異世界?での改変生活 作:松竹
朝の静かなオスティア王宮の庭園で2つの人影が激しくぶつかり合う。
サイと詠春の鍛錬は以前の制限されたモノから先へ進み気も魔力も使用するものへと移行していた。王宮の庭で早朝に行われているこの鍛錬。以前なら庭の環境を荒らしてしまう事、早朝から騒音を撒き散らすのは少々不味いと言う周囲への配慮から互いの素の技量を高める事のみを目的としたかなり制限されたモノであった。
しかし以前はその強力すぎる技の性質から神鳴流の剣技を振るえなかった詠春が短期間に驚愕の成長を見せた。流石に全力で技を振るえば話は別だがある程度威力を抑えた上でなら目標以外の周囲に一切影響を与えないレベルの驚異的な力の制御を見せ始めたのだ。
【神鳴流 斬岩剣】
大岩をも一太刀で断ち切る剛剣。ここ最近の鍛錬でさらに研ぎ澄まされた太刀筋は周囲の一切に欠片の影響も及ぼさず標的のみを切り裂く。
「ッ!(クソ!これだからチート共は嫌なんだよ!)」
以前と違い気を込めて放たれる一撃を紙一重で躱しながらも内心で毒づく。
僅かな期間で進化したその剣腕はすでに限界かとも思えた領域から更なる高まりを見せている。以前ならその強力すぎる技の影響が周囲の環境を破壊している所だが今では目標のみにその全てを叩き込んでくる。
【神鳴流 斬空閃】
「はぁっ!」
研ぎ澄まされた気刃が大気を奔る。鋼を切り裂く無形の刃に障壁をあてて受け流す。受け流された気刃はそのままサイの背後の木々を切り裂くと思われたが完璧に制御された気刃はその手前で綺麗に霧散する。
【魔法の射手】
サイの手元からノータイムで生み出された数十の魔弾が四方から詠春を包み襲いかかる。
「おぉぉぉ!!」
【神鳴流 百烈桜花斬】
裂帛の気合と共に詠春の周囲が微塵に切り裂かれ迫り来る魔弾を切り払っていく。
「何っ!」
「もらったぁ!」
大技の発動でできた一瞬の隙に間合いを詰める。技の切れ目を見切り懐に飛び込んだサイはその手に込めた魔力を手加減せずに撃ち込んだ。
振るわれる力の強大さとは裏腹にひどく静かな朝の攻防も一先ず終りを見せた。周囲に2人の力の影響は皆無。実際に見ていなければ先程まであれほど激しく戦っていたとは誰も解らないだろう。
「あ~クソ!負けたぁ!」
結果はサイの敗北。紙一重の勝負ではあったがまさかあそこからカウンターを貰うとは思わなかった。
「フゥ……なんとか勝ったな」
「この短期間に良くもまぁそこまで技の制御が出来る様になるな」
詠春とやり始めた早朝鍛錬の期間は未だひと月にも満たない。その短期間にここまで技量を伸ばされると羨むのを通り越して正直呆れかえる。
「ああ。実は少し前に街で魔法球を購入してな。暇を見つけて鍛錬に使っている」
「いつの間に……」
本当にいつの間にである。まぁ以前からサイに鍛錬で敗北する度に悔しそうにしていたし元々ストイックな男である。機会があるなら手に入れていても何らおかしくは無い。
「アレは本当に便利だな。外じゃまだひと月も経っていないのに魔法球を使えば数ヶ月分の時間を鍛錬に当てられる。おかげで5割程度に抑えればほぼ完璧に技の威力を制御できる様になったしな」
「おかげでこっちはここ最近は連敗記録を更新中だけどな」
どこか満足げに己の手を見つめる詠春とは裏腹にサイの内心はかなり複雑だ。有り体に言えばサイは若干焦っていた。
「(全く勘弁してくれよ。ナギはともかく詠春までここまでチート臭い天才かよ。これはもう少し鍛錬の時間増やしてどうにかしないと本当にみんなから置いていかれかねんぞ)」
現状、頭一つ二つ抜けたナギは疎かそれ以外の【紅き翼】面々からも一段劣る力量しか持っていないサイだがナギ以外とならそれなりに戦えると手応えを感じ少し自信を持ち始めてもいた。だがここ最近の鍛錬でその考えも少々改めなければいけないと思い直していた。
もともと持ってる才能や素質が段違いなのだ。今はある程度拮抗していてもこのまま鍛錬を続ければこの先その差はだんだんと広がっていくだろう。そしてそれは原作で【紅き翼】と互角に渡り合った【完全なる世界】の強者たちにも言えるのでは無いか?
詠春たちの力量から推し量り仮に【完全なる世界】の幹部たちの強さが原作と同等だと仮定するのならおそらく今の俺でもある程度渡り合えると思う。だがこの世界は俺の干渉を抜きに考えても原作からは色々とズレが生じている世界だ。
「(こっちは好きに動けて色々変わってるのにアッチが原作通りのままって考えるのは楽観しすぎだよな)」
あるいは【紅き翼】のメンバーはおろか現在のナギに迫る実力者がいてもおかしくは無いのだ。元より自分よりも格上の相手である。今の自分とほぼ互角などと楽観しするよりはまだまだ太刀打ちできないと考えていた方が無難かも知れない。
「??どうかしたのか?」
「いや何でもないよ(……なんとか完成を急ぐか)」
物思いにふけるサイを訝しげに見る詠春に言葉を返しながらも現在滞っている新術の開発を急ぐことを決意する。すでに火力に関しては頭打ちの状態だ。魔石を使っての底上げにも限界はあるし基本的に使い捨てなので使用回数に制限もある。以前の防衛戦やナギとの対戦で思いのほか消費してしまったしこれ以上は無駄打ちできない。
一応元から魔石以外にも奥の手は考えて開発してはいたがまだまだ実戦に耐えられる完成度とは言えない。新術と言うものは基本的に幾度もの失敗を繰り返す事でその完成度を高めて行くものな訳でサイが使用する魔石に関しても何度も失敗を繰り返している。そして仮に完成に漕ぎ着けても当然ながら欠点の存在しない技などほぼ有り得ない。
例えば瞬動術。
驚異的な移動速度を誇るが動きが直線的になってしまい酷く読まれやすい。
例えば【千の雷】などの大魔法。
凄まじい威力を発揮する反面、発動までに時間が掛かり実戦で使用するならば相手を抑える前衛を用意する必要がある。あるいは個人で使用するなら上手く戦術を組立て詠唱の時間を何とかして生み出す必要がある。
例えばネギが編み出した原作最速の戦闘技法 【
瞬動をはるかに超える移動速度は文字通りの雷速。おそらく原作でも屈指の強さを誇る最強技の一つだが先行放電による移動先の先読みが可能と言う問題点が存在した。まぁこれについては同時に編み出された思考速度も雷速に加速させ更には自身を雷化させるというチート臭い【雷天大壮2】と言う奥の手でその弱点を補った。おそらくほぼ弱点の存在しない完成された究極技法の一つだろう(しいて問題点を挙げるならばネギ以外に使用不可能だと思われる汎用性のなさくらいか?)。
そしてサイの使用する魔石の技術。
これにも当然欠点が存在する。まず先にあげた使用制限。そして融合魔法を使用する際の発動までの時間の長さ。術の威力に比例して使用する個数と発動時間が増えるこの術は正直それ単体では実戦で使用できたモノではない。ナギとの試合で使えたのはあくまでナギが戦いを楽しんでいてサイの挑発に乗ってくれたからであり本来なら発動までにどうとでも対処できただろう。勿論その欠点を補う方法は考えているがともかく完全無欠の技などほぼ無いという事だ。
「(取り敢えずなんとか完成の目処をつけて実戦に使える様にしないとな)」
元々案はあり早くから開発はしていたのだ。問題は完成度(あるいは術の練度)の低さと使用する際の難易度の高さ。魔石は足りない火力を外部から用意することで補う事を目的として考えた技術。そして未だ完成していないもう一つの奥の手はそれとは違う方向性で考えたモノだ。これが完成すれば俺の様に気や魔力の量に恵まれない人間でもかなりの効果が期待できる。
「では今日はこの辺で終わるか」
詠春の声を聞きながらサイは新術開発に思いを馳せるのだった。
最近のオスティア王宮は何処か張り詰めた空気に包まれている。今のところ差し迫った危険がある訳でもないが先日ヘラス帝国からもたらされた情報は防衛戦を乗り越えて次第に緩み始めていたこの街の空気を一変させるには十分な衝撃をもたらした。
「(どうも王宮内の空気が悪いな)」
詠春との鍛錬を終えたサイは汗の滲む服を着替えながら新術開発への思考を一旦打ち切り別の重大な問題について考えていた。
「(ヘラス帝都での爆破テロね。犯人は連合で被害者は数百人。おまけに帝国の第三皇女も犠牲になったと)」
この情報を初めて聞いた時サイが一番初めに思ったのは「テオドラが死んだとかマジか!?」と言う驚愕と「原作に無いはずの事件だ」と言う疑問だった。テオドラ以外にも多くの犠牲者がでているし当然それらの被害者たちは哀れに思う。だがいくら事件自体に不快感を感じても名も知らず顔を見たこともない人間の死に本気で憤れるほどサイは善人では無い。
流石に自分が原因であるいは関わっていて事件が起きたなら話は別だがそうではない以上サイの関心は原作の大戦期において重要な役割を担った【紅き翼】の協力者の一人でありおそらくこの世界でもこちらの協力者になってくれる可能性の高い人物。そして現状の敵国であるヘラス帝国に強い影響力を持つであろうテオドラの安否と本来無かったはずの事件が起こった原因もしくはその理由である。
原作では大戦期の出来事は詳細に語られて無いので絶対に無かったとも言い切れないが仮に原作でも同様の事件が発生していたのなら少しくらいはその情報が書かれていたはずだ。そう考えるとイレギュラーが発生していると考えたほうが無難だろう。
「(なんとかもうちょっと正確な情報が欲しいんだがオスティアにいる俺じゃこれ以上の情報を集めるのは難しいし現状出来る事も特に無い。……どうしたもんか)」
一人で悶々と悩んでいてもしょうがないし【完全なる世界】が動いた可能性も考え鍛錬の合間に詠春とも話し合ってみたが下手な思い込みは視野を狭め判断を誤る元だと言う事で現状では判断しかねると言う結論になっただけだった。
「(こういう時に携帯でもあればナギに連絡が取れるんだけどなぁ)」
現在ヘラスにいるはずのナギと連絡が取れればもう少し詳細な情報も掴めるかも知れないが残念ながら今の時代サイがもといた世界の様に携帯電話が普及している訳じゃ無いのだ。一応遠距離通信用の魔法も無くはないが流石に帝国とオスティアほど離れた距離を個人で気軽にやり取りできる様なモノではない。
「とりあえず今の所は現状維持かね」
着替えを終え、最後に鏡の前で軽く身だしなみをチェックする。特に問題ないと判断したところで部屋のドアがノックされ自分を呼ぶ声が聞こえる。おそらくアリカからの呼び出しだろう。今日は久しぶりに彼女と仕事なのだ。
ナギやアルナ達がそれぞれ動いている現状でオスティアに留まる自分たちに出来ることは国内をまとめ少しでも力を蓄えることだ。とはいえそんなスケールの大きな話は当然俺の手に余る。なので俺にできる事は街に結界やら障壁やらを張り防衛力を高めたり、ちょっとした細工を施し万が一に備えることだ(けしてアスナと遊んでただけでは無いのだ)。
今日の予定はその辺の進捗状況の報告と今後の相談、あとは再編され詠春に鍛えられている騎士団の視察と言った所だ。なのでその間アスナの護衛に空きができてしまうがその辺は幾つも対策を施しているので多分大丈夫だろう。
まぁ少々暇を持て余すかも知れないが今までの経験からか一人でいることをさして苦痛に感じ無い子だ。最近は暇な時にはゼクトに教わった魔法の練習をしているので問題ないだろう(そもそもいくらアスナが子供とは言え四六時中誰かが張り付いていても息が詰まるというものだ)。などとアスナの事を考えていたら再び扉をノックされてしまったのでそれを切っ掛けに一旦思索を打ち切る。いろいろと思うように動けない現状にもどかしさを感じないでもないが現状はそう悪くは無いはずだ。
ナギやアリカ達の協力が得られ(どちらかといえば自分が彼らに協力している立場だが)早い段階で戦力の確保にも動けている。いくつか想定外のイレギュラーが発生しているがテオドラが巻き込まれたらしい今回のヘラス帝国でのテロ以外は今のところ許容範囲内だ。それについても今の自分に出来る事はないのでご都合主義ではあるがあちらにいるはずの
まぁいろいろと答えの出ない事を考えては見たがそもそも自分はさして頭の切れる人間でも無いし何でもできる超人じゃ無いので手の届く範囲でやれることをしようと思う。
「さて行くか」
最後にもう一度だけ鏡で自分をチェックして扉に向けて歩き出す。
「ふぅ」
山の様に積み上がった書類の処理を終えたアリカは疲れた目元をほぐしながらため息をついた。
「一息いれるか」
父から王位を簒奪し若くして一国の王位を継いだアリカだったが現在彼女は非常に疲れていた。先の王都防衛戦で起きた戦災からの復興は一先ず一区切り着いた所だがそれ以外にもやるべきことは山ほどある上、油断するとあの手この手で自らの権勢を伸ばそうとする貴族たち。別に己の力量を過信していた訳でも無いが今まで自らの片腕として妹のアルナがどれほど自分を支えてくれていたのか実感している所だった。
「それにしても帝国でテロとは」
脇で控える侍女に茶の用意を命じると朝から座り続けていた椅子から立ち上がり執務室の窓から眼下の街を眺め呟く。
「連合か【完全なる世界】の手の者かあるいはそれ以外か……」
現状集めた情報では判断出来ない。帝国の公式見解では連合の手の者による犯行だという事だが今の情勢で戦略的には何の価値もない帝都の市街地を破壊する事に何の意味があるのか。唯でさえ帝国に戦線が圧されていると言うのに自らヘラス国民の戦意に火をつける様な真似をするなど自らの首を絞めるようなものである。
「いずれにしてもこれで和平への道は遠のいたか」
今回の一件は連合の上層部に協力者を募るべくこの国を出ているアルナ達の動きにも少なくない影響を及ぼすだろう。
「あちらはアルナの手腕に期待するしかないな」
連合に対する動きはアルナに任せる他無い。自分は国を纏め少しでも力を蓄えなければならない。今のこの国の立ち位置はひどく不安定だ。現在連合に属しその中でも小さな力しか持たないこの国がその方針に異を唱え帝国との戦争を否定するのだ。
反戦を唱え和平を主張する以上いずれはヘラス帝国にも働きかけねばならない。強大な軍事力を持つ両者の間を上手く立ち回りつつ戦いを止めさらに自国も守る。言うは易いが行うのは非常に困難である。もし立ち回りを失敗し両者に睨まれる事になればこの国など容易くすり潰されるだろう。
「今のこの国で両者に対抗できるのは【紅き翼】と我が騎士のみだが……」
前者は本来メセンブリーナ連合に所属する傭兵でありこの国に属する戦力ではない。現在は心強い協力者ではあるが流石にこの国と命運を共にしてくれとは言えない。後者は己の守護者であり個人で一軍に匹敵する戦力ではあるが国家を相手に対抗するのは少々手に余るだろう。
「その上戦乱の影で暗躍する者達も抑えねばならぬ」
正直問題が山積みで頭が痛い。あれもこれも一筋縄ではいかない問題な上にこちらは時間も戦力も足りない。
「それでも我らに敗北は許されん」
サイの言が真実ならば自分たちの敗北はこの世界の終焉を意味するのだから。そうしてしばし己の治める国の街並みを眺めているといつの間にか聴き慣れていた声と共に部屋の扉がノックされる。
「入れ」
簡素な返事で入室を促すとそこには詰まらん事ですぐ凹む少々ヘタレな己の騎士の姿があった。
「えぇっと。何か?」
その姿をジッと見ていると何やら戸惑った様な声で話しかけてきた。
「……(どうもコヤツには今ひとつ己に対する自負が足りぬな)」
「アリカ?」
「……(これでも世界最高峰の実力者の一人である筈なのに何故にこうも覇気が感じられんのか)」
「アリカ……様?俺が何かした…しましたか?」
どうやら無言で見つめられて不安になったらしい。
「ハァ…傲慢になれとは言わぬがもう少し自信と言うものを身につけよ。お主は私の騎士なのじゃぞ?少し見られた程度でイチイチ怯むでないわ」
「(お前に無言で凝視されたら誰でも怯むっての)……気をつけます」
サイの内心を察したのかアリカの眉がピクリと上がる。
「何やら不満そうじゃな?」
「いやいやいや。そんなことは無いデスヨ」
自分の言葉に狼狽するサイを見てアリカは方針を切り替える。
「お主が自信を持つには私の信頼だけでは足りぬか?」
「!?……いや。そんな事はない。俺には十分すぎるほどだ。」
どちらかというと後ろ向きな性格のサイではあるが上司(あるいは主人)に真っ直ぐ信頼の目を向けられれば答えたくなるのが人情と言うものだ。まして相手は見目麗しい美少女である。恋愛感情とまで行かずとも少なからず好意を感じている美女美少女の前で男が格好つけたいのは万国共通だ。まぁサイも所詮は単純で愚かな男だと言うことだろう。
「ならば良い。今後に期待するとしよう。では話を聞こうか」
男女の機微などには疎いがアリカ=エンテオフュシアは一国の指導者である。己の部下を手玉に取るなど朝飯前である。
そして2人が話をしようとした瞬間、楽しげな声が部屋に響き渡った。
「これはこれは。思った以上に仲がよろしい様だ」
「「!!?」」
2人の顔に浮かぶのは驚愕。特にサイの動揺は激しい。自分の張った結界も感知能力をもすり抜けて此処まで気付かず侵入されたのだ。自分の力を過信していたつもりは無かったがそれでもなお甘かった。そしてサイよりも一早く自分を立て直したのはアリカの方だった。
「何者じゃ!」
アリカの言葉に応えるように部屋の物陰にいつの間にか一人の男が立っていた。
「こんにちは女王陛下。そして初めましてサイ=ローウェル。懐かしき世界のご同輩。ご機嫌は如何かな?」
そこにいたのはグレーのスーツを身に纏う男。見た目は平凡そのもの。黒髪黒目とこの世界では少々珍しい旧世界の東洋系の顔立ちだかそんな特徴ですら周囲に埋没してしまいそうなほど凡庸な容姿。あるいはその凡庸さこそが逆に男の特徴であると言えるかも知れない。
「懐かしき世界?ご同輩?」
「おや?ご存知ないのですか?彼の出自を」
コチラを挑発するかの様な男のワザとらしい口振りにもアリカの態度は揺るがない。
「その口ぶりだと貴様は知っていると言いたげじゃな」
鼻を鳴らす様な冷淡な態度に男は期待が外れたと言いたげな顔をした
「意外ですね。もう少し興味を持って頂けると思ったのですが」
「フン。必要なことなら本人が言うじゃろ。貴様の様なモノの口から聞く必要は感じぬ」
「大した信頼関係だ。どうやら彼は貴方によほど上手く取り入ったようですね。まぁ私たちの様な存在からすればあなた達に近づくのはそう難しい事ではありませんが」
男の言葉に疑問を浮かべるアリカを尻目にサイの心は平静を取り戻していた。
「(懐かしき世界のご同輩ね。こいつはおそらく俺と同じ存在か)」
サイは別に馬鹿ではない。イチイチ持って回った芝居がかった言い回しだったが男の言動から推察してその程度は直ぐに理解できる。ならば自分と同じ境遇にあるだろう相手にどう接するのか?
「俺も初めましてとでも言えばいいのか?不審者」
男に言葉を返しながらサイは無詠唱で遅延術式を連続起動。表面上は会話をしながら男をこの場から排除する為に動き出す。おそらく自分と同じ境遇にあるであろう相手に興味はある。だが今の自分はアリカの護衛だ。彼女の身の安全と引き換えにしてまで話そうとは思わない。
「おや?どうやら歓迎されて無いようだ」
「当たり前だ。イチイチ胡散臭い野郎だな」
癇に障る笑みを貼り付けた顔を睨みつけながら相手の隙を探る。見たところさして気も魔力も感じ無い相手だ。普段ならさして驚異も抱かなかっただろう。だがこの男は自分に悟られる事なくここまで侵入してきた。けして油断していい相手じゃない。
「答えろ。お前は誰で何の用だ」
男に話しかけながらもサイは特に相手の返答を求めていなかった。相手が真実を話すとも限らないしそもそもが怪しすぎる。それでも話かけているのは相手の隙を探るためと仕掛けた術式の発動のタイミングをはかるために過ぎない。サイは可能ならこの怪しい男をこの場で仕留めるつもりだった。
「(こいつは明らかに俺と同じイレギュラー。敵対する相手なら例え同郷だろうとここで仕留める)」
「そんなに殺気立たないで欲しいのですが……仕方ないですね。では単刀直入に要件だけ済ますとしましょう」
「元の世界に帰りたくはありませんか?」