
そして次の瞬間、始めから誰も居なかったかの様に2人の姿は消え去っていた
ラカンの考えと言うか生き方は私が勝手に想像したものなので「違う!」と感じる方もいるかと思いますがその辺は流して下さい。